■ Resemblance ■


「………」

「……………」

どんよりと重い空気が、取調室を満たしていた。

尋問を始めてもう何時間になるだろう。

無言で長時間の尋問には慣れっこだが、この男は頑固で無口だ。
その上、常日頃相手にしている男とは勝手が違うので、
銭形警部は、自分の中にある微妙な引っ掛かりとも対峙しなければならなかった。


「…いい加減、何とか言ったらどうだ次元」


最後に会話らしい会話をしてから、5時間は経つ。

胸ポケットからしんせいを取り出して勧めたが、次元は受け取ろうとしなかった。


「…まあ、何を言ったって、お前はルパンの居所なんぞ、死んでも吐かないってぇ事は」


銭形はしんせいに火を点けながら、ぼそぼそと呟いた。


「百も承知だがな。それでも」


天井に向かって白い煙をはき出す。


「俺ぁ何度でも聞くぜ。なんと言ってもお前は、奴の一番の相棒だからな。」


ぴく、と、次元が反応を示した。いい兆候だ。


「お前だけが、ずー…っと、奴のそばにいたんだからな。
 さぞかし俺が知らない事も知ってるんだろう。」

「…へぇ、とっつぁんでも、ルパンの事で知らねえ事があるのか?」


長い足を組んだまま、顔だけこちらに向けて、次元が面白そうに聞いてきた。


ようやく乗って来たか。


「いつだったか、ルパン家の人間しか知らない隠し文字を使って、
 ルパンをおびき出した事があったじゃねえか。
 あんたの情報収集能力は、俺ぁ高く買ってるんだがね。」


心にもないことを言いやがる。

その時ふと、銭形の心に、常にない悪戯心が沸いた。


「…あんなのは初手の初手だ。デカとして、自分が相手にする犯罪者の
 手口や経歴の情報を集めとく事は基本だ。俺が言ってるのは
 そう言うことじゃなく」


銭形はすっかりぬるくなってしまった番茶を啜った。


「コーヒーは何分蒸らすのかとか」

「30秒。正確に言うと1回湯を注いでから15秒、2回目で15秒だ」


まだ次元は余裕だ。


「ルパンがどういう格好で普段過ごしているかとか」

「……別にいつもと変わりはねえぜ?」


眉を顰めやがった。


「パジャマとか、下着の色とか、それを何枚持ってるかとか」

「……………」

「どういう格好で寝るのかとか」

「…って、とっつぁん!何を言わせたいんだよ!!!」


次元は顔を真っ赤にして椅子から飛びあがった。
握り締めた拳がわなわなと震えている。


「…お前、何を怒っとるんだ?」


いかにも訳が分からない、という風に、銭形は目を円くして見せた。


はっ、と気がついて、赤い顔のまま決まり悪そうに歯噛みすると、
次元は再びどさりと椅子に腰を下ろした。


「…お前も腕は超のつく一流なんだが、ルパンの事で取り乱すところは昔っから少しも
変わらんなあ。おーい、お茶!」


銭形は何食わぬ顔でそう言うと、ドアの外にいる若い刑事に声をかけた。



その時。



爆音と共に、取調室の壁が吹き飛んだ。


「うわっ…!!」


弾き飛ばされてきた壁の一部を危うく避けながら、銭形が目にしたのは、
待ち望んでいた男の姿。


「やはり現れおったか!ルパーン!!」


銭形は瞬時に投げ手錠を取った。


「おーはよう、とっつぁ〜ん!こないだはどうも〜!」


左手にしっかりと縄梯子を握ったルパンが、にししししと笑った。
右腕には、既に次元がすっぽりと納まって、不敵な笑みを浮かべている。


「何がおはよう、だ!今日こそ逮捕だ!!ルッパーン!!!」


ルパンがひらりと投げ手錠をかわすと同時に、
しっかりと抱き合った二人は宙に飛んだ。


「消音ヘリか!」


爆風にあおられ、帽子を押さえながら、銭形はなおもルパンに食らいつく。
飛びかかると、それも空しくかわされた。


「ま〜ま〜、毎度熱心なこって。…だけどさあ、今回はちょーっと苛め過ぎじゃないの?」

「!」


ルパンの言葉に一瞬気を取られた隙に、ヘリは上空高く舞いあがってしまった。


「あ〜ばよー!!とっつぁーん!!」


崩れた壁から射しこむ朝日の中に、ヘリが消えていく。

銭形は無言で立ちあがった。










発信機、か。










「どうせ聞いとるだろうと思ったわい」






誰にともなく、銭形は独りごちた。










「…俺には分からんな。男が男を愛するなんぞ」











爆発音を聞きつけた部下たちが、慌てふためいて集まり始めていた。




















恋も、愛も、家庭も持つことなく―




















ルパンを追い続けて来た。
これからもそれは変わらないだろう。
だが、もしかしたらこの執念こそが―










「…ふん」










銭形はトレンチコートのポケットに無造作に両手を突っ込むと、
事態におおわらわの部下たちを尻目に、朝日に背を向けて歩き出した。










「…執念と愛は、ちがうわい。」










そう呟きながら。




















〜Fin〜





















Resemblance ■後記

Resemblance」、類似。つまり、似て非なるもの。
最後にとっつぁんが呟く、

「執念と愛は、ちがうわい」

の一言が、この作品の全てを表しています。
vs複製人間や風魔のような家庭もちの
とっつぁんの設定も好きですが、このお話では
仕事一途で独身を貫いているとっつぁんを
書きました。仕事に生きる男の哀愁のようなものを、
少しでも感じていただけたら幸いです。



















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