愛の証


「これ、お前に」
 落ちついた赤色の包み紙に、上品な黒いリボンが巻かれた箱を、親友の暁が俺に差し出した。
 今日は2月14日。バレンタインデー。
 年に一度、女性が男性に、チョコレートを添えて愛を告白する日だ。
 どうせ、俺に直接渡せなかった誰かが、一見地味で比較的話しかけやすい暁に、頼み込みでもしたんだろう。
 甘いものが苦手な俺には、この日はあまり嬉しくない日でもある。
 理由は………それだけでもないんだが…。
「ふうん、誰から?」
 別に誰からでもいいや、と思いつつも、一応は聞いておく。
 差出人も、中身も知らずにいると、あとで面倒になることが多いからだ。
「オレ」
 ごくごく普通の調子で、暁は、そう口にした。
 俺は、包み紙を乱暴に引き裂こうとしていた手を、ぴたりと止めた。
 ゆっくりと顔を上げ、俺は親友の顔を、驚きに見開いた瞳で見る。
「…マジ?」
 暁は俺の視線をまっすぐに受けとめたまま、うなずいた。
 パチンコの景品とか、スーパーマーケットやコンビニで買った、なんて安っぽい代物じゃない。
 どう見たって、本命用、という感じの上品なラッピングなのだ。
「まさか、誰かに貰ったものを…」
「そんなことしないよ」
 暁は俺が最後まで言い切らないうちに、即座に答える。
「じゃあ………お前が…買ったのか?」
「そうだよ」
 今の時期、こんなラッピングのチョコを買う男なんて、モテないくせに見栄っ張りなヤツか、相当のお菓子好きか、
一部のゲイくらいのもんだろう。
どれにしたって、売り場でかなり目立つに違いない。
「バレンタインデーだって、知ってるよな?」
「当然だろ。オレは、今日、お前にあげたいと思ったんだよ」
 暁は、ふて腐れた表情になって、そう言い捨てた。
「……暁!」
 あまりの嬉しさに、俺は暁にガバッと抱きついた。
「わ、わ、わ、な、なんだよ、いきなり」
 これ以上ないってくらいに顔を真っ赤に染めて、暁は両手をばたつかせる。
「すっげー、嬉しい」
 暁の髪に頬を埋め、シャンプーの香りに包まれながら俺は囁いた。
 縮めたくても縮められなかった距離。
 それが、たった今、なくなった。
「今まで貰った、どんなチョコよりも、お前からのがいっちゃん嬉しい」
「たかひと……んっ…!」
 俺は暁のわずかに震える唇を、いきなり塞いだ。
 彼の唇は思ってた以上に柔らかく、繊細で頼りなげだった。
 
 ……ずっと。
 ずっと、『友達』という関係を壊すのが怖くて、言えずにいた。
 この気持ちを包み隠してさえいれば、暁の一番側にいられる。
 自分の想いなんて、一生叶うはずがないと諦めていた。
 
 暁には敵わないな。
 
 俺は頬を緩ませ、小さく息を吐いた。
 小柄で可愛い系の女顔という外見から、弱そうな印象を持たれやすい暁が、実はものすごく芯の強いヤツだって
ことを、俺は知ってる。
 俺にはどうしてもできないことを、いつだってこいつは、何でもないことのようにやってのけるのだ。
 怖くないわけがないのに、それを感じさせない。
 暁のそんなところを尊敬すると同時に、嫉妬してしまう自分がいる。
 それが、恋に変わったのはいつからだったろうか…?
 
 彼の口内を探って、唇と同じに震え、萎縮した舌を見つけだした。
 こういうキスは初めてなのかもしれない。
 暁の反応はあまりにも初々しすぎた。
 怖がらせないように、そっと隠れた舌を舐めてみる。すると、彼は、震えながらも同じように返してくれる。
 俺は、さらに彼の口内の感じるところを執拗に刺激した。
 感じる、暁の顔が見たかったから……。
「っ……ん」
 暁の体が震えだし、その両手が俺の腕にぎゅっとしがみつくようになると、唇を離した。
「……はぁ、はぁ、はぁ…」
 潤んだまま俺を見上げる黒い瞳と、火照った頬、整わないままの息遣いが色っぽい。
 もっと。
 もっと感じる顔が、イク顔がみたいという欲求が、むくむくと身体の奥から湧き出てくる。
「すごいキス…」
「もっと、気持ち良くしてやろうか…?」
「え…」
 暁の表情には、ほんの少しの期待感と、恥じらいが浮かんでいた。
 俺は暁の身体をベッドに優しく横たえると、唇から首へと丁寧にくちづけながら、彼の纏っている衣をゆっくりと
脱がしていった。
「は……あっ…」
 彼は感じやすい性質らしく、小さな突起に軽くくちづけただけで、ピクッと敏感に反応する。
 彼の中心に手をすべらせると、そこは、すでに緩くたちあがっていた。
「アッ…! あ……っ!」
 半泣きのような真っ赤な顔で俺を見上げる暁が、たまらなく愛しい。
 焦らず、そーっとその部分を愛撫すると、暁はイキそうになるのを必死で堪える。まだ、男の俺の前でイクのに
抵抗があるらしい。堪えている表情が、さらに俺の欲情を煽る。
 すこしイジワルをして、先の部分を強く刺激すると、
「アーッ!」
色っぽい声をあげて、暁はあっけなくイッた。
 たまらなく綺麗で、そそられる顔。
「なあ……いいか?」
 言いながら、俺は暁の後ろの部分に触れた。
「え……?」
 暁の吐き出したもので充分に濡らした指を、思いきって挿し入れた。
「ひっ! …う、うそ…っ」
 びくん、と大きく震えた暁は、しがみついたままの俺の腕に、きつく爪を立てた。
 挿し入れた指をゆっくりと蠢かして、ようやく見つけた。
「アッ…!」
 暁が甘い声をあげてくれるところを。
 そこをしつこく何度も擦りあげ、彼の間断なく漏れる甘い声に酔った。そうして、指を一本、また一本と増やし、
しばらくすると、抜こうとする指を逃すまいと彼の内襞がきつく締めつけるようになった。
 無意識にだろうが、この反応がたまらない…!
「力を抜いて……大きく息を吐いて」
 おそらく朦朧とした意識の中、彼は俺の言葉に素直に従った。
 熱いものを、彼の中心に押し当て、一気に奥まで貫く。
「アアーッ!」
 痛みはなさそうだったが、圧迫感は相当なものらしかった。
「うそっ、たかひと、なんでこんな…っ」
「すごい……いいぜ…お前、最高…!」
 それだけ言うと、俺は腰を使った。
「あっ! ん……はぁっ…!」
 腰を使い始めると、次第に暁も感じるようになったのか、色っぽい声を惜しげもなくあげる。
 今までのどうでもいいセックスとは全然違う。
 暁とは、肉欲だけじゃなく、心の奥底までが満たされている感覚を得ていた。
 
「お前、信じらんねー! いきなり一人で盛り上がっちゃうんだもんな」
 頬を膨らませながら、暁はさっきから文句を並べ立てている。
「だから、嬉しすぎて抑えがきかなくなっちまったって言ってるだろ」
 俺はただ、そう言い訳するしかなかった。
「それにしたって、オレのこと、もうちょっと考えてくれてもいいだろ。こ、こんな……こ、腰が立たなくなるまで、やら
なくってもさぁ…」
 さっきまでの自分の痴態を思い出したのか、恥ずかしそうに頬を染め、終わりの方は消え入りそうな声で抗議し
た。
「だって………お前、すっげぇイイ顔するから…」
 思い出しつつジッと熱い視線を送ると、暁はますます顔を赤くして言葉を失った。
 キスしようと顔を近づけると、またやられる、とでも思ったらしく焦った様子で、そばのテーブルに置いたままだっ
たチョコの包みを俺の胸に突きつけた。
「これ、全部食えよな!」
 俺が甘いものが苦手だということを、よ〜く知っている暁は、勝ち誇ったように言った。
「ぜ、全部だって!?」
「当たり前だろう。オレのこと、本当に好きなら全部食えるよな?」
 にっこりと天使のような微笑みつきで、暁は言い放った。
「……わ、わかったよ。全部食べればいいんだろ。俺の愛を証明してやる!」
 情熱にまかせて、いきなりコトに及んでしまった負い目もあるし、と俺は覚悟を決めた。
 包装とリボンを解き、チョコの入った箱を開けて、………愕然とした。
 そこには、大きなハート型の分厚〜いチョコが、でん、と待ち構えていたのだ!
「証明してくれるんだろ? お前のために、ビターにしといたから、さ」
 そう言ってウインクした暁は、悔しすぎるほど可愛かった。


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