『主従』



床に敷いた古布の上に、擂り鉢と鳳凰星座の聖衣を並べて置く。
擂り鉢の脇に沢山の瓶と道具を並べ終えると、ムウは両手に黄金の鑿とハンマーを握る。
鑿を鳳凰星座の聖衣に宛がい、ハンマーで鑿の桂の部分をコン、と叩く。
軽い音を立て、あっけないくらい簡単に、花びらほどの大きさの聖衣片が床に落ちた。
聖衣とはこんなにもろいものかと、何も知らないものが見たら疑うほど簡単に。
ムウはその聖衣片を擂り鉢に入れると、片膝を立て擂粉木でゴリゴリと細かく砕き始めた。
擂粉木も黄金だった。鑿やハンマーと同じくきっと特殊なものなのだろう。
聖衣片は粉のように細かくなり、今度は薬匙で、ふるぼけて曇った細い試験管のようなガラス管にその粉を二掬いほど入れる。
擂り鉢の脇にずらりと並べた、薬品が入っているらしい瓶の中から何種類かを選んで、数滴ずつガラス管に入れ、管を軽く振る。
すると管の中が眩しいほどに光りを放った。マグネシウムを燃やしたときのようなどぎつい光りに、 ムウの後ろで一連の動作を見ていた一輝は思わず顔をそむけた。
ムウは眩しがる様子もなく、管を見つめながら「なるほど」と何が分かったのか納得したように呟くと、やはり床に置いた木製の管立てにそれを立てた。
「そんなことで何か分かるのか?」
一輝が尋ねた。
「ええ、わかりますとも」
ムウは一輝の質問に答えながら、同じような動作を繰り返す。
管に聖衣片を砕いた粉を入れ、それぞれ異なる薬液を数種類ずつ入れては軽く振り、管立てにそれらを並べていった。
「大方の予想は出来ていたんです。あとは実際にこの目で見てみるだけでした」
「ほぅ」
一輝の鳳凰星座の聖衣は、神話の時代に作られて以来、装着する人間が誰一人としていなかった。
一輝が初めての装着者のその聖衣は、黄金聖衣にもない自己再生能力という特殊な能力を持っていた。
例え燃え尽きたとしても、一握りの聖衣の灰さえあれば、またもとの様に蘇る。
聖衣を作った錬金術師の知識は既に断片的なものとなっている。この聖衣の秘密は女神ですら分からない部分が多い。
錬金術師の一族の末裔でもあり、世界でただ一人の修復師でもあるムウですら、そんな一輝の聖衣の秘密……自己再生の仕組みを知りたがった。
色々調べたいので点検がてらジャミールに聖衣を持ってきて欲しい……とムウは瞬を通じて一輝に頼んだ。
一輝自身、いくら自己修復能力があるとはいえ、幾度もの戦いで砕けては再生を繰り返した己の聖衣の強度に不安が無いわけではなかった。
修復師のムウに一度きちんと見てもらいたいと思っていたのだ。双方の利害は一致した。ムウの頼みを、一輝はOKした。
「何せあなたが初めて纏ったわけですから、作られてから誰も手を触れていないんです。職人の口伝とやらも、いまいち当てにならなくて」
「フッ」
私の師匠ときたら長生きしすぎて耄碌していましてね、とムウは苦笑した。一輝も釣られて噴き出した。
「……なるほどな。だから実際に砕いて、あれこれ見てみないと分からないというわけか」
「そういうことです。あなたの聖衣がどうして自己再生するのか……上手くいけば、他の聖衣の修復の際に役立てられるかもしれない」
「他の聖衣にも自己再生能力を備えられると?」
「さあ、そこまで上手くいくかどうか……勿論、最後に望むのはそれですけれど。冥衣や鱗衣よりも聖衣は何かと不利な点が多いんです。
さしあたって、私の手数の一割でも省けるようにしたいものですよ……」
薬匙で鉢の淵に付いた粉までこそげ落として最後の管に入れると、擂り鉢の中が綺麗に空になった。


全ての管を立て終え、ムウは管立てを持ち上げて、窓際の背の低い棚の上に置いた。
沢山の管が、様々な色に光っている。赤青黄緑紫灰銀。目も眩むほどのまぶしさだった。
「……これでいい。後は、光がやむのを待つだけ。結果が楽しみです。恐らく私の予想通りになると思いますが」
管立ての脇に、ムウは大き目の砂時計を置いた。
この砂が全て落ちたら結果が出るはずだという。


水色の砂が、音もなく細い括れを落ちていく。


「―――ムウ」
修復師の名を呼びながら、一輝がムウを後ろから抱きすくめた。
ムウは驚かなかった。予想でもしていたのか、自分の身体に回された一輝の太く逞しい腕に、白い手を添える。
「何ですか」
「足代はどうなった?」
ああ、とムウが白々しく、まるでたった今まで忘れていたかのように言う。
足代くらいは出しますよと、今回のことを一輝に伝える際、瞬に確かにそう言っていた。
「足代ね……金貨を何枚渡せばよろしいか?」
「そんなものはいらん。分かっているだろう」
わざとらしい女だ。一輝は思った。
ムウの噂くらい、シャカに聞く前から一輝は知っていた。サンダルウッドがしみこんだ、ムウの菫色の髪に鼻を寄せて匂いをかいだ。
甘い女の体臭がサンダルウッドの奥にほのかに匂う。
冷たい耳朶を軽く齧ると、「ふ、」とムウがくすぐったいのか身を捩る。
半身で感じるムウの身体は柔らかくそして温かく、戦いとも職人とも縁遠く思える。
この柔らかな身体のどこに、あれだけの力を秘めているのか。
この女は大男が何人掛かってこようが、指先一つであしらってしまうのだ。



上の部屋に行きますか、と誘うムウに、一輝はいや、と首を横に振り、部屋の隅に置いてある、大き目の紙袋を指差す。
一輝が聖衣と共に持ち込んだ紙袋だ。ポップな字体で日本語の店名が記されている。
「ただ寝るんじゃ芸がない。あの袋の中身を着てくれないか?」
「……あの袋の中身?」
「そうだ」
「あなたの着替えかと思いましたよ。まぁ、いいでしょう」
ムウは一輝の腕をするりと抜けると、その紙袋の前まで歩いて中身を確認する。
そして、安請合いしたことを、軽く後悔し……しかし口にした手前、今更断れないのだとあきらめた。



二人は上の部屋……寝室に場所を移し、ムウは袋の中身に着替えた。
「あなたって変な趣味があるんですね」
無い眉をひそめて毒づきながら、それでもムウはレースのついたカチューシャを髪に挿した。
長い髪を解き背中に流すと、一応完成だ。
「……傑作だ」
床に胡坐をかいた一輝は、目の前に立つムウの姿にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた。
「これ、今日本で流行ってるんでしょう?」
スカートの裾がやたらと短い上に元気良く外側に跳ね、下着が半分露になっている。
「流石にピークは過ぎたがな。今じゃ定着しちまった」
むっちりとしたムウの太腿がそこからあらわになり、太腿に食い込んだソックスはわざとらしいほど白かった。
一輝が持ってきたのは、いわゆるメイド服。
職業としてのメイドの制服というよりは、実用性とは程遠い……つまりは、コスプレのためのメイド服だ。
たっぷりとしたボリュームのスカートの丈がやたら短く、かぼちゃのように膨らんだ肩、 そして胸元に至っては不必要に切り抜かれている。とても掃除や給仕をするのに適しているとは思えない。
「メイド喫茶、でしたっけ? 星矢が行ったって話してくれましたよ」
「ははっ」
「メイドなら、城戸のお屋敷に幾らでもいるでしょう? 若いのからそうでないのまで」
「あれは職業としてのメイドだ。誘っても相手になんざされないさ。服だってこんな刺激的なものじゃない」
「……呆れた人」
切り抜かれた胸元から、ムウの胸の谷間が見えている。胸元がきついらしく、そこがはちきれそうだ。
ムウは短い裾を気にしながら、一輝の前に横座りする。
裾を手で押さえないと、スカートの中身が見えてしまう。
「この服を着て、それからどうすればよろしい?」
「どうして欲しいと思う?」
「あなたをご主人様とお見立てすればよろしいか?」
「良く分かってるじゃないか」
「この館の主は私ですが……ま、いいでしょう」
言い出したのは私ですからね、とムウは自分への言い訳のような言い聞かせのような言葉を口にする。
「ご主人様、如何致しましょう?」
わざとらしいほど恭しく、ムウは主人に見立てた一輝に伺いを立てる。
「口がお好みですか、それとも……」
「口はいい。それより、四つんばいになって後ろを向け」
「……はい、ご主人様」
随分と変わった趣味だ、とムウは内心ぼやかずにはいられなかった。
(……若いのに好色爺のような趣味をしているんですね、この男は……)
心の中で愚痴りながら、一輝の前で四つんばいになる。尻を向ける格好になった。
元気のいいスカートの裾はどうしても跳ね、純白のショーツが露になる。
下着が食い込みかけた尻は大きく、肉付きのいい恥丘の形までくっきりと分かる。
「随分でかい尻だな」
「安産型だといってください」
「世界共通か、その言い方は」
白い下着越しに、一輝がムウの尻をなでまわす。
いやらしい手つきはまるで脂ぎった中年男のように慣れていて、ムウの身体がビクっと跳ねる。
「んっ、……あ、」
双丘の割目に、熱い息と感触。ムウの声が思わず出る。
一輝がムウの尻に顔を埋めた。布越しに敏感な秘裂に息がかかり、ムウの子宮が軽く疼いた。
「ぁ……、いや……」
一輝が鼻を鳴らし、わざとそこの匂いを嗅ぐ。
「ちょ……やめなさい、一輝っ」
「やめろって、誰に向かって言っているんだ? 俺は今、お前のご主人様だろう?」
「……!」
「黙って嗅がれていろ」
熱い息が、またそこへ掛かる。布越しのそれはとてもじれったい。
「ぁ……ぁ、ぅ……」
ムウの口から、思わず声が零れる。長い髪が床に垂れる。
男を知り尽くした雌の匂いは濃く、一輝の中の雄を刺激する。一体どれほどの男がこの匂いに惑わされ、溺れたのだろう。
『あれは魔女だ』シャカは一輝にそう耳打ちした。
『戦闘などせずとも、アテナはあれを三界の男どもに宛がえばよい。たやすく三界を平定できるだろうに』と。
ぽってりとした唇から零れるムウの喘ぎ声は艶めき、この女を裸に剥いて喘がせたい気持ちが急かすが、こんな機会は滅多にない。
「い……いや、一輝……」
ムウがかぶりを振る。もどかし過ぎて堪えられないのだ。
ハァ、ハァ、と一輝の吐息が性器をやわやわと刺激するだけでは、ムウの身体に悪戯に種火をつかせるだけだ。
「……どうした、恥ずかしいのか?」お前ほどの女が、今更、と一輝は意地の悪い言葉を投げかける。
「ッ、」ムウは悔しさと恥ずかしさ、与えられぬもどかしさに顔を真っ赤にする。
(こんな歳若の男に……)
しかし、了解したのは自分だ。
「ご、ご主人様……これではあまりにも生殺しです……どうかお情けを下さいませ……」
主人に性的に甚振られる哀れな下女を演じるより他は無い。
ムウは荒い息を堪えつつ、一輝を主人と見立て、不本意ながらも哀願の言葉を口にした。
「……いいだろう」
上手くいった、と一輝はほくそえんだ。
やがて一輝の指が、先程まで鼻を寄せていた場所をつい、となぞり始めた。
なぞるといっても、触れるか触れないか程度の弱弱しいものだ。お情けどころか、ムウの中のじれったさを余計に高めるだけの、意地悪なもの。
「あぅっ、……あっ、……ぁ、」
ムウの腰がもっと欲しいとばかりに揺れる。一輝の指を求めている。しかし一輝の指はムウの腰の追跡をたやすくかわす。
あくまでもゆるい刺激しか、ムウのそこには与えられない。
下を向いた胸がゆさゆさと狭い布ごと揺れ、髪が乱れる。 (……余計生殺しではありませんかっ)
満たされぬ欲に、ムウは唇を噛みしめた。
いっそ裸にひん剥かれ、慣らしもせず突っ込まれて揺さぶられるほうがどれほど楽だろうか。
「ムウ、もっと欲しいのか?」
「ぁ……、は、はい……」
指に強弱をつけ、一輝が尋ねる。
時折強く引っかくような指使いをし、そうかと思えば全然当て外れのところに触れる。
ムウの秘裂はしとどに濡れ、純白のショーツには色濃い染みがくっきりと出来ている。
「びしょ濡れだな」一輝は小さく笑った。
「欲しいのなら、はっきりとして欲しいことを言え。 曖昧な言い方は好きじゃない。どこをどうされたいのか、とな」
「……ぅ、……」
「そうしなければ、ずっとこのままだ」
ムウは喘ぎながらハァ、とため息をつく。
そんなことをせずとも、今まで男たちはムウの身体に飛びついて来ていたのだ。
卑猥な言葉を口にするのはいつも男の方で、ムウはあくまでも求められる方で。
男たちは全身全霊でムウを満足させてくれていたのだ。黄金の、気高い女を。
なのにこの歳若の男ときたら。
ムウに妙な服を着せて、ムウを従え、卑猥な言葉を要求する。
(……本当に……この男は……ッ)
正直、一輝を甘く見ていた。主従ごっこだなどといっても、終始自分を満足させてくれるだろうとムウはたかをくくっていたのだ。
ムウの額に汗が滲む。
言うのは恥ずかしい。憚られる。しかし言わねばきっといつまでもこのままだろう。
ムウは深呼吸をし、背後にいる一輝……かりそめの主に、再び哀願する。



「ご主人様、……どうか……どうか私の…服を脱がせて……体中を愛撫してください……私のこのまたぐらを舐めて……ご主人様のモノを、どうか入れてくださいませ……ッ」





与えられぬが故の渇望と、格も歳も下の男にいいようにされているが故の屈辱感。
混ざり合った二つは、ムウの目尻からいつの間にか涙を零させていた。
普段なら口に出すことなど決して無い言葉を紡ぎだした己が恥ずかしくて堪らなかったのだ。
ムウの顔は真っ赤になった。
「……泣いてるのか? お前」
一輝の言い方は小ばかにしているようで、ムウは唇を噛み締める。
「言おうと思えば言えるんだな。フ……お高く留まってたって、所詮は女だってことか」
「ッ……」
幾ら女聖闘士最強と言えど、身体の欲には勝てない、と言いたいのだろう。
「まぁ、ちゃんと命令を聞けたんだ。ご褒美だ」
一輝の手がムウのメイド服の胸元に掛けられる。
「窮屈だろう?」言うと、一輝は胸元から音を立てて服を引き破った。
布の裂ける音は大げさで、やがてたわわなふたつの胸が解放される。
「あ……、」
乱された己の格好。
破れた服からいやらしく現れた己の胸。
そしてそれに、一輝が吸い付いた。
「ぁ、あっ、」
ちゅば、と音を立てながら片方の乳房を吸い、力強い手でもう片方の乳房を愛撫する。
歳の割りにその手つきは巧みで、いったい何処でこんなことを教わってきたというのだろう。
リズミカルな愛撫に喘ぎながら、ムウはぼんやりと頭の片隅で疑問に思う。
「ふぁ…ぁ…」
喘ぎながら首を何度か横に振ると、カチューシャが床に落ちた。
一輝はムウの服を破きながら脱がせていく。
まだ新しいものだったのにもったいないと思う気持ちと、正しく召使が主人に乱暴されているようなシチュエーションに興奮する気持ちがムウの中で鬩ぎあう。
肩を抜かれ、白い腕が外気に晒される。
二の腕に吸い付かれ、紅い痕が残る。
ちゅば、ちゅば、と品の欠片も無い音をさせながら一輝はムウの身体を文字通り貪っていった。
乳房は、腕は、腹は唾液に塗れ、紅い痕があちこちに付く。
聖衣で隠しきれない場所にまで痕がつき、ムウはいったいこれをどうやって隠そうかと頭の隅で考える。
白粉を塗るか、それとも言い訳を通して聖衣を着ないか。
乳房を愛撫されながらもそんなことを考え、喘いでいると、腰から下を守っていた布は最後に思い切り引き裂かれ、へそから下までが露になる。
下着とニーハイソックスだけの格好になったが、下着のクロッチにはとっくに染みが濃く、もうその役割を果たしてはいない。
「ふ……いやらしい格好だ」
「……」
一輝は満足そうにムウの格好を上から舐めるように眺める。
長い髪は乱れ、頬は高潮し、身体のあちこちに男に愛された痕と快楽に溺れた下着の染み。
ムウはハァ、と息を付き、瞼を伏せた。
「自分で脱げ」一輝が命じる。ムウは頷き、腰を浮かせ下着を取り去る。
少し濃い体毛に覆われた秘裂が一輝の前に現れる。しとどに濡れ、膣口は餌をねだる魚の様にパクパクと口を開いている。
熟れた木苺のようなクリトリスが急かすように勃っていた。
「噂通りだな……何処も彼処もいやらしい身体だ」
一輝はそう言い、ムウのむっちりとした脚を大きく開かせ、股ぐらに顔を寄せると立ち込める性臭を軽く嗅ぎ、舌を這わせた。
「あ・あ・あああああ……!!」
漸く与えられた、欲しかったもの。ムウはのけぞり、思い切り声を上げる。
初めて身体を重ねたというのに、勝手を知っているかのごとく一輝はムウのいいところばかりを舐めてくる。焦らすように中を、 そうかと思えば木苺を捏ね、吸い、甘噛みし、襞の間を味わった。
「ひゃあッ……あ、あひ……!……ッ……い……いいっ」
頭を振りながらムウは快楽に溺れた。
焦らされ、辱められた挙句にやっと訪れた快楽。
身体の内側から溢れる果汁を感じながら、一輝の舌の感触を必死に追った。
「ぁはぁッ、んんんっ、く……ぅ……ッ」 身体は面白いように階段を登っていく。快楽の階段。手を伸ばせば届くところに天井がある。
全身に何かが漲ってくる。弾ける何かが。もうすぐ。もう少し。


「ぁ……い……イく、イく、イ……い……く―――………」


ぷつん、とムウの中で漲ったものが弾けた。
頭の中が真っ白になる。
「ぁあああっ……!」
階段を転がり落ちようとするムウの身体に、一輝自身が今度は侵入する。失墜など出来ない。一気に引き戻される。
「……こんないやらしい中をしてるんだな……お前」
「ウ、ッ……」
思い切り貫かれ、一輝自身はムウの奥に当たっていた。
「いっき……、」
「ご主人様だろう?」
「…ご……しゅじんさま、」
「そうだ、……フ、随分いい顔をしてたな。お前でもああいう顔をするんだな」
「……は……はい……」一輝の手がムウの頬に触れる。
ごつごつとした男の手。
ムウの頬は柔らかな女のそれで、このまま張り飛ばせばどんな顔をするのだろうと一輝は想像する。
尤も、張り飛ばす前に自分が張り飛ばされるだろうが。
ゆっくりと一輝が腰を動かし始める。
ムウの乳房がそれにあわせて揺れ、肉同士がぶつかり合う鈍い音が広い部屋を満たしていく。
「ぁ……は……ッ」
快感が弾けたムウの身体に、またやわやわと同じものが注がれる。
「前から一度、お前を抱いてみたかった……お高くとまったそのツラがどんな風になるのかを見てみたかった」
「……私の依頼は渡りに船だった、と……」
「そうだ」
「ふ……若いくせにこざかし……っ、」
一輝が唇を重ね、貪る。
繋がった部分は熱を持ち、ムウの内側から溢れてくる果汁を潤滑液にして互いを漲らせた。




羞恥、屈辱、悦楽。
混ざり合ったそれらにムウは溺れた。
たまにはこんな交わりも悪くは無いかも……と、諦めを通り越した気持ちがムウの中でゆっくりと頭を擡げる。
「ご……しゅじんさま」
唇から逃れ、あえかに、ムウが一輝を呼ぶ。
「ご主人様……ご主人様……」
「フ……いい気分だ」
うっとりとした目で呼ばれ、一輝は目を細めた。







どれほどの時間が立ったのだろう。
ムウは重い瞼を開き、まだだるい身体を起こし、下の階へ降りる。
細い指を一本立てれば、瞬く間に箪笥の中から服が現れ、裸体に纏わり付く。 「さて、結果は……」
窓辺の棚に置いた管立てを見遣れば、管の光はすっかりとやんでいた。
様々な薬を入れてみたが、光がやんだあとの聖衣の粉はどれも同じ色だった。ムウの予想通りだった。
オリハルコン、ガマニオン、銀星砂の他にもう一つ、伝承されていない物質があるとムウは予想していた。
その物質こそが一輝の聖衣の自己再生能力――通常聖衣に備わっている自己修復能力の究極の形――を成しているとムウは考えていた。
その物質の何たるか、否、そもそもその物質が聖衣に含有されていることすらムウが教わった伝承には既に無かったが、ムウは含有を予想していた。
そしてそれは、ムウがずっと以前から予想していた物質だった。
「……やっぱり」
ムウは望んでいた結果が得られ、満足げに微笑んだ。
一本の管を手に取り、その中身を掌に取る。フ、と息を吹きかければそれは宙を舞いいずこかへと消える。
「成功か?」
後ろから声がし、振り返ると一輝がいた。
「ええ、大成功ですよ。お陰でね。ほら」
ほら、と中身を半分失った管を差し出されても、一輝には何がどう成功なのかが分からない。
「俺にはよく分からんが……兎も角、聖衣の自己修復能力が高まると?」
「そうですね。そういうことになります。恐らくは私の仕事が二割は減ります」
「減った時間で男を食うんだろうが」
一輝が皮肉ったように言うと、ムウは頬を膨らませた。
「……逆を返せば、あなたの聖衣が全く修復も再生もしないように改造することも可能なんですよ?」
「お、おい! それは困る!」
「フフ、冗談ですよ」
意地悪く笑うムウに一輝は本気で少し焦った。ムウの冗談は冗談に聞こえない。
「あら、もうこんな時間ですか。そろそろ夕食にしましょう。一輝、向こうの山から水を汲んできなさい」
バケツは下に、とムウは続ける。
「……俺がか?」
一輝が怪訝そうな顔をする。
向こうの山、とムウが窓の外を指したが、万年雪に覆われた標高6千メートル級の山だ。
「あそこの山に、幾ら寒くても決して凍らない湖があるんです。早い話が温泉ですがね。火山なんです、あの山」
「……火山はどうでもいい。俺にそれを汲んで来いと?」
「ええ、だってこの館の主は私ですから。水汲みがお嫌なら麓の宿まで、今から半日かけて降りますか?」
外はとっくに日が落ち始めている。
しかも昨日から寒さは一段と厳しくなっている。
「……行けばいいんだろう」
「そう。主の言うことには従うものですよ……フフ」

ちっ、と舌打ちした一輝に、館の女主は、妖艶な笑みを浮かべた。

(END)



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