『闇に消える』






事後はいつも甘い。砂を吐くような台詞を口にして、私の頬を赤らめさせる。
それが当たり前だった。なのに今日は違った。
一通りのことが終わると、これが最後かもな、とエースは言った。
「黒ひげを見つけた。今度こそ、間違いなく本当だ……俺は、ヤツを倒す」
そのまなざしは彼自身のごとく燃えていた。


ああ、終わるんだわ。私達。
長い長い秘密の関係が、終焉を迎えるのだと私は悟った。



「だから、さよならだ……王女様」
恭しく私の前に跪き、エースは私の手を取り甲に口付けた。
「卑しい海賊はもう貴女の前には現れないだろう、きっと」
「エース、」
そばかすだらけのファニーフェイス。いつもお酒と海の匂い。
「これからはどうか、アラバスタの繁栄と隆盛のために御身を……」
人を食ったような笑み。癖の強い黒髪と、眠たそうな目。
「……エース……本当?」
震えるような声で、私は尋ねる。
「ああ」
エースははっきりと答えた。
「本当だ」



愛しい、この人の何もかもが愛しい。
なのにもう、会えなくなる。
「下手をすれば命はないかもしれないが……最悪でも相討ちに持ち込むさ」


いつも強気なエースがそんなことを口にするなんて。
……黒ひげという男は、どんなに強いというのだろうか。


「ビビ、さよなら」
エースは私の髪を撫で、頬に口付け背を向けた。
背中には彼の信念の証。逞しい逞しい身体。
「どうかお幸せに、アラバスタの王女様」
背中で別れを告げるなんて、かっこよすぎやしない? エース……。
泣かない。泣きたいけれど、私は泣かない。
「あなたの武運を……アラバスタの神々に祈ります」



あなたが卑しい海賊として私の前を去るのなら。
私は高貴な王女としてあなたを送りましょう。


エースは歩き出した。闇に、消えていった。
それはまるで、何かを暗示しているようだった。


(END)






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