『あの女』


「宴だーーーーーーーっっ!!!」

空島の戦い―――アッパーヤードを巡る400年にわたる長い戦いに終止符が打たれた。
神・エネルは討たれ、スカイピアの住人とシャンディアが仲違いする理由は何もなくなった。
黄金探しのつもりが巻き込まれた俺達、そして何でだかあの巨大ウワバミも含め、シャンドラの遺跡で老いも若きも関係なく 宴が始まった。
人々は飲み、笑い、歌い、踊る。
赤い炎は闇夜を焦がしながら燃え盛る。それはまぶしくさえあった。



チョッパーは負傷者の手当てに忙しく、ウソップを助手役に、野戦病院代わりの遺跡に缶詰状態だった。
ナミとルフィは飲む前からできあがって、先陣切って踊るわ歌うわ。できれば他人のフリをしたいほどの羽目の外しっぷりだった。
「ナーーーーミすわーーーーーんvvもっと踊ってぇーーーーーvv」
ハートマーク飛ばしまくりで声援を送るコックも、できる事なら他人だと言いてぇところだ。
俺とロビンは、素面じゃ流石にあそこまではできねえ。ナミにメロリンラブのコックと3人、空島の酒と食い物を堪能していた。
ふと見れば、炎の向こうにシャンディアの戦士達がいる。
バズーカぶっ放してた刺青のやつはまだ寝込んでいるが、ほかのやつらは大方揃っていて、スカイピアの住人たちとも 仲良く話したり、酒を酌み交わしたりと傍から見ても和やかなムードだった。
あの分なら、これから仲良くやっていけることだろう。
「おいゾロ見ろよ、あのゲリラのお姉さま方♪」
コックがうれしそうに耳打ちしながら炎の向こうを指した。
「あ?」
「揃いも揃って美女の上に、肌も露に上半身なんかトップレス同然じゃねえか……スカイピアのエンジェルちゃん達も可愛いけど、 アレもなかなかイケるぜ?」
「……確かに」
戦ってるときは気にしちゃいなかったが、言われるとそうだ。
モヒカンにサングラスのあの女なんか、首に巻いてるふさふさしたやつ、ちょっと揺れたら……丸見えだ。
腰蓑は……その短さは反則だろう。……いや、座ると中身見えちまうっつぅの。
「美女はモヒカンになっても美女なんだよなぁ♪ あの帽子のお姉さまなんか、おっぱいでっけぇよなぁ?」
その隣には俺と戦った、目深に帽子を被った、腰から銃を下げた女がいる。ジャケットは羽織っただけで、半分以上胸は見えてた。
コックの言うとおり、……確かにでかかった。
「……乳首まで惜しげもなく丸出しだぜ? サービス満点だなぁ、おい、ええ? 背中に羽までついてよ、まるでイメクラだぜ? 天使プレイってか? なぁゾロ」
「……そういうところは目ざといなお前……」
ったく、このエロコックは……鼻下30センチ伸ばしやがって……ろくなこと考えねえな。
とかなんとか言いつつも、言われるとつられて見てしまう19歳男子の悲しい性。
天使プレイはともかく、ありゃ目のやり場に困るのは確かだな……。
っつうかぶっちゃけ……目の保養だ。
「あら、あの女性戦士の格好を色目で見るのは失礼なのよ?」
側で飲んでいたロビンが釘を刺す。
「あぁ?」
「シャンディアの世界じゃ男より女のほうが偉いの。全てにおいて女性優位なのよ。結婚は入夫結婚が当然。彼らが崇拝する祖先の英雄・大戦士カルガラも女。
男の戦士より女の戦士が尊ばれ、あの肌が露な格好は、女性戦士として一人前の証拠なんですって。
一人前の女性戦士のみが、戦士たちをまとめる役割を担うらしいの」
「へぇ」
ってことは、あの帽子の女も一人前の女戦士ってことか?
「さっすがロビンちゃん、博学ぅ〜〜〜〜vv」
「さっき酋長さんに訊いたの。きわめて原始的な戒律だけど、青海でもそんな戒律を守る部族は途絶えて久しいわ。民俗学的にも貴重な話よ」
そういわれると色目で見るのは申し訳ねえ気もするし、さっきから男のシャンディア共はやたらと肌も露な『一人前の』女戦士どもに気を使い、 へつらっている
成る程、シャンディアってのは戦士としての序列がそのまま村での序列なんだな。
「青海に戻ったら、古い文献を調べて、似たような習慣を持っていた民族を探してみようかと思っているの。」
ロビンはふと腕時計に目をやり、あら、と小さくつぶやいた。
「もう時間ね。それじゃ私、長鼻君と交代してくるわ。」
ロビンがジョッキを置き、席を立つ。助手役は、皆で交代することになっていた。助手といっても、ある程度の知識のあるナミや ロビンと比べりゃ、俺やルフィはせいぜい使いッ走り程度だが。
「ああ、頼む」
「ロビンちゅわ〜〜ん! いーーーってらっしゃーーーい!!!」
投げキッスを送るコックに手をひらひらさせながら、ロビンは野戦病院代わりの遺跡の建物へと入っていった。
「……女性戦士として一人前、か」
確かに、あの帽子の女、名前は知らねえがかなりの腕前だった。射撃の腕前は、ウソップより正確だったかもしれない。
銃を武器にする奴とは、下の海でも……海賊狩りと呼ばれていた頃にも数多く相対したが、あそこまでの腕前の奴はいなかった。 新しい技……煩悩鳳を開発していなければ、やられていただろう。
考え事をしたあとでふと向こうを見やれば、あの女はいつの間にかいなかった。


「お前、ゾロっていうんだろ?」
頭上から降ってきた声に振り返って仰ぎ見ると、いつの間に来たのか酒瓶を持ったあの女が立っていた。
「あァん♪ 誰かと思えばゲリラのお姉さまン!」
瞬間目をハートにしてメロリンラブになったコックをいささか怪訝そうに一瞥し、女は酒瓶をちょっと掲げた。
「お前……」
「俺の名はブラハム。一杯どうだ?」
「お、悪ィ」
ジョッキをあわてて飲み干して差し出すと、ブラハムは俺の傍らに跪き、丁寧に酒を注いだ。
「……」
戦士達を纏める一人前の女戦士が、男に手ずから酒を注ぐ様を、炎の向こうにいる他のシャンディア達が不思議そうに見ている。
ブラハムって名前だったのか。
間近で見ると、結構いい女だった。落ち着いた感じで、俺より4つか5つ上って感じだな。
天然なのか、緩やかなウエーブのかかった長めの黒髪に、瓜実顔。
ナミやロビンのように化粧の匂いはしない。代わりにするのは物騒な硝煙の匂い。
ジャケットの下、半分以上見えている胸は……かなり大きめで、色白の肌はむちゃくちゃ柔らかそうだった。
その……肌も露な女が側にいるっつうのは……なかなかドキドキするモンで……。
ロビンの言った、色目で見るのは失礼だ、っつう言葉が脳裏をよぎるんだが……分かっちゃいるんだが…… やっぱり……見ちまうんだよな。
『ナミよりでかいか……? ロビンよりは……いや同じくらいか…』 生で女の胸を見るのは正直初めてだったから(悪ぃか!)、サイズは踏めねえが……結構いい線いってるぜ? この胸……。 真っ白で、すっげえ柔らかそうで、でっかくて、谷間がちゃんとあって、重力に逆らってつん、って上を向いて。
ちらっとみえた先っぽはピンクで。
―――あの谷間に顔を埋めたら。
むんずっ!! と思いっきり掴んだら。
ちゅっ、と吸い付いたら。
……どうよ? 多分……最高だろう。
『って俺は何を脳内妄想繰り広げてんだよ!! 本人目の前に!!』
一人突っ込みを入れつつも顔が火照っちまう。……やべ、勃っちまいそうだ……。
ドキドキするのを隠しながらも尚ブラハムを見ると、そのかなり大きめな胸の下から腹にかけて、俺が斬っちまったところを包帯で巻き、 痛むのか跪くときもそこを一寸庇っていた。
……女相手にちょっとやりすぎちまったかな、と思う。
いくら殺るか殺られるかだったとはいえ、なんていうと、またあの海軍のパクリ女は声を荒げるんだろうが。
「ゾロ、酒入ったぞ?」
「あ、悪ぃ」
言われて我に返った。
ジョッキから酒が溢れんばかりになってい、慌てて口をつけた。
「ブラハムお姉さまぁン、俺にもお願いしまぁーーすッvv」
「あ、ああ、どうぞ……」
コックのハイテンションに引き気味になりながら、ブラハムは恐る恐るといった感じでコックのジョッキにも酒を注いでやった。
「なあ、ブラハム、……」
「ん?」
「それ、痛くねぇか?」
腹を指差して、恐る恐る尋ねる。
「ああ、これか?……結構効いたぞ」
「げ……やっぱり……」
「でも別に怪我は慣れっこだし、お前のところのたぬきの医者が青海のいい薬を塗ってくれたから、大分痛みは退いた」
「そうか……(ってチョッパーはトナカイなんだが)、悪ぃことしたな」
「いや、お互い様だ」
にこ、っと笑うと健康的な白い歯が見えた。
「あぁん!? クソマリモ手前お姉さまに何したァ!!!??」
俺達のやり取りにコックが血相を変えて割り込んでくる。
「何って、……コイツの腹、俺が斬っちまったんで、」
「斬っちまった?? ぬわぬぅにぃ!!!?? 手前は男の、いや人類の風上にも置けねえやつだ!! よりによってレディーに刀を振るって 怪我までさせちまって斬っちまったと抜かしやがるかこのクソマリモ!! 今からでも遅くない、ウワバミの餌になれ!!!」
「んなこといったってしょうがねえだろ!! 殺るか殺られるかだったんだ!!」
「そういうのを言い訳がましいっつってんだよ!!」
「あァん!? やるのかコラ!!」
俺の言葉に、コックもカチンと来たようだった。
「やってやろうじゃないか……吠え面かきやがれ」
「はン、その言葉そっくりお返ししてやらァ」
言われて黙っている俺じゃない。売られた喧嘩は買う主義だ。
「ちょ、ちょっと、やめろって!」
一触即発のムードに、慌てたブラハムが俺達の間に入る。
「ゾロも言ってるだろ、あの時は仕方なかったんだから、」
「お姉さまは下がってて!! 女の敵は俺がやっつける!!」 コックがブラハムを退かせ、俺の胸倉を掴む。……いい度胸だ。
「女の敵は手前じゃないのかラブコック? あぁ!? この万年発情期!! 望むところだ!!」
「うるせぇクソマリモ!! 雲の雫になっちまえ!!」 「待てって……言ってるのにッッ!!!」

―――ゴ ン ! !
 

とんでもねえ音がし、俺の胸倉を掴もうとしたコックが吹っ飛んだ。

―――ドサッ。
「あ……」
ブラハムが、酒瓶をサンジの後頭部にジャストミート。
「……人の話はちゃんと聞け。」
酒瓶を振り下ろしたその顔はむっとしていた。
「……強気…な、お姉様も……素敵だぁ……」
―――がくっ。
あーあ。気ぃ失いやがった。
「……おーい、……大丈夫かぁ……傷は浅いぞぉ」
指でつついてみたが、……当たり前だが息はあるな。
ま、エネルの雷に比べりゃな。
「……ったく、こいつは本当にチャッカマンだな」
気ィ失ってる間にお花畑見て頭冷やせっつーんだ。いい気味だ。
「悪ぃな、ブラハム。こいついつもこうなんだよ」
「いや、別に気にしてない。起きたらそのメガネさんに謝っといてくれ。それじゃあな、ゾロ」
「お、もう帰るのか」
「ああ、またな」
ブラハムは酒瓶片手に元いた場所へと戻っていった。
「……またな、か……」



キャンプファイヤーの匂いや宴の喧騒、酒の匂いがだんだん遠ざかっていく。
代わって森の中のひんやりとした空気と、遺跡の放つ、古いもの特有の匂いに包まれる。
お花畑で反省中のコックを残し、小便、と思って一人森の中に入って来たんだが……。
さっき生まれて初めて見た女の裸の胸が、頭ン中ちらちらして仕方がなかった。
あんな美人の。あんなでっかい。あんな白い、あんな柔らかそうな。
『……結構、来るぜ……』
あんないいもん見て、大人しくしてられるかってんだ!
誰もいないのを確認し、茂みの中に入って……膝立ちになった。
早くも息が荒くなり、心臓が早鐘を打つ。
脳内にちらつく女の裸の胸。真っ白で豊かで、柔らかそうな胸。
『色目で見るのは失礼なのよ?』という、ロビンの言葉なんかくそ食らえってんだ。
空島じゃそういう習慣なのかも知れねえが、青海じゃあ……ありゃ立派な男の夜のおかずだ。
ジーンズから取り出した相棒はしっかりビンビンでガッチガチ。先っぽからぽろぽろ先走り垂らして、……身体は素直だ。
大きく息をつき、目を閉じてゆっくりとそれを扱く。
「……ッ、ハァ……ゥ、ッ」
ブラハムのあのでっかい胸に吸い付いて。顔を埋めて。好きなだけこねくり回して、揉みまくって、……。
「……あ、ッ……アア、」
触れたこともないその胸を好きなようにする光景を思い浮かべると、テンションは嫌でも高まっていく。
扱く手は早くなり、相棒はますます固くなり張り詰めていき、目の裏で白いものがちかちかしてくる。
あの長いスカートの中身はどうなってるんだろう。
肌は白かったから、きっと脚も尻も真っ白で、胸と同じように豊かだろう。
下着……シャンディアの奴らは何穿いてんだ?
妄想は次第と加速していく。
思い浮かべるだけでは飽き足らず、脳内で俺はあの女を犯していた。


『いやぁ……!! ゾロッ、やめろ……!!』
『あァ? ここまで来てやめられるかっつんだ!! 大人しくしろ、ッ』
抵抗しながら半泣きのブラハムを押し倒して、ジャケットを脱がし、スカートを引き摺り下ろす。
妄想ってのはこんなとき手軽でいい。頭ン中じゃどうにでもなる。知り合ってすぐの女さえ、自由になるんだから。
『物騒なもんは、こうしてやる・ッ!』
両脇に挿した銃を奪い取り、遠くへ投げてやる。
『あ、駄目!!』
銃を取り返そうと、俺から逃れようとするその身体にしがみつき、頬を一回、バチンと大きく平手で打つ。
『大人しくしろッつったろ!』
一瞬、抵抗を止めた身体をすかさず組み敷く。目の前には真っ白の胸、噛み付きたくなるほどたっぷりとした太腿。
無理やり開かせた脚の間には髪と同じ色の茂みがあって、その奥に息づくのは女の秘めたる部分―――……
『ゾロ、いやァ――――ッ……!!』
必死の抵抗もむなしく、俺は妄想の中、ブラハムの中に己自身を突き刺した。

擦る手の速さは最速で、もう限界に近かった。
「ア・あ、ブラハム、ブラハム・ッ……!」
俺は相棒を扱きながら、うわ言のように奴の名前を呼んでいた。

その時だ。



「……呼んだ?」


耳元で、声がした。
確かに。
女の。
声が、した。


「ゾロ、俺のこと呼んだ?」
もう一度、女の声がし、俺ははたと我に返った。
「……あ……?」
扱く手を止め、ゆっくりと目を開ける。すると、俺の目の前に…………。
「………ブラ、ハム……ッ!?」
少しかがんで俺を覗き込むブラハムが。
俺のすぐ目の前に、いた。
俺が自慰の材料にしていた、ブラハムが。
―――ちょっと待てよ。何でコイツがここにいるんだ?
余りに突然のことに、俺の頭ン中パニック状態だ。
確かに誰もいないのを確認して始めた筈だ。なのに何だってよりによってこいつが、それも目の前にいやがるんだ?
「ゾロ、何してる?」
ブラハムはにや、っと不敵な笑みを浮かべると、呆気にとられ、相棒を握ったまま硬直している俺に……一歩踏み出し、 肩に両手を置き、そっと、柔らかい唇を俺の唇に当てた。

初めての、キスだった。



物事の始まりは、いつだって突然だ。
決して待ってはくれない。あれよあれよという間に、流されるように。
戦いに巻き込まれたときも、今も、そうだった。俺は確かに一人で、周りに誰もいないのを確認して自慰を始めたってのに、なんだって アイツ……ブラハムが……俺が妄想の中、犯していた女がいきなり俺の目の前に現れるんだ?
「ゾロが森の中に入っていくときから、ずっと後つけてたんだぜ?」
俺の肩に手を置いたまま、ブラハムは俺の心の中を見透かすようにそう言った。
「最初から、ずっと見てたぜ?」とも言った。
そう、ブラハムに見られてたんだ。俺は。
ブラハムを思い浮かべて、自慰をする様を。
最初から、全て。


「……ッ、ブラハム、何しやがる……!!」
「何って、ゾロがしたがってた事をしてあげてるんじゃない?」
押し倒されたのは俺。組み敷かれたのも俺。
妄想とは逆だった。
突然の登場に呆気に取られていた俺を、ブラハムはいとも簡単に押し倒し、組み敷いちまった。
つっかえて邪魔な3本の刀を、ブラハムは茂みの向こうへと放り投げた。がちゃん、と音がした。
下半身丸出しの情けない格好のまま、俺は楽しそうな顔をする女の下にいた。
「くそ、ッ……!!」
抵抗を試みたが、……何だ、これ……腰にちっとも力がはいらねえ……!
手も脚も自由にならねえし……起き上がれねえ……おかしい、何だってんだ……?!
「薬が効いてるから、無駄な抵抗は止めたほうがいいぜ?」
「……薬……?」
「そう、薬。」
ブラハムは楽しそうに笑う。
薬? なんか飲まされたのか? ……そうだ、さっき、あのキスのとき……一瞬だけ、苦い味が口ン中広がって、でもすぐに消えた……。
畜生……!! 思ったときにはもう遅かった。
俺の上にいるブラハムが、動かぬ身体で必死に抵抗を試みる俺の耳元に口を寄せてくる。
「ゾロ、俺のこと思いながら一人でしてたんだろ?」
「ッ、てめぇ…ッ!」
「俺の名前、呼んでただろ?」
見られていたことの恥ずかしさに、どくんと心臓が跳ね、顔が火照る。
「さっき酒注ぎに行った時、すっごいやらしい目で見てると思ったんだ……今夜のおかずにするぞ、って目で……」
「……く、……ぅッ」
「胸の辺りとか、じろじろ見てさ……」
「ブラハ、ム」
「そんなに女の胸が珍しい?」
気付かれてたのか……ブラハムに。
色目でコイツの胸を見ていたことを。
「……言ってくれれば、させてあげたのに……」
耳朶を舐め上げる、ブラハムの熱い舌。その感触に、ぞくりとしたものが背筋を走る。
手をとられ、ブラハムの胸に押し当てられる。
「ホラ、これ触りたかったんだろ?」
「……ッ…、あ……」
ふに、っとした胸。ブラハムの、胸。
妄想の中、思い描いた感触よりもそれは更に柔らかく、例えるならマシュマロのような感じだった。
此の世のものとは思えないその、どこか淫らで優しく暖かな感触に、俺は抵抗することを…………止めた。
「……好きなだけ、触らせてやる……あ、ッ……」
ブラハムは、取った俺の手で己の胸を弄った。少し硬い先端に触れさせ、全体をやんわりとなで上げる。
感じる箇所……特に先端に触れると、ブラハムが恍惚とした表情を浮かべる。余程いいのか、何度もそこに触れさせる。
「ゾロの手、ごつごつしてる……」
「…………」
自由を奪われた俺は、されるがままにその感触を味わった。否、そうするしかなかった。
初めて味わった女の胸の感触は、余りに甘美なものだったのだ。
ブラハムは俺の手を使い、胸だけでなく首筋を、鎖骨を撫でていき、うっとりとした顔で快楽を味わっていた。
女の身体は、胸だけでなく首筋も、どこもすべて柔らかく、滑らかだった。ほんの少しだけ力を加えれば、 折れてしまいそうだ。こんな柔らかい存在が、此の世にあるのか。
こんな柔らかい身体で、物騒な銃を扱い、俺と互角に渡り合ってたってのか。
「……あ、ゾロの、すっごい大きい……」
ブラハムがふと俺の下半身に眼をやる。
自由は利かないが感触はある。触れた女の身体の柔らかさに、そしてこの少し倒錯的な行為に、丸出しの相棒は真上を 向いてそそり立っている。
「ん、……美味しそう」
「……ブラハム、ッ」
俺の手を離すと、ブラハムは下へと移動し、俺の相棒を……手でくるみ、口に含み、愛撫を始めた。
「あ・ぁあああ、ッ!!」
口腔の、暖かくぬめっとした感触。頭の部分を丸ごと呑まれ、ふぐりをやわやわと揉まれ、堪らず声を上げた。
(コイツ、馴れてやがる……!!)
裏筋を舐め上げ、頬を寄せ、鈴口やカリを重点的に責め上げる。
竿を上下に何度も往復し、根元をゆっくりと扱く。手馴れた動作。経験のねえ俺が言うのもなんだが、 ブラハムは、男のいいところを知り尽くしていやがった。
(……コイツ……!)
いちいちダイレクトにポイントを付かれ、俺は始まってからほんの数分もたたぬうちに、限界を迎えようとしていた。
「う、ッ……ブラハム、ッ、駄目だ、出しちまう……!」
「いいぜ、好きなだけ出して……」
「ア、あ・ああああ―――――ッ……!!!」
目の裏でフラッシュが光る。まるでコイツがぶっ放すあの銃のように。
どくん、と大きく下半身が脈打ち、一点に全神経が集中する。えもいわれぬ開放感……。
「……ん、くぅ……」
ブラハムは俺が出したものを、ごくりと嚥下した。旨い酒を飲み干すように。
「……あッ……、」
初めてされたフェラチオ。手馴れた女に翻弄され、それはあっという間だった。
「ん、ゾロの濃い……」
口元を拭いながら半身を起こし、ぺろ、と舌なめずりをする。
一度出した位じゃ収まらねえ相棒はまだ固さを保ち、もっと刺激を欲しがり、更にピンと反り返る。
「ゾロのって元気……」
ブラハムはそれを見、まるで子供を可愛がるように相棒の頭を手で撫でた。そして立ち上がり、 スカートに手を掛ける。
「……ブラハム……?」
俺は目を見張った。きゅ、とベルト代わりの紐をはずす。すとん、とスカートが地面に落ちた。
妄想と寸分違わぬ、豊かで真っ白な脚と尻。髪と同じ色の茂みがその下にあった。


妄想の中じゃ、俺がブラハムを犯してた筈だ。
けれど現実はどうだ? 犯されているのは俺のほうだ。ビンタの一発こそないものの、飲まされた薬のせいで 抵抗もかなわねえ……情けねえ位、主導権は全てあの女に握られ、俺はされるがままだった。
「う、ああああああああッ……!!!」
めりめりと、裂けるような音を立てながら、ブラハムの女の部分が俺自身を飲み込んでいく。
それは口とは比べ物にならないぬめりと蠢き。別の生き物に、すっぽりとくるみこまれたような感覚。
その感覚に、頭が蕩けていく。何が何だか、分からなくなっていく……。
「はぁ、……ッ、おっきぃ……」
ブラハムは仰け反りながら俺の上で腰を落として行った。ゆっくり、根元まで飲み込む。
「ゾロ……お前、初めてだろ……?」
「……ッ、悪いか……」
「全然……悪くはない。俺は寧ろ、そっちの方が好きだぜ?」
小悪魔的な笑みを浮かべ、キスをくれた。
ブラハムは俺の手をとり、たっぷりとした太腿と真っ白で冷たい尻を撫でさせながらゆっくりと腰を使い始めた。
「あああ、ッ……はぁ、あ、ん、ふぁ……ああ、」
俺の上で、前後に、上下に、ブラハムの身体が揺れる。そのたびに俺の相棒は刺激され、フェラチオとはまた違った、 比べようのない快感に襲われた。
頭が蕩けるほど気持ちいいのなんて生まれて初めてだ……!
コックがあれだけ女、女と口癖のように言い、女におべっか使ってまで取り入ろうとしてる理由が、ようやく分かった。
気持ちよすぎだ……何にも、考えられなくなっちまう……。
女の身体ってのは、柔らかいだけじゃなかった。こんなにも気持ちがいい。
もっともっと、欲しくなる……。
「ん、ゾロ……っ、ああ、ん、あ、」
ゆさゆさと、目の前で揺れるブラハムの大きな胸。帽子を被って半分しか見えねえが、 整った瓜実の顔は紅潮し、口は開いて、俺の名と共にあえぎ声を漏らしている。
ブラハムは腰を使い、俺自身を刺激する。その度に粘った水音がして、いやらしさに輪を掛ける。 ブラハムは俺の手を、太腿やら尻やらに導き、撫でさせて更に快楽を煽る。
そのすべすべとした感触は、噛み付きたくなるほど……食い千切りたくなるほど極上のものだ。
「ゾロ、……ッ、いい、あ、凄い……いい、ッ!」
「ブラハム、ブラハム……ッ」
いつしか俺も、奴の名を呼んでいた。
自由がきかねえのが口惜しい……自由が利いたら、下手糞と罵られようと、思い切り突いて突いて、突きまくってやりてえ……!
妄想と同じように、泣かせてしまいたい……!
「ああ、駄目、駄目、も、あ、……ああ、やぁ……!!」
ブラハムの腰がいっそう激しくなり、大きく弧を描く。
それと共に、繋がっている部分は熱を帯び、俺の息と鼓動を加速させ、一気に上へと引き上げていく。
妄想は所詮妄想でしかなかった。現実の快楽には、適いっこねえ。
快楽という言葉は、この行為のためにあるのだろう。
つま先まで、指先まで、髪の先まで……気持ちいい―――……!!
「あ、ゾロ、ゾロ、やぁ、あ、イク、イク、あ、ああああ……―――!!!」
「ブラハム、ブラハム……ブラ、ハム……ッ、ア、ああ・っ!!!!」
半瞬だけ先に、ブラハムが達した。ぎゅううっと、俺自身を締め付ける。次の半瞬、内壁に搾られた俺自身は、 中―――そう、俺はブラハムの中に……二度目の、そして全ての精をぶちまけた。




目を覚ますと、身体の自由が利くようになっていた。
同じ場所。茂みの中に、俺は仰向けで寝ていた。 起き上がって辺りを見渡す。衣服は整えられ、刀も側にそろえて置かれていた。
「あ、……?」
夢……かと思った。いや、夢じゃねえ。
俺のすぐ傍らで、ブラハムが後始末をしていた。
「起きたのか?」
こともなげに言う。あれだけのことを、していながら。
「ブラハム、てめぇ……!!」
醒めた後に沸きあがるのは怒りと恥ずかしさ。年上とはいえ、女に薬を盛られ、組み敷かれ、いいようにされちまったんだ……!!
「気持ちよかっただろ?」
奴はおどけて言った。――瞬間、カッと頭に血が上る。
「こんの……!!」
「おっと、」
一瞬だった。
俺が傍らの刀を取るより一瞬先に、奴の冷たい銃口が俺の額に突きつけられていた。
「う、っ……!」
柄に手を掛けようとする動きが止まる……止めざるを得なかった。
「いい思いしといて、切りかかるのが礼儀?」
「てめえ……!」
「狙われてたことに気付かないほうも、悪いんじゃないか?」
「……あん?……狙ってた?」
ブラハムが銃を下げた。
「神官たちとの戦いのときに、ゾロを一目見たときから……欲しかった。あの戦いで俺が勝ってたら、 連れ出してその場で喰っちまうつもりだったんだけど、負けちまったから……チャンスを狙ってた」
「……それで跡付けてきたってのか……?」
「そう……一人になるのを、待ってたんだ」
ふふ、とブラハムは笑い、銃を仕舞った。
「……狙われてたのかよ……」
クソ、……全然気付かなかった……。
「手も足も出なかったのが悔しいなら、リベンジ、いつでも受けて立つけど?」
「……あ?」
「じゃあな、ゾロ。……初めてにしては、なかなかだったぜ?」
俺の額にキス一つ落とし、ブラハムは手をにぎにぎさせながら、去っていく。
「………じゃあなじゃねえよ……」
童貞喪失はセンチメンタルな思い出だなんて、誰が言い出したんだ。
ひたすら情けなくて痛いだけじゃねえか……感傷のかけらもねえ。
「くそっ……」
このままやられっぱなしでいいわけ……ねえな。
黙っていられるほど、俺はガキじゃねえ。
『受けて立つって言ってたな……リベンジ、してやるか……?』
抜ききれない薬のせいで朦朧とする頭を振り、ふと思う。
妄想の中のように、今度こそあの女を。
泣かせてしまいたい。無茶苦茶に、してやりたい。
立ち去っていくあの女の後姿を、俺は睨み付けた。


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