『一夜』


天井から吊り下げた紫檀のランプシェードの灯りは頼りなかった。
もっと明るければ……と思ったが、しかし今は、この頼りない灯りが却って雰囲気を醸し出していることに童虎は気付いた。
「ねぇ、老師」
妖しく微笑んだ旧友の最後の弟子は、疚しい気持ちを抱かずにはいられない極上の女だった。
絹糸のような、癖のない藤色の長い髪が、その裸体を辿り皺の寄ったシーツに流れる。
卵形の整った顔が作る、さまざま表情。
それらは闇と光の曖昧な狭間で怖ろしくなまめかしく、そして童虎の心のうちにある、僅かな理性を打ち砕いて欲情に変える援けをした。
ムウは冷たく白い手で童虎の両頬を包み、ぽってりとした唇を童虎の唇に押し付けてくる。
割り込んできた舌に童虎のほうが臆していると、ムウが喉の奥で笑っていた。
「老師が最後に女を抱いたのは、何時です?」
唇を離し、そんな意地の悪い質問を投げかけてくる。
「最後か……そうじゃの。二百年ほど昔かの……」
「まぁ、二百年も。最後に老師のお相手をしたのは、どんな方でした?」
「さぁ……もう、昔のことは忘れたわい」
曖昧にはぐらかすと、ムウがふふ、と笑う。
童虎の厚い胸板に、ムウの柔らかくたっぷりとした両胸が押し当てられ、その独特の感触に、童虎の下半身はじわじわと熱を帯びてきていた。
絡めあう脚と脚。ムウの脹脛の、きゅっと締まった感触が心地よかった。



「……ぁ……はあ……ッ」
切ない吐息がムウの赤い唇からこぼれる。寝台が軋み、空気が震えた。
身体を起こし、ムウを後から抱きかかえる。
その両の乳房を掌で揉みしだきながら硬くしこった乳頭を指で摘み転がした。
「ん、もっと……」
疼きを堪えながら、ムウは振り返って童虎の首筋に頬を寄せ、口吸いをねだった。
惚けた瞳で見上げられ、童虎はこの眼で堕ちない男などいないだろうと感じ、それに答えた。
絡める舌。送りあう唾液。
その部分からとろけてしまいそうだ……と、まだ繋がってもいないのに、そんな倒錯的な気持ちになってしまう。
誘惑したのはムウの方だった。
夜の夜中に、童虎の寝室に不躾に入り込んだかと思えば、『ねぇ、老師』と甘えたような声で、童虎に縋り付いてきた。
よほど飢えていたのか。
久しぶりのことにうろたえていた童虎は、気がつけば寝台に二人……という有様だった。
「老師、お上手……」
唇を離すと、銀糸を引きながらムウが言った。
「お主に言われるとは思わなんだ」
「ふふっ」
上気した頬が艶かしい。
「老師……私、もう」
もう、の続きをムウは口にしない。
代わりに、粘性の音が下の方から聞こえ、甘酸っぱい匂いが鼻を突いた。
ムウの指が、触れられず待ち侘びている自らの秘裂を慰めながら童虎にその続きを強請っていた。



淫ら、という言葉が良く似合う女だと、童虎は心の中で一人ごちた。
闇と光の曖昧な狭間で喘ぎ悶えるムウは、淫らこの上なかった。
「んぁはぁっ……、老師、老師……ああ……あ、ぅ……!」
両脚を童虎の肩に乗せ、尻の穴まで晒しながら突き上げられ、ムウは声を裏返らせ歓喜の渦の中にいた。
こなれた蜜壷は童虎の猛りを受け入れてなおきつく吸い上げる。
「ムウ、そんなに締めつけるでない……食いちぎる気か」
気を抜けば、あっさりと達してしまいそうなほど、ムウは名器だった。
童虎は苦しげに眉根を寄せ、堪えながら腰を激しく前後させる。
「だって、……老師……奥まで……あ、……!」
交合は深く深く、ムウの胎内を抉るかのごとく。
寝台も軋み、悲鳴を上げる。
「だって……も……い、やぁ……あ・ああああ……!」
ムウの身体が大きくのけぞり、一瞬硬直する。
その子宮口に叩きつけるように放たれた、童虎の飛沫。
「……ッ、う……」
童虎の身体から力が抜け、ムウの上に重なった。



いずれ童虎が再び老いて朽ち果て、今度こそ本当に冥府にたどり着いたとき。
ムウの師匠である童虎の旧友は、きっと童虎を挨拶もなしに殴りにかかるだろう。
あの男のことだ。
娘のように大事に育てた愛弟子を誑かしおって、とこちらの言い分も聞きはしないでまくしたてるだろう。
誘惑されたのはこちらの方で、その時にはもうとっくに誰かの……それも、沢山の手が付いた後だと、言っても信じてはくれまい。
脚を開いたのはあちらの方だと、言う暇もなく殴られるのは目に見えている。
まぁいい。弟子に甘いのは、自分とて同じことだ。
何も言わずに、殴られてやろう。
二百年ぶりに、淫靡で濃密な夜を過ごさせてもらった対価だと思えば。


(END)




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