兄ちゃんの秘密

 居間のテーブルの前で目の前にある朝食も食べずに日向夏は仏頂面をしていた。
 そんな夏を見かねて傍で忙しく動き回っていた母親が言った。
「こら、夏っちゃん、片付かないからさっさとご飯食べちゃいなさい」
 母に言われて夏は不機嫌な表情のまま朝食に手を付けた。
 バタートーストに口を付けた後、はぁっと溜息を付いた。
「何あんたまだ小さいのに溜息なんて付いちゃって……」
 夏が落ち込んでいる理由が分からないとでも言いたそうな母親に対し、夏は分かってる癖にと思った。
 目の前の席に視線を向けた。夏の兄の翔陽の定位置となっている席で、その席には今誰も座っていない。
 夏の不機嫌の原因は翔陽にある。
「しょうがないでしょ。兄ちゃんは忙しいのよ」
「だってー……」
 夏は頬を膨らませた。
「そんな顔しても兄ちゃんは帰って来ないわよ。本当、夏っちゃんはお兄ちゃん子なんだから」
 母親がお兄ちゃん子と言うように、夏は兄のことが大好きだ。暇があれば翔陽にくっついて母親に呆れられている。
 中学生の頃もそうだったが、高校生になってからは余計にバレーに熱中しており、家に居ても夏の相手をしてくれない。
「兄ちゃんとやくそくしたのに。きょう、アタシとあそぶって!」
「そういうこともあるわよ」
「そういうことってどういうこと!?」
 日曜日の今日、翔陽の部活が休みなので前から翔陽と約束していたのだ。今日は夏と一緒に過ごすと。
 久しぶりにゆっくりと兄と過ごせるのを指折り数えて楽しみに待っていたのに寸前で破られた。

 それは今より少し前の時間のことだった。
 夏がはりきって早起きをして居間で兄の翔陽が起きるのを待っていたら、しばらくして私服に着替えた翔陽が慌ててやって来て、母親に向かって「ちょっと出掛けてくる!」と言った。まるで女の子と出掛けるかのように洒落た服を着ている。ジャージ姿の兄を見ることが多い夏は珍しい私服姿の兄をぽかーんとした顔で見ていた。
「オシャレな格好して一体どこ行くの? もしかして女の子とデート?」
 母親はニヤニヤとして翔陽の肩を叩いた。
「ち、違うよ!」
「へぇ〜! 翔陽も大人になったわね」
「だから違うって言ってるだろ! オシャレぐらい高校生ならするよ」
 母親と翔陽とのやり取りをぼーっと横で見ていた夏ははっとわれに返って言った。
「兄ちゃん、アタシとのやくそくは?」
「アタシとの約束? あっ、忘れてた!」
「ひっどぃ!」
 約束したその日から指折り数えて楽しみに待っていたのに、当の兄には忘れていたと言われ、夏は憤慨した。
「たのしみにしてたのに! 兄ちゃんのバカ!」
「ごめん、また今度!」
「とびおとあそぶの?」
「夏、影山のこと、名前で呼び捨てにするなって言ってるだろ」
「とびおはとびおだもん! 兄ちゃん、アタシもいく!」
 夏は翔陽にしがみ付いた。
「えぇぇええ!!」
 困惑した表情で翔陽は母親を見た。母親はしょうがないわねぇという表情をして夏に注意した。
「こら、夏っちゃん、兄ちゃんを困らせないの!」
「だって、兄ちゃんとやくそくしたんだもん! 今日はアタシとあそぶって。兄ちゃんのうそつき!」
 夏はわあぁぁぁと勢い良く甲高い声で泣き出した。小さな身体を力いっぱい使って暴れる。夏の伸びた腕が翔陽の身体に何度も当たって翔陽の顔が歪んだ。
「いたっ……痛いって……」
 夏に身体を押された勢いで足が床にもつれて翔陽は尻餅をついた。
 夏は床に仰向けになった翔陽の身体に乗り掛かると、翔陽の胸を叩いた。
「兄ちゃんのバカバカバカ!! うそつき! きらい!!」
「夏、痛い、重たい……ちょっと母さん、見てないで助けてよ!」
 腕を組んで兄妹のやり取りを感心したように眺めていた母親に翔陽は言った。
 翔陽に助けを求められ、母親は夏の身体を無理矢理引き剥がした。
「夏っちゃん、兄ちゃんを困らせちゃ駄目でしょ!」
「うっ……だってぇ……兄ちゃんが……やくそくやぶって……」
 強い口調で母親に言われ、夏は涙をこぼしながら自己主張する。
「翔陽も翔陽よ。夏っちゃんは今日をずっと楽しみに待ってたんだからね。バレーに夢中になるのもいいけど、少しは夏っちゃんの気持ちも考えなさい!」
「ごめん」
「私に謝っても仕方ないでしょ。夏っちゃんに謝りなさい」
「ごめんな、夏。今度遊んでやるから」
「こんどっていつ?」
「う〜っ……」
 妹からの追求に翔陽は口ごもった。
「ねぇ、兄ちゃん」
「分かんないよ! 今度は今度!」
 そんなの納得できないとでも主張するように夏は頬を膨らませ言う。
「兄ちゃんはいつもとびおのことばかり!」
「なんでここで影山が出てくるんだよ」
 夏の口から影山の名前が出てきて、これから会う影山のことを思い出し、翔陽は腕時計を見た。
――やばい。今すぐ家を出ないと待ち合わせ時間に間に合わない。遅刻したら影山に睨まれる。
 そのことで頭がいっぱいになって次に夏が言った言葉を聞き逃した。
「アタシ、みたんだよ。兄ちゃん、この前……」
「えっ、何?」
 早く家を出たいなぁとちらちらと居間の扉を見る。
「何のこと?」
 夏は迷っていた。今ここでこの前偶然目にしたことを言ってもいいのか分からない。思わず母親を見た。翔陽はともかく母親が聞いたらやばい話だと子供ながらに分かる。
「何でもない。兄ちゃん、変わった。前の兄ちゃんはアタシとあそんでくれたのに! 最近はとびおのことばかり」
――兄ちゃんはアタシよりとびおのほうが好きなの?
 口走りそうになった口を寸前のところで閉じた。
 兄が"とびお"を認めても夏だけは絶対に認めない。夏は自分から兄を奪った"とびお"のことが嫌いだ。
 兄が何も言わなくても、いつもより少し洒落た格好や嬉しそうな表情を見ると、これから会う相手が"とびお"だと分かる。
「別におれは影山のことなんて……」
「影山君がどうしたの?」
「何でもない!」
「翔陽、あんた顔赤くなってるわよ」
「うっ……だから、何でもないってば!」
 翔陽は冷蔵庫から牛乳を取り出すとそのままあおった。
「こら、翔陽、行儀悪い」
「ごめん!」
 急いでいるのか、小走りで居間の扉に近付いた。
 扉の外に出ようとして思い出したように振り返って夏を見た。
「兄ちゃん……」
「夏、今は忙しくてなかなか構ってあげられないけど、おれは夏のことが大事だからな」
「とびおより?」
「……もちろん!」
 一瞬空いた間と視線の動きで、夏は兄の嘘を見破った。だが、それを指摘しなかった。
「行ってきます!」
「翔陽、朝ご飯は?」
「いらない!」
 目の前で勢い良く扉が閉まった。続いてどたばたと床を蹴る音が聞こえた、
「落ち着きのない兄ちゃんね」
 母親に言われて夏は頷いた。

――兄ちゃん、アタシ、みちゃったんだ。
 あれは衝撃的な場面だった。
 いつの日のことだったか……夕方に夏の大好きな兄の声が聞こえて外に出ると、飛雄と口論していた。
「兄ちゃん?」
 様子を伺おうとするが、飛雄の身体が邪魔になって翔陽の顔がよく見えない。
 小さな夏からすれば翔陽よりも飛雄は遥かに背が高く、威圧的に映った。
 兄が飛雄に一方的に怒られているように見え、兄のことが心配になって駆け寄ろうとしたが、夏は立ち止まった。
「んんんっ……」
 飛雄は背を屈めて兄に何かをしている。
 母親が好んでよく見ているドラマによく出てくる光景によく似ていた。
 次の瞬間、パ〜ンと頬を叩く声が聞こえて夏は驚いた。
「何するんだよ! 影山のバカ野郎! おれの貴重なファーストキスが……」
「言っても理解しないから、態度で示しただけだ」
「信じるわけないだろ! おれのこと……す、好きなんて! 影山が話があるって言うから何だと思ったらそんな話だったなんて……。唐突すぎてびっくりするって言うか……もう何が何だか」
「日向、落ち着けよ!」
「これが落ち着いてられるか! 告白もびっくりだけど、まさか影山にキスされるなんて……はぁ、おれの貴重なファーストキスが!」
 彼らの背後で夏は口を大きく開けて呆然としている。
 相手が女の子ならともかく、男である飛雄だなんてまだ幼い夏には衝撃的なことだった。
 男子と女子がするのが当たり前で、同性同士のキスは夏の頭の中には存在しない。
「兄ちゃんが……兄ちゃんが……」
 夏の小さな呟きは彼らの耳には届いていないようで夏の様子にも構わず何事か話している。
 夏は大好きな兄を飛雄に汚されたと思った。
 まだ幼い夏にとって、恋愛や同性愛はデリケートなテーマだった。
 その時、夏の中で、単なる兄のライバルでしかなかった飛雄が、憎むべき相手に変わった。

 翔陽と飛雄のキスの件はまだ誰にも話していない。当の本人にも。夏の心の中に誰にも見えないように大事にしまわれている。
 今朝、勢いで口走りそうになったが結局言わなかった。
 飛雄は憎いし、翔陽に近付いて欲しくないが、母親の目の前でそのことを話して傷付く翔陽の姿を夏は見たくなかったのだ。
 今、翔陽が飛雄と二人きりで会っているかと思うと、毎週楽しみにしている日曜日の朝のアニメにも集中できない。
 意識はテレビにはなかった。夏の頭の中は翔陽と飛雄の妄想で忙しい。
 二人は向き合っていた。飛雄が翔陽に何か言って(夏からすれば翔陽への誘惑だ)、それに対し、翔陽も何かを言った。
 ゆっくりと折り重なる二人――夏の悲鳴が部屋に響く。
「やあぁぁぁ!」
「うるさい夏っちゃん! 静かにしてテレビ見なさい!」
 傍に居た母親に怒られた。
「お母さん、兄ちゃんが!」
「兄ちゃんは今、外でしょ」
 お母さんは何も分かってない――夏は思った。
 こんなところで暢気に過ごしていてもし翔陽の身に何かあったらどうしよう。飛雄に酷い目にあわされるかもしれない。夏はまだそっちの方面に疎いので具体的に何があるのかは想像できなかった。
 何があるのか分からないから曖昧なところが何に不安を駆り立てる。
「お母さん、アタシ、兄ちゃんにあいにいく!」
「何馬鹿なこと言ってるの」
 夏は真面目に言ってるのに母はとりあってくれない。
「いや、いやー!」
 テレビなんかそっちのけで母に構ってもらおうと声を出して暴れた。相手が翔陽ならオロオロした様子で自分に構ってくれるのに母はそうじゃなかった。
「駄々こねても駄目! あんまりうるさいとテレビ消すよ」
「うぅっ、それもやだ」
 事情を知らないから仕方ないが、翔陽のことを少しも心配していないように見える母親が嫌だ。
「とびおのせいだ!」
 夏が声を上げると、母親からまだ言うの?とでも言いたそうな呆れた表情で見られた。
「あんた、影山君のこと悪く言うけど、何が気に入らないの?」
 母親は首を傾げた。彼女からすれば一度も会ったことのない、時折息子の口から耳にするだけの相手に敵対心を持てる娘の気持ちが分からない。
「そりゃあね、翔陽はいつも影山君の悪口言ってるけど……」
 話の内容とは裏腹に楽しそうに飛雄のことを語る翔陽の表情を見ていたら、本気で嫌ってるわけじゃないんだなぁと思う。
 高校生になって新しい部に所属し、飛雄に出会った今のほうが、中学生の頃より輝いて見える。毎日が楽しそうで、ちっとも勉強をしなくても、許してしまう。
「きらい! とびおなんてだいきらい!」
 基本人懐っこく、人を嫌うことなど滅多にないのに、なぜ一度も会ったことのない飛雄に対しては毛嫌いしているのだろう。母親は困惑した。母親としては、会ってもいないのに一方的に飛雄を嫌っている夏をしつけのために叱るべきなのかもしれないが、できなかった。
「夏っちゃん、宿題は済ませたの?」
 叱る代わりに宿題のことを指摘すると、夏の表情が変わった。夏に言われなくても、まだなのだと分かる。
「さっさと済ませちゃいなさい!」


□□□ □□□ □□□
 夏が思っていたよりも早く翔陽は帰ってきた。
 エアコンの利いた居間で宿題をしていると、「ただいま!」と翔陽の明るい声が耳に入った。
 やりかけの宿題を放り出し、夏は玄関へと走った。
「おかえり、兄ちゃ……え?」
 兄一人だけいるものかと思って明るく声を上げたら、予想外の人物が視界に入って困惑した。
 翔陽の隣で仏頂面の影山飛雄が立っている。
「兄ちゃん、これどういうこと?」
 なんでとびおが家に居るの?――夏の頭の中は疑問符だらけだった。
「影山、そんな顔するなよ。妹が恐がってるだろ」
 冗談なのか本気なのか翔陽は飛雄に対して言った。
 確かに飛雄の顔は恐い。だが、それにもめげず、夏は飛雄を見上げて言った。
「兄ちゃんは……とびおには、ぜーーーったい、あげないからね!」
 兄ちゃんはアタシのもの――そんな思いを込め、飛雄の隣に居る翔陽にぎゅっとしがみついた。
 飛雄は夏を睨んだ。夏は飛雄のきつい視線を恐ろしく感じ、翔陽の服を掴む手に力を込めた。
「えっ? 夏、何言ってだよ。影山も睨むなよ」
「元々こういう顔だ」
 飛雄はそう言うが、夏には睨まれているようにしか見えない。
「兄ちゃん、とびお、こわい!」
「ほら! 影山、顔が恐いんだよ!!」
 翔陽の酷い言葉をスルーして飛雄はぽつりと呟いた。
「何で呼び捨てなんだ……?」
「あっ……」
「日向、お前……」
 飛雄は翔陽を見た。
「影山、ごめん! 夏、呼び捨ては駄目だっていつも言ってんだろ!」
「やだー。とびおはとびおだもん!」
「なーつ!」
 翔陽は優しいから夏が何をしても言葉ではっきりと叱らない。それが分かっているから夏は翔陽の前で我を通す。
「兄ちゃんだってとびおのこと、よびすてじゃん!」
「おれはいいの! 影山だっておれのこと呼び捨てだし」
「じゃあ、アタシもよびすてにする」
「夏は年下だから駄目!」
「え〜! 兄ちゃんだけずるい!」
「大体、何で日向の妹が俺のこと知ってるんだよ」
「えっと、それは……」
 まさか妹を含め家族の前で飛雄のことを話していると翔陽は言えず、ごまかすように頬をかいた。
「ひなたのいもうとじゃない。アタシは夏だもん!」
「あぁ、もう分かったから夏は黙ってろ」
 
 玄関で3人が騒いでいると、
「あら、お客さん?」
 背後で声が聞こえ、その声の持ち主が洗濯籠を抱えて階段から降りて来る。
「「(お)母さん!」」
「翔陽、そんなところに突っ立ってないで。中に上がってもらいましょうよ。ね?」
 翔陽の母親に微笑まれて飛雄は畏まって言った。
「お邪魔します! お母さん!」
「はーい」
 飛雄のお母さん呼びが気に障って夏は「アタシのお母さんだもん」と呟いた。

「あなたが影山飛雄君だったの。翔陽からはよく話を聞いてるわ」
「はぁ……」
 飛雄は居間に通され、テーブルの椅子に腰掛けていた。飛雄の向かい側には翔陽が居て、その隣にはちゃっかり夏が陣取っている。母親は三人分の冷えた麦茶をテーブルの上に置くとにっこりと笑って言った。
「翔陽ねぇ、あなたのこと、いつも楽しそうに話してるの。あぁ、高校で楽しくやってるんだなぁと思ったら、母親の私まで嬉しくなっちゃった。一度影山君に会ってみたいなぁと思ってんだけど、思っていた通り、感じの良さそうな子で安心したわ」
 夏と同じ話を翔陽の耳から聞いているはずなのに、飛雄に対する印象が夏と母親では違った。
 夏は翔陽が話していて楽しそうななんて感想は抱いてなかった。毎日飛雄から嫌がらせを受けてるんだろうなぁと想像して会ったことのない飛雄に敵意を抱いていた。そして、初めて飛雄を見た時も、翔陽とのキスが夏に与えた衝撃を除いても、感じの良さそうな、なんて感想は出なかった。今改めて飛雄に対する感想を考えると、ただ単純に恐ろしいと感じた。だが、兄のためにも屈しない。
「母さん、余計なこと言うなよ」
「本当のことでしょ」
「別に楽しそうに話してなんか……」
「ごめんなさいね。何も出せなくて。翔陽から出掛けるとは聞いてたんだけどまさか影山君がうちに来るなんて思ってなかったから。分かってたら何か用意してたんだけど」
「お母さん、気にしないでください。俺が勝手に押し掛けたんですから」
「そう?」
 翔陽の横で可愛らしい顔に頬を膨らませ、夏は母親と飛雄とのやり取りを見ていた。飛雄に自分の母親を「お母さん」と呼ばれることが嫌だ。
「影山君、これからも翔陽と仲良くしてやってね」
「はい」
「母親が言うのもなんだけどこの子小心者だから。緊張しやすくてね。何かあるとすぐにお腹壊して……こういうところ、一体誰に似たのかしら」
 飛雄はちらりと翔陽を見ると口元だけで笑った。
「知ってます」
「恐がりでね。翔陽が幼い時にお化け屋敷に連れて行ったら大泣きして……」
「母さん!!」
 自分のプライバシーを母親にばらされた翔陽は顔を真っ赤にして怒った。
「日向、怒るなよ。俺はもっと日向のこと知りたい」
 飛雄は翔陽に熱い視線を送った。翔陽はその視線に当てられ、怒りとは違った意味で頬をほんのり赤くさせながら、「でも、だって……」と言った。
「兄ちゃん……」
 そんな翔陽を夏は不安な目で見ていた。
「お母さん、お話続けてください。俺は知りたいんです。し、し……翔陽のことが」
「影山……」
 語尾にハートマークが付きそうなぐらい翔陽が飛雄にうっとりしているように見え、夏は目を疑った。
「兄ちゃん……」
 翔陽の本当の気持ちが分かったような気がして複雑な気持ちになった。それを認めたくなくて構ってもらおうと翔陽の服を全力で引っ張った。
「夏、服が破れる!」
「兄ちゃん、アタシとあそんで!」
「え〜!」
 思い切り嫌そうな反応をされて夏はむくれた。頬を膨らませ言った。
「アタシが兄ちゃんとやくそくしてたのに! なんでとびおのほうをとるの! 兄ちゃんのバカ!」
「あぁ、もう、鬱陶しいな。母さん!」
 付きまとって離れない夏に翔陽はうんざりとした表情で母親を見た。
「しょうがないわね。翔陽、夕飯までまだ時間あるから、夏っちゃん連れて公園に行ってきなさい」
「え〜!」「やったー!」
 翔陽と夏の声が同時に響いた。
 夏は喜びのあまり、椅子の上で上半身を大きく動かし、テーブルの上を叩いた。
「え〜!じゃない。お兄ちゃんなんだから妹の面倒は見るもんでしょ。夏っちゃん、テーブル叩かないの!」
 翔陽は向かい側にいる飛雄を見た。
「影山なんかごめん。おれの妹が……」
「日向、外に出よう。夏っちゃんも」
 飛雄は夏を見たが、夏はふいとそっぽを向いた。
「影山君、良かったら夕ご飯食べて行かない?」
「いいんですか?」
「もちろんよ! 翔陽の友達だもの。ねぇ、翔陽」
「あっ、うん。せっかく来たんだから影山食べて行けよ」
「じゃあ、食べてく」
「兄ちゃん、早く行こう!」
 夏は帽子を頭に被り、外に出る準備万端で待機していたが、動こうとしない翔陽に痺れを切らして近付くと翔陽の服を引っ張った。


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