告白(Mr.1×DF)
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毎週水曜日は、スパイダース・カフェの定休日。
本当ならば今日も水曜だから、お店は休みなのだけれども。
一寸した事情で開けている。
店を開ければ不思議と誰かは来るもの。
Mr.2が任務の帰りに立ち寄ってくれた。
この店の数多い常連客の中でも、一番にぎやかで面白い人。
「今度の任務はどうだったの? Mr.2?」
「それがねぇ〜〜ん、もぉ聞いてよポーラッ!! ゼロちゃんたらこのあちしに、
パシリよっ、パ・シ・リ! チョー心外だわッ!!」
Mr.2はカウンターを叩きながら、好物のタコパを口いっぱいに頬張って、
張り切って出かけたのに大した任務でなかったことの愚痴を零す。
「まっ、小さな仕事の積み重ねが大事だって思うことにするわん……それにしてもポーラ、
今日は定休日なのにな〜〜〜〜んだってお店開けてるわけぇー?」
「えっ……? ああ、ちょっと……特に用も無いから、開けていれば誰か来るかしらと思って……」
「そーお、働きすぎは身体に毒よぉん、休みの日にはゆっくり休養しないとねん?」
「そうね、……今度からそうするわ」
「その上辛気臭い曲なんか掛けてぇ〜〜ん、駄目よぉ、ポーラ!」
……辛気臭い?
今日のBGMは、あの人の好きな、古いブルース。
明るく楽しいことが大好きなMr.2には、この憂歌は辛気臭く聞こえるのかもしれない。
あの人の好きなお茶も、いつでも出せるようにちゃんとセッティング済み。
リトグラフも、あの人が一番気に入ってたものに替えて……。
今日の全ては、十日前のあの人への返事。
明確な言葉は無かったけれど、あれは立派な告白だった。
"……ポーラ"
柄にも無く改まって、俯いて……閉店後の店の前だった。
"大切な、話があるんだ"
"……Mr.1? ……どうしたの?"
"Mr.ではなく、ダズ・ボーネスとして……だ。ポーラ"
"……えっ?"
彼がこんな風に改まることなんて今まで無かった。
その上、仕事上のパートナーとしてのMr.1としてでなく、ダズ・ボーネスとしてだなんて。
"……十日後の定休日、店を開けて、待っていてくれ"
彼はただ、それだけ告げて去っていった。
……大事な話の見当くらいは付いた。
女の勘? ……いいえ、違うわ。
私も、同じ気持ちだったんだもの。
張り詰めた糸の、両側を二人でずっとずっと、引っ張り合っていたんだもの。
長い間……ずっと。
分かるわ……だって私は、待っていたんだもの。
あの人が去った後、店の前にぼんやりと立っていた私。
トクン、トクンと、心臓が早くなるのが分かった。
少女のように頬が赤くなった。胸が熱くなった。
「ボーネス…」
口にしたその名。声は、震えていた。
だから今日はこんな風に、あの人好みに店の中をしつらえて、あの人を待っているの。
Mr.2の帰った後、食器を片付けていると、不意に店の扉が開いた。
「……あら、来たようね……」
「ポーラ……」
「自分で言い出した割には、来るのが遅いんじゃない?」
「悪い、ポーラ」
照れたような彼の両手には、溢れんばかりのバラの花。トゲのある、美しく赤い花。
この砂漠の近辺で、これだけのバラの花を手に入れるのは、どれほど大変だったことだろう。
「これを探していて、遅くなった」
彼はそれをカウンターに置いた。大ぶりの赤い花。少し開きすぎたその花は、……私達そのものだった。
「綺麗なバラね……」
「この辺りの街の花屋のバラをみんな買い占めた」
……こんな強面の賞金稼ぎが、花屋でバラの花を求めて歩き回ったなんて。
何て似合わないのかしら。……おかしくて、でも、心から嬉しくて……。
「お前のような花だと思ってな」
赤い、トゲのあるバラ。―――そうね、確かに私の花。
「ありがとう、ダズ・ボーネス……」
カウンター越しに背伸びをして、………彼の頬に、キスをした。
「ポッ、ポーラ!」
彼は驚いて真っ赤になって、思わず飛びのいた。
「……あなたの話の見当くらいは付いてるわ、ボーネス」
「ポーラ……」
「だって私も、ずっと同じ気持ちだったんだもの……」
そして、私たちの遅咲きの恋は始まった。
あのバラのように、開ききってしまった私たちではあるけれど。
砂漠の果てにある、小さなカフェの女主人と、常連客の賞金稼ぎの恋。
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