ルロビ「寄り道」
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少年、それとも青年。
端境期の身体と声は頼もしさと共に危うさが同居する。
生来なのだろう、無鉄砲さは一向に治まる様子などなく、寧ろ加速していると思うのは私だけでなく、
この船のクルーの一致する意見。
「……飲みすぎは身体に毒よ」
安い濁り酒を煽るその後姿には、怖いものなど何も見えない。
鍛え上げられた背中。無駄なところはかけらもない、身体。
そう、彼という人間そのままに。
短い夜の甘い名残は、疲労となって身体に心地良い。
甘い、けれど途中で私の方が降参をするほど、激しかった行為……三十させ頃なんて人は言うけれど。
「旨いモン飲んで、なんで身体に悪いんだよ」
鼻につく、安物の酒の匂い。
ベッドに腰掛けたルフィは、横たわる私に背中を向け、程好く酔っていた。
「ルフィ、」
彼の背中から生やした手で瓶を取り上げる。
「……毒よ、だって船医さんがいつも言ってるでしょう……?」
「あぁ、ロビン…」
奪い返そうとする腕をまた生やした手で抑える。
起き上がり、耳元で囁きながら、後から抱きつく。
「―――つれないわ」
逞しい、けれど傷だらけの身体に。
「お酒なんて飲んでないで、もっと構って欲しいわ?」
「……あぁ」
わざとに胸を背中に押し当て、誘いを込めて。
「わかってる」
振り向きざまにキスをくれ、身体を強引に抱き寄せられる。
……変ね。
最初から最後を見て乗ったはずの、この小さな海賊船。
そう、彼も、そしてこの船のクルーも、ただ利用するつもりで仲間になったのに……。
私……。
「あぁ、は・ッ……!」
押し倒され、脚を大きく開かれる。
乾いた場所を、唾で湿した指が刺激する。
「ルフィ、」
「逃げんな、」
いきなりの行為に逃れようとすると腰を引き戻され、指は熱を帯びた内壁を深く抉る。
「ひぁ・ッ……!!」
悲鳴を上げ、仰け反る。
「して欲しいんだろ? ロビン」
「そ、う……だけど……」
いきなりすぎる、もっと優しくしてなんて、彼には無駄な話。
欲望の塊、だもの。
ゼロか100、しかない。30や55や78を決して考えることのない男。
彼のそこに惹かれている……この船のクルーは皆。
私は彼のそんなところを逆に利用しようとした……なのに……。
「は、あぁんっ、」
そこに、私は溺れている。
嫌がるとルフィの指は逆に入り口付近で焦らしてきた。
そうなると、もうどうしようもなくなってしまう。
「あー……あぁ……ッ」
腰をもどかしく振り、柄にもなく嬌声を上げて。
もっと、もっと、もっと。
強く、乱暴に、して。
「……構ってほしいんだろ……?」
ルフィの、黒曜石の純粋な目の奥に宿る、僅かな狂気。
それは私の中に僅かに残るヴァージニティを確実に貫いた。
欲しければ、頷くより他はない。
―――久しぶりに上陸した島の、宿屋の夜。絡み合う、二つの影。
どうにかしている。
自分の中の、もう一人の自分が問いかける。
ねえ、ロビン?
あなたは、あなたが果たさなければならない夢の為に、この船のクルーを……ルフィも……
ただ利用するだけなんでしょう?
男に抱かれるのも初めてじゃないはずなのに。
ねえ、ロビン?
まさか、あなたはルフィに溺れているの?
いいえ、溺れているふりをしているだけでしょう?
ねえ、ロビン……?
頭の奥で、もう一人の私が私に問いかける。
私はそれに答えない。
答えたくないから。答えない。
図星を突かれたときほど、人間は横を向いてしまうものだから。
肉と、肉のぶつかり合う音。
飛び散る汗。後ろから突かれ、衝かれ、貫かれ。
「ロビン、ロビン……」
「ア・ア、あぁ……ーーーは、あぁ……ぃあ……ーーッ」
揺れる、私の黒髪と乳房。
下半身で繋がっている、私とルフィ。
腰を抱え込まれ、深く、深く突かれる。身体の最奥を。
みだらな快楽をルフィが与えてくれるこの時間が、堪らなく心地良い。悦楽。至福。
夢?
私の、夢?
果たさなければならない夢?
いいわ、そんなの。
ええ、どうだっていい……もう少し、寄り道をしたいの……溺れたいの……だから、お願い。
私の中の、もう一人の私。
聞かないで、ほっといて。私のことは、どうか―――……
理由?
そんなものを聞いてどうするの。
そうね、強いて言うなら……油断をしたのね。きっと。
こんな子供、小さな船、と。
私が見せた僅かな隙を、ルフィは見逃すことなく押し入ってきた。
そして、私を突き落として溺れさせた。
彼の持つ、その魅力の海へ。
そうして、今に至るの。
「ルフィ、ルフィ、―――ッ」
体位を替え、ルフィの上になり、私は思うがままに腰を振る。
自ら胸を揉み、結合部分を指で更に刺激し、自分の乱れた様をルフィに存分に見せ付ける。
ルフィにもっと見られたい。
ルフィにもっと、興奮して欲しい……もっと、もっと……。
「ぁあ、……あ、ルフィ、ルフィ、ッ」
「ロビン、いっちまえ……ロビン」
「ん、あ、ぁ……ーーッ」
ルフィ、ルフィ、ルフィ。
その名を口にするたび、子宮が疼いている私がいる。
ルフィに抱かれるこの時間が、永遠に止まればいいと思っている私がいる。
ルフィに言われればどんな淫らな格好も、厭わずしてしまう私がいる。
そう。
ルフィという名の海に、溺れている私がいる。
……長い長い、旅だもの。
ほんの少し、寄り道をさせて。
ねえ、……お願い。
私の中の、もう一人の私よ。
ルフィというこの海に、もう少しだけ溺れさせて欲しい……。
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