『使い捨てカイロ』
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今朝は急いでたんだ。
だから押入れのカラーボックスの中にたんとあった使い捨てカイロ、
選ぶ間もなくとりあえず一番上の奴を引っつかんで出てきちまったんだ。
「あー……全然駄目っ」
ポケットから出した使い捨てカイロ。
封を開けてだいぶ経つっていうのに全然暖まらないんだぜ。
それどころか中身が何か固まってるみたいだし。
ガッコに着いて、教室より先に部室に寄った。今日の朝締め切りの原稿を出すために。
「くっそ、不良品かよ」
部室の椅子に座ってあれこれやってみたけど、全然駄目。
これは多分アレだ、お袋が商店街の福引のハズレで貰ってきた奴かなんかだ。
「お早うバカ松、何が不良品ですの?(疑問)」
「あ、梅さん……お早うっす……いやね、このカイロが全然暖まらなくって」
コートにマフラー姿の梅さんに、俺は椅子から立ち上がって挨拶をし、全然暖まらないカイロを差し出した。
梅さんはカイロを揉んでみたり頬に当ててみたりして、そうねぇ、と言った。
「商店街の福引で貰った奴だと思うんですけど、ハズレの景品だけにモノもハズレっつーか……」
「ん〜……そうねぇ、駄目ね、これは(諦)」
梅さんはえいっと掛け声とともにサイドスローのフォームでカイロを投げた。カイロはいったん壁に当たってゴミ箱に見事イン。
「ただより高いものはないと言うでしょう、沢松」
「そうっすね……今日はカイロなしで我慢すっかなぁ……」
「でもね、カイロいらずの温まり方がありますのよ、沢松」
「……まさか校庭走れとか言いませんよね?」
「違いますわ、こうですのよ。」
梅さんは言うなりいきなり俺に抱きついて。
「わ、っ」
「これなら温かいでしょう? カイロも要らないですわ」
「ちょ、梅さんっ」
俺の首に手を回し、梅さんは背伸びをして頬にキスをしてくれた。
「始業5分前のベルが鳴るまで、こうしててあげますわ(優)」
「……そりゃどうも……」
(END)
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