『壷の中身』



春島を出港し、数週間ぶりに上陸したのは、小さな夏島。
小さいといっても、この島はグランドラインでも有名な商会が拠点を置く島で、港町はとても賑やかだった。
海賊も商人も漁師も関係なく人がごった返す。
春島でちょっとした収入があり、懐具合がいつもよりも暖かかったせいか、 航海士さんはクルーの皆にいつもよりも多い滞在費を渡し、船を人気の無い場所へ停泊させると、 それぞれ自由行動になった。



私は単独行動をとることにした。



この島が賑やかだとは先述の通り。 欲しいものや必要なものを取り揃えるため、島の市場を見て回った。
本に衣類に衛生用品。長旅が続いたせいか、必要なものは殆ど底をついていて、
あれもこれもと思って買っていると、あっという間に両手いっぱいの荷物になった。
「……こんなことなら、コックさんでも連れてくればよかったかしら?」
荷物持ち、彼なら厭わずかってくれそうだもの。
呟いたあとで、流石にそれは悪いかしらと思い直していたとき。




一人の老婆が道端で茣蓙を敷いて物を売っているのが視界の隅に入った。



「……安くしとくよ」
物売りの老婆は少し離れた場所にいる私を見ると、小さな声で言った。
「何を売っているの?」
「主に土産物だねぇ……」
私は両手いっぱいの荷物を抱えたまま、老婆の茣蓙の前に立った。
木彫りの置物や、凝った刺繍の施された布地。七宝焼きのブローチに指輪。
なんてことは無い、どこの島に行ってもよくある類の土産物ばかりだった。
「……触っても良いよ」
「ありがとう」
古書があればと思ったけれど、生憎その類のものはなかった。
ふと見れば、茣蓙の隅に、小さな陶製の壷が一つあった。
色あせた麻布でしっかりと蓋がされている。けれども他の商品のように、値札はない。
「………」
私にはそれが何であるか、一目で分かった。



「……その壷を頂くわ」



壷の中身を理解した次の瞬間、私はその壷を指差しそう言っていた。
「お前さん、……”分かる”のかね?」
老婆は何が可笑しいのか、喉の奥で笑いながら言った。
「ええ、分かるわ……私、こう見えてもずっと海で暮らしているのよ?」
「そうかい、そうかい……」
骨ばった手で、老婆はその壷を取った。
「これは何だと聞いてくる人間にゃ、これは売らないんだ……分かる人間にだけ、売るんだがね……」
「ふふ……そうね、今までこれを売っていた人は皆そうだったわ」
私は今までにも、この壷を買ったことが何回となくあった。
そのたびに壷の形状はそれぞれ違っていたけれど、どの壷も皆、麻布で蓋がされ、
値札も何もついていないという点では一緒だった。
それを売っていた人は、みなこの老婆と同じく、壷の中身を何かなどと尋ねる野暮な人間には、
決して壷を売ることはなかった。
言われたとおりの代金……決して高くは無い……を払うと、私は老婆に礼を言い、市場を後にした。
向かうのは、さっき下りたばかりの船。



息を切らしながら急ぎ足で船に戻ると、案の定誰も帰っていない。
女部屋に入ると、鍵もかけずに。沢山の荷物をテーブルに置いた。……衣類をクロゼットに入れるのも、衛生用品の整理も、あとまわし。
薄暗い部屋にランプを灯し、壷を抱えてベッドに腰掛けた。
心臓が、早鐘を打つ。
「さぁ……」
しっかりと蓋をしている麻布を、ゆっくりと剥がす。



「出ていらっしゃい……あなたたちは買われたのよ……」


壷の中身に、私は呼びかける。ヌチャ、と……壷の中から湿った音がした。
ゆっくりと、中から出てきた。
一本のヌルヌルとした……それは異形の生き物……『触手』……が。
「ああ……」
私は期待に満ちた声をあげる。
それから、紫色とも茶色ともとれない、はっきりしない色の『触手』がおよそ七、八本、互いにまとわりつきながら出てきた。
それはどれも私の手首よりも細く、先端は丸みを帯び、小さな口状の穴が開いている。
海に生きる蛸の蝕腕にそれはよく似ている。けれど、蛸ではない。吸盤はないし、胴体も無い。
なにより触手の一本一本が、それぞれひとつの個体なのだから。
正確な名は、わからない。
ただ、海でも陸でも淡水でも生きられ、グランドラインにしか生息しない生物だという。
壷の中身は、他でもない。ぬめった触手そのものの、この生物たちだった。
「ふふ……いらっしゃい」
わずかに潮の匂いがする。きっと、彼らは海で捕獲されたのだろう。
前に彼らの仲間達を買ったのはもう何年も前。そのときは藻のにおいがした。川で住んでいたのだろう。
触手たちは壷をぬたぬたと這い出すと、私の胸元に這い上がってきた。
彼らは人の体温や匂いに敏感で、糧とするのは人の身体の垢や、常在菌の類。
「ああっ・……」
一本の触手が、キャミソールの開いた胸元から潜り込んできた。
人肌ほどの温かさ。違和感は無い。彼らが這った後は、その表面を覆う粘膜で濡れていた。
触手の形に、胸元が膨らみを作る。
「はあぁ、あ、ッ……来て……ッ」
一人遊びに飽き掛けていた私の身体に、この刺激は溜まらない物だった。
自分でするのとは明らかに違う感覚。触手は乳房の上を自在に這う。続くほかの触手たちも、それぞれ 首筋に……足首に……そして、タイトスカートの中へ……それぞれ這っていった……。




もし今、クルーの誰かがこの光景を見たら、何と思うだろう。
ベッドの上、衣服を自分の手で剥ぎ取り、あられもない格好になって。
蛸の腕のような触手何本もを身体に這わせ、快楽をむさぼる私を。
私はこの船に乗る以前にも、立ち寄った島であの壷を買い、そしてこの触手の仲間達によって、 満たされない身体を慰めていた。



あの壷、そしてその中身の触手。
それは海で生きる女や、港で男を待つ女達が、その名も知らずに捕まえては売り買いし、 自らの満たされない欲望を満たすためのものだった。



「ん、ぐぅ……」
口腔内に一本の触手が入り込んでいる。
咬んではいけない……優しく私は口腔内全体で愛撫する。
彼らは人の唾液も食料にするのだ。
私の身体は、彼らが這った後、粘膜でべとべとに汚れている。
自分で脱いだ衣服はベッドの下に散らかり、私は脚を大きく開いて、全身を触手の愛撫に任せていた。
「んひっ、」
悲鳴にも似たあえぎ声を上げる私。
数年ぶりのこの快感。人間相手のセックスとは全く違う、この感覚。
セックスや自慰行為をを能動的とすると、これはそれとは反対的に受動的な行為。
人外の生き物に身を委ねるこの行為を、私が覚えたのはほんの少女の頃。
子どもがどうやってできるのかよりも、この快感を先に覚えてしまったのだから。
―――ああ……なんていい。
硬く赤く尖った乳首を、胸に絡みつく一本の先端が舐めあげ、刺激してくれる。
「は、ひぃ……ッ」
ねちゃ、ねちゃ、といやらしい音がする。
先端の小さな口で乳頭を吸い上げられると、堪らないほどの快感に襲われる。
吸い上げながら揉みしだくように私の胸を締め上げる。リズミカルに蠢き、刺激する。
まるで何人もの見知らぬ男に、優しく犯されているような感覚だった。
そして……陰部にも触手が……彼らは女のそこから滲み出る愛液や、下り物の味が大好きなのだという。
「んは、あーー……ァッ……、!!!!」
誰もいないのをいいことに、私は狂ったように声を上げ、腰をガクガクと震わせている。
一本が陰毛越しに割れ目を舐めながら這いずるくる。
「ひぎっ・……!!」
もう一本が、ドクドクと脈打ちながら愛液を吐き出す秘貝へと入り込もうとしている……。
「あぁ、ひぅ……い、いいっ、……ああああ……ッ!」
刺激を求め剥き出しになったクリトリスの上を、触手が移動する。
「あ、あ、あ、はぁああああッ!!」
触手が前後するたびに、堪らない刺激が脳を直撃する。
やがて私の膣口を見つけた触手達が、そこへ潜り込んで……来ようとする……入って来る……。
「いやぁ……そんなに、一気にッ……!」
いつの間にか口腔に入り込んでいた触手も胸を弄っていた触手もいない。
上半身を起こすと、下半身に全ての触手が集まっている。
彼らは我先に中に入りたがろうと、狭い私の入り口へと競うように頭を突っ込んでいる。
「そんなに……ああああ……駄目ぇ……」
知らぬ人間が傍から見たら、なんとおぞましい光景と思うだろう。
「駄目、お願い、待って……!」
懇願しながらも、彼らに膣内を一杯に満たされたいと願う。
私の中に入り込んで蠢いて欲しいと思う。
私は自分の手で花弁を広げ、彼らを導く。
「……あああーーっ、……入っ、てぇ……ッ!」
ぐぐ、……と。鈍い質感と共に、彼らが私の中に入ってくる。
「――――ひ・あ……ッ」
目一杯に広がった膣。
そこに、蛸の蝕腕のような生き物が何本も、その身体を半分だけ入り込ませている。
はみ出した半分はうぞうぞと怪しく尻尾を振り、もっと入り込もうとしている。
はねた尻尾が時折クリトリスに不規則に当たり、その度に不定期な刺激が加算される。
「……あ……も、い……ッ」
ベッドに手をついて、私は仰け反る。
私の中で彼らの半身が蠢く。鈍く重い快感は……セックスでは決して味わえない感覚だった。





―――どれほどの時間が経っただろう。
いわゆるドッグスタイル。四つん這いになり、尻を高く上げ、私はもう何時間も触手の与える快楽に、その身をゆだねていた。
「あーっ、……はぁ、ひ……ぃッ、」
数本が私の中に完全に入り込み、中で暴れまわっている。
膣の中は目一杯に広がり、時に鈍く、時に鋭い刺激が……。
残りは胸に絡みつき、またクリトリスから菊座にかけてを何度も這いずり回って。
ぷしゅ、と音がし、膣口から潮が噴出す。
「んぁ……い、ッ……!」
何度、達したのだろう。自分でも数えていない。
粘液で全身をべとべとにし、喘ぎ続けた声は枯れて。
もうどうなってもいい……と思えるほどの快感に、思考があらぬ色に染められていく……。







その夜、遅くなってきてからクルーの皆はようやく戻ってきた。
「……ねぇ航海士さん」
「ん? どうしたのロビン」
仕入れたばかりの新鮮な食材で作られた、コックさん自慢の料理に皆で舌鼓を打ちながら、私は隣に座る航海士さんにそっと耳打ちした。
「今日、島でとてもいいものを見つけたの……女部屋の私のベッドサイドにある、壷の中身。とても素敵なものが入ってるの……」
「ホント? もしかして凄いお宝?」
「……そうね、お宝といえなくも無いわ……きっと気に入るわ。私がシャワーを浴びている時にでも、見て頂戴。このことは皆には内緒よ?」
「ええ、もちろん♪」
航海士さんは何も知らずに嬉しそうな顔をする。
美味しいものは分け合うのがこの船のルールだもの。
きっと気にってくれる筈。……彼女なら。壷の中に眠る、"彼ら"を。
女部屋から悲鳴にも似た喘ぎ声が絶えることは、どうやら暫くはなさそう。










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