『証し』




証しを頂戴。
私が貴方だけのものであるという証し。
消えない証しを。



貴方がくれないのなら、私が自らこの身に刻むまで。



「ねぇ、綺麗でしょう?」
ベッドの上、ドレスの裾をたくしあげて脚を軽く開いた。
ほらね、と私が指差した場所――左脚の太腿。 内側の付け根。
そこには一匹の蠍が這っていた。
「シールでもヘナでもないの。ちゃんと彫ったのよ」
まるで本物かと見紛うほどリアルな蠍が、私のヴァギナの方へ鋏を向けている。
「……タトゥーですか」
ベッドに腰かけたミロは、呆れと驚きの入り混じりがひと目で見て取れる、なんともいえない表情をしていた。
「そうよ、タトゥーよ……」
蠍の心臓の部分――アンタレス。そこにとびきりの赤を入れた。
「ミロ、どうしてそんな顔をするの?」
ミロの顔は浮かない。理由は分かってる。
「アテナ……それは一生消えないと承知の上でお入れになったのですか?」
「ええ、勿論。だって、消したくないから彫ったのに」
そう、消したくないから、この身に刻んだの。
貴方を愛していると言う証し。
私が貴方だけのものであると言う証し。
「……なんと申し上げてよいか……」
ミロはため息混じりに頭を掻いた。
でもこのくらいの反応は、想定の範囲内。
「お説教ならいらないわ。貴方の言いそうなことは大体分かっているから」
ミロの言いたいことくらいは予想がつく。
自ら進んで消えない傷を付ける人が何処にいるのです、とか。
普通の人間ならまだしも貴方は仮にも女神なのですよ、とか。




私はいつまでも貴女のお傍にいられるとは限らないのです……とか。



先回りでお説教を拒んだ私に、ミロは特大のため息を零した。
「―――アテナ」
「……何かしら」
「痛みは御座いませんか?」
「少しはね……でも、平気よ。黄金の矢はもっと痛かったもの」
「はは……」
ミロは苦笑いを浮かべた。



夜を共に過ごした証しは儚くすぐに消えてしまう。
キスマークなんていう鬱血の痕じゃ足りなかった。
明日にでも死が二人を分かったとしても、消えない証しが欲しかった。



貴方だけのものであるという証し。
誰が見ても、私が貴方のものであるという証し。





彫って日の浅いタトゥーはまだ少し痛みと腫れが残る。
でも、いいの。この痛みさえ腫れさえ、私には愛しい。
「貴女は時折突拍子もないことをなさる……」
私を抱き寄せたミロが呟く。
「ふふ……今更気付いたの? そんなこと」
「薄々気付いてはいたのですが……」



消えない証しを頂戴。
私は貴方だけのものなのだから。



貴方は気付いているのでしょう?
貴方もまた、私だけのもの。


(END)





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