66:『三倍返し(屑柿)』




バレンタインには沢山のチョコを配った。
本命は一つだけで、あとはワゴンセールで買った沢山の義理チョコと、友達や後輩と手作りの腕を競った友チョコ。
……あ、義理は義理でも、屑桐の弟君たちに渡した分は、ちゃんとした手作りなんだけど。
本命は、……勿論手作り。
毎年のことだけど、本命に関しては最初からお返しなんて期待してないし。っていうかあれは自己満足みたいなもんだし。
それに、今年はちょっとしたハプニングみたいなこともあったから、……あれが実質お返しよね、とあたしの中で、 本命チョコの相手である屑桐のことに関しては、ほぼ自己完結していた。




なのに。
3月15日、ホワイトデーの次の日。予想もしなかったお返しは空から降ってきた。
「…あ」
「ん、」
ほぼ一ヶ月ぶりの再会は、あたしの家の前。
バイトから帰ってきたあたしの目に飛び込んできたのは、あたしの家の前で茶色い小さな紙袋を提げて突っ立ってる屑桐だった。
「何してんの? 屑桐」
一ヶ月ぶりの再開の言葉にしちゃ、ちょっと色気無いあたしの言葉。まぁいつものことなんだけどね。
「何と言われても……お前が帰ってくるのを待っていたわけだが」
「……ふぅん」
「小一時間は待ったんだがな」
「それはそれは……ご苦労様」
立ち話もなんだし、小一時間も待っててくれたことだし。
お茶でもどう、と屑桐を誘った。
案内したあたしの部屋は、一週間後に迫った引越しのためのダンボールが部屋の隅に堆く積まれていて、必要なものはあらかたそのダンボールの中。
がらんとした部屋になっていた。
「……県内か?」
屑桐は隅に積まれたダンボールの箱を見遣って言った。
主語は無かったけれど、意味は通じた。進路のこと。
あたしは県内の大学に進学する。
「一応ね。でも通うにはちょっと遠いから、一人暮らしするの。屑桐はいつから?」
「俺も再来週だ」
「そ、」
屑桐も再来週には、新しい生活が始まるのだという。
「とりあえず座って、座布団も片付けちゃってないけど」
先に座って、屑桐にも座るように勧めた。
「ああ、でも」
その前に、と屑桐が言うのと殆ど同時に。
パサパサと音を立てて、あたしの頭に軽いものが幾つも当たって落ちた。
痛くは無かったけど、不意に頭に当たったものだから、思わず肩を竦めてしまった。
「……ナニこれ」
膝の上に落ちたのを拾い上げると、それは一つずつ包装されたマシュマロだった。
白いのとピンクのと黄色いのが二つずつ、計六つ。
「ホワイトデー……お返しだ」
ぶっきらぼうな口調で、屑桐は言った。
「お返し?」
「そうだ。バレンタインのお返しだ」
「お返しってさぁ、……屑桐。こーゆーの普通は箱に詰めたりしない?」
六つのマシュマロを拾って、両手に乗せる。
いかにも直ぐそこの駄菓子屋さんで買ってきました、って感じの、チープなマシュマロだった。
「箱?」
「そ、箱じゃなくても袋に入れてラッピングとかさ……まぁアンタらしいっていえばアンタらしいんだけど」
屑桐はあたしの前にしゃがみこむと、あたしの手のひらのマシュマロを一つ、つまみあげた。
「お前だって、五年前のバレンタインにチロルチョコを投げつけてきただろうが」
「――――……あ」
そうだった。
「お返しはお返しでも、これは五年前のバレンタインのお返しだ。ちゃんと、三倍返しだぞ」
「三倍返し?」 「ホワイトデーのお返しは三倍返しが相場なのだろう?」 ……屑桐の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。ってか、誰から聞いたのそんな言葉。
五年前のバレンタインデー、屑桐に投げつけるように渡した二つのチロルチョコのお返しは、 二の三倍の数、六つのマシュマロになってあたしに返ってきた。
屑桐は摘み上げたピンクのマシュマロの包装を破くと、あたしの口元へと差し出した。
「……食べろって?」
尋ねると屑桐は頷いた。
恐る恐る、口を開く。屑桐はマシュマロを、開いたあたしの口へと軽く押し込む。
優しい甘さでふわふわしたそれは、口の中でほんわりととろけて無くなった。
「―――甘い」
「そうか」
「アンタにもおすそ分け」
あたしは白いマシュマロの包装を破って、それを軽く口に咥えた。
「……ん。」
ちょっとだけ、上を向く。
「俺に食えと?」
勿論、とばかりにあたしは大きく頷く。
屑桐は右向き左向き後ろ向きをして、辺りを伺って。
「……誰もいないな?」
念を押してくるものだから、「ん、」ともう一度頷いた。
屑桐は改まってコホンと咳払いをして、あたしの肩に両手を載せて、それから――……





ここから先は、二人だけの秘密。






67:『バレンタインの女子マネたち(女子マネオール&明美)』


十二支高校野球部の財政状態は決して思わしくなかった。
これは以前から言われていたことで、部員から徴収する毎月の部費を何度か値上げはしてみたものの、その状態は一向に改善されないようであった。
そこで、監督・羊谷がとあるアイデアを思いつき、思い立ったが吉日とばかりに早速実行に移すことになった。
その名も、「ドキッ☆女子マネだらけのバレンタインデー」というとんでもない企画。
早い話が、問屋で安く仕入れたバレンタイン用のチョコレートを、少々きわどい格好をした女子マネージャー達が手作りと称して売りさばいて、 儲けを部費の足しにしようという、なんとも羊谷らしい企画だった。
勿論、ただ女子マネが売るだけでは面白くないからと、チョコにキスをしてプレミアをつけるというオプションまで指定してきた。
「伴天連の祭りになぞ興味ありません!」と言い放ち、羊谷に顔面パンチを食らわせて一抜けした夜摩狐以外の女子マネ7人は、 放課後の中庭にて、山ほど仕入れたチョコを売りさばくことになった。



「十二支高校野球部女子マネージャー特製チョコだよっ! 今ならキス付き! お買い得だよ!」
女子マネのリーダー、柿枝鶫が声を張り上げる。
既に男子生徒たちがわらわらと群がって、我先にとチョコを買い求めにきていた。
ここだけの話、校内でも「野球部の女子マネのレベルはかなり高い」と、男子生徒たちの間で専らの評判だったのだ。
集まってくるのは必然というべきだろう。
「はい、一つね。200円になりまーす」
柿枝は硬貨を受け取ると、チョコの箱にちゅ、と軽く口付け、それを男子生徒に渡した。受け取った男子生徒は大喜びだった。
「チョコを買ってくれたら、今なら占いつけるかも……」
猫神様を抱えた猫湖檜は、チョコの箱にキスをする上に、恋占いのオプションをつけた。
「心を込めて作りましたっ! お一ついかがですかぁ?」
普段は大人しい栗尾かの子も、ここぞとばかりに大きな声でアピールした。清純派好みの男子生徒には堪らない。
「あい、一つ200円だぜ! ありがとよっ!」
清熊もみじは色気より元気でアピールしている。羊谷からこのアイデアを聞かされたとき、夜摩狐の次に不満そうな顔をしていたもみじだったが、 いざ蓋を開けてみると一番声を出して積極的に売っていた。
「チョコ一つ! いや、二つくれ!」
「こっちは三つ!」
一人でいくつも買っていく生徒もいれば、もみじから一つ、かの子からも一つと何度も買っていく生徒もいる。
良くみれば男性教師も何人か混じっている。
「い、いらっしゃいませ……」
「凪ちゃん、声出てないよ! ほら、もっとアピールしないと!」
鳥居凪は恥ずかしさのほうが先に立って、いまいち声が出なかった。先輩の桃坂未月に背中を叩かれ、すみません、と頭を下げる。
「あの、桃坂先輩……これっていいんでしょうか……」
「え? どうして?」
「特製って言っても、買ってきたチョコですし……キスのオプションも、なんだかその……」
「平気平気、手作りに見えるチョコを仕入れてきたし、それにキスのオプションも、嘘ついてるわけじゃないし!」
「はぁ……」
ちなみに、羊谷が指定した「少々きわどい格好」は、全員ミニスカート、生足披露、おさわり禁止というものだった。
それぞれお気に入りのミニスカート姿で、鶫と未月にいたってはおへそまで出している大サービスだ。ちなみに凪だけは制服で、けれどかえって凪らしかった。
山のようにあったチョコはどんどん無くなっていき、代金を入れる段ボール箱はかわりにどんどん重くなっていく。



一方、その頃。
「明美特製チョコよぉぉぉぉん! 勿論キッスもつけちゃうわぁぁ!」
校舎内では阿鼻叫喚の恐ろしい光景が広がっていた。
凪から部費稼ぎのためのミニスカ姿でチョコ売り企画の話を耳にした猿野は、自分もひと肌脱いでとばかりに、明美の格好で男子生徒たちに チョコを売っていたのだ。といっても、こちらはむしろ「押し売り」状態である。
言うまでも無く、明美もミニスカートだった。
「ぎゃああああ!! 明美が出たぁぁぁ!!!」
現在のターゲットは、たまたま廊下を歩いていた沢松。
「待ってぇぇぇ! 沢松ちゃーん! 明美の愛を受け取ってぇぇ! 一つ2000円で買ってぇぇぇ!!!」
「来るなッ! 化け物ぉぉぉぉ!!!」
逃げ惑う沢松と、追いかける明美のことなど知らず、女子マネたちのチョコはもう少しで売り切れそうだった。







68『溶岩チョコレート(辰熊)』



清熊さんは女の子っぽいことがあまりお好きではないようです。
自分のことも俺と呼びますし、他の女子の方々のように、ヒラヒラした格好も好みませんし。
男の私でさえ臆するようなことも、平気で立ち向かっていくんですから。
神様が性別を間違えたのかと思うときのほうが多いのですが、今日ばかりはやはり清熊さんも女の子だな、と実感した次第なのです。


「あのう、これはいったい何でしょうか、清熊さん……」
蓋を開けた私は、恐る恐る尋ねました。この箱をくれたのは清熊さんでした。
「……チョコだよ」
「チョ……チョコ、ですか」
それはチョコと呼ぶには余りにも程遠いものでした。
茶色い塊、と呼ぶべきでしょう。溶岩のような形の茶色い野球ボールほどの大きさの塊が、どんと箱の中に鎮座していたんです。
「バレンタインだから、手作りしてみたんだけどっ」
むすっとした顔で、清熊さんは言いました。
「はぁ……」
私はもう一度、清熊さんから貰った、チョコ(と清熊さん曰くの)をまじまじと見つめました。
私、製菓のほうの知識は乏しいんですが、それでも何となく察しはつきます。
これは恐らく……その……失敗作、というヤツではないかと……。
「……作り方の本とか一応見てみたんだけど、細かいことはまどろっこしいから……自己流で」
「自己流ですか……」
製菓というのは計量とか温度とか手順とか割合とか、細やかな配慮が必要だと聴いた気がするのですが……。
「見てくれは悪いけど、辰羅川に食べさせたくて……作ったから、それ……」
「清熊さん、」
清熊さんの指先が、震えていました。
「……下手くそだってことくらい、自分でもわかってるけど……」
声も、震えていました。
唇を、ぎゅっとかみ締めていました。
「―――」
私は、茶色い塊をそっと手に持ちました。そしてずしりと重いそれに、思い切ってかぶりつきました。
「……甘いですね、とっても」
思ったままのことを、口にしました。
見てくれこそ確かに溶岩の塊でしたが、確かにチョコレートの味がしました。
「……ホントか? 辰羅川。お世辞はいらないぞっ」
「はい、本当ですよ、清熊さん」
お世辞抜きで、……味の方は決して悪くありませんでした。
「―――良かった」
ホッとした清熊さんは、笑ってくれました。
私もつられて笑いました。



バレンタインデーに手作りのチョコレートをくれるだなんて、やっぱり清熊さんも女の子なんだな、と実感しました。
溶岩の塊のチョコレート、勿論残さず平らげましたとも。




73:『2/13(御かの)』



「明日のバレンタイン、期待してね」
かの子さんが別れ際、俺にそっと耳打ちした。
薄暗い公園の出口で、背伸びをしたかの子さんの頬がほんのりと赤い。
「も、勿論……俺、すごい期待してますから」
明日は他にも沢山の女の子がチョコをくれるらしい。
けど、俺が一番欲しいチョコは、目の前のかの子さんの手作りチョコ。
本当はそれだけでいいんだ。
「生チョコにするからね、自信あるんだから」
「あ、俺生チョコ大好きです」
生チョコって家で作れるんだ……なんて、そんなことさえ俺は知らない。


ねえ、かの子さん。
俺と会うまでの今までに、いったい何人にチョコレートを渡したんですか?
本命は何人いた? 義理は? 返事はあったのかなかったのか……どうだったのか。
聞きたくて聞きたくてうずうずするけれど、そんなことを気にするのはきっとガキの証拠。
過去より今。今より未来。大事なことは、いつだって伸ばした手の先でひらひらと舞っている。
だから、俺は聞かない。
「じゃ、帰ったら作るからね」
「ういっす」
俺の知らないかの子さんの過去に嫉妬しても、何も始まらない。
人のことは、俺だって言えないんだから。




74:『願いよ、届け天高く』(牛柿)



卒業生記念の植樹は、多分何処の学校でもやっていることだと思う。
毎年この時期になると、学校の敷地のあちこちに新顔の苗木が現れる。
日当たりのいい場所は早い者勝ちですぐなくなってしまうよ、と植樹の許可を下さった校長先生は、あそこがいいよと中庭の一隅を指差した。
どの木にしようか、あたしと御門は随分考えた。沢山のお店を回って、そして。



中庭の隅にアオダモの木を植えた。
別名バットの木。木製バットは、実はこの木から作られる。
花屋のおばさんは、「松井選手のバットもこの木から出来てるのよ」と教えてくれた。
「大きくなったらいいね」
植え終わったアオダモの木を眺めながら、あたしは言った。
「なるよ、絶対に」
御門は断言した。いつも有言実行の御門らしく。
「この木がうんと大きくなったら、そのときここの野球部の部員達……可愛い後輩達に、とっておきのバットを作ってあげたいんだ」
これは御門が主将として最後の仕事。あたしも、女子マネとして最後の仕事。
「楽しみね」
若緑の小さな葉を撫でると、ふんわりと春の匂いがする。
「うん、とっても……楽しみだ」
二人で顔を見合わせて、そして笑いあう。



三年間の野球部の日々では、本当にいろんなことがあった。
笑ったことより泣いたことの方が多かったかもしれない。
あたし達の後輩達には、泣いたことより笑ったことの方が多くありますように。
どうか、どうか。
願いを込めて、あたしと御門は木を植えた。


「鶫、そろそろ行こう。皆が待ってる」
「そうね」
御門とあたしは手を繋いで、学校を後にした。



どうかこのアオダモが大樹になりますように。
そしてあたしたちの後輩が、素敵な野球部の三年間を送れますように。
願いよ、届け天高く。




75:『司馬葵より愛を込めて』(沢→梅前提・司馬→梅)



放課後、いつものように俺は報道部の部室へと向った。
「あざーっす」ってやる気のない挨拶と共に部室に入った俺に、先に来ていた梅さんは遅いわね、でもなく、 ちゃんとした挨拶をなさい、でもなく。
「沢松、このCDあなたの?(尋)」
と、CDのプラケースを手に尋ねてきた。
「……は?」
「今日部室のドアノブに紙袋が掛かってて、その中にこれが入ってたんですのよ。あなたが誰かに貸したか、借りる約束をしたCDじゃありませんの?」
「CDっすか? いやぁ、俺CDは貸せるほど持ってないっすよ……借りる約束なんてした覚えもねぇし」
「他の人に聞いても誰も覚えがないって言うんですの……おかしいわね、誰かしら」
「へぇ……誰か忘れてんじゃないっすかぁ?」
俺は梅さんからCDのケースを受け取った。
「バカ松、今日のお仕事は、そのCDを何とかすることよ(命令)」
「ええっ、マジっすかぁ?」
「ええ、マジですわよ(真剣) そのCDがどうしてここにあるのか、理由を突き止めて頂戴な」
「……はいはい……」
「沢松、」
「はいっ!」
……ったく、こういうことっていっつも俺の役割なんだよなぁ。
まぁいいか。今日は特に仕事らしい仕事はないし。
「……んー、Queenねぇ……」
CDはQueenだった。
「俺洋楽わかんねーんだけどなぁ」
言いながら、何気なくケースを開く。
「―――ん?」
ケースを開くと、ジャケットの裏表紙に、大き目の付箋が張り付いていた。


『TO  Rui


 WITH LOVE


 FROM A.S 』


付箋には、筆記体でそう書いてあった。
「……とぅ、……るい……」
るい、って。
俺は視線を移動する。
梅さんはケースを俺に渡すと、とっとと自分の仕事に移って、大机に写真を並べている。
「……るい、塁……」
梅さんじゃん。
「んじゃあ、……エー・エス……って」
―――ちょっとまてよ。
QueenのCD、というキーワードで、俺の周りで思い浮かぶのはたった一人。
「司馬……司馬って、……」
司馬のヤツ、そういやよくQueen聞いてたよな。っつか、Queen聴くのはあいつくらいなモンで。
「司馬……葵……A.S……」


……あ。

なんだ、司馬じゃんかアイツ何カッコつけて英語で書いて……って、そうじゃねえぇぇぇっ!!(絶叫)
「うぃずらぶ……うぃずらぶ!?」
訳して”司馬葵より愛を込めて”だと!?
「……ちょ、ちょっと待てよ……」
俺は突然の出来事に脳味噌フル回転で記憶を辿った。
あの宇宙人が梅さんによもや愛を込めてだと!? アイツにそんな素振りあったかぁ!?
待て待て待て待て待て待て待て待て……落ち着け、落ち着け、ヒッヒッフー……。


「あった……ような……」
あれは昨日だ。梅さんと俺が野球部の取材に行ったとき、司馬が梅さんにジュースを出してくれてたっけ。
俺にはなしかよ! ッて突っ込みいれてみんなと笑ったっけ。俺にはあとで辰羅川がくれたんだけど。
……俺にくれなかったのはネタじゃなかったのかよ。
「そういや一昨日もだ……」
帰りがけに雨降ってきて、小降りになるの待ってた俺と梅さんに、置き傘持ってきてくれたのも司馬だっけ。
「先週も……じゃね?」
梅さんがグランドに忘れたサングラス、司馬とスバガキがわざわざ部室まで持ってきてくれたっけ。スバガキ、  『これ見つけたの司馬君なんだ』って言ってたっけ。



つまり、だ。これは。すなわち。その。


「バカ松、何ひとりごと言ってるんですの? CDの持ち主は見つかりましたの?(呆)」
「あ、いや……探します、はい」
「早く探してくださいな(命令)」
「……はい」

その場を取りつくろって、俺はCD抱えて部室を出た。


……ライバル出現?


つーか、さ。
相手はあのオトコマエの司馬だろ?
まともに戦って、勝ち目は……あるのか?




76:『臆病者の卒業式』(鹿→鳥)


三月、卒業式。
春と呼ぶにはまだ肌寒い日だった。
「鹿目先輩、ご卒業おめでとうございます」
卒業式の後、わざわざ教室にまでやってきた鳥居は、少し泣き腫らした目だった。
カラーの花束を差し出しながら、祝いの言葉をくれた。
「別に気を使わなくてもいいのに……ありがとうなのだ、鳥居」
鳥居は涙脆いのだ。いや、それを差し置いたって。卒業生より在校生が泣いてどうするのだ。
受け取った花束は軽くて美しかった。
「鹿目先輩、卒業してもまた野球部を見に来てくださいますよね?」
「当たり前なのだ。お前達だけでは色々と心配なのだ」
僕の照れ隠しの少しきつい言葉にも、鳥居はいつものように微笑んでくれる。



この想いを伝えようか。どうしようか。
戸惑う自分に気付かされる。本当はとても臆病者なのだと。
そうだ。僕はとても臆病者なのだ。


この想いを伝えようか、どうしようか。



「じゃあ、また後で……」
鳥居は一礼して、教室を去っていった。
きっと他の連中にも同じ花を渡して、同じ言葉を言うのだろう。


「待つのだ、鳥居!」
そう思ったら、いても他ってもいられなくなった。
僕は教室を飛び出して、鳥居の腕を掴んでいた。
「先輩……?」
驚いた顔の鳥居。きょとん、としている。
「鳥居、僕は……―――!」



僕は。

鳥居のことを。

ずっと。ずっと。




伝えられないまま終わるのもまた青春ならば。
伝えて砕けて終わるのもまた青春なのだ。
「鳥居のことが、好きなのだ……」






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頑張れ青春。


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