『歌わなかった、ラブソング』(レオ神)
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神が本来居るべき世界へと戻り、このワーク・ワークに平和が訪れて、早一年。
時折、神が残していった「ケイタイ」に、神からのメッセージが届く。
古代語で書かれたそのメッセージを、シオは全く理解できない。
俺はほんの少ししか理解できない。ひらがな、と呼ばれる文字の幾つかと、簡単な漢字、と呼ばれる文字の、
やはり幾つかだけ。だからいつも賢者ヨキが翻訳してくれる。
「皆様お元気ですか、私は現在、地域のボランティア活動に従事し、忙しいけれど楽しい日々を送っています……だって」
今朝神から届いた、メールと言う名のメッセージ。
俺とシオはヨキが読み上げるそれを聞く。
「ヨキ先生、ぼらんてぃあって何すか?」
「ん? ボランティア、か……そうだね、平たく言えば、世の中のために役に立つことを無償で行うことかな」
「無償……か」
「へー、……やっぱり神様はすごいっす……」
もう、一年経つのか。
あの時、神に伝えたかった言葉が、俺にはあった。
伝えたくて伝えたくて仕方のなかった言葉。
でも伝えなかった。
あの子は帰りたがっていたから。本来自分がいるべき世界へ。
だから、伝えなかった。
「神に返事をするけれど、どうしようか。シオ、何か伝えたいことはある?」
ヨキの言葉に、シオがう〜ん、とうなる。
「えっと、最近の楽しいこととか……そういうことっすよね」
「急がないから紙にでも書いて纏めなさい。レオもね」
ケイタイを操れるのは、賢者ヨキだけ。
古代語に堪能でないと、あの小さな機械は操れない。
「……なぁ、ヨキ」
「ん? なんだい、レオ」
「俺も古代語、勉強してみようかなぁとか思うんだけど。古代語のテキストとかあるか?」
「本? ああ、そりゃ私の部屋にはたくさんあるよ、どれでも持っていきな」
「ありがとよ」
……古代語の読み書きが出来れば、あのケイタイを使うことも出来る筈。
「レオ、古代語勉強するんすか?」
「あ? ああ、ちょっとな」
「難しいっすよ?」
「……ま、何とかなるんじゃねえか?」
古代語を学んだら、ヨキに言ってあのケイタイを借りてみよう。
そして誰にも言わないで、神にメッセージを送ってみよう。
あの時、伝えたかった言葉を。
今なら伝えられる気がするから。
『神へ。俺は貴女のことを愛してる。あの時からずっと。今も、そしてこれからも』
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