「デーネーブー」
「なっ、なんだ、侑斗」
「なんだじゃねえっよ、おまえ」
いきなり、跳び蹴り、エルボー、続いてウェスタンラリアートを浴びせられた
デネブだったが、タフなのか、むくりと起き上がるとどうしたんだと床の上に
正座した。
「おまえ、なんで、ここにいるんだ」
「何って、侑斗の事が心配で」
「俺は子供じゃねえぞ」
頭にきたと侑斗は怒鳴った。
無理もない。
未来を変えようとするカイが消えた。
彼に従っていたイマジン達もいなくなり、電王として闘っていた良太郎に憑依
していたタロウズ達も未来の世界へと帰って行った。
未来の自分、桜井は桜井侑斗として生きてくれと言い残して消えて行った。
色々考えた末、侑斗は良太郎と同じ時代に残って生きることにしたのだ。
決心したのは、よかったのだ。
デネブともお別れだ、一昨日、デネブ特製のケーキ(しかも、ホール)とご馳
走でさよならパーティーをした筈なのに。
「なんで、おまえが、ここにいるんだよ」
朝、目が覚めるとテーブルの上には朝食の用意がしてあった。
思わず完食してしまった自分に、ああっ、俺、バカだ、と思ったのも無理はな
かった。
自分好みの味付けなのはいいのだが、一体誰が用意したのかと考えたとき。
あいつ以外いないだろうと結論が、簡単に出て来た。
勿論、デネブは隠れて、自分を見ていた。
未来に帰ったんじゃねえのかと問い詰めると、心配だからと言う。
さよならパーティーの後、ベッドでこらえていた涙を返せと言いたいが。
まずいだろう、いいのか、イマジンのデネブが、このままで。
「じゃあ、俺はバイトに行って来るから」
食器を洗ったデネブが前掛けをはずしながら、台所から出て来ると侑斗は驚い
た。
「バイトって、おまえ何をしてるんだ」
ティッシュ配りだ。
股間から、ほらと取り出したのはテレ○△、アダルトのティッシュだった。
その格好で配っているのか、侑斗は恐る恐る尋ねた。
勿論だ、デネブは胸を張って答えた。
途端に侑斗は不機嫌になった、想像したくないといった顔だ。
慌てたデネブは場所によっては虎の着ぐるみを着たりすることもあるんだと明
るく笑った。
「俺もバイトを探さないとな」
デネブだけに働かすわけにはいかないと、このとき侑斗が決心したのはいうま
でもない。
どうぞ、お願いします、お仕事ご苦労様です。
深々と頭を下げながら、デネブは通行人にティッシュを配っていた。
虎の着ぐるみの代わりに、今日は頭から豆絞りの手拭いを被っているのだ。
酔っぱらいのサラリーマンやOL達に配りつつ、しばらくすると人の波が少なく
なってきた。
そろそろだなと思った時、通り過ぎようとした人影が足を止めた。
足下のダンボール箱には、運良く一つ残っていた。
ティッシュを渡す瞬間、デネブが顔を上げると相手と目が合った。
(まただ)
女性は、特に美人というわけではない。
だが何度か受け取ってくれるのでつい顔を覚えてしまったのだ。
女は、にっこりと笑い歩き出したが、突然立ち止まり引き返してきた。
「これ、よかったら使って」
頑張ってねと声をかけられ、デネブは唖然とした。
何だろう、受け取ったものを見ると、それは使い捨てのカイロだった。
イマジンだから、カイロなど必要ないのだ。
だとしても、嬉しい。
デネブはそのカイロを股間のポケットにしまいこんだ。
もったいなくて使えないと思いつつ。
子供なら、拾ったものを食べてしまうことはあるものだ。
けれど大人なら、そんなことはしない。
しかし、拾っただけなら許されるかもしれない。
仕事帰り、それを拾ったのは偶然だった。
「飴ね」
道に堕ちているものを疲労なんて、子供にもどったようだった。
捨てようと思ったが、よく見ると金太郎飴のように顔が模様になっている。
ロボット、それとも子供番組の怪人だろうか。
悪者にも、そうでないように見える。
なんだか、捨てるのは勿体なくて、ズボンのポケットにしまいこんだ。
家に帰って、風呂と夕食輪すませた後、思い出したようにズボンのポケットか
ら取り出した飴を未佐緒は机の上に置いた。
「よく見ると、愛嬌があるわよね」
その日は、いつもより寒くて、冷えこんでいた。
鼻水か出そうだ、鞄の中からティッシュを出そうとしたが、こんなときに限っ
て、使い切ってしまっていることに気づいた。
コンビニで買おうかと思っていると、運良くティッシュを配っている人物を見
つけた。
丁度良かった、ついていると思いつつ、相手に近寄りティッシュを受け取ろう
として未佐緒は驚いた。
かぶり物でもしているんだろうか、真っ黒な顔である。
「ねえっ、あれってイマジンだよね」
「うん、たまに見かけるよね」
「まだ、いたんだね」
通りすがりの女子高生の会話が聞こえてきて、思わず耳を傾けてしまう。
イマジン、ああ、少し前まで、色々な騒ぎを起こしていたという。
すると悪い奴、いや、そうは見えない。
一生懸命という感じが伝わってくるほど、ティッシュを配っている姿を見てい
た未佐緒は思わず口許を緩めた。
(頑張ってるなあ)
翌日、黒いイマジンはまたティッシュを配っていた。
さり気ないふりをして通り過ぎ、ちゃんと貰う。
その次の日は寒くて、手袋とマフラーを未佐緒はタンスから引っ張り出した。
仕事帰り、ドラッグストアで使い捨てのカイロを買ったのだが。
また、あのイマジンの姿を見つけて、慌てて袋の中からカイロを取りだした。
「よかったら、使って」
自分でも驚いたものだった。
受け取った瞬間、黒い手が見え、寒さなんて感じないのではと思いつつも渡し
てしまった。
気になったからだろうか。
うーん、あのイマジンが。
どうして、かわからないけど。
机の上の飴玉を見ているうち、未佐緒はあることに気づいた。
飴玉の顔と、あのイマジンの顔が似ていないだろうかということに。