→中学一年生ゾロ子ちゃんとサンジ先輩、出会って一回目のバレンタイン。
「手作りチョコ(1)」
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店のディスプレイが、ヴァレンタイン一色になってきたころ、ナミが言った。
「今年はチョコ作るんでしょ? 一緒にやらない?」
一体なんの話だ? チョコなんか買えばいいじゃん。
「大体、ナミがチョコやりたい相手なんか、なにやったって喜んで食うだろ」
「そうかもしれないけど、っていうかまあその通りだけど、やっぱ違うって!」
「……溶かして固めて、そんだけだろ? なんか楽しいのか?」
「……なんだかんだと理由をつけちゃあいるけどさ、あんた、本当は単に恥ずかしいんでしょ。手作りチョコレートをバレンタインデーに手渡すっていうシチュが」
ぎく。
「まあ、いいけど。14日の直前の休みに、一日かけてチョコ作る予定なんだけど、そのときついでにチョコケーキも焼いたげるから、つきあってよ」
…………チョコケーキ。
「チョコバナナケーキにもチャレンジするのよ〜」
「行く」
そんなわけで、まんまとナミの家まで行ったら。
「はい、あんたの分の材料」
「……は?」
「チョコ作るのにつきあってくれるんでしょ? ゾロ?」
ナミが型に入れる普通のチョコや、チョコケーキやチョコバナナケーキなんかをせっせと作っている間に、オレが完成させたのといえば、やっとひとつだけ。いや、数はいくつか作ったんだけど、ナミにダメ出しされたのがごろごろ。焦げた匂いがしたり、変に表面がブツブツしてたり。
失敗作はどうするのか聞いたら、
「いるでしょ。口に入ればなんでも消化するヤツが」
いや……だけどそれはお前の彼氏なんじゃねぇのか、確か。
なんとか合格をもらったチョコは、よりにもよって、ハ、ハ……ハート型ッ。うわ、なんかアレだ。視界の中に入れたくねー。誰がこんなベタなモンもらって嬉しいかなァ。
とは思ったが、ナミの勢いに飲まれて、ラッピングまでしちまったからには、もう渡す……しかないのかなぁ。
でも、3年生なんて、受験シーズンの今は部活にも来ないし、こっちの教室に来てるときに渡すなんて絶対嫌だし、かといってアッチの教室までノコノコ行くってのも……。
「あーもう、どーすりゃいーんだよッ!」
……とりあえず、ナミの意見に従って、カバンにチョコを入れて、持ち歩く。
……それだけで、けっこうかなり死ぬほど恥ずかしいっつーのッ。
「おはよー。ね、持ってきた?」
「ま、まあ一応」
「あのさ、今日の家庭部、アホコック来るって言ってたわよ。14日には持ち物検査もあるって聞くし、どうせなら今日のうちに渡しちゃえば?」
「なあ、ひょっとしてお前、ずいぶん前から下調べして計画立ててたりしてない?」
「してる」
……さようで。
「どうせ、勢いつかないと渡せないでしょ、こんなモノ」
……確かに。
「……ねえ、怒ってる?」
「いや? 怒ってねェよ」
「ホントに?」
「ホント」
「そ? じゃあ、これあげるっ」
透明なビニールとリボンの、簡単なラッピングのペロペロチョコレート。
表面には、「ガンバレ」の文字。
別に、あんなヤツにチョコ渡すのにガンバらねーって。
ホイっと渡して終わりだって、たぶん。
「よ! どしたの。いーニオイしたから引き寄せられて来たとか?」
そう言って、背の高い男子生徒が、つまりサンジ先輩が、エプロンつけたまま出迎える。
「ちょうど出来るころだし、ちょっと食ってく? 今からみんなで味見するし」
甘ったるい、ココアパウダーのニオイ。
チョコレートのニオイ。
「ナミさんにも伝授した、秘伝のチョコケーキでござい!
おっと、部活の連中にも伝授しまくってるから、既に秘密でもなんでもねーやな。わはは」
そうだ、考えてみれば当たり前の話。
ケーキも、しょっちゅう作って。
オレの好みに合わせて、あんまり甘くないのとかも、自由自在で。
「……や、いい。食べない」
「えーなんで! まさかダイエットとか言うなよ?」
「その、そういう気分じゃ、ないから」
「なに? 気分悪いのか? 保健室に行くか?」
「違う、オレ、部活、行かなきゃ」
途中の、中庭に面した渡り廊下の、潅木の繁みに。
ちょっとヘタっててみっともなくなってたラッピングのチョコを、隠して。
捨てた。
「ウス」
校門で待ち伏せされてたとはまったく考えてなかったから、正直ビビッた。
夕日にきらきら、金の髪。
「なんで逃げたの?」
そんなこと聞くなよ。
部活の後輩とチョコでもケーキでも食ってりゃいいじゃん。
「別にッ、関係無いし」
「…………コレ。俺のじゃなかったかもしんねかったけど、食っちゃったから」
サンジ先輩がポケットから取り出したのは、折りたたまれた、見覚えのあるラッピングの紙。
「他にも持ってる? チョコレート」
ブンブンと首を横に振る。
「そんなの、いくつも持って来てナイ……」
「ふうん」
なにか言いたそうに、口をうにゃうにゃさせてたけど、結局。
「じゃ、また、明日」とだけ言って。
ラッピングの紙を、ポケットに入れて。
ぽん、と背中を叩いて、小走りに追い越していった。
胸が苦しかったのが、
もっと苦しくなるってのは何でなんだろ?
----2004.02.10. AKITOH. Sandy Sandy Sait.----
あきとー様のサイトの、バレンタイン企画第一弾です。
ゾロ子ちゃんが可愛すぎますw
想いはなかなか通じないようで、しっかり通じているようで。
青春だなぁ……(ポンワリ)
ゾロ子の恥ずかしがる純情なところが萌えます。
あきとー様、有難うございます!!
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