『あと、何回』



目深に被ったローブはずっしりと重かった。
今頃、お父様もイガラムもチャカも、血眼になって私を探してるだろう。
帰ったら、……ううん、言い訳なら二つ三つは考えてあるから……叱られることは無いはず。
もう、子供じゃないし。


アルバーナの歓楽街の外れにある木賃宿。彼の定宿。お世辞にも綺麗とは言えない。
屋根がついていて布団があればどこでも御の字だと、いつか言ってたっけ。
立て付けの悪いドアを開け、入ってすぐのカウンターにいた女将らしい太った女に尋ねた。
「ここに、ポートガス・D・エースという男の人が泊まってないかしら?背中に刺青のある……」
「……ポートガス? ああ、二階の一番奥の部屋さね。…階段は廊下の突き当たりだよ」
女将は宿帳を見ながら答えた。
一礼して奥に入っていこうとすると、女将が「ちょっと待ちな」と、私を引き止めた。
「…何かしら?」
もしかして王女だということがばれたのかもしれない。心臓が、軽くはねた。
「場所代は花代の1割だよ。チップの分も含めて、だからね」
……ほっ。
どうやら私は娼婦だと思われたらしい。


「……よぉ、ビビ。久しぶりだな」
薄暗い部屋には真ん中にベッドが一つだけ。その上にエースさんは胡坐をかいていて、大きな古い地図を広げていた。
「久しぶりね、エースさん。相変わらず……?」
ずっしりと重たいローブを脱ぐと、空気がひんやりとして気持ちよかった。
「ああ。空振りばっかりだ……これだけ探してるってのにな、お手上げだ、もう。」
参った、とばかりに彼は両手を挙げた。
広げた古い地図は、グランドラインのものだった。
彼らしい几帳面な字で、日付と「黒ひげ」に関する目撃情報、辿った航路が事細かく書き込まれていた。
彼が血眼になって探している、「黒ひげ」。
それが運命なのか、それとも黒ひげが彼の手の内を読んでいるからなのか。いくら探しても、黒ひげは捕まることが無かった。
「もう一度ドラムのあたりを探そうと思ってんだ。明日の朝、ここを出る。」
「……そう」
地図を丁寧にたたみ、愛用のリュックにしまって。

「―――ビビ。」
名前を、呼ばれる。
優しく笑みを湛える、そばかすだらけの顔は。
疲れていた。明らかに。
前にあったときより、深く。


鎧戸を閉めたせいだと思う。
部屋の中が蒸し風呂みたいに暑い。
「ん、んっ……」
ベッドに腰掛けた彼の足の間に跪き、立ち上がった彼自身を裸の胸の間に挟みこんだ。
竿の部分を懸命に擦り、挟み込みきれなかった頭の部分を口で咥えて。
「……王女様とは思えない格好だな」
快感に少し震える声で、エースさんが笑う。大きな手が、顎の下を撫でる。
この人の身体は燃える様に熱い……火傷しそうなくらい。
絶え間なく擦り続けると、先走りの液体が鈴口から出てきて、ほんのり苦い味が口の 中に広がる。
唾液と汗で胸の辺りはべとべとになって、ぐちゃぐちゃと、粘り気の少ない音がいやらしさに輪をかけていた。
だいぶ―――堅くなってきたみたい。挟み込んでる彼自身、頭の部分も、膨らんできた……。
「―――ビビ、」
顎の辺りを彷徨っていた手が、髪を掴む。
「巧いな、お前……」
そう?と上目使いで答える。赤い顔をしてる……そろそろかも。
「飲めよ、全部……全部だぞ……っ・!」
エースさんが。はぁっ、と、小さく吐息をついた途端、夥しい量の粘液が吐き出 されて。
「ん、ぅっ……」
必死で飲み込んだけど、量が多すぎて飲み込みきれなくて……口の端からちょっとこぼれた。
「……全部飲め、って言っただろ?」
彼は人差し指で、こぼれた粘液を掬い取り、私にそれを舐めるように促した。
ぺろりと猫みたいに舐めると、満足そうに笑って。

「……ベッドの上に、仰向けになって、脚広げて……滅茶苦茶にされるの、好きだろ…?」
今度は私が、満足する番。



”黒ひげ、早く見つかればいいのにね”
  その言葉だけは、絶対にいえなかった。慰めにならないとか、部外者の言葉はいつだって無責任だとか言う以前に。
黒ひげが見つかってしまえば、彼は元通り白髭の元に帰り、私とのこの関係は、終わってしまうのだから。
―――好きだから。
魔の海域といわれるグランドラインを、たった一人で航海することは想像を絶するほどに過酷なはずで。
それは逢うたびに増えていく彼の身体の傷と、疲弊していく彼自身がそれを証明していて。
彼を一日も早く解放してあげたいと願う一方で。
一回でも多く逢いたい、セックスしたいのも、また事実。
どんどん、ジレンマに陥っていく。


濡れる程度に舐められ、正面から押し入ってくる。
大きくて,熱くて、さっきまで私の胸の間にあったそれ。
「あ・は…ッ・!」
めりめりと、裂けるような感覚。なのに、痛みは、感じない。
「ほら、脚もっと上げろ」
言うとおりにすると、私のそこは彼をどんどん、飲み込んでいく。
「すげえな……奥はぐちゃぐちゃだ……なぁ、いつもどんな風に一人でシテる?」
ゆっくりと動き出した彼が、尋ねてくる。そんな恥ずかしいこと……言えない。
「なぁ……? 教えてくれよ……」
「や……っ。言えないッ、」
「王女様は、綺麗なドレス着て、……一人で慰めてるんだろ?――――ここを」
きゅっ・と、摘まれた。
「あ・アっ……!!」
脚の間の、一番弱いところ……!
「剥かなくてもはみ出してるじゃねえか……淫乱」
―――はみ出すくらい毎日慰めてるのか?ええ……?
耳元で囁かれる言葉は、虐げる様に苛めるように、でも、声は優しくて……そのアンバランスが、更に私を濡らしていく……。
「暇さえありゃ、してるのか? 一人で……」
「ア・っ……!」
親指と人差し指で摘み、やわやわと擦られて……駄目……まだ入ったばっかりな のに……そんなことされたら……。
「ん?……もういっちまうのか?……好きだな……」
まだ、入って2分もたってない・のに……にやっと笑って、……擦る強さが激しくなって……―――!


「あ・あ・ああああっっ――――……!!」


……身体の中の全てが開放され、―――頂点を味わった。
 

「……あんまりでっかい声出したら、隣に筒抜けだろ……」
「んんっ……だって・、っ……」
「壁薄いんだぜ、ここ」
ぐったりしたところを後ろから抱え込まれ、再び突き上げられた。
「いったあとのココ、……ひくひくして絡み付いて……すげえいいんだぜ?……知ってるか?」
「知らな・い、ッ」
ぎしぎしと、音を立てるベッド。
まだ余韻の残るそこに打ち付けられる、熱。炎のような、塊。
頭がぼんやりしていくのは、気持ちよさのせいなのかこの暑さのせいなのか。
「……ビビ」
「……何……?」
「……お前とこうしてると、やなこととか現実とか……全部、忘れられる……」
「……あ・んんっ……」
突き上げが、激しくなる……じんじんと、繋がっているところから甘く痺れて―――。
「―――俺だって、人の子だからな……」
涙だってまだ出るしな、と小さく笑う。
後ろ向きだから、エースさんの表情はわからないけれど……。
「……締め付け……きつくなったな……いいか?」
「ええ、……いいわ、」
身体が端から、溶けそうになって行く……気持ちいい……あれを擦られていくのと、中でいくのとは、明らかに感覚が違う……。
胸に手が伸びてくる……捏ねられ、弄られて、あの感覚がゆっくりと襲ってきて……突き上げもどんどん激しくなって ……意識もどんどん,蕩けてきて―――。
「ぁ・あ……もう、っ……エース……さ・……」
「……中で、出すぞ……?」
「……ん、……」
こくん、と頷いた途端…………全身を熱が駆け巡り、吐き出された粘液のを感じる前に―――、私の意識が飛んだ。



心地よい風に目を覚ませば、鎧戸が開けられ、まぶしい夕日が室内に差し込んでいた。
彼は窓のところに立ち、外の景色を眺めながら、安物の酒を瓶ごと煽っていた。
「時間、大丈夫か」
「……ええ、……平気」
鍛え上げられた背中には彼の信念の象徴。
それは時に彼を奮い立たせ、時に彼を追い込み、悩ませる。
「ビビも飲むか?」
瓶を掲げ、振り返った顔はやっぱり疲れが見えた。でも……ちょっとだけ、さっきよりましかな……。
「……ありがと、一口いただくわ」
手渡された酒は、色の割りに甘かった。

「……ありがとな」

「……何か言った?」
彼が何か言ったように思えた。けれど、とぷん、という酒の水音で、よく聞こえなかった。
「ん?……いや、ビビの一口は多いんだな、って。俺の分なくなっちまう」
「!……意地悪……」
ぷっ、と膨れたら、彼は子供みたいに歯を見せて笑った。
その顔は、ルフィさんとどこか似ていた。



宿屋を出る頃には、日はすっかり暮れていた。
本物の娼婦がうろつく歓楽街の通りを、ゆっくり歩きながら考えた……あと、何回、彼と会えるだろう。
立場も、夢も違う彼との恋は、最初から終わりがあって。それでもいいと願ったのは私で。

「………」
あと、何回。心の中で、呟きながら王宮に向かった。
 
あと、何回。
 
あと、何回。 
                              



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