『君は笑うかな』




胸の膨らみと腰のくびれはさらしを捲いて、目立たぬようにする。
ちょっと苦しいけど、我慢しなけりゃ何も始まらない。
化粧なんてもってのほか。
男物のスーツを着て、禁煙パイポを咥えて、男物の革靴を履く。眼鏡も勿論変えたんだ。
女の子にしては元々背は高いほうだから、スーツは結構決まってる。
歩き方もしゃべり方も振る舞いも、これでも結構勉強したつもり。



「大神、どう、似合ってる?」
古びた墓石の前で、くるりと回ってみせる。
「大神には笑われるかもしれないけどさ、……でも、どうしても……したかったんだ」
大神が遣り残したことを、引き継いで完成させたい。
そのためには、このくらいの道化は厭わない。
「自分のことをボクと呼ぶのも慣れたし、男子トイレに入っても誰も変な顔しないんだよ」
答えることのない墓石に、ボクは話しかけ続ける。
「男の格好、だいぶ様になってきたみたいなんだ、だから……」
ああそうだ、男物の香水を降るのを忘れてた。帰りに買わなきゃ。
「ボクのすること、天国から見ててね、大神」





『ユキ、絶対お前のこと甲子園に連れて行ってやるからな!』
あの頃の大神の口癖だった。
『連れて行ってやるからな、でもって絶対優勝だ』
耳にタコが出来るくらい、しょっちゅう言ってたっけ。



「…………じゃあ、また来るからね。大神」
十二支高校野球部で女子マネージャーだった、あの頃の自分はいなかったことにしよう。
今日からは、白雪静山。
大神とバッテリーを組んでいた、元十二支のキャッチャーとして。
偽りの過去。偽りの名前。
いいんだ。いいんだ、何もかも……これで。



大神、こんなボクを君は笑うかな。






(END)





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