『むかしむかしの、ものがたり(ペル×ビビ)』






そうして悪者は退治され、王女様は王子様と、幸せになりましたとさ。
めでたしめでたし。




幼い頃何度も聞かされた、この国の前身となる国の、昔話。
国を乗っ取ろうとした悪者は退治され、王女様は悪者退治に来た隣国の王子様と幸せになり、
王国の領土をさらに増やした。その領土は今のこの国の領土とほぼ同じ。
そんな話だった。



「……王女様は王子様と、か……」
古びた子供向けの小さな本を閉じ、膝の上に置いた。
小さい頃、まだお母様が生きていた頃、よくこの本を読んでもらった。
部屋の整理を久しぶりにしていたら、見つけた本。
懐かしくてつい読みふけってしまった。





ベッドに寝転んで上を向く。高い天井を眺めながらぼんやり考える。
……私の子孫は、いったいどんな昔話を聞くんだろう。






「……そうしてアラバスタを乗っ取ろうとした悪者は退治され……、王女様は……」





呟きをかき消すように、部屋の扉をノックする音がした。
「ビビ様、いらっしゃるでしょうか」
「……いるわ、どうぞ」
「失礼いたします」
部屋に入ってきたのはペル。
「……お休み中でしたか、失礼しました」
ベッドの上の私を見て、ペルは恐縮して頭を下げた。
「いえ、いいの……丁度手が足りなかったから、チャカを呼ぼうかと思ってたの」
「手?」
「そうよ、ほら」
私が指差した方には、戸棚から出した古い服や本が、まだ手付かずのまま山と詰まれている。
そう、まだ部屋の整理の真っ最中。
「……来るんじゃなかった、って顔してるわ、ペル」
「いえ、決してそのような」
慌てて取り繕っても、嘘をつけないペルの顔にはしっかりと、しまった、と書いてあって。
私は可笑しかった。
「手伝ってくれるかしら、ペル」
「……喜んで」
あんまり喜んで無いわよ、と言う言葉は飲み込んで、私はベッドから降りた。





―――そうしてアラバスタを乗っ取ろうとした悪者は退治され、王女様は……




「大好きな人と一緒だと、お掃除もはかどるわ」
「……ビビ様、ごまかさないで下さい……。
これは私の職務範囲を超えておりますから、特別手当を戴きますよ?」
「あら、お手当てなら」
しぶしぶ、と言った様子で本を運ぶペルの頬に、背伸びをして軽く口付ける。
「ビビ様……」
ペルの顔が、みるみる赤くなっていく。
「……特別手当てよ」




―――王女様は、一番信頼する家臣と幸せになりました。




私の子孫は、きっとそんな昔話を聞くでしょう。









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