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35:『ミニサイズのヒマワリ(御柳×かの子)』
かの子さんの部屋は、いつ来ても綺麗だ。
整理整頓が行き届いてて、インテリアも凝ってて。
「男子寮のゴミ置き場」と称される、寮の俺の部屋とは大違い。
そして窓辺には、いつも季節の花を飾ってあって。
今日も、ほら。ブルーの花瓶にはとっても小さなヒマワリが一輪。
「これ、ヒマワリですか?」
「そうよ、ミニサイズのヒマワリ。御柳君が来るっていうから飾ってみたの。可愛いでしょ?」
二人分のソーダを用意しながら、かの子さんが教えてくれた。
切りたての髪はさっぱりしてて、いつもに増して可愛いなぁ。
庭に咲いてたの、とかの子さん。へぇ、こんなのあるんだ、と感心した。
あ、よく見りゃかの子さんが今日着てるワンピース、こないだ一緒に選んだやつじゃん。
「こんなちっさいのにヒマワリ?」
「そう、小さいけど、立派なヒマワリよ。……ソーダ、飲んでね」
「あ、はい、」
その小さなヒマワリは、確かに形はヒマワリなんだけど。
太陽に向かって咲く花を名乗るにはちょっと可愛すぎる気がした。
そして、なんとなく。なんとなくだけど、その花はかの子さんに似ているような気がした。
まあるいガラステーブルには、氷が溶けて、汗をかいたグラスが二つ。
飲み干してその身を軽くする筈の人間は、ベッドの上。
かの子さんは小さいから、抱きしめると俺の下にすっぽりと納まってしまう。
柔らかいから、いつまでも抱きしめていても飽きないんだ。
エッチは当然っていうか当たり前に好きだけど、その後こうやってずーっと抱き合ってるのも俺は好きだ。
「ん、……」
ちゅっ・ちゅっ。軽いキスを何回も繰り返す。
小さい身体、抱きしめたらホント、折れそうで。俺馬鹿みてぇに力強いし。
「あのヒマワリ、ね」
「ん?」
顔をちょっとだけ上げて、窓辺のヒマワリに目をやる。
「ヒマワリ、どうかした?」
「ん。ヒマワリ、なんかかの子さんみたいだなー、って、思ったんスよ」
「……あたし?」
「そ。あの小さいヒマワリ、……かの子さんみたいです」
だってそれは、ヒマワリを名乗るには余りにも小さくて可愛いすぎる。儚い気さえする。
真夏の畑、照りつける灼熱の日差しの中、背筋伸ばして上を向いて力強く咲く花にはとてもじゃないけど見えない。
可愛いレンガ作りの花壇で、強すぎない程度の日光を浴びて、そっと咲いている。そんなイメージ。
そんなとこが、かの子さんみたいに思えて。
「ちっさくて可愛くて、なんか守ってあげないと、って思わせるとことか」
「あら、あたしそんなに弱くないわよ? 御柳君より年上だし」
ぷ、って頬を膨らませて……可愛いな、やっぱり。
「……男はみんな狼っすよ? かの子さん可愛いから、ぼーっとしてたら攫われちゃいます……」
言って、抱きしめていたかの子さんの首筋に、きつく吸い付く。
「ん、御柳君、」
窓辺に咲くのは小さなヒマワリ。
かの子さんに似た、可愛い花。
守ってあげないと。どちらも。
36:「秘密の署名」(剣凪)
コトリと小さな音を立て、ボールペンをテーブルに置く。
最初に署名したのは凪。次に、俺。
「これでいいかな。判子押してないけど……ま、いっか」
薄っぺらい白い紙に、赤いインクで文字と枠が印刷されている。俺と凪はそれに署名した。
「……凪。これは、俺と凪だけの秘密だよ?」
「はい……お兄ちゃん」
頷いた凪を抱き寄せ、きつくきつく抱きしめる。
テーブルの上には、昨日の夕方隣町の役所で貰ってきた、婚姻届。
出しても受理されることのないそれに、二人で署名した。
夫になる人の欄には俺の名を。
妻になる人の欄には凪の名を。
何処にも出せないその届けは、夜になってから庭の木の下に二人で埋めた。
許されない間だってこと位、分かってるさ。
だからせめてこの位。たとえそれが自己満足の範疇を出ないとしても、……いいじゃないか。
「―――凪、今夜は初夜だね」
部屋のカーテンを閉めながら俺が言うと、ベッドに腰掛けたパジャマ姿の凪が可笑しそうに笑った。
「何かおかしい? 凪」
「だって、初夜なんて。今更……」
今更、という言葉は、幾つもの意味を孕んでいて。
一体どれを指して、凪は今更と言ったんだろう。
「今更よ、お兄ちゃん」
エアコンを入れ、部屋の照明を落とし。凪の隣に腰掛ける。
「今更でもかまわないさ」
凪の小さな身体に覆い被さりながら、二人でベッドに倒れこむ。
「凪、」
「お兄ちゃ、……」
そして絡み合う、二つの身体。
”夫婦”になってから、初めての夜なんだ。
だから初夜で間違いはないはずだ。
泣くのも笑うのも思い出を重ねるのも、何もかも。
俺は凪と一緒がいい。
例えそれが罪であったとしても。
37:『電話(剣凪)』
『それでね剣ちゃん、酷いのよ影洲ったらね……頭きちゃうわ』
「……うん、へぇー……そうなんだ。ふぅん……でもさー、紅印。影洲も悪気があるわけじゃないと思うよ?」
適当に相槌を打ちながら、時々わざとらしくないようにそれらしいことを言ってやる。
紅印からの電話は俺相手に限らずだけど、いつも長いんだ。
今日のお題は、弟と喧嘩したとか弟が言うこと聞かないとか、結構しょうもないこと。
ケータイ代、幾ら掛かってんだろうなぁ、と思いながら。
椅子に座った俺の両脚の間に跪く、凪の頭を優しく撫ででやった。
「うん、……うん、……練習? やってるよ、そりゃ。当然だろ」
たまーに家に帰ったときくらいゆっくりさせて欲しいな、実際。
兄弟喧嘩は犬も食わないよ、ホント。
壁掛けの時計に目をやればもう二十分も経ってるじゃん。
視線を下に落とせば、そこには頬を紅潮させて頑張ってる凪の姿がある。
ジーンズのジッパー下ろして引っ張り出した俺のを、懸命に口と手で奉仕している凪。
ぴちゃぴちゃ、舌で舐め上げ舐め下ろし。亀頭を銜え込んで口腔全体で愛撫して。
そうかと思えばちょっと息を荒くしながら、小さな両手でエレクトした俺のを包んで扱き上げて……手を変え品を変えて俺を気持ちよくさせてくれる。
……前より微妙に巧くなったかも? って思って、当たり前かと思い直す。前に家に帰ったときに、凪が音を上げるまでやり方教え込んだんだから。
『……でねぇ、アタシもちょっとは悪かったかなって思ってるのよ。影洲にきつく言い過ぎたかも、って』
「あー、お互い様でしょそういうことって……」
あ、そこ。凄く気持ちいい。凪、そこいいよ。もっとして。
気持ちよくて、可愛い顎をからかう様に指先で遊んでやると、凪がくすぐったそうに身を竦める。
「あん、……」
下ろした髪にまで唾液とか先走りとか絡み付いて、……結構エロいかも。この光景。
凪、もっとこっちも触って舐めて、と促すと、凪はそのとおりにしてくれる。
「まぁ、いちいちそんなことで喧嘩してたら…………あ、」
『どーしたの? 剣ちゃん』
……やば。
出ちゃった。
あんまり気持ちよすぎて。
『剣ちゃん?』
「あ、いや。なんでもない。びみょーにジュース零しそうになっただけ」
『もう、剣ちゃんはうっかりしてるんだから、気をつけなさいよね』
凪の顔に髪にメガネ、予告なしに吐き出しちまった俺の白いモノでべとべとになっちゃって。
「あー、はいはい。分かってますよ」
凪は自分の顔に吐き出された白いモノを指で救って、……美味しそうに舐めている。
「ん、……っ」
……それを見てたら、フェラチオだけで済ませるつもりだったのに。また興奮してきて……収まりかけたイチモツは再び天井を向いて立ち上がる。
『……それじゃ剣ちゃん、そろそろ夕飯の時間だから切るわね。聞いてくれてありがと』
「いや、お礼言われるほどのことじゃないよ。皆によろしくね、紅印。明後日には帰るから、うん」
『じゃあね』
ぱちんと音を立て、二つに折りたたんだ携帯を机の上に置くと、相変わらず俺の脚の間に跪いてる凪の頬を両手で包みこんだ。
「電話の間中、おりこうさん。凪、今度は下の口でご奉仕してくれる?」
「……はい、お兄ちゃん」
38『数当てっこ(辰鳥)』
「鳥居さん、これは何本でしょう?」
「……二本?」
「残念、三本です」
「ん、……難しい、です……」
私と鳥居さんは今、ゲームの真っ最中なんです。
今日はテスト前だから部活もないので、放課後の教室でテスト勉強をしていたのですが……息抜きです、はい。
えっ? 何のゲームかって? 簡単な数当てっこですよ。
椅子に座った私の膝の上、横抱きにした鳥居さんの足の間から、
私はゆっくりと手を抜きました。
襞スカートが軽く揺れ、粘った音と、酸っぱい匂いに鳥居さんの頬はみるみる赤くなります。
「……そんなに難しいですか?」
指に絡みついた粘液を、私は軽く舌で舐めとります。
……なかなか乙な味です。
「だって、……」
鳥居さんは恥ずかしそうに、うつむいて。その顔が……また、そそるのです。
「難しいです、辰羅川さん」
ゲームの内容はいたって簡単です。
鳥居さんが、私が鳥居さんの膣の中に入れた指の本数を当てるというもの。
膣の内部は案外と鈍感なんです。
入れた指の本数は分かるようで分からない、だからゲームになるんです。
ゲームは10回。当てた回数が多ければ鳥居さんの勝ち、少なければ私の勝ちです。
勝ったらどうなるのか、ですか?
それは…………ゴホン(咳払い)、……後のお楽しみです。ええ。後のお楽しみ。
「……じゃあもう一回、やりましょうか。鳥居さん」
「あっ、は、はい」
「次は4回目、……まだ1回しか当てていませんよ、鳥居さん」
私は少しだけ開いた足の間に、手を差し入れました。
クチュッ、という音とともに、指は生暖かい鳥居さんの中に……。
「ん、」
いい箇所に当たったのでしょうか、鳥居さんが小さく喘ぎました。
「……これは何本でしょう? 鳥居さん」
39:『屑桐さんの恋愛(屑柿)』
屑桐さんの恋愛は、思ったよりも人並み……いや、やっぱ屑桐さんらしかった。
忘れ物に気づいたのは、練習が終わって寮に戻って、風呂入ろうかと思ってたとき。
一軍用のグランドのベンチに、バブリシャス置いてきちまった。まだ一個しか食ってねえやつ。
「置いといたら……溶けちまうよな」
もう夏だしな。夜も暑いし。っつかアリに運ばれちまうかも知れねえし。
面倒くせぇけど、取りに戻ることにした。
とぼとぼ歩く俺の後姿はお世辞にもかっこよくは無かった。
「ついてねー……」
どの部活も練習はとっくに終わってて、ナイターも消されてて、マジで暗かった。
非常灯の僅かな灯りを頼りに、一軍用のグランドに向かう。
あーホントついてねぇなと思いながらも、バブリシャスは寮の売店に売ってねえし。
今から外に買いに行くほどの時間もねえし。
たかだかガム一個とはいえ、溶けてベンチ汚したりアリがわんさか集ってたら、ぜってぇ怒られるし。
「ん、……?」
誰もいない筈だった。
一軍用のグランド。そのグランドに、人が……いた。それも、二人。
俺は足を止め、誰なのかを確かめるため目を凝らす。
監督か? いやあの人今日5時過ぎに帰ったし。なんか集まりがあるとか言って。
じゃあ見回りに来てる警備会社の人だろうかと思って、一歩、踏み出した。
そしたら。
「……屑桐さん?」
フェンスの向こう、一軍用のグランドの中にいたのは屑桐さん。
あ、そっか。いつもあの人最後まで残って片付けやってるんだった。
上に立つものが率先してやらないといけないとか言って。そんなの三軍の一年にやらせりゃいいのに。
フェンスのこちら側にいたのは、見たことも無い、ちょっと背の高い、バンダナした女の子。
うちの学校の子じゃないな……私服だからわかんないけど。俺よりたぶん年上だな。
「何してんだろ……」
フェンス越しに、二人は話してた。
何話してるんだろ。聞こえないな。
ってか、あの子誰なんだろ。ここ、部外者以外立ち入り禁止だぜ?
「……そーゆーこと」
どう見たって、その雰囲気はいわゆる男と女のそれだった。
フェンス越しに指を絡めあう。何がおかしいのか屑桐さん笑ってるし。
……屑桐さん、あんなふうに笑うんだ。いつもポーカーフェイスなのに。笑えるんだ。
っていうか、ぶっちゃけ彼女いたんだ。浮いた噂一つないと思ってたのに。
二人の声は遠くて良く聞こえないけど、外灯に二人の姿は照らし出されていた。
物陰から二人を見ている俺、はっきりって怪しいかも。
っていうかこれ、大スクープじゃね? あー、携帯持ってくりゃ良かったかも。
屑桐さん、ガッコーに他校の女子入れちゃ駄目でしょアンタ。知ってるだろ高野連最近厳しいんだってば。
不純異性ナントカはご法度だっつの。いや俺も人の事言えないけどさ。
……今から引き返して野球部の皆呼んで来たらどうなるかなとか何とか、
いろいろ頭ん中でぐるぐる考えをめぐらせてたら、
そしたら。
「うわ。」
フェンス越しに、屑桐さんとその……女の子。
「屑桐さん、……」
キス、してた。
それはちょっと幻想的な光景だった。
外灯に照らし出された二人は、フェンス越しに……キスを。
やっぱりフェンス越しに指を絡めあって。
『じゃあね、屑桐』
『ああ。気をつけて帰れよ』
長いキスを終え、女の子は手を振って立ち去る。
屑桐さんも手を振り、またグランドに戻る。
女の子は決して低くはない塀を、一生懸命よじ登って帰っていく。
お、おねーさん、……パンツ見えそうですよ……。
しばらくするとグランドからはトンボ掛ける音がしてきた。
俺はため息一つ落として。
もと来た道を、そのまま戻った。
バブリシャスなんかもうどうでも良かった。
「……遅ぇぞ、御柳」
寮に戻ると、先に風呂に入ったらしい先輩達が、石鹸のいい匂いさせながら
Tシャツトレパン姿で玄関の自販機のとこに集まってた。
「あ、すんません」
「早く入れ、寮母さんが片付けられねえだろ」
「はーい……」
すれ違いざま、帥仙先輩がケツに蹴りを食らわせてきた。
痛ぇ、ケツが半分に割れた、って古いギャグやったら先輩達は受けたのか笑って、俺は逃げるように自分の部屋に。
屑桐さんの恋愛。
部屋に帰って、俺はそう呟いてみた。
……なんか不思議な響きだな。
堅物と言われる屑桐さんもやっぱり年頃の男の子だったってわけで、いや当たり前なんだけどさ、そりゃ。
……当たり前なんだけど。どうにもイメージ沸かなかったっつうか。イメージする前に現実を突きつけられたっつうか。
ガッコに他校の女の子招き入れちまう辺り、やっぱ高校生じゃん、って思うんだけど。
フェンス越しのキスな辺りが屑桐さんらしいっつうか、ストイックっつうか。
……ま、今度聞き出してみるとしましょうかね。
さし当たって、二人の出会いから告白までを。
40:『ハイチュウとバブリシャス(御柳×かの子)』
今日はいつもと何かが違う。
いつものグランドでいつものように朝の練習をしているというのに、何かが違う。
何が違うんだろうかと考えていると、だるそうにバッティング練習をしている御柳を見て、その答えが分かった。
「御柳」
「……なんですか屑桐さん」
声を掛けると、御柳はやっぱりだるそうに返事をし、バットを下ろした。
「返事ははっきりしろ」
「……すんません。俺ぇ、低血圧なんでー……」
「そうか。……御柳、今日は膨らませていないようだが」
「……は? 何を?」
「何をって、……ガムを」
俺は御柳の口元を指差す。
御柳はいつもガムを噛んでいる。そしてそれを風船のように膨らませる。
なのに今日は膨らませていない。
御柳は頭をかきながら、だるそうに答える。
「ああ、これっすか……今日は天気悪いから、膨らまないんスよ」
「マジでか」
「……嘘っすよ。屑桐さん騙されやすすぎますって。雨でもガムは膨らみます。今日のはガムじゃないんです、これ」
ごそごそと、ポケットから出したのはいつものバブリシャスではなく、ハイチュウ、だった。
「彼女がくれたんスよ。間違って買っちゃったんだけど、って」
「……モノが違うわけか」
「そーゆーことです。……俺これあんまし好きじゃないんですけど、まぁ彼女が折角買ってきてくれたんだし、
食わないのも申し訳ないかなー、って」
だるそうに答える御柳が、なんとなく嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか?
今日はいつもと何かが違う。
御柳の口元にガムの風船がない。
膨らまないし、溶けてしまうハイチュウを噛む御柳は、とてもだるそうでとても幸せそうだった。
41:『あの娘(こ)の歌(沢梅)』
「私、あの娘の歌はあまり好きじゃないんですの」
夕方のショッピングセンターの家電売り場を、並んで歩く私と沢松。
有線で流れているのは、最近どこの店に行っても流れている、女子高生シンガーの曲。
外と違って寒いくらい涼しい店に、買出しという名目で毎日のように私たちは来ていた。
「何でですか?」
沢松は首をかしげて聞いてくる。
「だってこれ、流行ってるしいい歌でしょ」
その歌は、恋することの切なさを、苦しみをこれでもかという位自虐的に歌っている。
明日には彼の気が変わって捨てられるかもしれないという恐れや、
手馴れた彼の仕草に潜む過去を詮索する自分の疑り深さ、そして。
彼の知らない人に、彼の知らないところで想われていて、それを彼には内緒にしていることまでもが歌詞の中にあって。
だから私はあまり好きじゃない。
「……何となくですわ。あまり好きじゃないの……嫌いじゃないけど」
だって私にその曲は。
余りにも、私そのもののようで。だから、ね。余り好きじゃないの。あの娘の歌は。
……沢松の指に、私の指をそおっと絡める。
「アイスでも食べましょう、沢松」
「あ、いいっすよ」
ああ、なんてずるい逃げ方。
あの娘の歌はあまり好きじゃない。
逃げるように、私は沢松を連れて家電売り場を去った。
42:『夕立(屑柿)』
例えるなら滝。いや、バケツをひっくり返したような、と言ったほうが一般的だろうか。
それは突然の夕立だった。
「……降ってきちゃったね」
「ああ」
慌てて駆け込んだのは公園の東屋。
景色さえもかすんでしまうほどの、土砂降りの雨。
「止みそうにないね……」
「時間は、大丈夫か?」
「ん、平気……それに」
それに、と言って。
柿枝は俺に寄り添って来た。
「あんたと二人だったら、雨宿りも楽しいさ」
肩口に預けられた小さな頭。
「そうだな、……楽しいな」
俺も首を傾け、柿枝に寄り添った。
雨が止むまで、俺たちはそうやって寄り添いあっていた。
たまに会えてもちょっとの時間。
だからこれは、天の計らい。
そう、きっと。
43:『登校5分前(沢梅)』
「……財布に携帯、弁当持った、教科書は学校……後、何だ?」
あと5分で天国が迎えに来る。制服に着替えて、髪の毛ささっと一つに纏めて、あわただしく準備して、忘れ物が無いか一応の確認をする。
「ペンケースも学校、原稿は昨日仕上げて梅さんに渡したし、……それに……」
なんかいつも忘れてるような忘れてないような気分で時間が無いからええぃ、って学校行って、着いてからあーあれが無いとかこれが無いとか言う羽目になるんだよなあ。
前の日に準備できるほど俺ダンドラーじゃねえし。
「ハンカチいらねえ、ホットペッパーは行きのコンビニで取っていく、……それに……あ、そうだ」
思い出し、慌ててベッドの下にもぐりこんで。
「これ忘れるとこだった、やべーやべー……」
ベッドの下に隠してた、白地に黄色いサクランボ柄の、小さな小さなパンティ。
昨日梅さんとエッチしたとき脱がして、俺のポケットに入ったままだったんだ。つまりは梅さんノーパンで帰ったってことで。
持ち帰る俺も俺だけど、ノーパンで帰る梅さんも梅さんだよなぁ……。
今日持って行き忘れたらケツ釘バット確実だっつの。
……勿論ちゃんと洗ったぞ。二、三回おかずにした後で、だけど。
「パンティは朝一で梅さんに渡す、と……」
パンティって言うと梅さん笑うんだよなあ。今時、って。ショーツって言いなさい、だとさ。パンティのほうがヤらしくていいと思うんだけど。
丁寧に畳んで、ズボンのポケットにしまいこむ。
『沢松ーーっ、起きてるかぁーーーっ!!』
そのとき丁度窓の外で、天国の声がした。うるせぇなアイツ。朝から人ん家の前で叫ぶんじゃねえよ。
「はいはい、今行きますよ、ったく……」
机の上のバッグと弁当袋を手にすると、俺は慌てて部屋を出た。
今日は忘れ物は無い。多分、だけど。
44:『シャーペン(沢梅)』
小学校のとき、不名誉なクラス一番をとった事がある。
ずばり、忘れ物の回数。
教科書・ノート・体操服・リコーダー……その他諸々エトセトラ。
たまに忘れ物しなかった日にゃ、先生に「今日は全部持ってきましたね」って感心されて頭撫でられてたと言えば、俺がどんだけ忘れ物キング
だったかは分かってもらえると思う。。
その忘れ物キングは、高校生になった今も、あの頃ほど酷くないにせよ……続いている。
「うわ」
一時間目、数学の時間。
隣の席の天国は俺のほうを横目で見ると、すんげえ嫌そうな声を上げた。
「んだよ、うるせぇな」
「沢松お前なぁ、高校生男子がキティちゃんってどうよ」
「う・る・せ・え! 書けりゃなんだっていいんだよ」
俺が学ランのポケットから出したのは、小さくちびた消しゴムと、赤くてちゃちな、キティちゃんのシャーペン。
ノックするとこに、キティちゃんがきょとんとした顔で座ってる。
朝、登校してすぐ部室に行って、先に来てた梅さんに原稿渡そうとして鞄開けたら。
……入ってなかった。ペンケース。
うわ、やべぇ、教科書ならまだしもよりによってペンケース忘れちまった!
『沢松は本当に忘れ物が絶えませんわね』
頭抱える俺。梅さんは苦笑しながら、ペンケースから消しゴムとキティちゃんのシャーペンを出して俺に渡してくれた。
『これを使いなさい、沢松』
『は、はい……』
キティちゃんって。キティちゃんって、梅さん。
俺、男子高校生ですけど。
あのぉ、せめてもう少し地味なのは無いんでしょうか……鉛筆でもいいんですけど。ってそんなこと聞ける立場じゃねえし。
俺はちびた消しゴムと共に、それを恭しく押し頂いた。
『不肖沢松、有難く使わせていただきます』
「沢松、なんでキティちゃんなんだよ。マイメロじゃねえんだよ」
「おい、突っ込むところはそこかよ天国!」
「大方スッパ姉さんに借りたんだろうけど、そのセンス、スッパさんらしいなぁ」
……おい。梅さんのことをけなしたな。天国。
覚えてろよ。今度凪ちゃん絡みのイベントがあったら、絶対ぶっ壊すぞ?
「いいんだよ、俺が無理言って借りたんだから」
ちゃちなキティちゃんのシャーペンは、軽くて書きやすい。
あ、芯ちょっと硬いかも。
反対側の隣に座ってる女子が、クスクス笑ってる。ええい、見るなっつの。
梅さんの貸してくれた、キティちゃんのシャーペンを使いながら、俺は忘れ物キングの不名誉な称号を何とかすることを考えていた。
45:『お下げ(辰凪)』
髪形を変えてみました。
というより、変えられてしまいました。辰羅川さんに。
「鳥居さん、とてもよくお似合いです」
辰羅川さんは私の右側の三つ編みに、優しく口付けてくれました。
鏡の中の私は、いつもと違う。
辰羅川さんの手によって、私の髪は真ん中できちんと半分ずつに分けられ、お下げ髪になっている。
「なんだか私じゃないみたいです」
私が言うと、辰羅川さんは可笑しそうに笑って。
「というより、イメージが大分変わりますね」
「ええ……」
いつも一つに適当に纏めるだけだから、お下げにしたのなんて本当に久しぶり。
中学の入学式の日にして以来じゃないかしら。
「可愛いですよ、鳥居さん」
辰羅川さんに褒められると、嬉しくて、恥ずかしくて。
頬が赤くなるの、自分でも分かるんです。
それにしても辰羅川さんたら。
物凄く神妙な顔をして、スケールまで出してきて、きっちりと髪を真ん中で半分ずつに分けて、
丁寧に丁寧に、時間をかけて、私の髪を三つ編みにしてくださったんです。
言い出したのは辰羅川さん。
『鳥居さん、髪形変えてみませんか?』
「……鳥居さん、今日はこのまま、お出かけしましょう」
「え? このままですか?」
「はい、折角髪形を変えたんですし……駅前まで行きましょう」
「―――そうですね。折角、辰羅川さんがして下さったんですから……お出かけ、しましょうか」
髪型を変えた日は、二人でどこかに出かけたいもの。
46:『あと10分(猪梅)』
5時間目開始まで、あと10分。
「ここから教室まで、……そうですわね、急いで3分ってところかしら。身なりを整えるのに1分。
差し引き……6分」
塁はそう言うなり、猪里を部室の壁に押し付け、猪里の前に跪いた。
「タイムリミットは6分。猪里君なら、大丈夫よね?(尋)」
何が、と猪里が聞くよりも前に。
猪里の制服の、ボトムのジッパーは下ろされ、その後は。
いつもの通り、不意打ちで訪れた快楽の時間。
「……梅星は、ほんまに好きたいね……」
報道部の部室の壁にもたれ掛り、荒い息を堪える猪里は、自分の足元に跪く塁を見下ろして呟く。
小柄な体の割りに大きな猪里のそれを、塁はまるでソフトクリームでも舐めるかのように、美味しそうに舐めている。
赤い舌を上へ下へ、裏も表も余すところ無く。
「だって、美味しいんですもの」
小悪魔的な笑みを浮かべ、塁は両手で愛しそうに包んだ猪里のそれを、ゆっくりと扱き上げ始める。
―――俺、梅星が思うほど早漏じゃなか。
猪里は喉の直ぐそこまで出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。
「あ・っ……、」
不意打ちで訪れた快楽の時間は、やはり不意打ちに終わってしまう。
猪里は塁に軽く噛まれた瞬間、あっけなく達してしまった。
結局、2分残ってしまった。
47:『お気に入りのバンダナ(屑柿)』
「そのバンダナ、まだ持ってたんだな」
アイツはちょっと驚いた様に言いながら、あたしの頭に触れた。
あたしの頭にはちょっとくたびれた、赤いバンダナ。
バンダナは何枚も持ってるけど、これが一番お気に入りで、週の半分はこれ。
長いこと使ってるから、洗濯を繰り返して柄もぼやけちゃってるんだけど。
「当たり前よ。風化するまで使うわ」
って言ったら、アイツ噴出しちゃって。
「だってアンタがはじめてくれたバンダナだもの」
そう、これは屑桐が一番最初にあたしにくれたプレゼント。
『柿枝。やる』
そっけない言葉を包装紙の代わりに。
屑桐がむき出しのままの赤いバンダナをあたしにくれたのは、付き合い始めて直ぐの頃。
あのときの屑桐の顔、今でも覚えてる。
初めてのプレゼントによほど緊張したのか、屑桐は頬を真っ赤にして、うつむいて。
あたしは精一杯の屑桐の気持ちが、凄く嬉しくて……。
『ありがと、屑桐。大切に使うからさ』
「……だから風化するまで使うつもり」
屑桐の肩口に頭を預け、あたしは自分に言い聞かせるように呟いた。
「風化する前に、次のを買うとするか」
あたしの頭をバンダナ越しに撫でながら、屑桐も呟いた。
ねえ屑桐。次のはあたしたち二人の上、あんなにも鮮やかな、あの青い空と同じ色のバンダナを頂戴。
48:『おっぱい星人(子熊)』
……女の子の胸の大小は問わない、というのがボクのポリシーでした。
先輩方と恋愛談義のときも、やっぱり女の子は性格ッスよ、なんて分かった風な口をきいては
獅子川先輩とか猿野君あたりにヘッドロックを食らわされてたんス。
実際、自分ではそうだと思ってたんですが、あー……。
……いざ触れてみると、やっぱいいもんッスね……巨乳……。
「子津って、見かけによらずエッチなんだな」
後ろ手に部室のドアを閉めた清熊さんは、頬を少し赤く染めて言いました。
「え、そ……そうッスか?」
「もうちょっと固いかなーとか思ってたんだけど……」
「でも……先にシたいって言い出したのは清熊さんの方ですし」
「そりゃーそーだけどさー……」
ボクはお弁当箱を部室のベンチの上に置くと、ドアに凭れ掛かっている清熊さんの前に立って、その身体を抱きしめました。
告白してきたのは清熊さんの方ッス。
先にエッチなことしたいって言い出したのも、清熊さんの方ッス。
ためらいはありましたけど、それとなく部の皆に聞いたら結構やることはやってるみたいで。
足並みはそれなりに揃えておいたほうがいいかなぁとか思って、大人の扉を思い切って開いてみたんス。
一歩扉の向こうに踏み出してしまったら、その後は。
それはもう……駆け足で。
軽くキスをした後、ボクは跪いて清熊さんのセーラーの前ボタンを外しました。
スポーツブラ。はちきれんばかりの胸。
薄い布地を捲り上げると、ぷるん、と音がしそうなくらい弾力のある、大きな胸が現れます。
両の先端はピンクに色づいて、尖ってて。
「……興奮してるッスね」
「いっ、言うなっ……」
「だって本当のことッスよ」
恥ずかしがる清熊さんを軽くからかって、まずは向かって右側のピンクの尖りを舌先で突付きます。
「ぁ……あ」
零れてくるのは切なくてエッチな清熊さんの声。
この声を聞くと……もっと、苛めたくなるんス。
二つの尖りを交互に口に含んで舌先でコロコロと転がすと、声はさらに切なくなって。
「ん、やぁ……あ、子津ぅ……」
「清熊さん、声もっと出していいッスよ」
両手で二つの乳房を懸命に揉みしだくんですが、大きくて本当に……揉み応えがあるんス。
ふにふにってしたこの感じ。巨大なマシュマロとでも例えたらいいんでしょうか。
清熊さんも胸は相当感じるみたいで、触られるとこんな感じで乱れに乱れるんス。
顔を埋めたりとかわざと匂いをかいだりとかしながら、ボクはその大きさと柔らかさを堪能します。
手の中で自在に形を変える清熊さんの大きな胸……ボク、おっぱい星人になりそうッス。
いやもう、なってるッスね……。
「ぁ―――……ああ……い、あ……ぁ……」
軽く先端を甘噛みすると、清熊さんは乱れて。
「その余裕ゼロの顔……いいッス、ものすごくいいッス……」
そろそろ、ボクの方も限界が……。
最後は勿論、清熊さんの胸で挟んでイかせてもらって締めくくるンス。
ボクは清熊さんの乳房を口に含んだまま、ズボンのジッパーをゆっくりと下ろしました。
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頑張れ御柳