『手配書の中の人』


エースさん。
貴方が好きです。
貴方に抱かれたいのです。


権威は衣の上から着るものだ。裸の王などいるものか。 そういったのは、私のお父様。
けれど彼は、それを一笑に付した。
『裸になろうが焼かれて骨になろうが、あんたは王女様だよ。変りっこない。…そして俺は海賊だ』
『…駄目ですか』
『ああ、駄目だ。あんたは頭の天辺から足の爪先までこの『アラバスタ』のものだ。
…あんたは俺みたいな海賊になんか、抱かれるもんじゃない。恐れ多くもゆくゆくはこの国 を背負って立つ王女様が、』
そして、この国の神の巫の長になる者が、と付け加え。
『…海賊に惚れるなんて、あっちゃいけない話だ…自分の立場、わきまえろよ』
そういった彼の目はあくまで真剣で、私はうつむき、そのまま頷くより他なかった。
『悪ぃな…。でも、あんたのこと、嫌いってわけじゃないんだぜ?』
けどこればかりはどうにもな、と曖昧な言い訳の後、彼は私の右手を取り、その甲に 恭しく口付けた。
『…ネフェルタリ・ビビ王女』
『……』


―――それっきりだった。

好きになるのは理屈ではないと、昔読んだ恋愛小説に書いてあった。
それはまさにその通りで。
ナノハナで出会って、気がついたら目で追っていて、何時の間にか好きになっていた。
王女が嫌になったわけじゃない。この国が嫌いになったわけでも。
そう、頭ではわかっている。彼は海賊で、私は王女で、叶う筈の無い恋だと。自分の立場だってわかってる。

でも、―――…でも。

エースさん。
貴方が好きなのです。
貴方に抱かれたいのです。
それは、只の我侭でしょうか?

彼が私の思いを跳ね除けたあの日以来、彼を忘れた日はなかった。それはむしろ募るばかりだった。
黒ひげを追い、たった一人でグランドラインを逆走する彼は、時折新聞の紙面を賑わせていた。
海軍の、それも本部の艦隊を沈めたとかで懸賞金額がとんでもなく跳ね上がり、 新聞と共に配布された彼の手配書を私はそっと隠し持ち、大切にした。

手配書の写真。誰が撮ったのか、振り向きざまに不敵な笑みを浮べる彼。

それを見ながら、暇さえあれば一人でした。

彼に抱かれるのを想像しながら。
彼にして欲しかったことを、自分で。



今日もまた。 
昼食の後、一人になり、自室の鍵を閉めた。
扉の向こうに控えている衛兵には午睡を取るから電伝虫も来訪も取り次がないでと言い訳した。
そして耽るヒトリゴトは、既に日課になっていた。
もどかしげにドレスを脱ぎ散らかし、一人には広すぎるベッドの上、膝立ちになって、シーツのうえに彼の手配書を置いて。
彼が触れる事の無かったこの身体を、自分で弄んだ。


「―――っ、はぁ、…」
見られている。
シーツの上に置いた、手配書の彼に。
彼に抱かれるコトを思って、淫らに、いやらしく、ヒトリゴトに耽る私を―――…。
「っあ…、もっと、強くしてください…」
わざと弱く胸を揉む。たぷん、と音がして。
少し外したところを刺激すると、焦れったくて体の芯から熱がこみ上げてくる。
「真ん中、弄ってください…」
一番いいところをわざと触れず、焦らしていく。
そうすることで最後に訪れるオーガズムが何倍にもなることを自分が一番よく知っていた。
「エースさん、意地悪…っ、はぁぁ…」
太股の内側を、生暖かい体液がゆっくりと流れていく。
「下も、ねえ、触ってください―――」
ゆっくりと自分の手を下ろしていき、そこに触れる。
指でゆっくりと花弁を開くと女の性の匂いが鼻を突く。
「ここに、エースさんのを、…欲しいんです…一杯」

不敵に笑う手配書の彼に。
抱かれたい。
こんな風に。
「ビビのここを、滅茶苦茶にしてください…」
私が欲しかったのは、恭しくされた手の甲への口付けではなくて。
ここを獣のように貪られること。舐められ、吸われ、捩じり込まれてかき回されること。
王女様だなんて、奉られることを欲していたわけじゃない。
この国を背負うだとか、神の巫の長たるだなんて、まるで聖人君子のように。
裸になれば私はこんなにも、淫らではしたない、只の女なのに―――…。
「あ、ああああっっ……いい、いいの…」
右手で花弁を開き、左手で実を剥き、摘み、5本の指を総動員して中をぐちゃぐちゃにした。
「エース、さん、もっともっとぉ…、―――…くぅ、っ」
ぽたぽたと、シーツと手を汚していく体液。
その手を今度は後ろから回し、菊門を探り当て、入り口付近をゆっくりと虐めていく。
「ああ、そんなとこまで、そんなぁ、…ア・――ッ、いやぁ、汚い―――…」
彼の指が入る想像。ぷつりと二本の指が突き立てられ、無遠慮に裂くように、中に入っていく。
現実には私の指。
「駄目え、ああ―――…やぁ…」
入って直ぐの腸壁を掻きまわし、ゆっくりと焦らすように引き抜けば、頭の天辺まで突き抜けるような電流が走り、 恥辱と羞恥と快楽に頭の中がどうにかなりそうになる――。
「エース…エース、」
実核も中も同時に弄れば、体中の血液が瞬時に逆流して―――…。



『裸になろうが焼かれて骨になろうが、あんたは王女様だよ』

いいえ、私は裸になればこんなにも淫らな女なのです。

『ああ、駄目だ。あんたは頭の天辺から足の爪先までこの『アラバスタ』のものだ』

そう、私はこの国のもの。
けれど私は、貴方のものになりたいのです。

『悪ぃな…。でも、あんたのこと、嫌いってわけじゃないんだぜ?』

ならば抱いてください。
こんな風に。滅茶苦茶に。

「あ、あああああ…、いく、いく…―――いくっ―――…!」

手配書の中の彼に。
不敵に笑う、彼に。


こんな風に、抱かれたい。



「あ・あああ……!」
身体は弓なりに仰け反り、ピシャ、という音を立て、吹いた潮が手配書を汚す。


「―――っ、ハァ、ハァ…」
ベッドに倒れこみ、汚れた手配書を引き寄せ、夢中で口付けた。
何度やっても、決して満たされることのない欲望。
彼に抱かれる日が来るまで、私はこれを続けるのだろう。

「エース、さん…来て…」
ぎゅ、と手配書を握り締めた。
「今すぐ、来て…」
そして、私を抱いて。
私の身体はまだ火照っているのに。貴方を受け入れたがっている場所は、こんにもひくひくと脈打っているのに…。


心地よい疲労に、汚れた身体のまま、脱ぎ捨てたドレスさえそのままに、私は眠りについた。




夢と現実の間を彷徨うまどろみの中、誰かが私の頬に触れていた。
ふと目を開ければ、鍵をかけたはずの大きな出窓が開いていて、純白のカーテンが揺らめいていた。
「――――…え…?」

「…ネフェルタリ・ビビ王女」

誰かに、耳元で囁かれた。
ああ、この声は―――…。

頬に手をやれば、炎のように熱い、ごつごつした大きな男の手。
ゆっくりと振り返れば、オレンジ色のテンガロンハット。そばかすだらけの顔。
そこにいたのは、そう―――。

「エース、さん…?」

手配書と同じ不敵な笑みを浮べ、彼はゆっくりとうなずいた。


「あんた、俺のこと好きなんだろ?」
優しく問いかける、声。
「俺に抱かれたいんだろ?」
その言葉にうなずくと、彼の手は私の頬を離れ、首筋を伝い、まだ汗ばむ背中へと流れていった。


「エースさん、………抱いて……」  
   私の言葉に、彼は笑って答えてくれた。
「……ああ、わかってる……何度でも、抱いてやる……」
                      

握り締めていた手配書は、いつの間にかただの真っ白な紙になっていた。




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