『第三水曜の午後』



毎月第三水曜の午後は、退屈と決まっている。
教皇の間で黄金聖闘士やその他大勢を集めての、神官長による”ありがたい”講話の時間。
殆どのものが真剣にこの講話に聞き入る中、列の後ろで欠伸をかみ殺す者、約三名。



「この時間ってあまり好きじゃありませんね」
ムウが小声で呟く。その両脇に立つミロとアイオリアが同時に頷く。
聖衣にマントで正装こそしているものの、三人とも早く終わって欲しいといわんばかりの表情だった。
「この話は耳にタコができるほど聞き飽きた」
ミロの言葉に、アイオリアが深く頷き、付け加える。
「あの連中ならまだしも、俺たちは候補生の時分に散々叩き込まれたからな」
この話に深く聞き入っているのは、前の列に陣取る青銅や白銀や侍女達だ。
彼らには新鮮な話だろうが、黄金聖闘士達には、今更なことこの上ないのだ。
シャカとアルデバランは、この退屈な講話を聞きたくないと言わんばかりに前倒しした任務のため、この場にはいない。
神官長の低い声は、朗々と古い叙事詩―――かつての教皇が作ったという―――を読み上げ、一文節ごとに独自の解釈を述べていく。
「私もシャカとアルデバランについていけばよかった。イギリスでしょう?」
「あんな任務に三人もいらないだろう」
不貞腐れるムウの脇をミロが肘でつつく。
「今月はともかく、来月はあいつらも道連れだ」
アイオリアの道連れ、という言葉にミロとムウが噴出す。
近くに立っている老侍女がこちらを睨んでわざとらしく咳をし、三人はあわてて畏まる。



『そしてこの構成は、オデュッセイアにも見られ……』
神官長は設えた一段高い場所をうろうろと歩き回りながら、古い本を片手に熱弁を振るう。
感情が入るのか、声が次第に大きくなってくるのはいつものことだ。
「ミロ、アイオリア。この後ご予定は?」
神官長の熱弁を他所に、三人はまた私語を始める。老侍女の咳で畏まったのはほんの短い間だった。
「別に」
「俺もだ」
「私もありません。じゃあ、……そうですね」
と言ったムウの両手の細い指が、ミロの左手とアイオリアの右手に、それぞれ軽く触れた。
その意味を、ミロとアイオリアはすぐに理解する。
触れてきたムウの指を、握ってOKと伝える。
「場所は?」
ムウの耳元で、アイオリアが尋ねる。
「三人で?」
続けて、ミロも尋ねる。
ムウは小さく呟く。
「私の部屋で、三人で……」
赤い唇がつむぐ短い言葉は、ミロとアイオリアにとって、壇上の長ったらしい話よりもよほど魅力的だった。
この後が決まってしまえば、退屈な時間も幾分かましになる。
終わる楽しみがあるのだから。
ムウの部屋で、三人でする楽しみが。



(END)



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