『恋人ごっこ』
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『凪、今日は恋人ごっこ、しようか』
お兄ちゃんが耳打ちしてきたのは、日曜のお昼ご飯の後。
洗いものをしている私の後ろに立って、テレビを見ているお父さんとお母さんには聞こえないように、……そっと。
その誘いに、私はただ頷くより他は無くて……だって、断る理由なんて無いから。
悪いことだとは分かっていて、でももう、何もかもが……今更。
引き返せないところまで、私達は進んでしまっている。
ためらいがちに頷くと、『いい子だ』と、頬に小さくキスをくれた。
それは恋人ごっこという名の、許されるはずの無い遊び。
日曜の昼下がりだというのに、二人で出かけた近所の公園に人影は無かった。
私達が小さい頃、この地区で遊ぶ場所といえばここだった。あの頃はここで、毎日のように遊んだ。
何年か前に駅前の図書館が新しくなって、その隣に綺麗な公園ができて以来、すっかり寂れていまや近づく人はほとんどいない。
錆びたブランコに滑り台。登る人のいない登り棒。手入れもされず、生い茂り放題の木々と雑草。でも、だからこそ、都合のいいことも勿論……。
「いい天気だね、凪」
「そうね……」
恋人みたいに手を繋いで、その寂しい公園を歩く私とお兄ちゃん。
知らない人が見たら、きっと恋人に見えていると思う。
「……いつものとこでいいよね? 凪」
「え、」
「ほら、あそこ」
お兄ちゃんがあそこ、と顎で示した場所は、寂れた公園の一番奥にある、小さな東屋。そこには古びたベンチが一つあるだけ。
住宅地の中にある公園でありながら、人の近づかない寂れた公園の、さらにその一番奥にあって。
手入れされていない木々や遊具で巧い具合に隠されて、道行く人からあの東屋は見えない。
だから、いつもあそこ。
私はまた、頷くだけ。
東屋は狭かった。木は所々腐りかけ、蜘蛛の巣が張っている。足を踏み入れるとギシ、と悲鳴のような音が。
「凪、座って」
お兄ちゃんはベンチの土を手で簡単に払うと、ポケットからクシャクシャになったハンカチを出して、ベンチに置いた。
ハンカチの上に私が座り、お兄ちゃんは私の足元にしゃがみ込む。
「……見せて、凪」
お兄ちゃんの声は、もう興奮しているみたい。頬が赤い。
「ん、……」
小さく頷いて、私はゆっくりと脚を開く。同時にミニのスカートを、お兄ちゃんがそっと指でつまみ上げ、捲る。
「凪はいつもいい子だね、ちゃんと約束守ってる」
その下は、毎回……恋人ごっこをするときには毎回そう。
何も穿かない。これは、私とお兄ちゃんとの約束だった。
うっすらと、甘さを孕んだ酸っぱい匂いが上がってくる。そこから、上がってくる。
「凪、何もしなくても微妙に濡れてるっぽいよ?」
「それは……、」
「だって俺触ってないのに、もう零れてるし」
露になったミニスカートの下。
薄い恥毛が守る三角地帯は、興奮と期待と、僅かな罪悪感で明らかに濡れていた。
「下に敷いたハンカチに、もう染み出してる」
「ぁ……あ」
お兄ちゃんにそれを指摘され、恥かしさがわくわくとこみ上げてくる。
薄地のハンカチに、濡れた跡。
「おっぱいも見せて? 俺、凪のおっぱいも見たいなぁ……」
「……はい」
恥かしさを押し殺しながら、震える手で今度はカットソーを捲り上げる。
ブラもカットソーと一緒に捲り上げると、ふるん、と二つの膨らみが揺れながら、お兄ちゃんの目の前に……。
「凪のおっぱい、もしかして前よりおっきくなった?」
「……そんなこと、は、ない……と思う、けど……」
「そうかなぁ?」
お兄ちゃんが私の胸を軽く揉む。暖かい大きな手が、包み込むように。
私もお兄ちゃんも、声が震えている。
毎回だけど、ここでするのは凄く緊張するしドキドキする……幾ら人気が無いといっても、それ以前に家の近く。
この辺りは住宅街だし。いつ誰が来てもおかしくない。知り合いが来ないとも限らない。
こんなところを誰かに見られたら……私……恥ずかしくて死んでしまうかもしれない……。
そう思うだけで、心臓は早鐘を打ち始める。
こんな恥かしい格好を、昼間からこんな場所で。それも、お兄ちゃんの目の前に晒しているなんて。
いけないことだと分かるほどに、興奮もまた増してくる。
ああ、足を踏み入れた罪の沼はどんどんと深くなっていって。
「……あ、……ん、」
あえぎ声も、水音も、木々のざわめきに掻き消されている筈。そう、信じたい。
大きく開いた脚の間に、お兄ちゃんが顔を埋めている。そしてとても美味しそうに……舐めている。私の、大事なところを。
「凪すごい、どんどん溢れてくる……」
「んぁ、……ぅ、ああ……」
裏返ったような声は、抑えても抑えても口から零れてくる。
舌先で、一番感じやすいクリトリスばかりを狙われて舐められると、もうどうしようもなくて……。
「凪はエッチだから濡れやすいし、感じるんだよね?」
「ぁ……や、違う……」
「違わないよ、凪。クリトリスこんなに大きくしちゃってさぁ……」
「だって、」
「今日もこないだみたいに潮吹いて、俺の服汚すのかなぁ?」
お兄ちゃんは言葉でも私を責める。
この間、やっぱりここで、恋人ごっこをして、そして。
盛大に潮を吹いてお兄ちゃんの服を汚してしまった。
ゆっくりとでも確実に。行きつ戻りつ、私は頂点へと上り詰めていく。
「あ、あ、あ、……あ」
逞しいお兄ちゃんの肩に両脚を乗せて、腰を自分から摺り寄せて。
胸は自分の両手で慰めて……ああ、なんて格好なんだろう、私。
「凪、美味しいよ」
お兄ちゃんの口元が濡れている。私の……もので、濡れている……。
身体はもう、お兄ちゃん自身を迎え入れたがっていて、甘く甘く、痺れ始めている。
そこが大きく口を開いているのが、自分でも分かる。
「お兄ちゃん、も、……ぁああ……、」
「凪、……イきたい?」
尋ねられ、うなずいて……それから。
瞬間、木立から何羽かの鳥たちが一斉に飛び立った。
ばさばさという羽音。それにかき消されるように、私は声を……大きな声を……。
「ぁあ……お兄ちゃん、お兄ちゃん………ぁ・ああ……―――っ……!!!」
腰を振り、仰け反って、……失墜した。
踏み入れた罪の沼。
それは底なし沼。
恋人ごっこという名の下に、甘い痺れとひと時の快感とを引き換えにして、私たちは堕ちていく。
どこまでも、どこまでも。
(END)
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