愛をください

 里に帰ってきて早々サクラに出くわしたばかりにナルトは疲れているのに無理矢理甘味処に連れて行かれることになった。
「一体何だってばよ、サクラちゃん。こっちは帰ってきたばかりで疲れてるのに……。彼氏と何かあった?」
「違うわよ。あんたのことよ。あれからどうなったの?」
 サクラに訊かれてナルトは一瞬無言になった。
 何がどうなのかと具体的に言われなくてもナルトには分かる。サクラが訊きたいのはサスケとどうなったかということだ。
「何で黙り込むのよ。もしかして告白しなかったの?」
「ちゃんと言ったってばよ」
「で、どうだったの?」
 楽しそうに笑いながらサクラは訊いてきた。
「サクラちゃん、何だってそんな楽しそうなんだってばよ?」
「だって、ナルトが幸せだったら嬉しいんだもん」
「だったら何でオレと付き合ってくれなかったんだってばよ」
 ナルトはサクラのことが好きだった。
 はっきりとサクラに告白をしたわけではないが、サクラに彼氏ができた時は泣いた。
「あんた別に私のこと好きじゃないでしょ?」
「好きだってばよ!」
「言う相手、間違ってる。その言葉、サスケ君が聞いたら嫉妬するわよ」
 嫉妬するサスケの姿を想像して、鬱陶しいなとナルトは思った。
「サスケ君のこと好きなんでしょ?」
 サクラに訊かれてナルトは「う〜ん」と唸った。
 ナルトはサスケが好きだ。
 だが、それはナルトがサクラに感じているような、愛らしい、守ってあげたいという意味での好きではないし、女性のサクラに思うような感情を男性のサスケに当てはめるのは間違っている。
「はい、そこで悩まない。あんた人当たりいいくせにサスケ君だけは違うわよね」
「サスケは特別だってばよ」
「愛してるのね」
「違うってばよ!」
「あら、違うの?」
「そうじゃないけど……あぁ、もう、サクラちゃんってば、オレのこと、からかうな!」
「あははは。ナルト、からかうの楽しい」
「サクラちゃん……」
「話それちゃったわね。結局、サスケ君とはどうなったの?」
 あの時の光景がナルトの頭によぎった。ナルトと両思いになったことで舞い上がったのかサスケは少々壊れていた。
「あんまり聞かないほうがいいってばよ。サスケのイメージが壊れる」
「何? そんなこと言われたら余計気になるじゃない!」
「これはサスケの名誉のためにも言えねぇってばよ」
「そんなにおかしかったの?」
「そりゃもう、鬱陶しいぐらいに、変で……」
 個人的にへらへらと笑っているサスケの表情はあまり見たくない。サスケに対してクールでカッコいい憧れのライバルのままでいて欲しいとナルトは思う。
「恋愛って人を変えるものだと思うけどね。普段クールな人がデレデレしていてもおかしくないと思うの」
「え〜」
「何よ、その反応は?」
「オレは嫌だってばよ」
「いいじゃない! そりゃいつもだと困るけど……」
「う〜ん……」
「まぁ、ともかく、あんたがサスケ君とうまくやれたみたいで安心したわ。何、ナルト、その顔は? 何か不満?」
「別に。サスケに会ったら、鬱陶しいんだろうなぁっと思ったら何か……」
 サスケが少しは落ち着いてくれたらいいなぁとナルトは思う。両思いになった時と同じようなテンションだと嫌だ。
「まぁ、頑張りなさい。応援してるからね」
 ナルトは疲れたように頷いた。
「また、話聞かせてね」

 サスケと晴れて両思いになった後、すぐに任務に出掛けてしまったため、すっかりナルトのテンションは元通りになっていた。疲れも加わってサスケと恋愛的に仲良くしたい気分ではない。
 帰ったら風呂に入ってご飯を食べてさっさと眠りに付きたい。
 家に辿り着くとナルトはゆっくりと扉を開いた。
 忍び足で家の中を移動した。
 サスケの姿は見えないが、サスケの気配を感じる。サスケはどこだろうと辺りをきょろきょろと見ていると、
「おい」
「わーーっ」
 突然サスケに声を掛けられ、ナルトは驚きの声を上げた。
「サスケ、驚かせんなってばよ」
「それはオレのセリフだ。帰ってきたんならただいまぐらい言え」
「だってよ……」
「まぁ、いい。おかえり、ナルト」
 サスケは大きく腕を開いた。ナルトはサスケに何かされるのを敏感に察知し、身体を後ろに引いた。
 サスケが何か言いたそうにしているのを無視してナルトは呟いた。
「喉、乾いたな」
 サスケを避けるように早足で台所に向かった。

 一人その場に取り残されたサスケは、両手を見つめた。
 久しぶりに会ったナルトを抱きしめようとしたが、ナルトにかわされてしまった。
「今のは何だったんだ?」
 不思議に思い、首を捻る。
 ナルトの姿を追って台所に行くと、冷蔵庫を開けたまま、片手を腰に当て豪快に牛乳を飲み干しているナルトの後姿が見えた。
 ナルトの姿を確認してサスケは安堵した。
 今度こそ、ナルトを抱きしめようと、ナルトに近付こうとした。まさにその寸前でナルトにかわされてしまった。牛乳を手にしたまま、振り向いてサスケの顔を見る。
「サスケ、風呂沸かしてる?」
 何なんだ、一体と思いながら、サスケはナルトの顔を観察する。別におかしなところはない。少し疲れを感じさせるが、それ以外はいつも通りで変わりはない。
「なぁ、サスケ」
「……昨日の残り湯があるから追い炊きにすればいい」
「そっか。じゃあそうしよう」
 ナルトは空になった牛乳パックをゴミ箱に捨てると、冷蔵庫を閉め、風呂場に行ってしまった。
「……」
 サスケは無言でナルトを抱きしめ損ねた両手を見つめた。
「何なんだ?」

 ナルトが頻繁に里外任務を行うのに対してサスケは里外任務が少ない。
 それはサスケが過去に里抜けをして一度里を裏切った経歴に起因する。里を陰で操っている人間にとって、サスケの存在は里の利益になると共にいつか里に危害を与えるかもしれない脅威の人間だ。彼らはサスケが里の外に出るのにいい顔をしない。
 近頃ぽつりぽつりと里外任務が増えてきたとはいえ(人が足りずどうしてもサスケを外に出さなければいけない場合)、他の忍に比べれば少ないほうだ。
 だが、サスケはナルトと違って里や忍というものに殊更こだわっていないので、ナルトと過ごせる時間が増えたと楽観的に考えている。

 ナルトは復讐の果てに生きる目的をなくし、まさに死んだように生きていたサスケに生きる目的を与えてくれた人間だ。
 ナルトによって里に連れて帰られ、牢屋の中で過ごしていた頃は、生きる気力がわかず、何も飲み食いしようとしなかった。
 そんなサスケにナルトは言った。
「オレのために生きろ!」
「はっ、何言ってんだ? なぜオレがナルトのために生きなきゃいけない」
「オレがサスケを必要としてるからだってばよ」
「オレが必要?」
「あぁ」
「別にオレがいなくてもお前にはお前のことを認めてくれるたくさんの仲間がいるだろう」
 過去に人々から避けられていたナルトが今はたくさんの人間が彼を慕っている。それに比べて今の自分には慕ってくれる人間は一人もいない。
 だが、サスケは一人でいることに慣れていた。周りに人がいないからといって寂しいとは思わない。それだけの行為をしたのだ。今までしてきたことにも後悔はしていない。
「サスケじゃなきゃ駄目なんだってばよ!」
「……」
「頼む。傍でオレを支えてくれ!」
 その時、あぁ、こいつにはオレがいないと駄目なんだなぁと思った。
 その日からナルトの存在は、サスケの生きる目的になった。

 ある日、サスケはナルトに好きだと言った。今の関係をぶっ壊してもいいと思える程の決死の覚悟だった。だが、ナルトの返事を訊く前にさっさと短期間の里外任務に出掛けてしまった。内心ではナルトに拒絶されるのが恐かったのかもしれない。
 サスケが短期間の里外任務から戻ってきた後、色々あって晴れてナルトと両思いになった。
 その後、ナルトは里外任務に出掛け、サスケは里の外に出ることはなく、時折火影に呼び出されては仕事を請け負っていた。その間、心密かに次にナルトに会える日を指折り数えながら時間を過ごした。
 そうしている間にナルトは帰宅し、今風呂場にいる。
 サスケは事前に作っておいた料理を温めているところだった。
 ふと抱きしめようとしたサスケの腕をナルトにかわされたことを思い出して呟いた。
「一体何なんだ?」
 照れてるんだと自分の都合のいいように解釈できる程サスケは馬鹿じゃない。
 ナルトが戻ってきたことを喜びたいのに、そのことを思い出すと途端に気分が悪くなる。
 自分の愛情がナルトに拒絶されたように感じて胸が痛い。

 その頃、ナルトは風呂に浸かりながら、
「サスケの奴、変に思ってるだろうなぁ」と呟いていた。
 別にサスケを拒絶しているわけではない。
 サスケに抱きしめられるとサスケの存在を変に意識してしまいそうで嫌だ。
 それにナルトがサスケに求めているのはこういう関係じゃない。ナルトが任務から帰ってきた時にサスケが家に居てナルトの心を安心させてくれたらそれでいい。
 自分達は男同士なのに男女の恋人同士のように抱き合ったりするのは変だと思う。

 下を向いていながらも時折サスケに視線を向けながら食事をするナルトの姿にサスケは既視感を抱いた。
 まだ記憶に新しいナルトと両思いになったあの日とやっていることが同じだ。
 サスケを気にしているナルトに気付かない振りを装いながら料理を口に運んだ。
 ナルトはサスケに意識を向けすぎているのか全く手が動いておらず、まともに食事が進んでいない。
 サスケに視線が向いているちょうどその時にサスケがナルトに視線を向けるとさっと視線をそらすのが面白い。
「ナルト」
「えっ!?」
「さっさと食え。料理が冷める」
 サスケが言った後もナルトは惚けたような表情でサスケを見ていて、全く食事が進んでいない。
 今ここで顔を近付けてもナルトは避けないだろうなぁと思い、腰を上げるとナルトに顔を近付けた。
 ナルトの唇に軽く触れた後、舌でナルトの唇を舐めた。
「わーっ。いきなり何するんだってばよ!」
 遅れてナルトが反応した。
「気付くのが遅い。それでも忍か? 恋人同士なんだからキスくらいやるだろ、普通」
「でも突然やられたら驚くだろ」
「突然じゃなかったらいいのかよ」
「それは……食事中にやるのはおかしいってばよ」
 ナルトは困ったように頬をかいた。
「オレのこと、避けてるかと思えば、オレのことじろじろと見てるし、何なんだ、一体」
「別にサスケを避けてるわけじゃねぇってばよ」
「オレにはそう見える」
 避けてなかったらナルトを抱きしめようとしたサスケをかわさないだろう。思い出したら不快になってきた。サスケは黙々と料理を口に運ぶ。
 明らかにあまり機嫌の良くないサスケをナルトは口を開くのを躊躇っているような表情で見ている。なかなか食事が進まないナルトに苛立ちを感じながらサスケは言う。
「さっさと食えよ」
「あ、あのさ、サスケ」
「何?」
「えっと……オレのこと、怒ってる? やっぱり怒ってるよな」
「へぇ〜、怒らせるようなことした自覚あるんだな」
「ごめん」
 謝るぐらいなら、黙って抱きしめられていれば良かったのにとサスケは思う。
 無言で食事に集中するサスケをナルトはただ黙って見ていた。そんなナルトに一体何がしたいんだとサスケは思う。
「オレがさっき避けたから怒ってんだろ」
「やっぱり避けてたんじゃねぇか」
「だって……なぁ?」
 同意を求められても困る。
 普段はうざいぐらいにはきはきしているのに何でこういう時になると途端にはっきりしなくなるんだろう。
「何だよ、はっきりしろよ。そういうのウザい」
 思わずきつい言葉が出てしまった。ナルトが自分の思い通りにならなくてイライラしているのだろうか。
「いくら両思いになったからってああいうことは……おかしいってばよ」
「おかしい? お前って人をイライラさせるのがうまいな」
「だってオレ達、男同士だろ?」
「今更何言ってんだよ。オレのことが好きなんじゃねぇのかよ?」
「そうだけど、サスケと抱き合うのはおかしい」
「何だよ、他の奴とはやってんだろ。他の奴は良くて何でオレは駄目なんだよ」
「それは……サスケは特別だから……」
「オレはお前と違って特別に思っていない相手とああいうことはしない。お前は軽すぎるんだよ」
 誰とでも気軽にスキンシップが取れてしまうナルトがサスケには全く理解できない。更に理解できないのは誰とでも気軽にできるスキンシップがサスケを相手にすると途端に駄目になることだ。
「軽いって何だよ! そう言うサスケは重すぎるんだよ」
 ああいえばこういうでナルトに返されてしまい、サスケはショックを受けた。
 自覚はある。一時期は一族の復讐のため、兄のことだけをひたすら想い、それがなくなった今はナルトのことだけを全力で想っている。
「別にこの世界でサスケと二人きりで生きてるわけじゃねぇんだからな」
 痛いことを言われ地味に傷付きながらも、それを相手に知られたくないという男の小さなプライドに縋り、強がってみせる。
「何だよ。お前の愛がその程度でもな、オレにとってはお前だけなんだよ!」
「開き直ってんじゃねぇよ。それにオレの愛がその程度って勝手に決め付けんな!」
「その程度だろ。オレに愛があるなら、オレのスキンシップ拒否しねぇよ」
 ナルトが帰ってきたばかりなのに何で早々口喧嘩して揉めてるんだろうと思いながらも口は止まらない。
「だから違うってばよ! 何で分かってくんねぇんだ」
「お前のことなんか分かんねぇよ」
「何だと、オレだってサスケのこと、分かんねぇよ」
 あぁ、くだらないなと思った。歳を取っても、精神年齢は若いままで全く進歩がない。
「大体、誰とでもスキンシップできてオレとはできないってどういうことなんだよ!」
「意識しちまうんだから仕方ないだろ! 無理なんだってばよ。少しはオレの気持ちも考えろ」
「たかがちょっと抱きしめるぐらいだろ。あんなもの軽い」
「オレには軽くないんだってばよ」
 ナルトとの口喧嘩がヒートアップしてしばらくの間、ああでもないこうでもないと言い合っていた。

 サスケと口論してすっかり気分を害したナルトは、サスケが入浴している間、こっそり酒を持ち出して、縁の下で月を眺めながら晩酌をしていた。
「サスケのバカ野郎、分からず屋! なんで帰ってきて早々喧嘩なんてしなきゃいけないんだってばよ」
 確かに男同士だからという理由で抱き合うことに違和感を抱いているのもある。だがそれ以上に大事な相手だからこそスキンシップを取ることに躊躇してしまう気持ちが強い。
 そんなナルトの切ない男心をサスケに分かって欲しい。
「何で分からないんだ」
 コップに酒を注ぐと一気に飲み干した。
「あぁ、もう、腹が立つ」
 サスケには腹が立ってしまうこともあるが、食事中に惚けてしまう程、サスケに惚れているのも事実だ。
「ちくしょう、大好きなんだってばよ!」

 サスケが入浴を済ませ、明かりの付いた寝室に入ると、既に布団は敷かれていて、その片方にナルトが横たわっていた。壁側に顔を向けていて表情は見えないが、気配でナルトが起きているのが分かった。
 サスケは黙って布団に入った。すると隣から声が聞こえてきた。
「さっきはごめん」
「あぁ」
「サスケは勘違いしてるみたいだけど、別にお前のこと軽く考えてないからな」
「……」
「そっち行っていい?」
「あぁ」
 布団と畳がこすれる音が微かに聞こえた。
 しばらくすると、二つの布団が全く隙間がない状態でくっついていた。
「いいのか? こういうの嫌なんじゃなかったか?」
 以前サスケが同じようなことをした時、ナルトに怒られたのを思い出す。
「今そういう気分なんだってばよ。サスケ、仲良くしよ?」
 ナルトにそう言われてサスケの下半身が熱くなった。
 ナルトは起きあがると、正座をしてサスケに向き合った。それから、目をつぶり、両腕を広げる。
「何だよ」
「抱きしめさせてあげるってばよ」
 ナルトは言いながら、胸を叩く。
「仲良くするってそういう意味かよ」
「他にどんな意味があるんだよ?」
「……」
 夜に布団並べて二人で仲良くすることといえば一つしか思い浮かばない。
「仲良くしようってこういうことじゃないだろ」
「何言ってんだってばよ。仲良くすると言ったらやっぱりハグだろ、ハグ!」
「スキンシップは苦手じゃねぇのかよ」
「それは……自分からするのはありなんだよ!」
「何だよ、それ!」
「ほらツベコベ言ってないでさっさと来いよ!」
 サスケは渋々ナルトの胸に身体を寄せた。
「はぁ……サスケ、いい香りがする」
 ナルトはサスケの首筋に顔を近付け、鼻をひくひくとさせた。
「お前一体何やってんだよ」
 時折ナルトの鼻息が当たり、こしょばく感じる。
「オレのこと、誘ってんのか?」
「誘うって何が?」
 どうやら無意識の行動らしい。
「もう気が済んだだろ。寝るぞ!」
 これ以上ナルトに性欲を刺激されないようにさっさと寝てしまおうと思い言った。するとナルトが駄々をこねた。
「やだやだ。もう少しサスケとイチャイチャする!」
「何言ってんだ、酔ってんのか?」
「酔ってねぇよ! 今そんな気分なんだってばよ。サスケともう少し仲良くしたいな。駄目?」
「……」
 恋人に首を傾げておねだりされたら断れるわけがない。
「じゃあ、交代だ」
 サスケはナルトから離れると、正座をし、両腕を広げた。
「ほら、来いよ! 抱き締めてやる」
 ナルトは恐る恐るサスケの膝に乗り上げ、背中に腕を回して抱き付いてきた。
「サスケの身体ってなんか気持ちいい……はぁ……」
 ナルトに惚けたように言われてサスケは変な気分になった。
――気持ちいいって何だ?
 サスケがよく知るナルトは素でこんなことを言わない。
「やっぱり酔ってんじゃねぇか!」
「何言ってんだってばよ。酒なんて飲んでねぇよ!」
「だったら何でこんなおかしなこと言ってるんだ!」
「だから今そんな気分なんだってばよ」
 サスケにはさっぱり理解できない。
「大体気持ちいいってなんだよ……」
「何だか気持ちが落ち着くんだってばよ。なんかお風呂に入ってる気分。幸せだなぁ〜って」
「オレは風呂かよ」
 んっと声を上げ、ナルトは唇を差し出してきた。
「何だよ?」
「キスしよう」
「はぁ?」
 何だか分からないまま、ナルトの唇が近付いてきた。まさにぶつけるように唇を当てられた。
 ナルトの唇が離れた後、「はぁ〜」とうっとりするようにナルトに見つめられた。
「お前、やっぱり変だ」
「変じゃねぇってばよ」
「いや、変だ」
 言いながら、サスケはナルトを布団の上に押し倒した。
 それでもナルトは危機感を抱くわけでもなく、ヘラヘラと楽しそうに笑っている。
 今度はサスケのほうから口付けた。ナルトの口内を犯す程に長いキスを与える。
「やっぱり酒飲んでんじゃねぇか!」
 ナルトの口の中で微かに残る酒の香りを感じ取って、唇を離した後、思わずサスケは言った。
「だって、サスケが怒ってたから思わず……。駄目だった?」
「別に駄目じゃねぇけど、酔うまで飲むなよ」
 サスケに押し倒された影響か、少し服が乱れており、ちらりと見える首筋や胸が官能的だ。サスケは思わず目線をそらした。
 すると、ナルトにくすりと笑われ、言われた。
「このまま、やっちゃおうか?」
 性欲は人並みにあり、ナルトとやりたい気持ちはあるけど、酔ってる人間に襲い掛かるのは人としてどうかと思った。
「やらねぇの?」
 挑発するように言われたが、サスケはそれに乗らなかった。敢えて冷静に言う。
「お前さ、後で素に戻った時、後悔するぞ。後で後悔してもオレのせいじゃねぇからな」
「別にいいってばよ」

 ナルトは起き上がるとサスケを抱き寄せ、サスケの首筋に吸い付いた。
「オレのもの」
 その周辺を何度も吸われたが、サスケは黙ったままでナルトを止めなかった。後で鏡で確認したら酷いことになっているのが想像できる。
「お返しだ」
 サスケはナルトにやられたことと同じことをナルトにした。サスケに首筋を吸い付かれて感じているのか、ナルトは甘い声を上げた。
「お前はオレのものだ」
「オレはサスケのもの……へへっ、嬉しいってばよ」
 笑いながら「サスケ」と呼び、サスケに縋り付いた。
「ナルト……」
 このまま衣服を脱がせて身体を暴いてしまえばいいのにサスケにはできない。ナルトはやる気満々なのか何もしないサスケに焦れ、サスケの服を脱がそうとしてきた。
「やめろ!」
 サスケはナルトの手を掴んだ。
「何で? サスケ、やりたくねぇの?」
「やらねぇよ。素に戻ってから言え! 脱がすな」
 恋人に脱がされるのはサスケの趣味じゃない。サスケが恋人の服を脱がしてやりたいのだ。
「ちぇっ」
「お前、酔うと本当に性格変わるな。オレ以外の誰かと一緒に居る時に酔う程酒飲むなよ」
 ナルトがサスケ以外の誰かの服を脱がすのも自分で脱ぐのも絶対駄目だ。
「じゃあ、いいや。サスケ、寝よ。今夜はサスケと一緒に寝る」
「そっちの意味ならいい」
「やったー」
 ナルトはサスケにキスをした。
「そういうの絶対オレ以外にやるなよ!」
「サスケだからやるんだってばよ。キスは好きな人限定。サスケも他の誰かとするなよ!」
「やらねぇよ」
 二人は一つの布団にもぐった。
 ナルトはニコニコと楽しそうに笑いながらサスケを見ている。
 何気なくナルトの首筋を見ると、そこにはサスケの残した痕があった。
「もう寝るぞ。お前も疲れてるんだから早く寝ろ」
「サスケ、おやすみ」
「あぁ……」

 翌朝ナルトが目覚めて居間に行くと、鼻歌を歌いながら料理をするサスケの姿があった。
「サスケ、おはよう。一体どうしたんだってばよ」
 珍しく朝から機嫌いいなぁとナルトは思った。基本サスケは寝起きが悪いので朝から機嫌がいいことは稀だ。
 昨日は怒ってたのにこの変わり様は何だろう。
「オレだってたまには機嫌がいい時もある。晴れてるしな」
「えっ!? 今日は雨だってばよ」
「オレの中では晴れなんだよ」
「何だってばよ、それ」
 ナルトと会話しながらもサスケは器用に鼻で何だかよく分からない曲を演奏している。
「ってか、それ何の曲?」
「さぁな。顔洗ってこい。朝飯にするぞ」
「なぁなぁ、今日の朝飯、何?」
 できたらラーメンがいいけど、それは無理だろうから、洋食で妥協する。
「ご飯と味噌汁と……だ」
「え〜、パンがいいってばよ。やっぱり朝は食パンと牛乳だろ!」
「何言ってんだ。うちはでは、朝は和食って決まってんだよ」
「オレ、うちはの人間じゃねぇってばよ」
「オレの恋人なんだから、お前もうちはの人間だろ! 今日からうちはナルトと名乗れ」
「なんでオレがうちはを名乗らなきゃいけねぇんだよ。そういうサスケのほうこそ、オレの恋人なんだからうずまきサスケって名乗るべきだろ」
「うずまきサスケなんて変だろ」
「うちはナルトだって変だってばよ」
 20年以上もうずまきナルトと名乗ってきたのだから、今更変えたくない。うずまき姓はナルトにとって亡き母の形見のようなものだ。大切にしたい。
「まぁ、その話は後にするとして、とにかく、朝はご飯と味噌汁だ。オレが用意したんだから文句言うな。分かったらとっとと顔洗って来い」
 ナルトは渋々顔を洗いに行った。 

 サスケが朝から機嫌がいいのは偶然などではなく、もちろん理由がある。
 前日の夜のことを思い出して一人ニヤニヤする。
 ナルトとあんなことやこんなことができて満足だ。
 まさに人生はバラ色。過去なんて色を失う程輝きに満ちていた。
 またナルトと仲良くしたくなったら、酒を用意してナルトに飲ませようなどと悪巧みを考えていた。

 その頃、ナルトは鏡に映った自分の姿に驚いていた。
「何だってばよ、これ!」
 首筋の辺りに虫に刺されたような痕がたくさんある。うろ覚えだが、昨日にはなかったものだ。もういい大人だからそれがキスマークだと知っている。
 一体誰に付けられたんだろうと考えて、昨日にはなかったものなんだから考えられるのは一人しかいない。
「あ、あの野郎! オレが寝てる時に何しやがった」
 サスケに寝込みを襲われたんだと思い、動いた。

「さ、サスケ!!」
 ナルトは大声でサスケの名前を呼んだ。
「何だよ。朝から大声を出すな。うるさい」
「これ、お前が付けたんだろ!」
 ナルトは首筋を指さして言う。
「何を今更……お前もオレに付けただろ」
「嘘!?」
「嘘じゃねぇよ。見てみろ、これ」
 サスケの首筋にも同じように赤い痕がある。
「お前が付けたんだぜ」
「何で……オレ、記憶にない」
「そりゃあ酔ってたからな。言っただろ、素に戻った時、後悔するって。オレのせいじゃないからな。お前が勝手にやったんだ。むしろ文句言いたいのはオレのほう」
 そう言いながらもニヤニヤと笑っていて全然嫌がっているようには見えない。
 ナルトは納得できなかった。自分が知らない間にサスケにキスマークを付けられていて、しかも自分もサスケにキスマークを付けているのだ。一体何があったんだろう。
「絶対嘘だ。オレが寝ている時に無理矢理襲ったんだろ。この変態魔!! いくら恋人でもやっていいことと駄目なことがある」
「じゃあ、これはどう説明するんだよ」
 サスケは首筋のキスマークを指さした。
「単なる虫刺されだろ」
「虫なんてどこにいるんだよ」
「そうだけど……」
「認めろよ、お前がやったんだよ」
「うっ……」
「オレもやったんだからお互い様だろ」
 そう言ってサスケはナルトの頭を撫でた。
「そうやってごまかそうとしたって……とりあえず、不可抗力ということで今回は許す」
「今回だけ?」
「……オレの気分次第では次回もあるってばよ」
「期待してる」


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