『安らかなデジャヴュ』
それは、安らかな死に顔だった。
沙織お嬢さんの……女神の前で偽教皇・双子座のサガはその命を自分で絶った。
おいらはムウ様のマントの影から、そっと死体を見た。
とても安らかな死に顔だった。
星矢たちが悪人って言うから、おいらは偽教皇の正体はきっと角や牙が生えていて、怖ろしい顔をした悪魔みたいな やつなんだって思っていたのに……全然、違ってた。
本当にこの人、悪かったのかなって思うくらい、おだやかで綺麗な顔だった。
星矢たちや沙織お嬢さんを殺そうとした人間だとは、とても思えなかった。
―――おいら、ずっと前にこの人に会ったあるような気がする……。
雑兵たちが数人がかりでサガの死体を運んでいるのを見ながら、おいらはふと、そんなことを思った。
少しだけ微笑んで、サガは死んでいた。
その微笑に、おいらは見覚えがあるような気がしたんだ。
群青色の癖のある長い髪。ギリシャの彫刻みたいな、たくましくて大きな身体。
どこかで見たような気がする。
会ったような気がする。
「ねえ、ムウ様。あの人……」
おいらはムウ様のマントを引っ張って、そのことを聞こうとした。でも、やめた。
だって見上げたムウ様が今にも泣きそうな顔をしていたから……。
―――聞くのはやめとこう。
おいらは言いかけた言葉を飲み込んだ。
聞いちゃいけないような気がしたから。
そして、そのことをムウ様に聞くことは二度となかった。
サガの安らかな死に顔は、おいらの中に確かなデジャヴュを呼び起こした。
今はまだ、それが何なのかは分からない。
ムウ様にも誰にも言ってないけど、おいらは確かにサガの顔に見覚えがあった。
(END)
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