→現代パラレル、大学生ゾロと……OLブラハム子。



「麦チョコ」


 ちょい腹が立ったとき、疲れたとき、だるくってしょーがないとき。
 紅茶を飲みながら、適当な深夜番組や、時には買ったのに見てない映画のDVDなんかを見つつだらだら食べる。 その定番が、アタシの場合は、麦チョコ。
 気がつくと、うっかり大袋まるまる空けちゃったりするから、小さい袋に小分けされてるのを買うんだ。 お肌に悪いのは分かってるんだから。
 で、今日はその麦チョコを買った。
 世間はバレンタインまっさいちゅうだけど、こっちはお仕事、胸や尻しか見ない取引先とお食事会。あげく、今日は一緒にいなけりゃ怒るいい相手はいないのか、だってさ。そっちこそ、と返せば爬虫類みたいににじり寄ってくる始末。まあ、わかってたんだけど。女好きで有名なヤツだし、もうじき大きい取引があるし、女ばっかの会社だもん。そういう目で見られるのには慣れっこ……正攻法だけじゃ世の中、前に進めない。うちのボスはそういうからめ手、あんまりやりたくない方だから。アタシがこんぐらいの泥、かぶってやったっていいんだ。
 よく知らない男と寝るのも、別にどうってことないし。
 でも今日は、ワイパーのお陰で助かったけど……相手が相手だから、って心配してケータイに連絡してくれたのをいいことに、呼び出されて仕事でって、嘘ついて。しつこいんだよね……粘着質っつーか、一回寝たらまたできると思ってるのがかったるい。2回目は、今度の取引終わってから。でないと「釣り」になんないから。
 武器になるモンはなんでも使う。
 とはいえ、まあ嫌になる日もある……特にこーんな、カップルだらけの夜の街じゃあ。

「おっす、勤労青年」
「……またアンタか」
 道端に開いた、穴ぼこの中に入ってる、顔見知りのメット野郎に声をかける。
 アルバイトで道路工事に励む大学生。一人暮らしで、生活費を自分で稼ぎたくてここで汗を流してる、らしい。なんでそんなコト知ってるかって、1ヶ月ほど前の雨の日、泥を思いっきりハネてスーツをぐちゃぐちゃにしてくれたのがきっかけ。クリーニング代を払うってきかなくて、スーツは捨てるから平気っつったら今度は新調する分のスーツ代出すなんて言う。あー……営業でメイン張ってる身としては、ハンパなの着れないんだよねぇ。一応、平均的な金額を言ってみたけど、やっぱね。真っ青になって、分割でいいか、なんて、生真面目な男の子だなぁって。

 それから毎月会ってお金もらって買い物に付き合わせて。
 買い物の後は、付き合わせてゴメンねってお食事したり。
 バイト先の場所聞いて、わざわざからかいに行ったりね。
 自分でも、年下趣味があるとは思ってなかったんだけど。

「働いてる最中に、あんま話しかけんなよな」
 クビになっちまわぁ、ってシッシッと払うしぐさ。
「つれないコト言うなってばぁ。ホラ、これあげるから」
 んーと、とカバンを探って、先刻買ったばかりの麦チョコを引っ張り出した。
「ンだぁ? もしかしてバレンタインチョコのつもりじゃねーだろな」
 ひったくるように受けとって、パン!といい音させて袋をあけて。
 天を仰ぐようにして、ざらざらっと流し込む。
 ぼりぼり、と音を立てて租借して、ごくん、でおしまい……。
 ……アタシが、1時間から2時間ぐらいかけて食べるオヤツが。
 5秒で。
「くっ……ひっひゃっはっは、あっはっはっはっ!」
 げらげら笑い転げてたら、ゾロのヤツ、まさに苦虫を噛み潰したって顔して。
「帰れよ、このヨッパライ!」
「だって……ひっ……くく……そんな一瞬で食べ……くくくっ、あははは」
 タイルで綺麗に舗装された歩道を、ばんばん叩いてたら、そのうちあきれた顔で、どっかから現場でよく見かける青いシートを持ってきた。びし、とどっかの企業ビルのシャッター前を指差して。
「あと小一時間もすりゃ、アガリだから、そこで大人しく待ってろ。こんなできあがったヨッパライ、放っといたら世間様の迷惑ってモンだ」
 ……酒はたしかに入ってるけど、そんなに酔ってない、と思うんだけどなぁ。
 でも、心配してくれてる?
 あちこちから、おっちゃんたちの冷やかしの声が上がってる。それにいちいち「うるせぇ」だの「酔ってる女、放り出して置けるか」だの、真面目に返してるのが、またかわいい。  お先に失礼しますッ、って体育会系な挨拶してたりして。
「ねぇ……その辺の居酒屋でいいから、ちょっと飲んでいこ? オゴるからさー」
「……電車、無くなっちまうぞ」
「ここからふた駅も歩けば、アタシんちじゃない。泊めてあげるよ、知らない仲でもなし。今日は呑みたい気分なのよゥ」
「本当に、ヨッパライだな」
「酔っ払いで結構ですぅ〜」
 そう言って、腕を組もうとしたら、身を引かれてしまう。
「……泥がつく」
「ちょっとくらい、クリーニングに出すんだから平気よ。それより足元も覚束ない女性に手を貸そうとは思わないわけ?」
「さっきから、しっかり歩ッてんじゃねェか」
「いいから。ほら、つかまらせてってば」
 ニヤニヤ笑って腕を組ませる、本当にこういうトコ、カワイイっつーの。
「ち、しょうがねェな」
「しょうがないって言うな!」
「ったくヨッパライは、手におえねー」
「そんなに酔ってませーん」
「あんなぁ、ブラハム?」
「酔ってない奴ほどそう言う……でしょ?」
「いや、……チョコ、サンキュ……な」
 ちょっと、これは反則。
 なんか、もう、駄目かも。
 たぶんあっちはそれほど本気じゃないのに。
「店に入るの、止めよっか」
「なんだよ」
「屋台で焼き鳥とか買って……このまま、歩いて……家まで。駄目かな。一緒に歩きたい」
「……酒はあるんだろうな」
「その辺は抜かりなく」
「じゃ、それでいい」
 そのまま朝まで。一緒に。
 嘘でも良いから、恋人たちの夜の間、一緒に歩いて。






----2004.02.16. AKITOH. Sandy Sandy Sait.----


あきとー様にDLF企画で頂いた、ゾロブラ子現代パラレル!!
ブ、ブラ子ぉ〜〜〜っ(絶叫)
ブラ子萌えには堪りません……ニヤリ
ゾロは苦学生が似合いますな……そしてこの後二人はどうなったのかとか
色々と考えてしまいます……ドキドキ
恋愛ってこういうふっとしたことから始まるんですよね、本当に。
素敵なバレンタインSS、有難うございます!!


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