『届かない願い』


手に提げた籐の籠には、来がけに摘んだ、溢れんばかりの野の花。
地中海を見下ろす高台にあるその墓地は、女神の為に戦い、その尊い命を終えた聖闘士達のための場所だった。
刻まれた名は苔むし、朽ちて読めないものもある。
一体何人がここに眠っているのか、それさえ分からない。
見渡す限り、一面に広がるむすうの墓標。



まだ真新しい一つの墓標の前に、ムウは跪いた。
「……また来てしまいました」
眩しい夏の日差しが黄金色の聖衣を照らし、乾いた地中海の風が白い頬をなで、菫色の長い髪と上等の白いマントを靡かせる。
「もう来ないつもりでしたのに、私……」
言い訳のようなことを呟きながら、ムウは籠一杯の花を丁寧に、墓標の前に供えていく。
その仕草はまるで少女のようだった。


女神を除けば、この世でもっとも強い女はお前だ、と人々の言葉を浴びてムウは育ってきた。
そうかもしれない、いや、恐らくはそうであろう。
八十八人の聖闘士の最高峰、十二人の黄金聖闘士。その十二人中、たった一人。ムウは女の黄金聖闘士なのだから。
けれど、ここでは違う。この墓標の前で、ムウは自分がこの世で一番強い女などではないことを、嫌というほど実感する。
張り裂けそうな胸の痛みを、泣き出しそうな辛さを苦しさを、止める技などない。
「サガ、……」
墓標に刻まれた名を呟くと、ムウは瞼を伏せた。




「―――あなたにもう一度だけ、抱かれたかった」



ムウが呟く。


届くはずのない願いを。
その呟きを、乾いた風がかき消した。


(END)




戻る



楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル