『罪と雨』 





ふと自分の位置を確認したくなるのは、最後に確かな言葉を得たいから。
「……ロロノア、聞いてもいいですか」
「何だ」
固い安宿のベッドは、二人が背中合わせで眠るには、ほんの少しだけ狭かった。
「私がもしも、あなたの幼馴染に似ていなかったら、あなたは私を気にも留めず、
通り過ぎてしまったでしょうか」
窓の外は、ほんの半時間ほど前から雨が降っている。
「そうだな……通り過ぎて、気にも留めなかったかもしれねぇな」
「…………そうですか」
包み隠さない性格のロロノアは、時に残酷な言葉を口にする。
予感はしていたけれど、明確な言葉は当たり前のことだけれど心に突き刺さる。
「きっかけは確かにお前が俺の死んだ親友に似ていたからだ。
だからお前が気になった。けどな……」
布の擦れる音がし、ロロノアが寝返りを打って、そして……。
「あ、」
力強い腕が、後ろから私を抱きしめる。
「……そこから先は、お前の領分だ。いくら顔が似ていても、アイツとお前は他人だ。
"お前"だから、俺はお前を、抱いた」
「…………」
「例えばくいなが今生きていたとしても、俺は絶対アイツとこんなことはしなかった。
それは、断言していい」
「ロロノア、」
「お前だから、……こうしている。分かるか」
耳元で、ロロノアは力強く言った。
私に言い聞かせるように、そして同時に、自分自身に言い聞かせるように。
「分かります……すみません、変なことを聞いてしまって」
回された腕の力強さと、背中に押し当てられた前半身の熱さは、
ロロノアの気持ちに一分も嘘がないことを物語っていて……。
これからロロノアに嘘をつこうとしている、自分の狡猾さが嫌になる。





「……んぁ……ッ」
脚の間に滑り込んでくる、熱いロロノアの左手。
「ロロノア、ッ」
まだ先程の余韻の残るそこへ、無遠慮に割り込んで、残っている熱を引き出してゆく。
「まだ欲しいだろ?……、」
熱い吐息が、私の聴覚を犯す。
ロロノアの左手は、私の敏感な部分を弄り、右手は私の貧しい胸を、思うが侭にこね回す。
「足りないだろ、たしぎ、……ッ」
「ロロノア、だ、……ぅッ」
駄目、といってどの程度の抵抗になるというのだろう。
言葉を飲み込み、ロロノアのなすがままに、流されるままに流されてしまう。





今夜が、最後なのだから……。




今夜限りで私はロロノアともう会わないと決めた。
最初から、いつまでも続く関係ではないと、互いに分かってはいたけれど。




終わりは意外な形で訪れた。
『……たしぎ。お前、結婚する気は無いか?』
1ヶ月前のある朝、スモーカーさんが一枚の写真を持ってきた。
『えっ、け…結婚、ですか?』
突然のことに面食らったのは、いうまでもないことだった。
海兵として、まだまだ下っ端の私の頭の中に、そのようなことは全く考えに無かったのだから。
『一昨日、上から呼ばれてな。お前にどうかと言ってきたんだが……勿論、嫌なら断っていい』
『……はぁ……』
手渡されたのは、真面目そうなある将校の写真だった。
『士官学校を主席で卒業、将来をかなり嘱望されているらしい。
俺も何度か会ったことがある……口数は少ないが、真面目で裏表の無い、いいヤツだ。
ああいうヤツが出世して軍の中枢を担うなら、海軍の未来も明るいだろうよ』
『…………』
『とはいえ、……最終的にはお前の気持ち次第だがな』




ロロノアとの関係をいつまでも続けるわけにも行かず。
かといって別れの言葉など口に出来る筈も無く。
海兵として、女として。
狭間で揺れ続けていた私にとって、それは大きなきっかけだった。
『……スモーカーさん、……あの、私……この方とお会いしたいのですが』
『……あ?』
『ですから、あの、……このお話、お受けしようかと……』
『本気か? たしぎ』
『はい、……』
スモーカーさんは、私が断るとばかり思っていたらく、とても驚いていた。




そして、写真の人と私は会った。
スモーカーさんの言葉どおりの、朴訥だけれどとても真面目な人だった。




"いつまでも、ロロノアとの関係を続けるわけには行かない。
私は海兵で……彼は海賊で……"
揺れ続け、それでも思いのままに流されていた私は、
ふと現れた岸辺に手を伸ばした。





彼と会ったその日に、私は全てを決意した。




"この人と、結婚しよう"
"ロロノアとは、次に会う日を最後に、もう会わない。"




組み敷かれ、熱い舌と手が、全身を余すところ無く愛撫していく。
「ぁあ、……ロロ、…ノ、」
興奮に尖った胸の先端に吸い付かれると、頭の中が混乱してしまう。
ちゅぅ、と音を立てられると、羞恥に背筋がぞくぞくする。
「んぁ、も、…っと…」
はしたなく腰をくねらせ、ロロノアの愛撫をもっと求める。ロロノアの手は私の中を、
粘った音と共にかき回していく。
「すげぇな……たしぎ、締め付けて離れねぇ……」
「ぃ・あぁ…ッ!……」
ロロノアに抱かれるのは、今夜が最後なのだ。
勿論、ロロノアはそのことを知らない。私は何もロロノアに告げていない。
口にすればきっと引き止められるだろう。そして決意は、揺らいでしまうだろう……。
別れを頭ではわかっていても、身体は素直で……名残を惜しみ、
離れたくないとばかりに、私の内部はロロノアの手を締め付ける。
快楽に翻弄されれば、無意識にはしたない言葉を口にする。
「ロロ…ッ、ぁあ…もっと、もっと…し、て……ぇ…ッ!」
「たしぎ、…」
求めに応じ、ロロノアはより強く私の胸に吸い付き、中を一層大きくかき混ぜる。
私の意識そのものをこの体から引き出そうとするほど……。
「……ッ、たしぎ……!!!」
「あ・アアア―――っ……!!!」
乱れる私の姿に、ロロノアの我慢も限界を超えた。
絶頂に達しようとしたそのとき、ロロノアは自身を私の内部に突き立てた。
熱い熱い、焔の様な彼自身を。
「たしぎ、たしぎ、た、しぎ……ッ!」
眉根をよせ、狂ったように私の名を呼びながら、ロロノアは突き上げを繰りかえす。
手とはまるで比べ物にならないその熱さと激しさに、一度醒めかけた意識は、
今度こそ本当に頂点へと引き上げられる。


「ぁああ……、ロロノア、ロ、……ゾロ、ゾロ、ゾ、ロ………ッ!!!!!」




―――愛しい人の名を呼びながら、私は果てた。
次の瞬間、ロロノアが私の中に欲望の全てを放出した。




けだるさの残る身体を起こし、隣で寝息を立てるロロノアを起こさないように、そっとベッドを降りた。
眠りに落ちる前、腕枕の中、次もまた会うことを約束したけれど……。
『また、会えるよな? 次の港に着くのは二ヵ月後だ』
『ええ、……また、次の港で……』
……もう、私はロロノアとは会わない。
次の港にロロノアの船が着く頃、私はロロノアではない人の、妻となっているのだから。
ロークダウンから遠く離れたノースの、小さいけれど活気のある島で新しい生活を始めているはず。
「さようなら……ロロノア」
面と向かって別れの言葉を言えない私は、なんて狡くて弱虫なんだろう。
「……航海の無事を……願っています。どうか、世界一の剣豪に……」
頬にキスをした。最後のキスを。
そしてロロノアの名残の残る身体を引き摺り、宿を出た。




外へ出ると、雨は相変わらず降っていた。
「……雨……」
傘は持っていなかったけれど、今更買いに寄る時間の余裕なんて無い。
朝一番に東の港から出る、ロークダウン行きの船に間に合わなくてはいけない。
大通りを急ぐ私を、雨は容赦なく濡らした。
『ああ、……あの日もこんな風に雨が降っていたっけ』
ロロノアと、初めて会った日も。



ふと、胸が痛んだ。
締め付けられるように痛くて、……それが辛さだと気づいた。
辛いことだけ全て雨が流してくれるだなんて、歌ったのは誰だったか。
―――流してなんかくれない。この辛さは、私の罪。それはいつまでもいつまでも、
私を責め続けることだろう。
何も告げずに、ロロノアの前から去った私を。






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