『素敵な時間』
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「ロビンちゃん、寒い?」
「…いいえ、全然」
「ココアのおかわり、持って来ようか?」
「ありがとう、でも結構よ、美味しかったわ」
深夜の見張り台。今日は私が寝ずの番。
くたびれた一枚の毛布に、サンジさんと二人で包まっていた。
足元には、空っぽになったマグカップが二つ。
ついこの間まで。そう、ほんのついこの間まで。
見張り台で過ごす、寝ずの番のこの時間は。持ち込んだランプの明かりで本を読んだり、星を眺めながらぼんやりとしたり……。それは一人っきりの、時間だった。
けれど今。この時間は、サンジさんと二人で過ごすとても素敵な時間に変った。
私にとって。
私が寝ずの番のとき、サンジさんは必ず一緒にいてくれる。暖かいココアと共にやってきて。
サンジさんが番のときは、私がハーブティーと共に訪れる。
満天の星の下、何処までも続く広大な海の上。二人っきりの素敵な時間。
ココアとサンジさんの体温のおかげで、寒さは全く感じない。
タバコの匂いがする。サンジさんの体臭に混じった、整髪料の匂い。
こんなにも、近い。
「次の島まで、あとどのくらい?」
「明々後日ぐらいには着くだろうって,ナミさん言ってたけど。…次の島は秋島だって、楽しみだね」
「そう、秋島」
「ログが溜まるのが3,4日って言ってたから、ゆっくり出来そうだよ」
「ええ、」
「………」
「………」
会話が途切れて。
私はふと彼の横顔を見た。
ノースブルーの人間特有の、色素の薄い肌と金色の髪。
パーツの整った、あどけなさと男らしさを兼ね備えた顔は、少年からまもなく青年へと移行する成長途中のそれ。
9つ年下の、私の恋人。
なのに時々、どっちが年上なのか判らなくなるときがあるの。
恋に手馴れた彼。
彼が初恋の私は、文字通り少女になってしまうから。
「―――ロビン」
ふと、彼が。私のほうを向いた。
そして、呼び捨てにするの。
彼からの合図。
「…ええ」
言わなくても判るの。その後のことは。
私はゆっくりと目を閉じた。
温かくて少し荒れた唇が、私の唇に押し当てられて。
ねっとりとした舌が、押し入ってきて。私の舌に絡み付く。
包まっていた毛布が落ちる。夜の冷気に二人が晒される。
「ん、―――」
いつもの、キス。
甘くて、体中が痺れるキス。
「はぁ、」
酸素を求めて、一瞬だけ唇が離れ、また絡み合う。
貪るようにとはこのこと。限りある互いのそれを、もっと深く、もっと濃密にと求め合う。
「ん、んん」
「―――、」
彼のキスは官能的で。例えば音。わざと音を立てて、羞恥を煽り、この行為を只のスキンシップではなく確実に性へと導いて。
例えば手。頭の天辺から、髪を撫で、肩を撫で、背中をなぞってわき腹へ至り、それを何度も繰り返し、じわじわと体の奥から熱を引き出していく。
そしてタバコの味の唾液を流れ込ませて、私の中に自分を染み込ませる。それはまるであちこちの感覚器官に働きかけるが如く―――。
たかがキス? いいえ、されどキス。
それだけで私は、腰が抜けそうになるのだから。
「ん、あぁ、」
糸を引きながら、再び唇が離れる。
「……やべぇ」
彼が苦笑する。
「……どうしたの?」
「キスだけで済ますつもりだったのに、……勃っちまった…」
ほら、と指差すスラックスの股間はしっかりテントを張っていて。
「……」
「出さねえと治まらなさそう…」
「やだ、―――もう…」
赤面してうつむく私。だって、ここは―――。
「青姦…いや、星の下だから星姦? 満月なら月姦? 夜でも青姦っていうのかな?」
「ちょ、ちょっとサン、……」
真剣に考え込んで、ねえ、それって―――。
困った顔をする私を見て、にっこりと笑って。
「…朝まで誰も起きやしないよ、だから平気」
「だって、こんなところで、サンジさ、……!」
反論する間もなく、私は落ちた毛布の上に仰向けに寝かされて。
「あ、やんっ」
「お、やっぱりブルーのレース。俺の予想ビンゴ♪」
カプリをあっさりと脱がされて、下着チェックが始まった。
「サンジさん、―――」
抵抗する間もなく、あっという間に始まったの。
二人だけの秘め事。
「……大好き、ロビンちゃん。お星様より綺麗だよ」
私の首筋に顔を埋めて言ったの。
私もよ、サンジさん。褒めてくれるの、凄く嬉しい。
でも、一言だけ言わせて。
――――エッチ…。
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