おわり(ワイパー←ブラ子)


"シャンドラの火を灯せ"
その言葉を合言葉に、あたしたちシャンディアは400年の長きにわたって戦いを続けてきた。
アッパーヤードを取り戻すために。黄金の鐘を、再び鳴らすために。
そしてそれはほんの一月……青海から来た海賊たちのおかげで、ようやく終止符が打たれた。



「ワイパー、見っけ」
隠れ里のはずれにある、島雲の隙間から下の海がほんの少しだけ垣間見える場所にあたしは行った。
まだ寝ていなくてはいけないワイパーがいなくなったと、ラキが大騒ぎしていたから探しに来たんだ。
案の定、ワイパーはそこにいた。延々と広がる島雲の中、包帯だらけの体で座り込んでいた。
だってここはワイパーのお気に入りの場所だから。
ううん、ワイパーだけじゃない。カマキリも、ゲンボウも…あたし達幼馴染皆のお気に入りの場所だった。
「……ブラハムか」
あたしはワイパーの隣に座った。
この辺りは天気の加減で青海が時折見え、ノックアップストリームによって青海のものが打ち上げられたりする。
それゆえ島雲が薄いし、ノックアップストリームに巻き込まれたら危ない、と村の大人達は子供達に此処へ近づくことを禁じていた。
「まだ寝てないと駄目だろ、ラキが心配してたよ? 傷は癒えてないんだから」
「……じっと寝てるのは性分に合わねえんだ。こんなモン、寝てるほどじゃねえだろう」
キツイ葉タバコを吹かしながら、ワイパーはぼおっと遠くを眺めている。
どこまでも、どこまでも広がる島雲と、その隙間から垣間見える下の海。
大人たちの禁止はどれほどの効果もなく、あたしたちは大人達の目を盗み、よくここで遊んでいた。
それが見つかって、酋長に大目玉を喰らったっけ。
それでも懲りずにここに来て、青海のモノを拾って宝物にしたりしたっけ。
あたしがあの光る銃を拾ったのは十の時だったっけ……。
「……なんか、戦わなくてもいいと思うと、気は楽だけど……間が抜けたような気持ちになっちゃうね」
「そうだな……戦いを終えるために戦っていたというのに、因果なものだ」
「だって戦いしか教えられなかったじゃないか……あたしたちには」
「……確かに」
ワイパーは苦笑した。
もう、あの光る銃を持つこともない。ワイパーがバズーカを持つこともない。
誰とも殺しあうことはない。




戦いが終わってはや一月。
あたしの銃はすっかり埃を被り、弾丸を抜いたワイパーのバズーカは戸口の閂代わりになっている。
「お前も少しは女らしくしろ……スカイピアの女達に、それの編み方でも教わったらどうだ?」
ワイパーはあたしが被ってるニットの帽子を指差した。
小さい頃からずっと被ってたから、クタクタでボロボロになってた。
こんなものの編み方一つとてあたしは教えられず、見込みがあるからと戦士として育てられてきた。
「そうね、それもいいかもね……もう、戦士じゃないもんね」
「……ああ、……戦士はもう、終わりだ……」





あたしはワイパーの横顔を見た。
幼馴染の中の一人。
最初はそれだけだった。カマキリや、ゲンボウと同じだった。
それが、あたしの中で特別な存在になったのは、いつの頃なんだろう。
この横顔を見るたびに、胸がドキドキするようになったのは……いつの頃なんだろう。
ここで皆、仔犬みたいにじゃれあって遊んでいた頃から?
村を護る戦士となり、戦いの最前線に出るようになった頃から?
エネルが神を名乗り、戦火が一層激しさを増して命を捨てる覚悟をした頃から?





「戦士は終わり、か……そうね、そうだもんね……」
ねえ、ワイパー。
あんたにとって、あたしは……特別?
それとも、幼馴染の一人?
ねえ、……聞いてもいいかな……。
もう、戦士は終わりだもの。だから……。




「じゃあさ、ワイパー」





「……ブラハム?」
あたしはワイパーの肩口に、自分の頭をそっと預けた。
ワイパーはちょっとびっくりしてる。
がっしりとした逞しい体が、緊張で固くなってるのが分かる。



「……あたし達の、幼馴染ってのも……終わりにしない……?」





戦士のあたしは、もう終わり。
幼馴染も、もう……終わり。




その時、一陣の風が吹いた。
冷たい風だった。
ワイパーはその風からあたしを護るように、―――そっと。
そっと、あたしを抱き寄せた。




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