Junk 3
※下に行くほど新しいです。




●銀時×阿音(喧嘩ップルではないような)

すまいるの奥のボックス席で、銀時はソファにふんぞり返っていた。

「んだよ、お妙休みかよ」

薄い水割りを一口飲み、銀時はちっ、と舌打ちした。

久しぶりにパチンコで勝った帰り、すまいるに寄ってみたがお妙はあいにく休みだった。

おりょうや花子といった銀時がよく知っているキャバ嬢は上客の相手に忙しく、残っていたのは阿音だけ。

「名刺にお休みの日書いてあるでしょ?」

銀時に指名された阿音は営業スマイルのかけらもない顔だ。

「名刺貰ったことねえもん、お妙に」

「あっそ。じゃあそれ飲んだら帰んな、万事屋」

「うるせえよ、阿婆擦れ巫女。言われなくても帰るよ!」

小指で鼻をほじると、銀時はお妙がいないんなら来るんじゃなかったよ、と呟く。

阿音も折角の指名に営業用スマイルで控え室を飛び出してみれば、よりによって万事屋銀時。

控え室で化粧直しでもしていた方がよっぽどましだったわ、と呟いた。





「ところでさ……巫女プレイとかすんの? お前」

銀時がふとそんなことを言い、阿音は「はぁ?」と返す。

「棒の先に白い紙ふさふさつけたアレでさ、おっぱいさわさわ〜とか……あり?」

「いっぺん死んでこいよてめえ」

「あなたの股間の破魔矢を私のおまたの的のど真ん中に、とかお神酒でワカメ酒とか」

「しねえよ」

阿音はため息をついた。

(男ってのはどうしてこう巫女に夢見るのかしらね)

「なぁ」

「……!」

阿音はぎょ、っとした。

銀時の手が、阿音の袴の太腿にいつの間にか置かれていた。

優しく撫でられる。その慣れた手付きに、性的なものを感じ、阿音はいけない、と思った。

「ちょ……ここおさわり禁止なんだけどっ!」

「――そういうことしねえんだったら、どういうことすんの?」

少しばかり赤い銀時の顔が、阿音のすぐ目の前、鼻先数センチの距離にぐいっと迫った。

よく見れば悪くは無い顔立ち、いつになく真剣な表情。低い声で尋ねられ、阿音は答えに詰まった。

「な、阿婆擦れ巫女」

銀時の手が、太腿の付け根に触れる。布越しだが、確かにその手付きはいやらしいそれだった。

阿音が足を閉じたが、それをこじ開けるように銀時の手が動く。

他の客なら平手の一つも食らわせてかわすのだが、銀時の獣と雄を感じさせる据わった眼差しに、 阿音はそれを選ばなかった。

(この男……って、……もしかしなくてもやばいかも……何よ、ちょっとカッコイイかも……)

「阿音よ」

「ん?」

「阿婆擦れ巫女じゃないわよ……阿音って名前があるのよ」

声が震えている。阿音は息を呑んだ。気圧されそうなのを悟られまいと、銀時を睨む。

「あっそ……じゃあさ、阿音ちゃんさ」

袴を離れた銀時の手が巫女装束の胸元に当てられる。胸のふくらみをなぞる。

「さっきの質問、答えてくれねえの? それと心臓ドキドキしてるみたいだけど、どうして?」

わざと左を触ったのだ。ずるい、と阿音は思った。

「聞きたいなら教えてあげるけど、ここじゃこれ以上は無理よ」

ダメだ、陥落。降参だ。阿音は銀時に折れた。ずるい男だわ、と阿音は負け惜しんだ。

「んじゃ、阿音ちゃん連れ出しでお願いしまーす」

「――高いわよ」

「いいぜ、今日はパチンコでジャンジャンバリバリ出たから」

あっちの方もジャンジャンバリバリ出しちゃおっかな、と銀時は不敵な笑みを浮かべた。






●鬼さん、こちら(高妙)

細く白い手が、高杉に目隠しをした。

包帯の上から樟脳臭い古いはぎれを一ト巻きし、後ろできつく結んだ。

「捕まえられたら、好きにしてもいいわ」

「俺がお前を捕まえられないとでも言いてェのか?」

「どうかしら。だってここ、私の家だもの」

地の利は私にあるのよ、と妙は言う。



隻眼が盲になる。

「捕まえて御覧なさいよ」

鈴を転がすような妙の声は余裕たっぷりで、高杉は己が子供の様にむきになるのを感じずにはいられなかった。



「鬼さん、こちら」

パン、パンと手をたたきながら、妙の声が遠ざかっていく。

「手の鳴る方へ」

襖を開ける音。静かな足音。

高杉は手探りで、妙を探す。



「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」 暗闇の世界を、高杉は妙の声の方へと恐る恐る、進む。

だだっ広い志村の屋敷の部屋数はかなり多い。部屋同士が繋がり、廊下は誰の根性に似たのか幾度も曲がっている。

「鬼さん、こちら」

襖の開閉音。軽い足音。

「手の鳴る方へ」

高杉は手を伸ばす。歩幅はいつもよりも控えめに。

躓きでもしたら妙に笑われてしまう。

「鬼さんこちら」

遠ざかったと思ったら、また近くに聞こえる。



廊下で高杉は何かを踏んだ。

しゃがんで手探れば、帯締めだ。

妙のものだろう。

「……味な真似をする」

ク、と喉の奥で笑い、高杉は帯締めを放り投げまた妙を探した。



今度は帯揚げを踏んだ。

その次は九寸帯を。

さっき食べた煮物の匂いを名残の様に漂わせる台所の付近では、小紋を。





「捕まえた」

人の気配を感じ、片手で襖を開くと同時にもう片手を伸ばすと、果たして温かな首筋に触れた。

「妙」

はぎれをずらすと、妙が目の前にいた。

何も身につけてはいない。生まれたままの姿で。

「……捕まっちゃったわね」

降参だわ、と妙は目を閉じた。





鬼ごっこはこれにておしまい。






●桂妄想アワー

松原松子……その日まで、桂にとって彼女は一生徒であり、顧問を務めるバスケ部の一部員だった。

その日までは。



後ろ手で体育用具室の扉を閉めた松子は、酷く落ち着かない様子だった。

しかし意を決したように桂の前に歩み寄ると、

「先生……この前の返事を聞かせてください」

「松原……」

潤んだ眼差しで桂を見上げ、言った。松子の言葉は震えていた。

その眼差しに思わず桂は後退りし、ぐっと息を呑んだ。

「松原、分かっているのか俺達は……」

「知ってます、先生にとっての私はただの生徒だってこと……でも私―――」

悲しそうに一瞬だけふっと微笑んだ松子は、何もかもを悟ったようで、酷く大人びて見えた。

どうしてそれを、と言いかけた桂の口を、背伸びした松子の柔らかな唇が塞いだ。

唇同士が離れ、銀糸が後を引いた。

「まつ――」

「一度だけでいいんです、先生」





「松原、痛いか? いいえ先生、へいき……ッ、無理するんじゃない松原……やめないで先生っ、

……それより松子って呼んで……松子……こうか……?嬉しい先生……ああ……松子可愛いよ松子……

もっと足を開け松子……桂先生のおっきい……バリッ、メリメリッ……あっ血が出てきた。

初めてだったのか松子……

いやっ初めてなのにこんな格好恥ずかしい先生……そんなことはないぞ松子……

松子も俺のことを桂さんと呼んでくれ……それより松子お前のお母さんと一度じっくり個人面談をしたいのだが……」





桂は寝床の中、声色を変え枕を抱えて一人妄想小芝居をしていた。

部屋の外ではエリザベスが静かに泣いていた。




●土神

「……これやるよ」

別れ際、土方からそっけなく渡されたものは、掌に収まる程の小さな箱。

帰ってから開けろ、くれぐれも押入れの中でな、と再三念を押され、神楽はその中身をとうとう聞けなかった。



手にした箱は走ると軽い音を立てた。

中身は何だろう。

早く中身が見たくて、神楽は家路を急いだ。

「ただいまヨー」

「遅かったな、神楽」

「うん、公園で遊んでたネ」

いつもよりも弾む声を抑え、テレビに見入る銀時を尻目に自室代わりの押入れに入る。

襖を内側から閉め、僅かな隙間から差し込む灯りを頼りに、土方に別れ際に渡された箱を取り出す。

ワクワクする気持ちを抑え、テープをはがして蓋を開く。

「あ、」

プチプチに包まれていたのは、ピンク色のローターだった。

ロータのリモコンには、土方の字で「寂しくならない便利なもの」と書かれていた。





『会えない日が寂しいネ』

『んなこと言ったって仕方ねーだろ……』

『ねぇ、なんか欲しいネ。寂しくならないモノ』

『あるかよそんな便利なもん』



随分前に土方とそんな会話を交わした。

こちとら忙しいんだよ、とその時は軽くあしらわれたのに、どうやら土方はそのことを覚えていたようだ。





「神楽お前なぁ、もうちょっと早く帰って来い。日は短いんだぞ」

夕餉の席で、ほうれん草のおひたしを口に運びながら、銀時が言う。

「分かってるネ、銀ちゃん口より箸動かすアル」

土方と会うとどうしても遅くなってしまう。

たまにしか会えないから、会えば分かれづらくて長引いてしまう。

「公園だって何がいるか分かったモンじゃねーぞ。変なオッサンとかオッサンとかオッサンとか……」

「オッサンばっかりアル。銀ちゃん心配しすぎヨ、私大丈夫ネ」

「大丈夫じゃねーよ。オメー自分は夜兎だからって安心してたら、なにされるかわからねーぞっ」

(もうされてるアル。あのマヨラに)

飲み込んだ言葉が神楽の全てだった。

「あ、俺風呂上がったら呑みに行くから」

「……うん」

銀時の言葉に、思わず心が跳ねた。

ラッキー。心の中でそう呟き、顔に出すまいと白米を多めにほお張る。

「ちゃんと戸締りしとけよ」

「分かったアル。銀ちゃんもちゃんとゲロ吐いて帰ってこいヨ」

「うっせーなぁ」

はやくアレを試したい。

別れ際にアレを呉れた男のことを想いながら。




●お祝いっていうけど結局酒呑む理由が欲しいだけなんだよね(万斉×お通)

万斉は赤い顔をして眠りこけている。

それも、畳の上で。

「つんぽさん、ねぇ風邪引いちゃいますよって酒臭ッ!」

お通は万斉の身体を揺さぶったが、起きる気配は無い。しかも寝息がものすごく酒臭い。

「ねぇ、つんぽさんてばっ! つんぽさんっ! 税務署ですよっ! 河上万斉殿っ! 真選組のガサ入れですよっ!」

脅してみたが効果は無い。

多分今真選組が踏み込んだら万斉は普通に捕まるだろう。

「あーあもう……仕方ない人」

少し離れた机の上には、散々呑み散らかした残骸の山。一体どれほど酒を開けたというのか。

お通がこの宿を訪れたとき、既に万斉は眠りこけていた。

「……なんでこんなになるまで飲んじゃうかなぁもう……」

仕方ない人、とお通はため息をついた。





お通は押入れから布団を出し、万斉に掛けた。

部屋の明かりを豆電球にすると、髪を解き自分もその布団に潜り込んだ。

「ちょっとお酒臭いけど仕方ないかな……つんぽさん、おやすみなさい」

万斉の頬に軽くキスをして、お通も目を閉じた。

机の上のずらりと並んだ空の酒瓶の下には、今日出回った業界関係者向けの江戸コンの速報。

お通のニューシングルは堂々の初登場一位。赤ペンでしっかりとマルがしてあった。

この派手な呑みっぷりは、万斉が一人でそれを祝ってのこと。

お通がそのことを知るのは、翌日の朝のことだった。




●『想い出はそのままに(源三×早苗)』

純白のウエディングドレスに身を包み、ブーケを手にした彼女はとても美しかった

いつかは翼と彼女はこうなると思っていたけれど、まさかこんなに早いとは。

翼にはいつも敵わないな、と源三は自嘲気味に笑った。





式場の廊下で、介添人に手を引かれる彼女とふと目が合った。

あのことは胸の奥に仕舞っておこう。

お互い、無かったことにしておこう。



目でそう伝えると、彼女はヴェールの向こうで小さく頷いていた。



あの夜まで、源三はそのことを知らなかった。

後で来生に聞いた話だと、仲間内で知らされたのは源三が一番後だったらしい。



包帯を巻いた源三の手を、早苗はそっと撫でていた。

「若林君の手って大きいね」

「そうか?」

「大きいわよ、すごく」

早苗はその手を取り、己の頬に押し当てる。

ベッドに横たわったまま、源三は早苗のしたいようにさせていた。

スリップ一枚の早苗は、傷だらけの源三の手に慈しむように頬擦りし、目を閉じた。

「ねぇ、若林君」

「……何だ」

「私ね、……結婚するの」

「…………」

「翼君と」

源三自身、翼にも、他の友人たちにも隠れての密やかな逢瀬の日々が何時までも続くとは思っていなかった

。 けれどこんなにあっけなく終わるだなんて、思っていなかった。

年に数回、帰国した時に会って身体を重ねる関係。



翼にはいつも敵わない。

それでもあのささやかに密やかな日々は、ほんの少しの優越感を源三にもたらしてくれた。

誰にも見せたことのない早苗の裸と、早苗は翼にあげるつもりだった純潔。

二つの土台の上に、翼より前に、そして翼に内緒で早苗と築いた、短い逢瀬。

この先長い人生を、その優越感を糧に生きていくしかない、さもしい己。

源三は哀れをもよおし、鼻の奥がつんとするのを感じながら手にした缶コーヒーを一気に飲み干した。

「若林さん、そろそろ式が始まるそうです」

「そうか。じゃ、行くとするか」



井沢に呼ばれ、若林は空になった缶を塵箱に投げた。



●マダハツ

夜の帳が折り始めた部屋は暗く、破れたカーテンの隙間からはネオンの色とりどりの灯りが零れてくる。

裏通りの四畳半の角部屋は、つい先程までの熱っぽい時間を忘れたかのように静まり返っていた。

「……終わったんだから帰れよ」

背中を向け胡坐をかいた長谷川は、懐から煙草を取り出すと一本咥えた。

うっとおしげに言い放った後で、「バスがなくなっちまうぞ」と付け加えた。

ライターはオイルがないのか、何度も空回りし、やっと煙草に火が付いた。

ち、と舌打ちをしてから深く一息吸い、紫煙を吐き出す。

「また……来てもいい?」

煎餅布団の上で乱れた着物を正しながら、ハツは呟くように尋ねた。

「月曜以外はバイトで忙しいんだよ……」

しゃがれた声で、長谷川も呟くように答えた。

ちらかった四畳半の長谷川の部屋は、煙草と酒と饐えた匂いと、そしてさっきまで行われていた 男と女の匂いが入り混じっていた。

それはむせ返るほど濃く、けれど懐かしくてどこか離れがたい……そんな匂いだった。





離れて暮らすようになって半年。

原因を作ったのは長谷川の方で、出て行ったのはハツの方だ。





ハツは長谷川の背中を見た。すっかりやつれ、一気に年をとったようなその背中に、 思い切り抱きつけたらどんなに楽だろう、とハツは思った。

やつれて、年をとったような、どうしようもない男の背中。

地位も名誉も肩書きも何もかも失った、けれど世界で一番、愛している男の背中。

長谷川はちらりとハツを見た。痩せたな、と思った。

ハツを思い切り抱きしめてやれない、ふがいない自分を恥じた。

「月曜なら、来てもいいのね」

ハツが再び尋ねた。月曜以外と言うことは、月曜は空いている、ということだ。

「……」長谷川は答えない。沈黙は肯定だ。昔からこうだ。

ハツは己の顔に笑みがこぼれそうになるのを感じた。

別居し始めた頃に比べれば、これでもまだお互い随分と歩み寄った方だ。



一時の感情に任せて、入管の局長をくびになったのは長谷川。

やはり一時の感情に任せて、家を出たのはハツ。





お互い、バカなことをして、その癖まだ意地を張っている。

意地という糸の端と端を握って、子供の様にうじうじしている。

ここ最近は時々会って、同じ布団に入って夫婦ごとをするまでになったけれど、 昔の様に愛を語り合うわけでもなく、子供を作るでもない。童貞と処女でもない癖に、とてもぎこちない。





その最中なら言いたくても言えない事が言えそうな気がしているのだ。お互い。

だから会って、悪態をつきながらも身体を重ねている。

でも、まだ言えない。



すまなかった、ごめんなさい、やり直そう、やり直しましょう、が言えない。

「今度は、お稲荷さんでも作ってくるわね」

ハツは髪を撫でつけると、荷物を手に立ち上がった。

「これから寒くなるっていうのに、温かいモンくらい持って来れねえのかよ」

「だってここ、ガス止められてるんだもの」

意地という糸の端と端を握って、子供の様にうじうじしている。



ぎしぎしと音を立てるアパートの階段をハツがゆっくりと降りると、知った顔の男が立っていた。

会釈をし、通り過ぎようとするハツに片手を挙げた男――銀時は、口端を軽く上げるとハツに向かって言った。

「長谷川さん、火曜も空いてるみたいだよ」

「……」

「アンタ達見てたら、なんかじれったくてケツがかゆくなっちまうよ」

言い返すことも出来ず、ハツは下を向いて唇をかんだ。




●小ネタの銀阿音

「コレ、何つーの」

うつぶせで布団に寝そべる銀時は、枕元に無造作に置かれた紙垂(しで)をつまんだ。

「注連縄とかに下がってるアレだろ、コレ」

「そう。紙垂っていうの。それ神事に使うんだからイカ臭い汚い手で触るなっつーの」

その紙垂の傍で巫女服を整えながら、阿音は銀時がつまんだ紙垂を取り返した。

「イカだけじゃねえよ。チーズっぽいのも混ざってるよ」

真顔で言う銀時の頭を、阿音は軽くはたいた。

「……なぁ、なんでお前マンコはダメなんだよ」

「だァから巫女は処女じゃなきゃだめだっつってんでしょ。尻の穴でもヤラせてくれるだけありがたいと思いなっ」

「めんどくせーの……」

次こそは阿音の”処女”を頂いてやろう。銀時は密かにケツ意……もとい、決意した。




●銀時と結野アナ

「離婚して綺麗になりましたよね、ケツの穴……じゃなくって結野アナ……」

「ああん、ダメですそんなところっ……広げないで下さいッ」

「別れた旦那さんにはこんなとこ許さなかったんでしょ? 週刊誌に書いてありましたよね?」

四つん這いの結野アナの尻の穴を広げる銀時。

その傍では、定春とラストオブモヒカンリビングオブザデッドマクガフィンが二人に背を向け、 仲良くホットドックプレスを読んでいた。




●万通「お別れの時間」

迎えの車はとっくに来ていて、乗せるべきお通を待っている。

宿の部屋を出る前の、わずかな別れを惜しむ時間。

触れるだけの口付けは音も無く、名残惜しさと別れ難さを醸し出す。

「お通殿、また明日」

肩に優しく置いた手の主……口付けの相手はそう言って微笑み、サングラスの奥の目を細めた。

「……はい、また明日……」

別れはほんの僅かな時間だ。

お通は自分の肩から離れていく万斉の手を未練がましく追う己に気付き、あ、いけない、と思った。

また明日、と言ったけれど。

それは嘘だ。

明日がどんな日なのか、お通は知っていた。

万斉は隠しているつもりだろうけれど。

(ねぇ、ずっと傍にいたいんです)

「早く帰らねば、母上殿か心配しているだろう」

そう言ってお通に向けた広い背中に、彼女は思い切り縋りつきたかった。





ほんの一時間ほど前。

『――明日、真選組に奇襲を仕掛ける』

万斉が携帯で誰かと話しているのを、お通は布団の中で寝た振りをして聞いていたのだ。




●万妙「臥待月」(月夜 の続き)

小窓から差し込む月明かりは頼りなく、物悲しげに穏やかであった。



数日前から閉じ込められているこの家が何処にあるのか、妙には皆目見当が付かないでいた。

高い位置にある小窓から見えるのは僅かな空だけ。

よほど寂しいところにあるのだろうか、人の声も足音もしない。

当然、叫べども外から反応は何も無い。



「……臥待月とは、よく言ったものだわ」

呟く妙の声はか細く力ない。

小窓から見える欠けた月を眺めながら、いつ戻るとも知れぬあの男の帰りを待つより他、することは無かった。

攫われたあの日からずっと、この狭い部屋に、妙は縛られて転がされていた。

会話をするのはあの男だけ。食べるものを与えてくれるのもあの男だけ。

あの男が帰ってこなければ、妙は飢えて死ぬより他はない。

こんなに寂しいところにあるのだ。亡骸はきっといつまでも誰にも発見されないだろう。

そう思うと、背筋がぞっとした。



あの日、それまでの日常から突然隔離されたこの非日常。

非日常は日常のすぐ傍にいつも口をあけて待っているのだと、思い知ったのはあの日の夜のこと。

襲われ、犯され、攫われ、閉じ込められた。

「嫌いよ……あなたなんか……」

呟いた妙の声は虚空に消え、あの男には届かない。

しかし確かにあの男の手中に妙の命はあった。





  ス、と部屋の襖が開く。きつい酒のにおいをさせながら、あの男が――万斉が戻ってきた。

「……遅かったのね」

「起きて、いたか」

万斉のややおぼつかない足取りは、かなりの量を飲んだ事を示していた。

万斉は妙の傍に座り、畳に散らばる妙の黒髪をそっと撫でた。

「一日こうしているのよ、……眠れるわけが無いわ」

「そうか……いや、そうであろうな」

万斉は口の端を軽く上げた。





攫って来た女は最初のうち、酷く抵抗した。万斉を口汚く罵り、叫び、逃れようと必死だった。

喉から血が出るほど絶叫し、嗚咽し、食事には手もつけなかった。

万斉はそれを力で捻じ伏せ、刀で脅した。頬を打ち、無理矢理犯した。

夜となく、昼と無く。

何度も、何度も。

やがて妙の抵抗は弱くなり、叫ぶことも罵ることも逃れようとすることも無くなった。

大人しく縛られて転がされ、万斉を待つようになった。

しかし万斉を見つめる目に思慕の念はかけらもなく、己の矜持を凛と保ち、あくまでも拒んでいた。

こんな目にあっても失われることのない、妙の凛とした眼差し。気の強そうな、儚さとは縁遠い……。





万斉が妙の上に陰を作る。近づいてくる酒の匂いのする顔。

妙はそれを甘んじて受け入れた。重なる唇。音も無く吸い、甘く、甘く、溶かされていく。

肌蹴られた裾から入り込んでくる熱っぽい万斉の手が、妙の太腿を撫でる。



あ、と思いつめたような声を漏らせば、妙の目尻を一筋の涙が伝った。



失われずにいる妙の矜持がもたらしたそれ。

何であるのか、もう妙には分からなくなっていた。

臥待月は、その涙をさえ照らして残酷に小窓の向うに存在していた。




●天井裏の懲りない面々

志村家の天井裏……かつてはネズミと野良猫が追いかけっこをし、今は亡き志村父が自販機で タイトルも確認せず買ったエロ本を隠すのに使っていた狭い場所であるが、

ここ最近はストーカー三人衆(注:たった今命名)の絶好の隠れ場所となっていた。

「ちょっとなに……何なのよアレはっ」

さっちゃんは羽目板の隙間から覗く居間の光景に驚きの声を上げた。

「若……なんという破廉恥なことに手を染め……」

「おおおおおお妙さん……」

それに続き、東城、近藤も同じく驚嘆を言葉にした。

さっちゃん、近藤、東城のストーカー三人衆の見た光景、それは……。





「おいお妙、お前ぜってー屁ェこくんじゃねーぞっ!」

「あら銀さんこそ、どさくさに紛れてお尻触らないで下さいね」

「お妙ちゃん……足が震えているぞ……」

銀時、お妙、九兵衛の三人はいわゆるツイスターなるゲームの真っ最中だった。

ルーレットを回すのは九兵衛。色とりどりの丸が描かれたシートの上、お妙のお尻が銀時の顔の上、 つまりお妙が銀時を跨ぐような格好になっていた。

何故こんな事をしているかといえば、先日すまいるを訪れた将軍様(あっちは足軽)がまた来店する事となり、 今度はもうちょっと公平かつエッチなゲームをしようじゃないかという話しの流れでツイスターが選ばれた。

いわばその練習、ということなのだが。





天井裏。

「お妙さんはドサクサに紛れて銀さんに顔面騎乗するつもりなのよ……裾を捲り上げてね!

そしてこう言うに違いないわ……私のラブジュースはどう? 美味しいでしょ銀さん? 

いちご牛乳より美味しいでしょ? ってね!」

「お妙さんはそんなこと言わないッッ! 万事屋の野郎がお妙さんの裾に顔を突っ込んで こう言うに違いない……ああいやらしい雌の匂いがむんむんするぜ……

いつもこんないやらしい匂いをさせているのか……ってな!」

「そんな光景を若の目の前で……若はきっとそれに触発されてしまう……いつしか若のその手は

小さな胸を弄り、ハァハァと息を弾ませもう片方の手は足の間に……下着の上から指を滑らせ……

そして若は! 若はこう言うに違いない! 僕も……混ぜてくれないか……」





居間。

「もうこんなめんどくせえゲームなんか止めて、人生ゲームにすりゃいいだろうが」

「ダメよ、将軍様はくじ運がないのよ。人生ゲームなんてして御覧なさい、結果は火を見るより明らかよ」

「ドベは間違いないな……」

内心ドキドキしているお妙。

(銀さんにお尻の匂いをかがれたら……)

ちょっと鼻の穴が若干サブちゃん気味な銀時。

(俺って匂いフェチだったっけ……)

落ち着かない九兵衛。

(銀時、僕と代われ!!!!!! お妙ちゃんのお尻は僕のものだ!!!)





天井裏。

議論白熱の末、全員マッパになっていた。

「いいえ違うわ! お妙さんはこうするに違いないわ! 銀さんのモノを足でコキながら……

あら銀さんってSだSだって自分では言うけど、実はMッ気もあるのね、って!」

全裸のさっちゃんが仰向けの近藤のナニ(フルボッキ)を足でぐにぐにしながら、腰に手を当てて言う。

「お妙さんは足コキでも足袋をはいて足コキをする筈だ! 足袋の裏って結構気持ちいいからな!」

「こっちも足コキお願いしまーす!!!!」

近藤の隣で東城も全裸仰向けになっていた。

「ってかアンタのとこの若にはそれ付いてねえし!!!」

「若抜きでもお願いします!」

「それが本音かぁぁぁ!!!」





今日も志村家は平和だった。







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