「特別」※現代パラレル設定
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"だからお前は、俺にとって特別な女なんだ"
「遅っせぇなぁ……」
六畳一間のアパートの、薄汚い壁に凭れ掛かって携帯を見る。
液晶画面の時計はもうすぐ日付が変わることを示していた。
夕方から何回、ナミの携帯を鳴らしてもメールを送っても、何にも返ってきやしない。
2月13日、金曜日。もうすぐ14日の土曜日になる時間。
『金曜日はバイト無いから、日が暮れるまでにはゾロの家に行けると思うわ』
火曜に逢った時にゃそう言ってたのに……事故か? まさか事件か? なんて、縁起でもねぇことを考えてしまう。
窓の外は薄ら寒く、雪が降ってもおかしくねえ程の気温だって言うのに。
テレビはずっとつけっ放しだが、別に電車が事故で遅れているだとか言うことはない。
「何やってんだ? アイツ……」
11時48分。いい加減で痺れが切れ、ちょっと近くまで見に行こうかと立ち上がりかけたそのとき。
アパートの階段を駆け上がる、ブーツの甲高い靴音。
ナミだ、と思った直後、勢いよく玄関の扉が開く。
「ごめん、ゾロ、遅くなっちゃった!!」
扉が開いたとほぼ同時にナミが叫んだ。
ナミは白い息を吐きながら、頬を真っ赤にしていた。
「ごめん……遅くなっちゃって……」
手を顔の前で合わせ、許しを請うポーズをする。
「……何やってたんだよ、何で携帯鳴らしてもメール送っても返してこねえんだ!? あぁ!? 心配させんな!!」
「だから、ごめんって言ってるじゃない!」
「ごめんじゃねえっつの! ……理由を聞いてるんだよ、理由!」
「……理由は、……これ」
はい、とナミがコートのポケットから出したのは、赤と緑のチェックの包装紙にくるまれた、小さな箱。
「……あぁ?」
「バレンタインのチョコ。これ、探してたの……」
「……チョコ?」
日付が変わって、14日。バレンタインデーになってすぐ、部屋の明かりを消して俺達は裸になった。
「ん、……ッ」
ナミを抱き寄せ、キスをした。その身体も唇も、随分と冷たかった。
「どんだけ歩き回ったら、こんだけ冷えるんだよ……」
「……6時間くらいかな……」
「馬鹿、風邪引くだろうが」
「ん、だって……どうしてもあのチョコにしたかったんだもん。バレンタインにゾロにあげるチョコは……」
枕元には、ナミがくれたあのチョコの小さな箱が包装されたまま、ティッシュの箱の隣に鎮座している。
俺自身、ほとんど忘れかけていたことを、ナミはちゃんと覚えていた。
甘いものが苦手だと公言していた俺が、なんかの時に珍しくチョコを食ったらしい。
『このチョコ、旨いな』って、バクバク食ったって言う、チョコ。それが、あのチョコらしい。
そんなことがあったのかどうかすら俺は覚えてなかったって言うのに、ナミはちゃんと覚えていた。
多分―――相当腹が減ってたんだろうな、俺。じゃなきゃチョコなんか絶対食わねえ。
ナミの奴、簡単に酒かなんかにすりゃいいのに。バレンタインはチョコじゃなきゃって思ったらしい。
それでこの寒空の中、6時間もあちこち探し回ってたって言うんだぜ。
探すのに夢中で、メール返すどころか携帯さえカバンの中に放り込んだままだったらしい。
―――ホント、可愛い奴。
「ゾロ…ッ」
「冷え切ったその身体、嫌って言うほど温めてやらぁ……」
俺の腕の中、冷たい身体を捩じらせて恥ずかしがるナミ。
いつもは減らず口ばっか叩いて、ケチで、高慢で、年下の癖に俺をしっかり尻に敷いてるんだが……。
たまにこんな、可愛い面を見せてくれる。
だからお前は、俺にとっては特別な女なんだ。
勿論普段は、口にしねえけどな。
「あぁ……も、駄目ぇ……」
布団の上に押し倒し、組み敷いて膣の中を指で掻き回すと、あられもねえ声を上げてくる。
駄目だなんていいながら、しっかり脚開いて腰振って、乳首はピン、と尖ってやがる。
「駄目じゃねえよ……いい、って素直に言いやがれ」
「はぅ……ッ、」
ぐちぐち、ってイヤラシイ音を立てながら、ゆっくりと大きく、ナミの中を探ってやる。
「……この中は暖かいな、ナミ」
「やん、ゾロ…ゾロ、ッ」
早くも泣きそうな声がし、大きな胸がふるん、と揺れる。
「ナミ、……チョコより先に、お前を食っちまいてえ……」
「ああ、ゾロ、ゾロ……ア・―――ッ……!」
細い腰を抱え込み、掻き回して解したナミの中に俺は自身を一気に沈めた。
セックスが終わる頃には、ナミの身体はようやく俺と同じくらいに温まっていた。
冷え切った人体を温めるには、人肌が一番だなんて、古い話だけどな。
小汚い布団の中、俺はナミを胸に抱いて眠りについた。
チョコは朝になったら食うとするか。ちゃんと服着て顔洗って正座して食わねえと、罰当たっちまうよな。
何つったってナミが歩き回って、俺のためにやっと探してくれた大事なチョコなんだから。
それまでは、ナミ。
お前の身体、もっと温めててやらぁ……。
「ナミ、……ありがとうな…………愛してるぜ?」
眠っているナミの耳元で囁いて、俺は目を閉じた。
だからお前は、俺にとっては特別な女なんだ。
お前のそんなところが、俺はたまらなく愛しいんだ。
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