『Lesson B』



午後4時32分。
あと30分もすれば、勤務の終わる時間。
空を茜色に色付けながら、夕日がブラインド越しに差込んでくる。
「っ、はぁ―――……あぁッ」
スモーカーさんの執務室の日当たりはロークダウンの派出所内で一番良く、赤い絨毯は日に焼けて色褪せている。
その色褪せた絨毯の上、差し込んだ夕日に照らされ、入り口から死角になるデスクの陰で絡み合う男と女。
あと30分足らず、たったそれっぽっちの時間。勤務の終わりまでの僅かな時間を待てなかった、私とスモーカーさん。
「スモーカーさん、……スモーカーさん、……」
今日中にといわれた書類を仕上げ、スモーカーさんの部屋に持っていったのがほんの5分前。
スモーカーさんは書類に軽く目を通し、私に部屋の鍵をかけるように命じた。
鍵をかけた直後、後ろから抱き込まれ、場所を憚った私は僅かな抵抗を見せたけれど適わなかった。
着衣の上から施される軽い愛撫に、理性は軽く吹き飛んでしまったのだから。
今私は、胡坐をかいたスモーカーさんに後ろ向きに抱き込まれている。



雄と葉巻の匂いに包まれ、スモーカーさんの野太い指で全身を弄られていく。
口腔内を掻き回し、たっぷりと唾液を含んで濡れた指が首筋を、鎖骨を降りていく。
ピンポイントで性感帯を攻められれば、その度に自分のものとは思えないほど蕩けた声が毀れてしまう。
「あ、……んんッ……!!」
スモーカーさんの手は大きく、指はごつごつとしているのに酷く繊細で、丸で口と耳を持っているようだった。
それは私の身体と会話する口と耳を持つ指。
何故ならその指は私の身体を這い回りながら、私の中にある劣情と熱と淫蕩を、確実に引き出していくのだから。
私の身体から全てを聞き出したかのように、それはいつも正確だった。
「……たしぎ、もう少し声を抑えろ……外に聞こえちまう」
仕事のときは怒鳴声ばかりを上げるバリトンは、二人きりのときは蜜を含んだ言葉だけを紡ぎ出す。
「あ、ぁ……はい、……っ、ごめんなさい……」
仕事柄か私の声は女でありながら嬌声ではなく腹から出て大きく、抑えるのにいつも必死だった。
何時の間にかボタンをはずされた私のシャツ。捲り上げられたタンクトップと地味な色のブラジャー。
熱と期待に膨れ、じっとりと汗ばむ貧しい胸……その上を自在に這うスモーカーさんの指は、 偉そうに赤く尖り、つんと上を向いた乳頭を軽く摘む。
「い、あぁッ」
背筋を電気が走り、思わず腰が軽く浮く。
「いやぁ……、胸、いいです、……ッ」
痺れにも似た快感に思考がぐらつき、子宮の奥からはしたない欲望が、じわじわとこみ上げてくる。
「もっと、して……ください」
「小さい割りに、感度だけは一人前だな……」
「あ、はい……ッ、いちにんまえ、……です」
仕事のときはドジばかり踏んで叱られてばかりの私は、二人きりのときは夜の街角に立つ娼婦より淫らだった。


脱がされた衣服は絨毯の上、腸のようにだらしなく散らかされ、ショーツの粘液質の染みはまるで 漏らしたかのように大きく生地を濡らしていた。
「たしぎ、入るぞ……」
「ん……はい……、っ……」
四つんばいの格好で、後ろからスモーカーさんを迎え入れる。
太ももの内側。ぱくりと口を開いた陰唇から溢れた愛液が、待ちきれずにゆっくりと滴って行く……。
「力を抜けよ……」
「はあ、ア・ああああ……――――ッ・!!!!」
淫らな入り口に宛がわれた熱い雄の塊。
ズブッと一気に奥深く、子宮の入り口までぐん、と押し入ってくる。
「ひぁああ……ッ……あぅ、お、大きいですッ……、!」
全身が震える。電流のように末端まで快感の波が打ち寄せていく。一瞬目の前の景色が、ぐにゃりと歪む。
「その大きいのを呑み込むお前のココは、随分といやらしいな……、ッ」
「ひッ・ご、ごめんなさいッ……、ふぅん……、んぁ…」
「謝ることはない……ああ、中はぐちょぐちょだな……漏らしたか……ああ?」
「ん、も…漏らしてなんか……ッ」
虐める様なその言葉は、蜜を含んで羞恥と快感を一気に引き出す。
動き出した熱の固まりは排泄感と共に私の中から出ていったかと思うと、また一気に押し寄せ、また出て行こうとし、また押し寄せる。
「あ、あ、あ、…ッ」
肉同士がぶつかり合いながら、ピストン運動という名の、快楽を高めあう行為が繰り返される。
裏返る私の声。混乱していく思考。スモーカーさんの動きに併せ勝手に動く、私の腰。
赤い絨毯を握り締めながら、脳の髄までもが快感を味わう。
「ひ、ッ、あ、ッ、ああああッ……!」
「たしぎ、いいぞ……もっと泣け……」
「もっ、駄目、ア・はぁあ……!!」
スモーカーさんの狂ったように激しい律動に、何もかも溶かされていくのだから……。


ブラインド越しに差し込む夕日に赤く染められながら、私とスモーカーさんは目の前の愛欲に忠実だった。
たった30分ぽっち。終業までの僅かな時間を待てなかった私達。
絡み合い、何時までも何時までも気が済むまでケモノのように愛欲を貪りあった。


午後5時。終業を告げるサイレンが鳴り響いても、その音すら私達の耳には入らなかった。



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