『癒し系』
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派手で、遊ぶところを沢山知ってて、お化粧の上手いオンナノコが好みだった。
かの子さんと、出会うまでは。
今日はつまんねえ授業ばっかだから自主休校。
いい響きだね、自主休校。
ガッコ抜け出して、バスに乗って、向かうは十二支高校。片道260円也。
フツーに正門から入ったら丁度休み時間で。十二支の生徒に混じって、フツーに購買でおばちゃんからパンとジュース買って、
遅い朝飯をとる。
夏の制服なんて野郎はどこも大概一緒だし、ここ生徒多いから部外者が一人二人紛れ込んでたってわかりゃしねえし。ちょっとした盲点を突くのはたやすい。
俺の目的は、ただ一つ。
始業を告げるチャイムの音と共に、生徒達は急いで校舎に戻ってく。
俺はズボンの尻んとこのポケットから、小さく折りたたんだ紙を取り出し、しわくちゃになったそれを広げる。
「水曜日の三時間目は……っと」
B6のその紙は、かの子さん手書きの時間割表。を、勝手に鞄から拝借してこっそりコピーしたもの。
「……お、体育じゃん」
水曜の三時間目。可愛い字で「体育」と書かれている。
体育っつうことは、体育館かグラウンドだよな。
水泳……は、まだプール開き……してねえか。がっくし。
「とりあえずグラウンドだな」
食後のバブリシャスを一個口に放り込むと、俺の足はグラウンドに向かった。
つまんねえ日は、時々こうやってかの子さん見たさに十二支に来る。
見つからないようにはしてるつもり。
だって学校フケったの知ったら、かの子さん怒るんだ。
『幾ら野球推薦だからって、高校生の本分は勉強でしょ』って。
大人しそうに見えて、怒ると結構怖いんだ。長女長子だからなぁ、かの子さん。すっげえしっかりしてるんだ。
へたすりゃデート無しの刑が待ってるんだぜ。
「おっ、ビンゴ?」
だだッ広いグランドでは、ジャージ姿の女子が陸上やってた。
短距離か。タイム計ってらぁ。
ブルマだったらもっといいのに、半袖に長ズボンジャージはどこの学校もそうだけど、いつ見ても色気ねえなぁ。
「かの子さんは……あ、いたいた」
フェンス越し、視力のいい俺はすぐかの子さんを見つけた。
でもかの子さん別格。ジャージ姿も似合ってる。
どちらかというと背は小さい方でおとなしくて地味なかの子さんは、正直あんまり目立たない。
それは自分でも言ってるし、俺も思う。
でも俺には直ぐ分かるんだ。
かの子さんが、どこに居たって。
かの子さんはクラスメイトとおしゃべりしながら、順番待ってる。
何が可笑しいのか、クラスメイトの肩をバンバン叩きながら笑ってらあ。
あー、やっぱ可愛いな。何話してるんだろ。
俺のほうには気づいてないみたい。かの子さん、……視力あんまりよくないって言ってたし。
派手なオンナノコとか、遊びを沢山知ってるオンナノコとか、お化粧の上手いオンナノコとか。
かの子さんにはどれも当てはまらない。
フェンス越しに見るかの子さんは、確かにクラスメイトの中でも目立たない方だと思う。
髪型だってフツーだし、染めても無いし、化粧もして無いし。
「………」
胸もあんまり無いし。俺は無いほうが好きだ。
っつか、かの子さん好きになってから、ナイチチが好きになったんだけどさ。
実際、録先輩とか帥仙先輩に、かの子さんの写メ見せたら二人揃って「地味っ!」っていわれたし。
「ミヤの彼女らしくない気(´∀`)」「御柳と合うのかぁ?」だとさ。失礼な人たち。
屑桐さんだけは、流石っつかなんつーか。言うこと違うよな、あの人。
「女性は外見だけでは判断するものではない。御柳のような我侭な男の相手は、
余程芯が確りしていないと務まらぬものだ。その御柳の相手が務まっているということは、彼女は確りした女性なのだろう」
かの子さんのことを褒めながら、さりげなく俺のことけなしてる気もするんだけど。
地味でも、目立たなくても、かの子さんは素敵だからいいんだ、と俺は思う。
かの子さんと一緒に居ると、あるいはかの子さんを見てるだけでも、俺は安らぐ。心が落ち着くんだ。
飾らない笑顔。
優しい声。
どれもこれも、ささくれ立った俺の心を癒してくれる。
事実、俺はいつもかの子さんに包まれているような気がする。
それがホントの恋愛のあるべき姿なんじゃないかと、俺の脳味噌はそう判断した。
お化粧もしないし、遊ぶところもあんまり知らないし。
でもかの子さんはいいんだ。かの子さんだから、俺はいいんだ。
俺の我侭をいさめてくれて、時々仕方ないわねって言って聞いてくれる、そんなかの子さんが。
俺は、いいんだ。
「あー、早くプール開きしねえかな……かの子さんのスク水姿も見たいっつの……」
つまんねえ授業の日は、自主休校して片道260円で癒されに来る。
フェンスにしがみついて、バブリシャス膨らませながら。
遠くにいるかの子さんを見ているだけで、俺は幸せだった。
(END)
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