喘ぐ身体、揺れる心(猿凪前提・御柳×凪)
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「……あんた本気で本気?」
おどけたように御柳は言うと、紫色のバブリシャスを一つ、口に入れた。
御柳の目の前には、散らかったカーペットの上で正座した凪が、俯いてぎゅっと唇をかみ締めていた。
「………」
「ま、何でもいいけどよ……」
凪の、ふわっとしたスカートから出た細く程よく肉のついた脚や、カットソーを押し上げる胸元のふくらみに目をやると、
御柳は凪の前にしゃがみ込んだ。
「猿野には内緒にしといてやんよ、……勿論」
器用にガム風船を膨らませながら、御柳は目を細めた。
御柳の携帯に、凪から電話があったのは一昨日の深夜だった。
御柳と凪の面識は、ないわけではないが、電話を掛けてくるほどのものではなかった。
華武高校と十二支高校の練習試合の時、それと都道府県対抗選抜の際、埼玉選抜チームが宿泊しているホテルに、
凪が猿野を訪ねてきたときに少しだけ会話を交わした……本当にそれ位だ。
だから御柳は凪からの電話に正直、驚いた。
『何で俺の携帯番号知ってんだよ』
『あの、……猿野さんの携帯を……』
選抜終了の折、他校の選手達と携帯の番号やメールアドレスを交換した。勿論、猿野とも、だ。
しかし凪には教えていないはずだった。
凪は猿野がいない隙に猿野の携帯を覗き見て、御柳の番号を知ったのだという。
悪いとは分かっているんですが、と凪は付け加え、そして。
『……私、御柳さんとお会いしたいんです……』
震えるような声で、凪は言った。
そして御柳は今日、練習を休んで凪と会った。
明日、屑桐や朱牡丹らに小言を言われることは承知の上だった。放課後、御柳と凪は駅で落ち合った。
駅のトイレででも着替えてきたのか、凪は既に私服姿だった。電車に乗り、3駅。それからバスで10分余り。
今、散らかりっぱなしの御柳の部屋に、凪と二人でいる。御柳の家族は出かけていていない。
「んでさ、猿野とはうまくいってねー訳?」
選抜の後、凪と付き合い始めたんだと猿野からメールが届いた。
お幸せにな、せいぜい逃げられるんじゃねえぞと御柳は冷やかしの返信をした。
「……そういう訳ではないんですが……」
消えそうな声だった。
「んじゃあどういう訳?」
「………」
「言わねぇと分かんねぇし」
分かっていた。本当は。
けれど、それをあえて御柳は言わない。寧ろ、凪に言わせたかった。
「……猿野さんと、」
「ん?」
凪が重い口を開いた。
「少し前に、その……初めて、セ……セックスを、したんです……」
「へぇ〜〜〜」
わざとらしくおどろいた声を上げた。勿論、そのことも猿野がメールで寄越して知っていた。
「それで?」
「……それから、デートのたびにセックスを……しているんです……猿野さんは全然乱暴じゃなくて……でも……」
「でも?」
凪の頬が、みるみる赤らんでいく。
「………猿野さんとのセックス、……少し物足りないって言うか……」
―――やっぱりな。
御柳の予想は的中した。
「そら物足りねーだろ……アイツ童貞だっただろ? 猿野が悪くないってわけじゃねえけど、
アンタもちょっと猿野に期待しすぎだったんじゃねえの?」
「それは、……あると思います……はい」
初めてのセックスは緊張のせいかうまくいかなかった、三回目でやっと成功した、という猿野からのメールを御柳は覚えていた。
下手糞、とそのメールを読んで笑ったのも覚えている。
「そいで俺なわけ?」
御柳の問いかけに、凪は小さく頷いた。
「満足してみたいんだ」
再び、頷く。
「……言っとくけど俺、アンタが思うよりも優しくないぜ?」
「構いません……」
膝に置いた凪の手が、スカートの生地をぎゅっと握っている。
その手に、御柳は自分の手を重ねた。
「床は嫌だろ? ベッド、行くか? 散らかってっけど……」
顎で、部屋の隅にあるベッドを示す。雑誌とスナック菓子の開き袋で、今座っているカーペットの上よりも
もっと散らかっていた。
「……はい」
凪は答えると、ようやく顔を上げた。
軋む安物のパイプベッドの上、凪は恥ずかしそうに御柳に背中を向けて、女の子座りをした。
その仕草に、可愛いな、と柄にもなく御柳は思った。可愛い仕草をするような女とは、普段余り縁が無いのだ。
後ろから軽く抱きしめ、小さな肩口に顔を埋める。
「いい匂い」
「……お風呂、入ってきたんです」
「学校で?」
「はい……クラブハウスのシャワー、……使っちゃいけないんですけれど、勝手に使っちゃいました」
「どーりで、」
ボディソープの匂いが御柳の鼻先をくすぐった。
「気ぃつかわねぇでもいいんだぜ、別に青カンとか慣れてるし」
御柳の手が、凪のカットソーの裾からもぐりこむ。
「あ、」凪の身体が小さく跳ねる。
「じっとしてろ」
器用な御柳の手が、カットソーの中で動き回り、フロントホックを容易く外した。
ぷつん、とはじけるような音を立て、レースの布は覆っていた二つの膨らみから離れた。
「……結構いい胸してんじゃん」
「ぁあ……!」
包みこむように、御柳の両手が凪の胸を揉みしだいた。
親指の腹と人差し指が、期待に早くも固くなっている乳頭を捕らえる。コリコリと摘み、転がす。
「ふあぁっ……」
凪が身を捩り、喘ぎ声とはまだいい難い声を上げる。
同時に掌でやわらかな膨らみを捏ね、冷たい耳朶を軽く齧り、聴覚の奥へと舌をもぐりこませる。
「ん、うぅ、あ、……や、ッ」
聴覚を侵され、平衡感覚がおかしくなった凪は、身体を支えきれなくなり、御柳に体重をかける。
「くすぐったがってるだけじゃねーか、もっといい声だせよ、……ホラ」
御柳はカットソーを捲り上げ、明るい室内に凪の白い胸を、肌を晒す。
外されたピンクのレース生地のブラが、だらしなく脇の辺りに下がっていた。
「ふぅん、綺麗な色じゃねえかよ、まだあんまヤってねえんだな」
「ぁあ……」
尖った乳頭は、薄い色をしていて、経験の少なさを物語っていた。
凪は晒された自分の胸を見た。
自分はなんて格好をしているのだろう、と思うと、下半身が疼いてくるのが分かった。
御柳の手が、凪の右手を取った。
「自分でして見ろよ」
ホラ、と、凪の右手を、右の胸に宛がった。
「自分で自分の気持ちいいとこわかんねーと、男とやったってよくなりゃしねえよ」
「自分で……?」
「そ、今俺がしたみてーに、やってみ?」
見ててやっから、と御柳は言うと、自分の手を離した。
凪の手は、おずおずとぎこちなく……動き始めた。
自分でするそれは、予想できる動きであるだけ他人がするそれよりも快感は吸収されて弱くはなる。
けれど何もしないよりは勿論、したほうが快感を感じる。
「ん、ぅ」
御柳がしたように、親指と人差し指で、固くしこった乳頭を摘む。ゆっくりとそれを、二本の指の腹で、転がす。
「―――あ、あ……」
「そう……その調子。左手は?」
促され、左手も同じようにする。
「野郎に見られてオナニーって、すんげーやらしい格好だよなぁ」
御柳がくすくすと笑う。
オナニー、という言葉に、凪はドキッとする。
そうだ、これはオナニーなのだ、それも……人に見られてしている。男の人に、見られている。
そう思うと、凪の手には知らずのうちに力が篭った。
「ん、ああ……ん」
そのせいだろうか、色気の無かった声も、やっとそれらしい声になってきた。
「そうそ、……いい声出してんじゃん。やりゃあ出来るじゃねえか」
御柳は、自分で自分の胸を慰める凪を見つめていた。
自慰の経験など殆ど無いのだろう、胸を慰める手つきもぎこちない。
「んじゃあ、次こっちな」
というと、御柳はふわふわとした生地の薄いスカートに手をかけた。
「あ―――……」
特に抵抗は無かった。捲り上げられたスカートの下には、ブラとセットのピンクのショーツ。
むちっとした、白い太腿が現れた。
「ふーん、結構ノーマルなの穿いてんだな。もっと派手なヤツ穿いたら?」
御柳は左手でスカートを捲り上げたまま、右手でショーツの上から割れ目をなぞった。
「あ、―――や、っ……!」
「おーおー、もう濡らしてやんの」
化繊越しに、じっとりと濡れているのがわかる。
「どれ、見せてみろよ」
身体を預ける凪をベッドに寝かせ、脚を開かせ、御柳は脚の間へと移動した。
「ぁ……ッ……」
嫌だとは言わないものの、恥ずかしさに凪は胸を慰めるのをやめ、両手で顔を覆った。
露になっている胸の先端を、御柳が口に含む。
「う、……ふぅ、」
含んだ乳首を舌で転がしながら、もう片方の乳房を手で捏ねる。
「アンタ、感度いいんじゃねえの?」
御柳は笑いながら言うと、身体をゆっくりと下へ移動させ、凪の秘部にショーツの上から舌を這わせた。
「ん、ふあ、あああっ……」
遠まわしな、しかしじわじわと迫る快感に、凪が軽く仰け反った。
舐めるというよりも這うようだ。御柳の舌先が、凪の縦筋をなぞっていく。
甘さを含んだ酸性の匂いが御柳の嗅覚を刺激する。ショーツの向こう側からそれは滲み出していた。
「ぁ、あッ……は、……ぅ」
顔を隠したまま、凪は喘いだ。
「やらしー匂い」
「や、っ」
最初の色気のかけらもない声とは全く違っていて、いい反応だ、と御柳は思った。
指先でショーツの脇を寄せると、髪と同じ色の薄いアンダーヘアーに護られた、まだそれほど使い込まれていない
凪の性器が露になる。
「―――ぅ……あ……」
「ふぅん、……遊んでねぇ色だな」
呼吸をするように、白濁した愛液を吐き出す陰唇と、固く尖り存在を主張する秘豆。
入れたい気持ちはあるが、流石にそれは猿野に悪い。
凪がそれを望んでも、だ……それはいけない、と御柳は思っている。
「な、……鳥居さん」
「はい、」
「俺、ここ舐めたいんだけど……アンタさ、俺のも舐めてくれねーかな?」
散らかった室内に、ピチャピチャ、水音が響く。
二つの水音だった。
ベッドに仰向けになった御柳の上に、凪が反対に跨っている。
互いに、身に纏っていたものは全てベッドの下に落とし、何も隠すものは無かった。
そして互いの性器を、愛撫しあっていた。
「ん、ぅ、……」
ぎこちないなりに、凪は懸命に御柳自身に奉仕した。
はっきりと比べたわけではないが、猿野の物よりは大きく、黒いように思えた。
御柳に言われたまま、亀頭を中心に舌を這わせ、竿の部分を懸命に手で包んで擦る。
「……ぁ、ん、」
御柳は、凪のクリトリス周辺を舌で刺激する。
愛液がぽとぽとと、膣口から零れて御柳の顔を汚した。
「ぁ……いい、ッ……!」
御柳のペニスを掴んだまま、凪は思わず口にした。
かつて感じたことのない快感の気持ちよさに、奉仕がおぼつかなくなっていく。
「いいだろ? けど、まちがっても噛まないでくれよ?」
「は、はい……ッ」
慣れた様子で、御柳は凪の秘裂に舌を這わせる。
大きく弧を描いたり、ちろちろと蛇の舌の様に小刻みに動かしたり、様々にそこを刺激した。
凪はフェラチオをするのは初めてだという。
猿野が、汚いものを凪さんの口に入れるわけには、と凪にさせてくれないのだと言う。
猿野はクンニをするが、狙いがピントを外しているのか、凪にはそれほど気持ちよくはないらしい。
「これ、シックスナインっていうんだぜ、名前くらい知ってるだろ」
「……はい、……ん、っ」
白くいい形をした凪の尻に、汗がにじみ出ている。
「聞くまでもねーけど、……鳥居さんイったことってある?」
「あっ、ありません……そんなの、ないです……」
「んーじゃぁ、今イってみる?」
「い、今……ですか、ア、あ・あ・ああああ……!!」
途端に、凪の全身を電流にも似た快感が走った。
逃れようにも、足の付け根を御柳の手に抑えられていて、逃げられなかった。
御柳の舌の動きが急に早くなる。
「あ、ぁあ……そんな……ッ……!」
しびれる様な快感だった。
焦らすような動きをしていた御柳の舌が、狙いを定めたのだ。
「いやぁ……ダメ、ダメぇ……ッ!」
「ダメじゃねえよ、」
凪の膣口は、刺激を受けて白濁した愛液を漏らしたかのように吐き出す。
「いや、……も、あ……ひ、ッん……」
嫌と言われても、御柳の舌の動きは止まらなかった。
舌で舐め、口で吸い、転がし、凪を頂きへと導いていく。
「あ……ぁ、ああ……私……おかしく、な、……るぅ……ッ……」
凪の腰が、びくんと跳ねた。
「……ア、ああああ……―――!!!!!」
御柳のペニスを握り締めたまま、凪は……果てた。
「だってまだ、御柳さん満足してらっしゃらないし……」
「いーから、俺のことはいいっつーの」
裸の凪に服を持たせ、御柳は凪をバスルームへと押しやろうとしていた。
バスルームの入り口で、御柳と凪は軽く揉めていた。
「でも、」
「いいんだっつの」
凪は最後まで……オーガズムに達して満足したが、御柳はというと、
凪に愛撫するばかりで、結局射精には至っていなかった。
それでも、コトは終わったのだからと凪にシャワーを浴びて帰れと言う。
「俺はアンタにしてもらわなくっても、してくれる女が一杯いるからいいんだよ」
「……でも、私ばっかりで……」
「しつけーよ、いい加減っ」
「……は、はい……すみません」
しつこい、と言われ、凪はやっとのことで諦めた。
「シャワー浴びたら、駅まで送ってくから……暗くならねーうちに帰ったほうがいいぜ、猿野も心配するし」
「わかりました……」
凪はバスルームに入り、扉を閉めた。
少ししてシャワーの水音がし、御柳はやれやれ、と扉の前で溜息をついて頭を掻いた。
「そこまでさせちまったら、猿野にあわせる顔がねえだろーが……」
既に無いような気もする。
来月、埼玉選抜のチームメイトで、カラオケに行かないかという話が持ち上がっているのだ。
3年生の進路が全員決定したそのお祝いということで、白雪が提案しているのだが、
……そのときに猿野も当然来るであろうし、自分も行かないわけにはいかない。
猿野の顔をまともに顔を見られる自信は、既に御柳には無かった。
軽い気持ちで安請け合いをしてしまった、と後悔しながらも、これも何かの縁のついでだと自分に言い聞かせた。
終わってみれば、猿野に対する申し訳の無い気持ちと、凪をもっと知りたいと言う気持ちが拮抗していた。
勢いでひとまず終わりはしたものの、今日の事実は永遠に消えない。
「猿野には借りがねえわけじゃねーしなぁ」
借りがあるどころか、顔をあわせにくくさえなってしまった。
「ったく、もうちょっとうまくやれよなぁ猿野……テメーの撒いた種だろうが……」
友情と欲望。
果たしてどちらを取るべきか。御柳の心は揺れ動いていた。
「……俺、ダチと揉めんのはもうこりごりなんだけどなぁ……」
御柳が呟いたのと殆ど同時に、扉の向こうで水音が止まった。
出てきた凪を、どんな顔で迎えればいいのか。御柳は迷っていた。
(END)
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