『オーレ・ルゲイエは来てくれない』


眠れない。何度、そう思っただろう。
ジャミールに比べれば、ギリシャはずっと過ごしやすい筈だった。
なのにその夜に限って、ムウはなかなか眠れなかった。


昼間、弟子の貴鬼とともに午睡を取ってしまったせいだろうか?
風呂上りに飲んだコーヒー程度で眠れなくなるほど、ムウの身体はやわではない。
何度か寝返りを打ったが睡魔は訪れない。小さい頃聞かされた御伽噺の眠りの精がいたら、どんなにいいだろう。
隣の小さなベッドで眠る幼い弟子は、すやすやと静かな寝息を立てているというのに。
「……外の空気でも吸いますか」
ひとりごちて跳ね起きると、薄い夜着一枚で、ムウは宮の脇にある住まいを出た。



素足で歩く石畳は気持ちがいい。
外は月明かりが眩しい位で、地中海から吹く空気は澄み切っている。
ぺたぺたと音を立てながら、石段を降りていく。別に当てはなかった。



「若い女が、そんなはしたない格好で外に出るものではない」




ふと、声をかけられ見下ろせば、アイオリアが石段の下の方にいた。
黄金聖衣をしっかりと身に纏い、マントをなびかせながらアイオリアは石段をゆっくりと登ってくる。
「夜回りですか?」
「ああ」
やがてアイオリアはムウの前まで来ると、ムウの格好を上から下までしげしげと見つめた。
「こんな夜中にそんな格好で……襲われたらどうしようとか考えないのか、お前は」
「私を襲えるものなら襲えばいいでしょう? そんな勇気のあるものがこの聖域にいますかね」
ふん、と腕を組むムウは、なんだか昔のおてんばだった頃を髣髴とさせ、アイオリアの口元が思わず緩んだ。
少なくとも、ムウは女聖闘士の中では最強だ。それも黄金聖闘士でもある。
たやすく組み敷かれることもないだろうが、そうしようとする男もいないだろう。
「だろうな、だが……」
ムウが身に纏っているワンピース風の夜着は、この時期の気候に合わせ、頼りないほどに薄かった。
ゆったりとした夜着の胸元を押し上げるふくらみが二つ。透けている小さな桃色の頂。
白い太腿、張りのある脹脛。
少し前に垂らした長い髪が胸のカーブに沿い、そのふくらみをいっそう強調する。
それらは男の本能を、嫌でも刺激した。
「だが、何です?」
目を細め、上の段から見下ろすムウの口元。
わざとゆがめた、ぽてっとした唇。生意気だ、とアイオリアは思った。
懲らしめてやりたくなる。



「獅子なら羊を仕留められるだろう」
アイオリアはその場に跪いた。
手を伸ばし、白い脹脛に触れた……アイオリアは蹴られるかもしれないと思った。
が、蹴られなかった。
その代わり、上から声が降ってきた。
「ここでは嫌です」




石段の脇にある岩陰に、二人で身を隠した。
丁度人が二人横になれるほどのくぼみがある。お誂え向きだ、とアイオリアが笑った。
アイオリアがマントを敷き、その上にムウが横たわった。
ムウの豊かな乳房が重力に逆らわず形を変える。薄布の上からアイオリアがそれに触れる。
「柔らかいな」
「誰と比べて?」
意地の悪いムウの質問に、アイオリアは曖昧に笑って答えなかった。
「余り抵抗しないのは、慣れているからか?」
代わりに同じくらい意地の悪い質問をムウに投げ返してくる。
ムウもやはり、曖昧に笑って答えなかった。
「聖衣は脱がないのですか?」
「まだ巡回の途中なのでな……」
「あら、汚れて錆びたらどうするんです……」
「そのときはお前に頼むさ、修復師殿」
「……呆れた人ですね」
「お互い様だ」
熱っぽいアイオリアの唇が、白く細い首筋にそっと触れた。
そして夜着を持ち上げる桃色の頂を、布地ごと口に含んで軽く吸った。
「ぁ……、アイオリアっ……」
布越しのもどかしい刺激に、ムウが思わず声を上げた。


眠りの精は、御伽噺のような小父さんではなく、目の前にいる金色の獅子だ……ムウは心の中で呟いた

(END)



戻る



テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル