『朝なんて、来なければいい』




花飾り、チョコレート、お揃いのチョーカー。
丸いテーブルの上に無造作に置かれた、たくさんの”二人だけの秘密”。



花飾り、チョコレート、お揃いのチョーカー。
二人だけの秘密に、また仲間が加わる。
星座の柄の便箋と、赤いペン。


逢瀬はいつも短い。



小窓からは月明かりが差し込む。
それは灯りを消した部屋の中、小さなソファで寄り添いあう二人を照らした。
夜は更け、もうすぐ日付が変わろうとしている。
「朝なんか、来なければいいのに……」
ミロの腕の中で、沙織は呟いた。
その呟きは恨みがましさと、悲しみに満ちていた。
時は待ってはくれない。一秒たりとも。
銀針は日付をあっさりと跨ぎ、”明日”になる。そして二人を分かつ朝が訪れる。
「ずっと、夜だったらいいのに……」
「アテナ」
消えそうな声で呟く沙織の長い髪を、ミロは優しく撫でた。
ミロもまた同じことを考えていた。ただミロがそれを口に出さないのは七つの歳の差と、仕える身分である己を弁えているからこそ。
アテナである沙織がこんなことを口に出来るのは、世界中でただミロに対してだけ。
ミロの腕の中でだけ。女神としてあるまじき発言であること位分かっている。
分かっていても、沙織は呟かずにはいられなかった。



朝になれば、女神と聖闘士の関係に戻らなくてはいけない。



花飾り、チョコレート、揃いのチョーカー。
星座の柄の便箋。赤いペン。
秘密は少しずつ増えていく。
「ずっとこのままいたい……」
ミロの胸で、沙織はまた呟いた。


(END)






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