『いけないことだとわかっていても』
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……長いキスだった。
息継ぎの為に離れた唇を、一瞬追いかけようとする武君の仕草に私が小さく笑ったら、武君がもっと、と言った。
「もっと？ もっと、キスしたいの？」
私の問いかけに、武君は頷いた。
「……はい、もっと……したいです」
余裕のない声だった。まるでキスをしないと呼吸が止まってしまうとでも……。
武君の真剣な眼差しに、私も頷いて背伸びをして、もう一度武君の唇に自分の唇を押し当てる。
腰に回されていた力強い腕が、私のパステルカラーのエプロンの紐を解いた。
「いいでしょ？ 奈々さん。……俺もう、さ、」
ね、と、武君の手が私の腰を抱き寄せる……お腹の辺りに武君の下半身を感じた。
ああ。
もう熱く固くなっているのが数枚の布地越しに分かった。
「いいけど―――でも、ちょっとだけよ」
昨日もした。一昨日も、その前の日も……。
毎日、武君はこの家に来て、―――それもツナの居ないときに。そして私と会って、する。
それは誰にも言えない、秘密の関係。
いけないことだとわかっているのに、会うのを止められない。
繋がることを、止められない。
ここはキッチンという名の、お料理を作る場所なのに。
セックスをする場所になっていた……私と武君の間では。
後ろを向かされ、ステンレスのシステムキッチンの台に上半身を伏せ、スカートを、捲り上げられた。
……ステンレスの冷たさが心地良い。
後ろでカチャという、ベルトを外す音がし、続いてジッパーを下ろす音が。
待たされている、この僅かな時間。柄にも無く、心臓が早鐘を打つ。
いけないことをしているという気持ちと、でもその快楽におぼれたいと思う気持ちが混在していて。
ちょっとだけよ、と、さっき言ったけれど。
セックスに少しも沢山もないわよね、と考えたらなんだか可笑しくなった……その時。
「あ、」
後ろから、いきなりショーツを下ろされて。
「ん・あ、あ、あああああ……ッ!!!!」
慣らしも濡らしもせず、いきなり熱い塊が、半ば強引に押し入ってきた。
「――ッ……、は……ぁ」
奥まで潜り込んで来ると武君は大きく息をついた。
「ちょ、武君……」
「すいません奈々さん、俺もう我慢とかできなくて……」
謝りながら武君は伏せた私の上に覆い被さり、投げ出した両手に自分の手を重ねてきた。
「前戯、しなきゃ駄目っすよね、やっぱ」
「……いいのよ、別に……」
経験豊富な大人の男と同じことを要求するほうが無粋だと思う。この場合は。
「でも、ちょっと痛かったから、だから……ゆっくり動いて……」
「あ、はい」
そしてその格好のまま、武君がゆっくりと腰を動かし始める。
最初はただ擦れて痛いだけだった自分のそこは、やわやわと潤滑のための体液を分泌し、
痛みを確実に快楽へと変えていった。
「あ……ぁ、」
自分でも信じられないような甘ったるい声が出てくる。
私の肩口に後ろから顔を埋めた武君の息は荒く、甘ったるい私の声と重なり合ってキッチンに響く。
下からはじゅぶじゅぶと生々しい音が……酸性の匂いを伴って耳に届く。
いけないこと。
これは、いけないことなのよ。
年の差とか年の差とか年の差とか。
心で幾らそう思っても、……身体は言うことを聞かない。
だって、好きなんだもの。
だって、繋がりたいんだもの。
単純な欲望と抑えきれない恋心は、秘密の関係をより深い場所へと自ら突き落とす。
「奈々、さ、ん、」
パンパンというリズミカルな音。
武君は絶え絶えになりながらも私の名前を、耳元で呼ぶ。
「……っあ……、あ……ん、ぅ……」
ああ―――駄目。ものすごく気持ちいい。
テクニックらしいテクニックはなくて、ただ若さと勢いに任せただけの彼のセックスは、
激しいがゆえに先が読めなくて、私はいつも翻弄される。
武君、と呼びたいのに、喘ぐ声しか出ない。
そしてこれがいけないことなんだと思うそのたびに、ゾクゾクとした何かが背中を走る。
重ねられた手も、入り込んではまた出て行く武君自身も、耳に掛かる息も何もかもが……熱い。
熱くて気持ちよくてそして―――息も出来なくなる。
「……ッくん、……たけし、く、あ、……ぁあああ」
最後はいつも、真っ白になる。
『ただいまー』
玄関の扉が勢いよく開いて、ツナの声がした。
「……続きは、明日ね」
衣服を整えて、人差し指を武君の唇に軽く押し当てる。
武君は床に座り込んだまま、丸めたティッシュの塊をゴミ箱に投げ入れた。見事ストライク。
「はい、奈々さん」
武君は頷くと立ち上がった。
やめられないし、止められない。
これがいけないことだと分かっていても。
（END)
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