兄ちゃんの秘密2

 家から外に出ると、夏は並んでいる翔陽と飛雄の間に割って入り、翔陽の手を握った。
「手、つなごう!」
 すると、反対側の手を飛雄に繋がれ、驚いて飛雄を見上げる。飛雄から「夏っちゃん」と呼び掛けられ、不気味な表情を向けられた。飛雄は夏に笑い掛けたつもりなのだが、夏はそのように受けとめなかった。
「兄ちゃん、とびおがこわい!」
「影山、妹、恐がらせるなよ!」
「こわがらせるなよ!」
 日向兄妹から同時に非難され、理不尽な思いを抱えながら、飛雄は一言謝った。
「悪かった」
 だが、夏の手を離さなかった。

 公園に着くと、夏はブランコに向かって駆けて行った。
 妹が最近少し生意気になってきたなと感じることもあるが、ブランコにはしゃいでいるところを見るとまだまだ子供だなと翔陽は感じる。
「お前の妹は元気だな。誰かさんと一緒で」
 誰かさんって誰のことだろうと疑問に思いながら翔陽は頷いた。
「そうだな」
 翔陽の視線の先では、夏がブランコに跨がろうとしていた。その動きでスカートの中身が見えそうになり、少し危なっかしい。
「家にいると遊んでってうるさいんだ。可愛いんだけどたまに鬱陶しい。親にはお兄ちゃんなんだから妹の面倒を見ろって言われるし」
「いいな……」
「影山?」 
 思わずぽつりと漏らした飛雄の呟きに翔陽は反応した。
「何だ?」
「今、影山、いいな……って言った」
 飛雄は顔を赤くしながら、
「楽しそうで羨ましいってことだ」と言った。
「へぇ~」
 面白いものを見つけたと、翔陽はにやにや笑い、飛雄を見た。
「何だよ?」
 飛雄は翔陽に不審な目を向ける。
「影山でも羨ましいなんて思うことあるんだなって……」
「あるに決まってるだろ。俺だってお前と同じ普通の人間なんだから」
 すると、翔陽にきょとんとした顔で見つめられた。まるで飛雄がおかしなことを言ったみたいな表情だ。
「俺、何かおかしなこと言ったか?」
「うん。びっくりした。まさか影山の口から普通って言葉が出てくるなんて」
「日向、お前は一体俺のことどう見てんだよ」
 飛雄の問い掛けに翔陽はへらっと笑ってごまかした。
 
 一足先にブランコに駆けて行った夏は、一人でブランコをこいでいた。
 夕方に近付きつつある現在、辺りには人の気配がない。
 たくさんの鳥が空を飛んでいくのが見える。
「兄ちゃん、まだ来ないな」
 一体何やってるんだろうと思い、兄の姿を探せば、入り口のほうで飛雄と話しているのが見えた。何を話しているのか分からないが楽しそうだ。
 自分がほったらかしにされているのが気に入らなくて夏は頬を膨らました。
「兄ちゃんのバカ……」
 兄に遊んでもらいたくて公園に来たのに何で自分だけ一人にされなければならないんだろう。
ーー兄ちゃんはアタシよりもトビオのほうがいいんだ。

 夏がいじけ始めていることを知らない翔陽と飛雄はまだ公園の入り口に居た。
「で、何が羨ましいの?」
「はっ?」
「さっき、羨ましいって言ってただろ?」
 実は子供が好きで、妹に懐かれている翔陽が羨ましいだなんて言いたくない。硬派な自分のイメージが壊れるし、そのことで翔陽にバカにされるような気がして嫌だ。
「……」
 自己保身で口を開ざす飛雄に対して、
「教えろよ、影山」と翔陽は興味津々だ。
「……嫌だ」
「何で?」
「嫌なものは嫌だ」
「何だよ、それ! 言えないようなこと?」
「そんなことよりも、夏っちゃん放っておいていいのか?」
 飛雄の視線の先には、夏がいる。気のせいか、しょんぼりして見えるのは、ブランコがゆっくりと揺れているからだろうか。飛雄の視線につられて翔陽も視線を向けた。
「夏っちゃんを一人にしたら可哀想だろ。お前それでもお兄ちゃんか?」
「うっ……夏はもう小学生だし……別におれがいちいち付いてなくても大丈夫だから……」
「まだ小学生だ。近頃は幼い女の子をつけ狙うろくでもない奴がいるから気をつけろ。ちょっと目を離した隙に浚われるかもしれない」
「影山にマジに言われるとなんか……」
「何だ?」
「それに夏っちゃんって呼び方もキモイ」
 翔陽に気持ち悪いと言われ、飛雄はショックを受けながらも冷静に言う。
「夏っちゃんって呼び方の何がキモイんだよ。お前のおふくろさんも言ってただろ」
「母さんはあれでいいんだ。影山が言うとなんかキモイ。おれの知ってる影山はちゃん付けなんてしねぇし」
 要するに翔陽は、ちゃん付けする飛雄が自分のイメージに合わないからちゃん付けをやめろと言ってるのだ。
「誰がキモいだ。俺だってちゃん付けすることもある」
 そう言い返したが、翔陽からは胡散臭げに見られた。
 翔陽は自分の妹をちゃん付けしている飛雄に激しく拒否しているわけではなく、ただ思ったことを口にしただけだ。それに傷付いたのは、怒りっぽい癖に実は心が繊細なところもある飛雄だ。
 思考というものはきまぐれで、翔陽の思考も次の場面では別のものに切り替わっていた。飛雄だけがそのことを引きずった。翔陽にちゃん付けは駄目だと言われても夏の事をちゃん付けで呼びたい。
 翔陽は向こう側にいる妹を見て、妹の面倒なんて面倒だと思いながらも重たい腰を動かす。飛雄にあぁ言われると妹を放っておくことはできない。
 背後で動く気配のない飛雄に気付いて振り返った。
「影山、何突っ立ってんだよ!」
「あぁ……」
 飛雄の声に力がなく、翔陽は首を傾げた。

 先程まで一人でしょんぼりとしていた夏だったが、兄が現れてからすっかり上機嫌だ。隣のブランコに立ち乗りしている兄に向けて満面の笑みを見せていた。
 妹に付き合わされてブランコに乗せられた翔陽。もう高校生なのでブランコに乗るのは気乗りしなかったが、乗っているうちに次第に気分が盛り上がってきた。
ーー童心にかえるってこういうことかな。
 向かい側に立っている飛雄と視線が合うと満面の笑みを見せ、子供のように大げさに手を振って見せた。
 危なかしいとか、高校生にもなってはしゃいで恥ずかしいとか思いながらも、翔陽から満面の笑みを向けられるのはまんざらでもない飛雄だ。飛雄は赤くなった顔を見られないように俯いた。
 二人の一瞬のやり取りを偶然目撃してしまった夏は、やっぱりこの二人の間には何かあると、二人の不思議な関係性について疑惑を深めた。

 ブランコが楽しくても基本バレーバカな翔陽だ。ブランコに揺られていると、斜め向かいにいる飛雄の顔が視界にちらつき、バレー欲がむくむくとわきあがってくる。
ーーあぁ、バレーやりたいな。
 翔陽にとってバレーは食欲と似たようなものである。
 バレー=飛雄という変な図式があり、バレーに飢えた今、飛雄を見ると変な気分になる。
 思わずごくりと喉を鳴らし、下唇を舐める。
 その目には欲望という名の炎が宿る。

 翔陽に恋愛感情を抱いている飛雄は彼の視線を別の意味に捉えて誤解した。
 飛雄の中で、「おれと遊んで(ハート)」と淫らに誘って見せる翔陽の姿が浮かび上がった。
 これが飛雄の告白に対する翔陽の答えか。
 そばには翔陽の妹がいるのにこんな白昼堂々と誘われてもどうしたらいいのか分からない。
 翔陽に告白はしたのに、返事がなく、宙ぶらりんのままだった今までを思うと複雑だ。
 翔陽の本当の気持ちが分からない。翔陽から自分へ向けられた感情は、自分が翔陽に向けるのと同じものかそれとも……。
 飛雄は悩んだ。せっかくだから翔陽の誘いに乗るべきか。

「兄ちゃん」
 飛雄が考えている間に、夏に名前を呼ばれ、翔陽の注意が逸れた。
「ん?」
「アタシもここにいるよ」
「分かってるよ」
「ほんとう?」
「本当」
「……(兄ちゃん、アタシのこと忘れてる)」
 先程から黙って見ていれば、自分を差し置いて翔陽と飛雄が二人だけの世界に入っているのが、夏には面白くない。
 『いたんだ!』とでも言いたそうな兄が何だか間抜けに見えた。夏がよく知る兄はここにいない。一体この人は誰なんだ。
「兄ちゃん、アタシがここにいるの忘れないでよ!」
 いつだって兄を独占していたい。最近出会ったばかりの飛雄には負けられない。
ーーアンタなんかには負けないんだから‼︎
 夏は飛雄を睨み付け、その目に闘志の炎を燃え上がらせる。
「な、夏?」
 翔陽は困惑した表情で妹と飛雄を交互に見た。
「夏、こいつはこんなに恐い顔してるけど、別に悪い奴じゃないから。な? そんなに恐い顔するなよ。お前の今の顔、可愛くない」
 兄からまるで自分が悪いみたいな扱いを受け、夏は頬を膨らませた。
「兄ちゃん、ひっどい!」
「そうだ、小さな女の子に向かって可愛くないなんて言うな。夏っちゃ……お前の妹は可愛い」
 飛雄から頬を染めて言われ、夏は引いてしまった。
「影山が言うと気持ち悪い。ほら、夏もドン引きしてる」
「え……?」
 飛雄の表情には戸惑いとショックが見える。
 夏よりもはるかに兄は言うことがきつい。無自覚だから尚更たちが悪い。夏は飛雄に少し同情してしまった。
 誰も言葉を発することのできない微妙な空気が場を作る。夏は何を言おうか悩んで口ごもっていたし、飛雄はHPゼロで言葉を発する気力はない。
 しばらくすると、兄の無邪気な声がその微妙な空気を破った。
「お腹空いた」
「何、それ? 兄ちゃん、くうき読んでよ」
「お腹空いたんだから仕方ないだろ。夏、そろそろ帰るぞ。たくさん遊んで満足しただろ」
「えーーっ! さっき来たばっかりなのに。まだ遊び足りない!」
「うるさい。おれはお腹空いたから早く帰ってご飯食べたいの。駄々こねるんだったら置いて帰るからな」
「兄ちゃん、つめたっ。アタシとご飯どっちがだいじなの?」
「ご飯」
 翔陽は即答した。
「ひっどい。それでもアタシのお兄ちゃんなの?」
「影山も一緒にご飯食べる? 自慢じゃないけど、おれの家の料理上手いんだぜ」
 翔陽に言われ、飛雄はコクコクと頷いた。
「無視するな!」
 そう言いながらも、キラキラとした兄の眩しい横顔を見てやっぱり兄ちゃんは素敵だなと夏は思った。そんな顔を飛雄に見せているのは気に食わないけど。
 翔陽はブランコから降りると、ブランコに座ったまま拗ねた表情をしている夏の手を取った。
「夏、帰ろう」
「うん……」
 夏は翔陽の手を握った。
 そわそわしている飛雄の姿が見えて首を傾げる。兄と手を繋ぎたいのか。
 わざわざ聞かないでもいいのに夏は兄に聞いてしまった。
「兄ちゃん、トビオ、どうしたの?」
「え? 影山⁉︎」
 兄は何だか分からないという顔をしている。飛雄の些細な変化に気付いていないようだ。これだから男は……。
 飛雄は夏と手を繋ぎたいのに繋げないという思いと自分の中で格闘していた。どうやら自分は夏に恐れられているようだ。生まれつきのこの恐い顔が駄目らしい。
 元々子供は好きだし、更に想い人の妹だから仲良くなりたいのに。
 帰り道、日向兄妹が仲良く談笑しながら歩くその後ろ姿を見ながら飛雄はとぼとぼと歩いた。

「影山君、遠慮せずに食べてね」
 翔陽の母親ににっこりと微笑まれ、飛雄は頬を赤く染めた。さすが親子。笑うとそっくりだ。
「ありがとうごさいます。いただきます」
「どうぞ」
 斜め向かいにいる夏は飛雄を厳しい目で見ていた。
 よりによってなんで夕食の時間まで飛雄と顔を合わさなければいけないのか。
 気に食わないのは母親が飛雄のことを気に入っていることだ。母親は面食いでイケメンの男に弱い。認めたくないが、飛雄もそこそこいい顔立ちをしている。
 そんな彼がなぜ同性である兄に惚れてしまったのか。
ーーこういうのってホモって言うんだよね。飛雄はホモなの?
 これまでの様子だと飛雄の一方的な片思いで兄との間に恋愛関係はないようだが、安心はできない。飛雄が兄に手を出さないように見張っていないといけない。

「ねぇねぇ、翔陽」
  突然母親に脇腹を肘でつかれ、
「うん?」と翔陽は生返事で返した。
「夏っちゃん、どうしたの?」
「え? 夏?」
 隣にいる夏を見ると、じーっと飛雄を見ていた。翔陽の視線に気付くと、慌てて箸を動かした。
「?」
 翔陽は妹のおかしな行動に首を傾げ、
「さぁ?」と言った。
「いつも騒がしい夏っちゃんが静かだと何だか変ね。雨でも降りそう」
 いつもうるさいんだからたまには静かでもいいと翔陽は思い、夏のことをあまり気に掛けなかった。
「もしかして飛雄君に恋でもしちゃったかな」
 夏が耳にしたら怒りそうなことを母親は小声で言った。
「そんなまさか……」
 あり得ないと苦笑いで翔陽は返した。
「分かんないわよ。夏っちゃんだって女の子なんだから。飛雄君イケメンでしょう。惚れるわ」
「夏に恋愛なんてまだ早い」
 翔陽は皿の上にある苦手な食べ物を箸で掴むと向かいにいる飛雄に向けた。
「影山、あーん」
 飛雄は突然の翔陽の行動に一瞬驚き、固まったが、すぐに我に返ると口を開いた。
「まぁ……」
 翔陽と飛雄のやり取りに母親は仲がいいなぁと微笑ましく思った。自分の息子は頭には恵まれないが、人とはすぐに仲良くなれる。
 夏は大きく口を開いたまま、固まっていた。兄と飛雄の仲を疑っている夏には二人のやり取りがやましいものにしか映らない。嫌らしい。兄のことが大好きなのに嫌いになってしまいそうだ。
 しーんと静まった食卓を盛り上げようと母親が口を開いた。そういう場合にネタにされるのはたいがい子供だ。
「翔陽ったらね、子供の頃は泣き虫だったのよ」
「母さん、いきなり何言うんだよ!」
 まだ知らない翔陽の子供時代の話を聞こうと飛雄は思わず箸の動きを止めた。
「幼稚園の時だったかな? 遊園地のお化け屋敷に連れて行ったら大泣きして……」
「おばさん、その話はさっき聞きました」
「あら、やだ。他には何かあったかな……?」
 自分の恥ずかしい過去をこれ以上母親の口からバラされくないと思い、翔陽は話をそらした。
「影山はどんな子供だったの? 知りたいな、影山の昔の話」
 翔陽からキラキラした表情で見つめられ、飛雄は頬を赤く染めた。男は想い人のこういう仕草に弱い。話したくなくても思わず口を滑らせてしまいそうだ。
「アタシもトビオの昔の話が聞きたい!」
「おばさんも」
 三人から一斉に視線を向けられ、飛雄は動揺した。
「俺は……ごく普通の子供だった」
 飛雄がそう言うと翔陽はつならなさそうな表情をした。
「何だよ、その顔は」
「別に……。影山らしいけど……」
 きっと昔から目付きが悪かったんだろうなぁと翔陽は子供時代の飛雄の姿をイメージした。
 もっと面白い話を期待されていたようだが、飛雄からすれば、本当にごく普通の子供だったのでそうとしか言えない。子供時代の飛雄を説明する何か変わったエピソードも特にない。
「トビオってつまんないね」
 夏は一言吐き捨てた。
「そうなんだよな。影山ってバレーは上手いのに話はつまらないんだ」
「こら、二人とも。影山君に失礼なこと言わないの! ごめんなさいね、うちの息子達が失礼なこと言って……」
「いえ、別に気にしてないんで大丈夫です」
 恋愛感情というのは不思議なもので相手のどのような部分も許せてしまう。出会った頃に比べると翔陽に対して柔らかく受け入れるようになってきた。以前の飛雄ならつまらないと言われた瞬間、反射的に怒っていただろうから恋愛パワーというものは凄い。
「兄ちゃんとトビオって正反対なのに何で友達なの?」
 二人の仲の良さが夏の中で一番の疑問だ。
 兄はどちらかといえば明るいほうで友達もそんなタイプだった。飛雄は今までの感じだとあまり明るい性格には見えない。
 兄と飛雄では明らかに全然違うのに家に連れて来るほどの仲なのが信じられない。
「別に影山とは別に友達ってわけじゃ……部活以外ではそんなに一緒にいないし」
「じゃあ、何なの?」
「それは……」
「世の中には友達じゃなくても親しいことがあるのよ。まだ幼い夏っちゃんにはよく分からないわよね」
「アタシもう子供じゃないもん」
「私からすれば夏っちゃんは十分子供よ」
  夏には母親の言うことがよく分からなかった。仲がいいから友達なのではないか。
 だが、友達ならキスはしないと夏は分かっていた。夏だってクラスの友達にキスをしない。普通キスというものは、男の子なら好きな女の子と、女の子なら好きな男の子とするものではないか。
 二人はどちらも男の子だ。なら、なぜあの時、二人はキスをしたのだろう。

 夕食後はリビングにある大きなテレビでゲームをして遊んだ。
 夜ご飯を食べたら飛雄は帰るつもりだったのだが、流れでそうなってしまったのだ。主にゲームをしていたのは日向兄妹で飛雄は見ているだけのことが多かった。今も二人はゲームで競い合っている。
「夏、負けたからって泣くなよ」
「それは兄ちゃんでしょ。この大泣き虫!」
「何だと! 妹の癖に生意気言うな。それにおれは大泣き虫なんかじゃない」
「兄ちゃんのウソツキ。アルバムの写真で見たよ」
「クソ、あの写真を見られたか……こうなったら絶対に負けらんない」
「アタシもぜったい負けないよ」
 彼らのやり取りを後ろで見ていた飛雄はぽつりと呟いた。
「ガキか」
 だが、少し焼いてしまいそうなぐらい二人の兄妹は仲が良く、微笑ましい。
 妹と戯れる翔陽の姿も可愛いと思った。
 ゲーム運が悪いのか、それともゲームの腕が悪いのか、何度も妹に負け、そのたびに翔陽は悔しがった。
「妹だから手を抜いてあげてるだけだからな。おれは弱くない。見てろよ、今度こそ、本気になって勝って見せるから」
「兄ちゃん、さっきから同じこと言ってる。兄ちゃんが本気になってもアタシは負けないよ」
 だが、次も翔陽が負けた。
「あーーっ!! 夏はもういい。影山、勝負だ!」
「ふん、仕方ないから手加減してやるよ」
「手加減しなくていいから。おれも本気になる」
「そんなこと言って後で泣くなよ」
 結局翔陽が負け、悔しがる兄を見て夏は腹を抱えて笑った。
 妹に笑われ、翔陽はむっとしたが、飛雄と視線を合わせると、しょうがないなと笑って見せた。

 思っていた以上に飛雄は日向家に長居してしまった。
 せっかくだから泊まっていけと言う日向家族に明日は月曜日で朝練があることを理由に飛雄は断った。
 朝練は建前に過ぎず、寝る時まで翔陽と一緒にいるのはいろんな意味で危険だと思った。
 今日は翔陽と一日中一緒に居たので別れるのは辛かったが、それを堪え、 日向家を出た。
 今日一日、部活以外の場所で翔陽と時間を共にし、部活ではあまり見ることのない翔陽の別の顔をたくさん見られたのは収穫だった。
 これからたくさん翔陽と過ごして彼のことをもっと知りたいと飛雄は思った。

 飛雄が帰った後、夏はほっと息を付いた。兄と飛雄の仲を怪しく思っていたけど、飛雄の一方的な片思いのようだ。
「明日からまた学校か……準備しよう」
 明るく声を上げ、自分の部屋に戻ろうとした時、兄の姿が目に入った。飛雄が去った扉の先を悲しげに見つめている。その表情は最近少女マンガで見た片思いの男子に恋するヒロインのそれと同じだ。
 その時、夏は悟ってしまった。兄の想いがどこの誰に向かっているのか。
 誰にも言えない兄の秘密がまた増えてしまった。


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