『嫉妬と視線』







梅さんのいる2−Cには、殆ど休み時間ごとに通ってる。
一年の教室がある四階から二階に下りて、一番奥の教室が2−C。
廊下側の窓からひょこっと教室を覗き込んだら、
「梅ちゃん、ダンナだよ」
いつの間にか顔パスになっちまってたり。梅さんのクラスメイトに軽く冷やかされ、
「違いますわよ、沢松は私のパシリですの、パ・シ・リ!(強調)」
なんてやけにむきになりながら、梅さんが席を立つ。
一応、まだ秘密の関係ってことで。




「沢松、今日は賊軍の練習風景の取材お願いね」
「ういっす〜」
教室の後ろで二人、放課後の報道部野球班の打ち合わせをする。
「使い捨てカメラからデジカメに昇格したんですもの、いい写真を撮るのは分かってますわね?(睨)」
「了解ですっ」
「ふふふっ(笑)」
わざとらしく敬礼したら、梅さん可笑しそうに笑ってくれた。
決して多くない部費の中から、俺専用のデジカメを買ってくれたのはつい最近のこと。
やる気も、がぜん沸いてくるってなもんで。
「二、三年の賊軍選手を中心に取材して頂戴ね」
「インタビューとかしたほうがいいっスかね」
「そうね、邪魔にならない程度に……」



「――――……」




……ああ、まただ。





背中に突き刺さるような、視線。




教卓の真上の時計を見る振りして、さりげなく振り返ってみれば。
ほら、やっぱり。
「…………」
俺の背中に、突き刺さるような二人の視線。
梅さんと話す俺の背中に。



最前列の席に座って、こっちを見ている虎鉄先輩と猪里先輩。
……感づいてるんだろうな。
2−Cには、報道部に入ってからすぐに通うようになったんだけど、梅さんとそういう仲になってからだ。
こんな視線を感じるようになったのは。
嫉妬丸出しの、二人の視線を。




―――好きなんだろ?アンタら。梅さんのこと。



梅さんと話をしながら、横目で二人を見る。
突き刺さるような視線を向ける二人を。
俺は二人に横目で……視線でそう言ってやる。



虎鉄先輩は舌打ちをし(確かに聞こえた)、立てた親指を真下に向けた。
普段はすっげえ穏やかな猪里先輩は、部活で後輩を叱る時だってあんな怖え顔はしないってくらい怖い顔をしてた。
視線で通じちまうなんて、ある意味やばいかもしれない。



―――男の嫉妬はみっともないですよ?



―――悔しいんなら、どうぞ? 奪えばいいじゃないですか。




ってやっぱり横目で言ったら。
発火点のやたら低い虎鉄先輩が立ち上がろうとし、猪里先輩がそれを制した。
梅さんは何も気づいてない。 この人は女性として大事なネジが一本抜けてるのかそれとも元々足りないのか、意外と鈍感だったりする。 告ったのも、俺のほうからだったし。




「賊軍の練習メニューと各メンバーの……沢松、聞いてますの?」
「……えっ? あ、はい」
「えっ、じゃありませんの!(怒)練習の妨げにはくれぐれもならないように、分かってますわね?」
「も、勿論……」




一年坊主に憧れのクラスメイトを奪われるのは、さぞ悔しいんだろう。 それでも真正面から梅さんを奪わないのは、俺と梅さんの間に立ち入れないものを感じているからか。
何か策でもあるんだろうか。
罪な梅さんは何も知らない。気づいてない。
二人は毎日のように、梅さんと一緒にいる俺に、ささやかな攻撃。
突き刺さるような視線。
俺はそれに視線で反撃。




それは休み時間の度にこの教室で繰り返される、静かな静かな戦争だった。



(END)




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