■dreaming of eternity■
こうしていれば、お前と二人、永遠の夢が見れる―
―プロローグ―
一発の銃弾が、二人を分けてしまった。
今回のルパンの獲物は、コーサ・ノストラ―ニューヨークマフィアのドンが持つ、至宝『ザカラエル』。
157カラット、カラーグレードDの大粒のダイヤモンドだった。
『ザカラエル』とは、神の記憶、という意味である。初めて歴史に登場するのは紀元前336年。
アレクサンダー大王の即位の式に用いられた、と記録がある。
その後、持ち主は転々とし、全く歴史から姿を消していたこともあった。
最後の記録は19世紀である。ドイツ帝国のオットー・フォン・ビスマルク宰相が、
プロイセン王から長年の功績を称えられて贈られたものだった。
「で、俺のじい様がそいつを狙ってたってワケ」
「………」
ルパンは嬉しそうに資料本を閉じた。パリ郊外の瀟洒な邸宅が、当時のアジトだった。
ここには、ルパンが一世、二世から引き継いだ膨大な書物の一部が保管されている。
その書庫で、ルパンは今回の計画を次元、五右ェ門、不二子に説明していた。
「コーサ・ノストラねえ…」
不二子が溜め息混じりに呟いた。
「ありゃ?不二子ちゃん、反応するのはそっちなワケ?お宝じゃなくて?」
ルパンがこりゃ珍しいと笑いながら問い掛けた。
「だってルパン、どこのマフィアだって敵に回すと後が厄介なのよ。連中は手段を
選ばないんだから。それを、ニューヨークマフィアだなんて…」
「時期が悪すぎる」
紫煙をはいていた次元が、これまた珍しく不二子に同意した。
「あれれ〜?どうしちゃったの二人とも。何、これまでのこと反省して仲直りしたのけ?」
ルパンが茶化すと、「誰が!!」と、二人から同時に怒鳴りつけられた。
同じセリフを同時に吐いてしまった二人が決まり悪そうに横目でにらみ合っていると、
それまで黙っていた五右ェ門が口を開いた。
「時期が悪いとはどういう意味だ?」
嘆息して気を取り直すと、次元は説明を始めた。
「ニューヨークマフィアのドンは代替わりしたばかりなのさ。まだ若い男で、名前はガルシア。
シチリアマフィアのドンの娘だった母親と前のドンとの間に生まれた男で、
すぐ頭に血が上るんで有名な男だ」
「若いガルシアの右腕になって働いているのがスコックスという男なの。
異様に頭が切れるんで有名なのよ。それに、偏執的サディストだっていうわ」
不二子はちらりとルパンを見やった。
「分かるだろう。代替わりしたばかりのドンの名誉を守ろうと、今連中はいろんなことに血眼なのさ。
ようするに、ガードの固さは半端じゃないってことだ。
そうでなくても、前のドンは俺たちをそれこそ親の敵みたいに思ってたからな。
それというのも…」
「俺様が政府高官から流れた裏金一千億ドルを、丸々いただいちゃったから〜」
あれはいつだったっけな〜、と、面白そうに目を回すルパンに、次元が強い口調で言った。
「おいルパン、冗談じゃねえぜ!?大体今でさえ銭形の締め付けが厳しくて、昼間のパリなんざ
歩けねえような状態じゃねえか。悪い事ぁ言わねえ。もう少し時期を待て!」
「…今でなくちゃいけねえ意味があるんだよ」
ルパンの真剣な声に、三人の目が一斉に集中した。
「いいか。『ザカラエル』はルパン家が代々狙ってきた獲物だ。裏社会では有名な話さ。
ところが、一世も、二世も手中にすることは出来なかった。
その曰くつきのお宝を、代替わりの祝賀パーティーでお披露目しやがった。
俺はずっと『ザカラエル』の行方を追ってきた。ニューヨークマフィアとはな。
灯台下暗しってのぁこのことだ」
ルパンは拳を机に叩きつけた。
「これが俺に対する挑戦でなくてなんだ!!」
古いマホガニーの机は、ぐらぐらと頼りなく揺れたかと思うと、横様に倒れた。
もうもうと埃が立つ。息苦しい沈黙が続いた。
「…計画は万端であろうな」
床に鎮座し、袂に腕を入れて話を聞いていた五右ェ門が、口を開いた。
「ぬかりはねえよ」
当然だろ、とルパンは不敵な笑みを浮かべた。
そういうことなら、と、不二子は肩をすくめて同意を示した。
「…お前は」
傍らの次元に、ルパンは問うた。
「…俺はお前の相棒だからな」
帽子の鍔の下から、次元も不敵に笑って見せた。
にいっと唇の端を持ち上げて笑うと、
「…始めるか!!」
ルパンは号令した。
〜続く〜
■dreaming of eternity〜プロローグ〜 後記■
ルパン家が代々狙って盗めなかった獲物を餌にルパンに挑戦する
マフィア、という設定と、お宝のダイヤモンドの設定に一番愛を
注いだかもしれないお話です。『ザカラエル』という名前の
ダイヤモンドは存在しません。捏造設定ですので、ご了承下さい。