「オカンのキスというものは」

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時計を見ると九時前だった。
少し寝坊してしまったと思いつつ、未佐緒は布団から這い出した。
顔を洗って、歯を磨き、鏡を見る。
そこには、疲れた自分の顔が映っていた。
(若くないなあ、あたしも)
昨夜のことを思い出し、台所に行くとテーブルの上には葱炒りの厚焼き卵、ほうれん草の白和え、ちりめんじゃこと大根おろし、鍋の中には豆腐の味噌汁が用意されていた。
「ありがとう、デネブ」
ここにはいない彼に思わず礼を言う。
自分が寝ている間に用意をして、仕事に行ったのだろう。
よくできた奥さん、いや、オカンだと思いながら席に着く。
(美味しい、デネブって、和食が得意よね)
今日の彼の仕事はなんだろう、以前はポケットティシュやカラオケ店の呼び込み、フリーペーパーなどを配ったりしていた。
だが、近頃は変わってきた。
トラブルや犯罪も多くなり、イマジン専用の警察や犯罪防止組合などができたのだ。
そして、デネブはモモ、カメ、キン、リュウタロスの四人と共に犯罪防止、警察のような仕事をすることになったのだ。
最初、怪我や事故などに遭わないだろうかと、ひどく心配したのだが。
それも最初のうちだけだった。

「うーん、美味しかった」
仕事に取りかかろうと、机に向かいパソコンを立ち上げようとしたとき。
気配を感じて振り返った未佐緒は声をあげそうになった。
そこに立っていたのはモモタロスだった。
いつの間に来たのだろう。
モモタロスがいたことにもだが、それ以上に驚いたのは彼の顔だった。
イマジンの体は一見、頑丈そうに見える。
怪我も傷もできないように思われるが、それは人間相手の場合である。
イマジン同士だと、ちゃんと怪我をする。
「顔、腫れてるわよ」
外見は赤鬼、真っ赤な顔と体で区別がつきにくいのだが、間近で見ると目元の肉が盛り上がっている。
「たいしたことねえよ、それより一人か」
「見ればわかるでしょ、それより、いつのまに入って来たの。音もたてずに、ゴキブリみたいよ」
「な、なんだと」
「大体、女の一人暮らしの部屋にイマジンだからって、堂々と入って来ないでよ」
「オデブは特別かよ」
「なっ、何が言いたいの」
「俺が何でここに来たか分かるか」
「プリン、ないわよ」
プリン、プリンッと電ライナーの中で大声で叫んでいた姿を何度も見ているので、未佐緒は素っ気なく返した。
「プリンじゃねえよ、おまえに用があるんだよ」
「用って」
「ち、ちょっと、何するの」
「別に、何もしやあしねえよ」
モモタロスの行動は、あまりにも突然すぎる。
いや、意外すぎて驚きだった。
まるで、昼メロのような展開である。
台所の床に押し倒された未佐緒はモモタロスの言葉が、すぐには理解できなかった。

「オデブ野郎が怪我してもすぐに、治っちまうのはおまえと○△■してるからだろ」
額が、鼻が、ぶつかるのではないかと思うくらい近くで、モモタロスに、そんなことを言われるとはあまりにも予想外のことで、未佐緒はどきりとした。
体重をかけ、身動きできないのをいいことに、擦りつけるようにモモタロスは自分の顔、腫れた部分を、柔らかな彼女の頬に重ねてきた。
「痛みが、消えてくみてぇだな」
どれくらいぴったりと顔を寄せ合っていたのか。
しばらくするとモモタロスが自分の体から腫れ、未佐緒は自由になった。
「ほんとだ、顔の腫れが」
「切り傷だって、ほら、見ろよ」
腕の部分の盛り上がった部分が見ていると、なんなとなく動いているように見える。
傷が自然と治っていくのだろうか。
「デネブだけかと、思ってたのに」
驚いて、未佐緒はモモタロスの顔を見た。
デネブが刑事の仕事をはじめて、怪我をしたりすることがあったとき、自分に触っていると痛みや傷の治りが早いと言うのでそうしていたのだ。
だが、触れているだけでは我慢できないらしく、それは未佐緒も同じで。
つい、つい、あーんなこと、こーんなことをして。
気がつくと、デネブの傷はいつの間にか治っているのだ。
何故なのかわからないが。

「相性がいいんだろうな」
「な、何よ、そのいやらしい言い方」
「別に、本当の事、言っただけだ、まあ傷も塞がったし、礼の一つでしないとな」
そう言って、モモタロスは彼女の体を遠慮なく床に押し倒した。
「ち、ちょっと」
「気持ち良くしてやるよ、オデブなんかよりも、ずっといいぜ」
まるで鬼だ、悪い鬼だ。
未佐緒は、ぶんぶんと首を振った。
昨日もデネブといちゃいちゃしていたのだ。
お互いに若くない、というか、体力もあまりないので激しいというほどではない。
布団の上でごろごろと寝転んだまま、抱き合ったり、会話をたのしんだりすることの方が多いかもしれない。
互いの体を撫でたり、くすぐったり、キスをしたり。
キス、そう、キス。
デネブはキスがうまい。
人は、いや、イマジンは見かけで判断してはいけない。
最初は触れるか、触れないかぐらい、そっとしたものだ。
だが、それはだんだんと、ゆっくりと、長くなってくる。
下半身の繋がりも大事かもしれないが、デネブとのキスは、それ以上だ。
何度か、キスを交わした後、あの黒い指で唇を撫でる仕草と感触。
しかも、始終話しかけて、言葉をかけてくれる。
好きな言葉を、いやらしい言葉を、元気になる言葉を。
彼の声は体が溶けてしまいそうになるくらい、心地よくて気持ち良い。
思い出すだけで。

未佐緒は突然、モモタロスの体を押しのけると電話の受話を取った。
「イマジン警察署ですか、デネブさんを、お願いします」
なんなんだ、モモタロスは、その様子を訳が分からず只、見ていた。

その夜、珍しく、未佐緒はデネブに手料理を振るまった。
いつもは、自分が料理することが多いのデ、デネブは驚いた。
「俺は好きだからしているんだ、面倒とか、嫌だなんて思ってないぞ」
「いいじゃない、たまには、まあ、あなたほど上手時やないけど」
「そ、そんなことはないぞ」
美味しいぞ、凄く美味いぞと豪語するようにデネブはテーブルの上のサラダや酢の物、鯖の味噌煮を食べ始めた。

「今日は、突然、電話をかけてくるから驚いた」
布団の上にごろりと寝転び、天井を見上げたままデネブは声をかけた。
「ごめんね、少し驚かせたくて、今度からは気をつける、仕事中はしないから」
「う、うん、まあ、今日は暇だったから」
会話が楽しい、声を聞いているのが嬉しくて、自分が笑っているみとに未佐緒は気づいてもいなかった。
「ねえ」
「なんだ」
「お願いがあるんだけど、きいてくれる」
珍しいこともある、なんだろうとデネブは考えた。
「何か食べたいものでもあるのか、難しい料理とか、御菓子か、それとも何か欲しいものがあるとか、給料日まで、もう少し」
「今、欲しいんだけど」
「い、今か」
そんな突然に、自分が用意できるものなど。
デネブは一瞬、悩んだ。
そのとき、隣で体を起こす気配がした。
顔を覗き込むようにして、にっこりと笑う彼女の唇がゆっくりと開いた。

「キス、それと、甘い台詞、すごーく、とーっても、ウルトラスーパーダイナマイト級にに甘い、言葉が欲しい」




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