砂漠に咲く花
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灼熱の太陽。不毛の大地。
地形は風一つで自在に変わり、一時も同じ姿をとどめることはない。
昼は氷と水が宝物。夜は毛布と炎が宝物。見渡す限りの砂の国。
「この花はね、砂漠にしか咲かないの」
しゃがみ込んだ俺とビビとの間には、桃色の美しい花が咲いていた。
砂の大地に、儚げな美しい花。
なんて不思議な光景なんだろう。
「―――砂漠にしか咲かない?」
「そう、アラバスタにしか咲かない、砂漠の花っていうの……不思議よね、こんな砂に立派に根を張るのよ。
そして砂の中の僅かな水分を吸収して咲くのよ」
「けれど、この花は、砂漠でしか生きられないの」
「………」
「珍しいから持ち帰ろうとする旅人がよくいるのだけれど、……ほら」
ビビの手が、美しい花の茎を持つ。少し力を込めて、花を砂から引き抜く。
僅かな抵抗で砂から引き抜かれた花は、細い根の部分からみるみる萎れ、あっという間に枯れてしまった。
「砂漠に根を張って生きている花だから、砂から離れるとこうなってしまうの」
枯れ草と化した花を、ビビは放り上げた。
ざあ、っと砂風が吹き、どこかへ流れていってしまった。
「ビビ……」
「私も同じよ、エースさん」
ビビは俯いた。
「私はあの花と同じ。砂漠の花よ。砂の国からは離れられない」
「………」
「私はこの国を、離れられないの……だから、あなたとは一緒に行けない」
それが彼女の答えだった。
俺の、「この国を出よう。一緒に海で暮らそう」という誘いへの。
砂漠に咲く花は、砂漠を離れては生きていけない。
透き通るような花弁をもったあの花は、ビビそのものだった。
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