恋占い(サンジ×ナミ)
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月に一度、郵便で雑誌を取り寄せている。
私だって年頃の女の子だもの。
最新ファッションやお洒落なお店、話題の映画には勿論興味がある。
……尤も、海の上の生活で、行けるお店も見られる映画も限られてはいるけれど。
今月号は朝一番に、新聞と一緒に届いた。
新しい映画と、流行の音楽が巻頭特集。
朝食の後、女部屋に篭ってベッドの上に寝転がって(ちょっとお行儀悪いんだけどね)、
せわしくページを繰っていく。
話題の映画は恋愛モノ。あ、この俳優好きなのよね私。これは今度上陸する島で見ることにして……。
贔屓のバンドの新譜は、余りパッとしなかったみたい。これは中古で買うことにしよう。
ん、この洋服可愛い。でもブラウス一枚3万ベリーは一寸高いわよね……。
ああでもない、こうでもないと独り言をぶつぶつ言いながら、次々と読み進めていく。
そうして辿り着いたのは恋占いのページ。
この占い師、よく当たるって評判なのよね。
「えっと、……7月生まれの女の子……相手は、1月、2月、……3月……」
占うのは、勿論私とサンジ君のこと。
別にサンジ君を信用できてないとか、今の恋愛に不安があるだなんてわけじゃないの。
ただ、こういう雑誌にこういうのが載ってて、その上よく当たるんだって言われれば、誰だって自分と相手を
占ってみたくなるもんじゃない?
いいことが書いてあれば信じればいいし。
悪いことならスルーか、……我が身を振り返ってちょっと気をつけてみるか。
占いなんて、私にとってはそのくらいの軽いエッセンス。
何何。
あなたの何気ない一言が、彼を傷つけることになるかも。
しかし、『雨降って地固まる』となるでしょう。
ラッキーアイテムは、ブルーのインナー。
「……ふぅん……」
雨降って地固まる?? 喧嘩でもするっていうの?? ブルー……ブルーって一言に言っても意味は広いのよね。
ブルーのインナー? キャミならあったかしらと、クロゼットの中を覗こうとベッドから降りたとき。
「ナミさん、お茶如何?」
跳ね板が開き、トレイを持ったサンジ君が顔を覗かせた。
「あら、有難う。頂くわ」
どうぞ、と言うと、サンジ君はトレイを落とさないように気をつけながら、ゆっくりと階段を下りてきた。
「本読んでたの?」
テーブルにティーセットを置いたサンジ君が、ベッドをちらりと見て言った。
「そうよ、ホラ、毎月取ってる奴……気分転換も必要でしょ?」
「確かに……ん、どんなの? ちょっと見せて」
サンジ君はベッドに腰掛けて、私が見ていた雑誌を覗き込む。
「……ナミさん、占いなんて信じてるの?」
「え?」
あ、そうだ。そのページ開いたままだったんだわ。
サンジ君たらちゃっかりカップ二つ持ってきてるんだから……。
ブルー探しを後にして、私は二つのカップに甘い匂いのするお茶をゆっくりと注いでいく。
「別に信じてるわけじゃないけど、結構当たるらしいのよ、その占い師。今月の私とサンジ君ね、何か私の何気ない一言が……」
「下らない」
「え?」
サンジ君が、私の言葉を遮った。
「恋占いなんて、すっげえ下らない……!!」
吐き捨てるように言って、開いていた雑誌を乱暴にバサッと閉じてしまった。
「ナミさん、信じてないんなら読まないでよ」
そういって私を見たサンジ君の顔……やだ、何か……怒ってる? もしかして……。
「サンジ君……?」
「世の中に3月生まれの野郎と、7月生まれのレディーが一体何万組いると思う? こんな風に十把一絡げにできるわけねえだろ?」
サンジ君の態度は明らかに不機嫌そうで、私思わず……。
「ご、ごめんなさい……」
――――謝っちゃった……。ああ、声上ずってる……。
「あ、……べ、別に、怒ってるわけじゃないんだけど、俺」
私が謝った途端、サンジ君たら急に慌てだしちゃって。
「ごめん、ナミさんに怒ってるんじゃないんだよ、ただちょっとカチンと来ただけ……」
慌てて私のそばに来て、あたふたして。
「……それって、私に?」
上目遣いで、恐る恐る尋ねてみる。
「じゃなくて、占い師!! そう、こんな占いをする、占い師に!!」
あくまでも占い師だと、強調したりなんかして。
「……本当に? サンジ君」
「ん、誓って本当」
サンジ君は左胸に手を当てて頭を下げた。
「わかったわ、じゃぁもう恋占いのページは読まない……これでいい?」
「……本当に読まない?」
「ええ、本当。だってサンジ君の言う通りだし」
言われてみればそうよね。この広い世の中に、3月生まれの男と7月生まれの女が一体何万組いることやら。
私とサンジ君を他の皆と十把一絡げになんか、できっこないもの。
「……約束。恋占いのページは、もう読みません」
ちゅ、とサンジ君の頬にキスをした。
ん?
"あなたの何気ない一言が、彼を傷つけることになるかも。
しかし、『雨降って地固まる』となるでしょう。"
やだ……当たってる……?
ううん、きっと偶然よ……。
その後、エッチの時。
スラックスを脱いだサンジ君を見て、私思わず噴出しちゃった。
「どうしたの? ナミさん」
「ううん、なんでもない……」
だって、サンジ君のトランクス。ブルー!! ブルーだったんだもの!!
"ラッキーアイテムは、ブルーのインナー。"
「なんでもないの、ちょっと思い出しただけ」
「ふぅん?」
私は何でもないを繰り返しながら、クエスチョンマーク顔に貼り付けたサンジ君に抱きついた。
ねえ、サンジ君。
あの占い、しっかり当たってるみたいだけど……??
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