囚われ人


「君が本命なんだよ」
 数日前、俺の親友を犯そうとした男に、突然そう告げられ、呆然としているうちに、唇を掠めとられた。
 全てを冷たく見つめる瞳が、俺を捉えたとたんに熱い色に変わる。
 何故だか、その瞳に惹かれてしまう。
 ………とても甘い感情。
 
 
 寮の廊下を歩いていると、僅かに灯りがもれている部屋から、呻き声のようなものが聞こえて、俺は足を止め
た。
「はぁっ……あぁ…ジンさ…んっ…」
 ドアの隙間から見えたものは、薄茶の長い髪の男が、黒髪の男に覆いかぶさっている姿だった。
 腰のあたりにかかっているタオルケットは激しく揺らされ、それは今にもベッドから滑り落ちそうで。長髪の男の
広い背中と、黒髪の男の両足は、同じリズムを刻んでいる。
 俺は、目の前で繰り広げられている行為に目をみはり、その場に立ちつくしてしまった。
 黒髪の男が短い声を上げて果てると、長髪の男はなんの余韻もないままにベッドをおりた。その男の瞳はとても
行為の後とは思えないほど冷ややかに、ベッドに横たわったまま動かない男を見下ろした。
 その男の瞳が、すでに俺が見ていたことを知っていたように、自然に俺の姿を捉えて変化した。
 ゾクッと、快感に似た感覚が背筋を走る。
 まっすぐに俺に向かって歩いてくるジンの瞳に、動きを封じられている気がした。
「来てくれたんだね」
 覗いていたことを咎めることなく、むしろ嬉しそうな低く穏やかな声で言ったジンに、腕をとられて部屋の中へと
誘われた。
 俺の背後で閉まるドアの音が、妙に大きく響く。
「逃がさないよ、新村くん…」
 掠れた声で囁かれ、抗おうとする腕をドアに押さえつけられた。唇を塞がれジンの蜜を注ぎ込まれていくうちに、
その熱さに溺れていく。
「あっ……ジ、ジン…」
 すぐそばのベッドで人が眠っているというのに、俺はシャツをはだけられ、ジーンズを脱がされ、身体中に手を這
わされて、快感を得ていた。
「離さない、絶対に……!」
 ジンの強い言葉と、きつく抱きしめてくる腕と、そのぶつけられる独占欲に、俺は酔っていた。
 荒い吐息が重なり合い、熱い欲望に突き上げられ、頭の中が真っ白になる。
 そして激しい快感と共に、……弾けた。
 
 
 ジンの瞳に俺の、俺だけの姿が映っている。
 俺はその揺るぎのない熱い瞳に囚われてしまったんだ。
 ……その瞳に。


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