「ヒミツノハナゾノ」
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ヒナさんは時折、出張と称して私のいるロークダウンへやってくる。
称して、というのは、それが目的ではなくあくまでも名目だから。
近頃海賊による事件が相次ぎ、海軍による不祥事も頻発している。だからグランドラインで重要な位置にあるヒナさんの駐屯地と、グランドラインへの入り口に当たるロークダウンと、連絡は常に密にしておかなくてはいけないのだと、尤もらしい理由をつけ、ヒナさんは足繁くやってくる。
それは確かに事実で、綱紀粛正は海軍内でも喧しいほど言われている。ヒナさんは毎回の如く分厚い資料を持参して、スモーカーさん達と会議や討論を重ねているのだけれど。
ヒナさんの本当の目的は、……目的は。
私、なのだから。
夜、ヒナさんは必ず私を定宿にしているホテルに呼ぶ。
ロークダウンで一番上等のホテルの、一番眺めの良い部屋。
そこで行われる、女同士の禁じられた秘め事。
大きなロココ調のソファに二人で腰掛け、ルームサービスで取ったシャンパンを口移しされる。
「暫く逢わなかったけれど、たしぎ、相変わらず可愛いわ。ヒナ感激」
口の中で細かく発泡するシャンパンを飲み下した私を、ヒナさんが褒めてくれた。
その言葉が嬉しくて、頬が赤くなるのが自分でも分かる。
鼓動は次第にゆっくりと、けれど確実に早まっていく。
「スモーカー君は気難しくて苦労が耐えないでしょう? 彼、幾つになってもああなのよ……ヒナ同情、ヒナ同情よ」
綺麗な細い手が、私の髪を優しく撫でる。メンソールの煙草の匂いがする。ヒナさんの、匂い。
「わたくしのいない間、寂しかったでしょう?」
「……はい、」
私は頷いた。寂しかった、の意味に込められているのは、この後に続く秘め事のこと……。
「……一人で慰めていたのかしら?」
「……はい、慰めていました」
素直に申告すると、ヒナさんはそう、と哀れみの声で頷いた。
「たしぎは淫乱だもの、我慢が出来ないのも仕方ないわ?」
淫乱、という言葉に、私の身体の奥で意図せずとも熱がじんわりと沸き起こる……。
「……ね、たしぎ?」
「はい、」
ヒナさんが私を抱き寄せ、私のGジャンの胸元に皮手袋を穿いた手を差し入れる。
「あ、っ」
服の上から胸の突起を……ヒナさんと逢う時、ブラは着けてはいけないと言われているから、着けてはいなかった……きゅ、と摘まれて、跳ねるような声が出た。
「どこで慰めていたの?……宿舎?」
「はい、……宿舎で、」
「いつ? 夜、寝る前かしら?」
「朝と、夜と……」
素直に申告した。そうすることで、この後行われる秘め事が、より淫らで、より悦楽に満ちたものになるようにと、密かな期待を込めて……。
「あら、二回も?……毎日?」
「はい、」
「……ベッドの中?」
「はい、……それとシャワールームでも、……それに、すみません、……派出所でも、あの…」
派出所という言葉に、ヒナさんが眉をひそめる。
「……派出所? 仕事中に?」
「……申し訳ありません…でも私、寂しくて、我慢できなくて…っあ・っ!」
突起を摘む指に、力を込める。
「悪い子ね、……たしぎ、とっても悪い子だわ……派出所では、何処で?」
「ロッカールームと、トイレと……」
ヒナさんの指が、胸の突起を離れ、シャツのボタンを外しにかかる。
ぷつ、ぷつ、と弾ける様な音を立て、ヒナさんの腕の中。私の白い肌が露になっていく……。
「それと、……巡回中、」
「巡回中?」
「街を、……巡回中に、……路地裏で、ッ、……ぁ、」
ヒナさんが私の胸の突起に吸い付いた。今度は、服越しではなく直に―――。
「……いやらしい子、いけない子だわ……たしぎ?」
ヒナさんは紅い舌で、私の硬く尖った胸の突起を転がして……。
「あぁっ、……ごめんなさい、ヒナさん……許してっ……」
じわじわと沸き起こる被虐心に快感が増していく。
「誰かが見ていたらどうするの?……見られたくてしていたの? 」
胸を攻めながら、同時にヒナさんは私を組み敷いていく。
ロココ調のソファに仰向けにされる。ヒナさんが私のその上にいて…、長い髪が頬に、胸に触れる。
「いいえ、違います…ッ」
「じゃあどうして?……大人なら我慢も時にはなさい? そうでしょう?」
「はい、…ぅあ、ん、ッ」
ジーンズ越しに恥部を指で擦られ、背中を軽く電気が走り、腰が反射的に跳ねる。
「路地裏って、どんな風に?」
「廃屋になった工場があって、そこの非常階段で……ヒナさんを思って、私……服を全部脱いで……!」
真実の告白に、心臓がどきどきする。
背徳感。被虐心。そして湧き上がる快感と熱。
「本当に、いけない子。……次に逢う時まで慰めなくてもいい位、可愛がってあげるわ?」
「……はい、」
頬にちゅ、と軽く口付けられた。
ああ、ヒナさんは今夜も私を沢山可愛がってくれる。
湧き上がる歓喜とこれから得られるであろう快感への予感に、思わず頬が緩んでしまう。
ヒナさんのことは、海兵としてだけでなく、女性としてずっと憧れていたし、目標にしていた存在だった。
だから、初めて誘われた夜は、躊躇いや背徳感もあったけれど、純粋に嬉しかった。
いけないことだなんて、十分分かっている。
同性同士のこんな行為。
けれど―――やめられない。
ヒナさんが、好きだから……。
ソファの上、お互いに何もかもを脱ぎ捨ててしまう。
綺麗なシャンデリアが遥か頭上でキラキラと輝いて、その上品な明かりはヒナさんの身体をよりいっそう美しく映えさせた。
大きな胸も、細いのに色気のあるウエストも、形の良いお尻も……うっとりするくらい、綺麗だった。
そしてその明かりは、メリハリの少ない私の身体も、それなりに見せてくれる。
「たしぎのおっぱい、小さくて可愛いわ」
ヒナさんが私の胸に再び紅い舌を這わせる。
「あ……ッ、や……」
慣れた舌で突起を転がしながら、手は脇腹を、ウエストを、下へ下へと伝っていき、私の太腿を撫でた後、脚を捕まえた。
そしてゆっくりと、私の脚を開いていった。
「……あら、こんなになって……」
「ひ、っ…」
ヒナさんの目の前に、私のいやらしいところが晒されている。
手で陰裂を開かれ、肉芽も花弁も膣口もなにもかも……。
ヒナさんによって開発された私のそこは、施された愛撫とこの後の期待に、自ら垂らした愛液でじっとりと濡れ、汚れていた。
「いけない子ね、こんなに汚して。……重症。ヒナが綺麗にしてあげる」
「あぁ、……ヒナさん…!」
ぴちゃぴちゃと、濡れた音をさせながら……ヒナさんが、私の肉芽を、花弁を、膣口を舐めていく……!
同時に指も使い、私の最も感じる部分を嬲っていく。
その快楽は、私が待ち望んだ感覚。
この感覚と共にヒナさんを想い、どれほど満たされぬ日々を過ごしたことか。
身体がびくんと跳ね上がり、無意識に脚を大きく広げ、腰を大きくくねらせ、より一層深く、深く刺激を欲しがってしまう……。
自分では、これは到底得られない感覚……器具とも全く違う、生身の人間の与える刺激。私の身体を全て知り尽くしたヒナさんだからこそと、抱かれるたびに思う。
ちろちろと軽く舌を這わせたかと思うと、時に尖らせた舌先で突付き、咥え、吸い上げ、指で捏ね、中をぐちゃぐちゃに掻き回し、ありったけの行為を施してくれて――――……。
「いやァ、もっと…もっとぉ……!、ヒナさん、ぁぁ…!」
ヒナさんの髪を掴み、頭を私のいやらしい所に押し付ける。
湧き上がる熱と快楽に、急激に脳が支配されていくのが自分で分かる。
「そこ、いいんです…ひぁぁッ……ん、ぁ……あああ・ッ、あーーー…ッ!!」
ヒナさんが与えてくれるこの快楽を追い求めたい。
最後まで、最後まで欲しい。
もっと、欲しい……もっと、欲しい。
もっと、もっと、……何も考えられなくなるくらい、もっと―――――……。
「あ・あぁぁ・ッ、イク……ヒナさん、……ヒナさん…ッ……イク・イクぅ……ーーっ…!!」
どれほど淫乱といわれても仕方ない程のはしたない声を上げ………私は欲しがっていた快楽の絶頂を得た。
……私が満足した後は、ヒナさんが満足する番。
まだ絶頂の余韻に浸り、小さな頂点の波が押し寄せる私の顔の上に、ヒナさんが跨る。
「さあ、……今度はたしぎがしてくれるのよね?」
「……はい、ヒナさん」
「あなたの淫乱振りを見ていたから、わたくしもほら、こんなに……」
私の眼前にあるヒナさんのそこは、何もしていないのにもう蕩け切っていた。
ぱっくりと開いた下の口からは、熱いジュースがどんどん零れていた。
「ああ……こんなになって」
「そうよ、だからたしぎ……いいわね?」
「はい、ヒナさん」
私はゆっくりと、愛しい人の大事な部分へと、自分の舌を這わせた。
甘酸っぱい、とても美味しい潮の味が口の中にじんわりと広がっていく。
「ッ・ああッ…!」
ヒナさんが大きな胸をふるん、と揺らせ、声を裏返らせて軽くのけぞる。
ヒナさんが私の身体を良く知っているように、私もヒナさんの身体は良く知っていた。
「たしぎ、たしぎ……ああ……!」
「美味しいです、ヒナさん……もっと、飲ませてください」
「ん、はぁあ……上手よ、あなたとっても上手……ア・あああぁ…!」
尚も続ければ、綺麗な手が私の頬を包み、ヒナさんは快楽に咽び泣く。
そのヒナさんの顔は、素敵だった。本当に素敵……もっと、見たい。もっと、啼かせたい。
次に逢う時まで、お互い何もいらないくらい………。
次の日の夕方、ヒナさんは専用の船で駐屯地へと帰っていった。
「スモーカー君、お酒はほどほどにね」
「はッ、てめえにゃ言われたかねえな……」
タラップの前、気の合う同期同士、軽い皮肉を言い合う二人。
そのやりとりに見送りの海兵たちから笑いがこぼれる。
「じゃあ又、……たしぎ、スモーカー君をよろしくね」
「はい、了解しました」
「おいおいヒナ、そりゃねえだろ?」
又笑いが起こり、スモーカーさんが頭を掻く。
小さく手を振り、ヒナさんは自らの名前を帆に記した大きな船に乗り込んでいった。
「敬礼!」
スモーカーさんの号令で一同はヒナさんを乗せた船に向かって敬礼し、船はまもなく岸壁を離れた。
「……あいつは相変わらず言うことがキツイ。」
スモーカーさんが苦々しい顔をする。
「…あの、スモーカーさん、私はこれで……」
「たしぎ、何処へ行く?」
「はい、街を巡回してから派出所へ帰ります。」
「そうか、相変わらず仕事熱心だな……」
「ありがとうございます、では」
一礼してその場を立ち去り、ロークダウンの目抜き通りの人ごみの中へ紛れ込んだ。
巡回と言ったけれど、本当は違っていた。
暫く歩いたところで路地裏に入り、人が一人やっと通れるほどの狭い道を行く。
いくつか角を曲がり、表から完全に見えなくなったところで、私は立ち止まった。
「はぁ…」
壁にもたれ掛かり、大きくため息をつく。
昨夜の余韻まだ消えない。
目を閉じれば、ヒナさんの優しい声が、快楽に咽び泣いた声が。
私の全身を愛撫した手の感触が。
余すことなく嘗め尽くし、絶頂へと導いてくれた舌の感触が。
私を燃やし尽くした快楽の熱が。
とても美味しい、ヒナさんの潮の味が。
脳裏に、身体に、蘇ってくるのだから。
「ああ……ヒナさん、」
私は無意識にジーンズに手を伸ばしていた。
ジッパーをおろし、もどかしげに膝まで下げた。
「ヒナさん、……また、来てください……一日も早く……」
そして、ヒナさんの言いつけを守れない、淫らな私を誡めてください。
より淫らな行為と、あなたの言葉で。
昨日の夜よりもっと激しい悦びを、私に与えてください。
どうしようもなくなった自分のそこへと手は勝手に伸びていく。
誰もいない路地裏で、声を殺して私は自慰をした。
ヒナさんを、想いながら。
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