腕の中で口づけに酔う女は、最早それだけの存在には収まらず。
「本気」になったら負けのはずのゲームは、でも「その気に」ならずにはいられなくて。
ついぞ「本気」など見せそうにない女を、意地でも「その気に」させてみたくなる。
一見余裕をもってフェイを手中に収めたかのように見えたスパイクの方も、長く深いキスを交わすことによって、胸の内に湧き上がる性急な思いを抑え切れなくなっていた。
密着することによって感じる彼女の体の柔らかさ、豊かな胸の感触。
深く重ねたふくよかな唇を味わいながら、薄目でフェイの顔を盗み見る。閉じた瞼に震える長い睫毛、うっすらと桃色に染まった頬が艶やかさを一層引き立てる。
そして間近でより強く鼻をくすぐる風呂上りの「良い香り」。
それらすべてがスパイクの「男」を煽り、全身の血が中心に集まってくる感覚にとらわれる。
フェイの抵抗が殆ど止み、押さえていた手の力が抜けた頃を見計らって、スパイクは右手を腰の間へ滑らせ、彼女のバスローブの帯をさっと外してしまった。
「あっ…。」
思わず唇を離してか細い声を上げるフェイだったが、結び目はたちまちするりと解け、緩んだ襟の合わせ目に男の手が侵入するのを彼女には止める手立てもない。
「や……、んっ…!」
バスローブがはだけ、瞬く間に素肌を晒すことになってしまい、一瞬我に返って抵抗の声を上げようとしたフェイの言葉は、しかしすぐに深く合わされたスパイクの唇に吸い込まれてしまう。
「んぅ、んーっ…!」
露わになった肌と肌が密着し、直接スパイクの体から伝わる熱がますますフェイの思考を混乱させる。
「んんっ!!」
突然、びくんとフェイの体が震え、塞がれた唇の端から喘ぎが洩れた。
彼女の胸を愛撫していた男の手が、いきなり敏感な先端の突起を摘み上げたためだ。
「もう、こんなに硬くなってるぜ…。」
少しだけ唇を離して囁かれた男の声に、フェイの顔がかぁっと熱くなる。
「バカ…言わないでっ……やめなさいよ…っ!」
最後に残った意思を振り絞って抵抗の意を見せたが、頬はうっすら桃色に染まり、声も熱い吐息混じりのかすれた声音になってしまってどうにも説得力がなかった。
「やめていいのか? こんなになってるのに。」
スパイクはむしろフェイの反応を面白がるかのように、そのまま指の腹で乳頭を撫で、擦り上げた。
「んっ…くぅ……んんっ…!」
咄嗟に奥歯を噛んで堪えようとするが、そこから広がる甘美な刺激が脳裏を駆け巡り、わずかに残っていたフェイの理性を今度こそ完全に押し流してしまう。
スパイクはもう一度唇を寄せ、そのまま頬にもキスを落としながら耳朶に辿り着き、ゆるゆると舐め上げて甘噛みする。
「はぁっ…ん…。」
唇の感触が耳の裏から首筋を這う感覚と、彼の熱い手のひらに胸を優しく、時に荒々しく揉まれ、敏感な乳首を指で挟んで転がされる快感とが走るたびに、体はびくびくと震えた。
「やぁっ…、ダメ……やめ…て……。」
弱々しく否定する声も、かえって男の情欲を煽るだけで。
スパイクは少しだけ体を浮かして、フェイの顔を見つめた。
何か言いたげに開かれた唇からは、しかし何の言葉も紡ぎ出されず、熱い吐息が零れるばかり。
その無防備で悩ましげな面差しと姿がスパイクの理性を吹き飛ばすのに、そう時間は要らなかった。
スパイクは解けた帯をバスローブから抜き、すかさずフェイの両手を合わせて縛ってしまった。
「あっ…!」
フェイの手は抵抗する間もなく再び拘束され、小さく声が上がったが、言葉を継ぐことなく彼女の唇は再びスパイクに塞がれた。
「!! ん、んんーっ!」
唇を奪いながら、スパイクは自由になった両手で荒々しくフェイの体を弄り始めた。
左手が乳房をこね回すように揉みしだき、指の腹で尖端を摘んで擦り上げる。右手が胸から脇腹のラインをなぞり、背中に差し入れられて何度も背骨に沿って往復する。
「んぅ……あ、ふ……ひぅっ!」
そして唇を解放されたかと思うと、間を置かず男の唇は首筋、胸元を伝って乳房に落ち、ピンク色の乳首に覆いかぶさった。
甘い口づけと愛撫によって既に充分硬くなっていた蕾は、新たに与えられる快感を余すところなく脳に伝え、喉の奥に絡まるような声がフェイの口から押し出される。
「んくぅ…、はぁ……ダメ……ああっ…!」
敏感な突起を唇に含まれ、舌先でねっとりと形をなぞられる。ざらついた感触が絡みつき、時折音を立てて強く吸われるたび、びくびくと体が震える。
「くぅ……んんっ……!」
上気した顔で眉根を寄せ、必死に声を堪えるフェイを上目遣いに見ながら、スパイクは舌先で紅く色づいた蕾を舐り、唇で挟んで吸い上げ、軽く歯を立てる。
豊かな双丘を両手で押し上げるようにして揉みしだく手も休めることなく、手のひらで、舌で、唇で、絶え間ない刺激を与え続けた。
「あっ…ああっ…!」
胸を執拗に愛撫され、全身の火照りは止めようがないところまで高まっていた。体の奥が疼き、熱いものが溢れてくるのがわかる。
(こんなの……ダメ…。ああっ……でも…、もう…っ、)
「っ、はぅ…っ!」
不意にフェイの体がびくりと揺れた。スパイクの左手が胸から脇腹をなぞり、下腹部へと愛撫の先を移動させたためだ。
「やっ…、ダメ……、そこ……あっ!」
スパイクが手のひらで翳りの部分を包み込み、やんわりとこね回しながら指先をすうっと秘唇へ滑らせると、既にそこから滲み出た蜜が指を濡らし、くちゅ、と音を立てた。
「ここも……もう、こんなになってるぜ。これでもやめて欲しいのか?」
笑みを含んだスパイクの声。彼に与えられる快感に逆らえない自分が悔しくて、顔を背けて歯噛みする。
その時、太股に硬い感触が当たっているのに気づき、フェイははっと息を飲んだ。
ぼんやりと霞がかかり始めていた思考の奥で、それが何なのかを悟り、瞬間、彼女の瞳がわずかに光を取り戻す。
「あんただって……もう、待ちきれなくなってんじゃないの? そんなに硬くしちゃって。」
瞳に懸命に力をこめて言い返す。甘い快感に呑まれそうになっていた面差しに、少しだけ強気な笑みを浮かべながら。
ささやかながらも言い返してきたフェイに、その反撃は予想していなかったのか、スパイクが微かに驚いた表情をした。
が、すぐに口元は意地の悪そうな笑みの形に変わる。
「…言うじゃねぇか。なら、遠慮はいらねぇな。」
「な……ん、ひぅっ!!」
言うが早いか、いきなりスパイクの親指が荒っぽく花芯を撫で、擦り回した。
突然最も敏感な部分を襲った刺激に、フェイの体が跳ね上がる。
かと思うと、中指が第二関節まで秘唇の中につぷりと埋まり、あわいを上下に往復し始める。指の動きに合わせて、中から溢れた愛液がくちゅくちゅと粘った音を立てた。
「やぁっ、あ……あんっ!」
自らが鳴らす濡れた音を聞き、顔は羞恥で真っ赤に染まるが、快感に反応する体はどうしようもない。
「…すげぇな。もうこんなに溢れてるぜ。…ほら。」
「はぅっ! ん、くぅ…っ…!」
今度は二本目の指が進入し、すべらかな動きで付け根まで埋まっていく。
奥まで入ってきた指の感触に敏感に反応し、フェイの中の襞が蠢いてキュッとスパイクの指にまとわりついた。
「指だけでこんなに締めつけてくるぜ…。随分感じやすいんだな、お前。」
「バカ…、や…っ、あ、あ…んんっ…!」
ゆっくり指を抜き差しされるたびに訪れる甘い快感に、抑え切れずに声が洩れてしまう。
スパイクは再び乳房に舌を這わせながら、次第に強く速く、抽送する指の動きを変えていった。
「あ……あっ、んっ、くぅ…ぅ…っ!」
指の出入りが激しくなるに従って、次第に愛液の粘度が変わり始め、ぐちゅぐちゅと艶めかしい音を響かせる。
フェイの敏感な反応を楽しむように眺めながら、スパイクは指を軽く折り曲げ、動きを微妙に変化させて彼女の中を掻き回した。
今や溢れ出た蜜は太股を伝って滴り落ち、秘所を出入りしているスパイクの手をも濡らしていた。
「あっ…あっ…ダメっ…もう…。」
フェイの両脚に力が入り、内壁が指を締めつけてきたのを察すると、スパイクはそこでぴたりと抽送を止め、彼女の中から指をゆっくりと引き抜いてしまった。
「あっ……。」
あと少しで達しそうになっていたところで急に刺激を止められ、かすれた甘い声が洩れる。
中襞は快感の名残に震え、失われたものを求めてひくひくと蠢いた。
荒い息を零し、焦らされて涙目で自分を見つめる女の、その艶めかしい表情と姿態に、男の我慢も限界だった。
フェイの両膝をとって開かせ、既に硬く反り返っていた自らの怒張を潤みきった彼女の秘所へあてがい、一気に沈めていく。
「んぁっ…あああっ…!!」
勢いよく自分の中に割って入ってきた焼けるような熱さに、フェイの背中が浮き上がる。
後から後から溢れてくる潤滑液に導かれるように、スパイクの怒張がスムーズな動きで収まっていく。
「…くっ…。」
根元まで全てが埋まると、内壁の襞が一枚一枚別の生き物のように蠢き、まとわりついてくる。
自らの昂ぶりを温かく締めつけてくる感触に、スパイクはかすかに呻いた。
「…あっという間に、全部入っちまったぜ。ほら…。」
「や…、ああんっ…!」
スパイクがぐいぐいと腰を進め、熱い塊りの尖端を奥に押し付ける。中で膨張した凶器が内壁を刺激し、堪えきれずにフェイの甘い悲鳴が零れ落ちた。
スパイクはそのまま片手をソファにつき、フェイの片脚を抱え上げて抽送を開始した。
「あっ、あっ、は…ぅ、んんっ…!」
スパイクの動きに合わせてフェイの形のいい乳房が揺れ、白い喉がのけぞる。頭上で拘束された両手が二つの拳を作り、ぎゅっと強く握られる。
最初はゆっくりゆっくり、フェイの中の柔襞の感触を楽しむかのように自身を出し入れする。
一度奥まで埋まった昂ぶりが、次は徐々に、しかし力強く襞を引っ掻きながら出て行く動作が繰り返され、フェイの体中を甘い痺れが走り抜ける。
「あっ…、あっ…!」
一旦出て行った怒張が再び進入してくるたびに彼女の両拳に力が入り、内壁が男のものをぎゅっと締めつけてくる。
「っ……!」
自らを誘うかのように収縮する襞の感触がぞくりと彼の背筋を這い上がり、思うままに突き上げたい衝動が沸き起こる。
緩やかだった腰の動きは段々大きく、激しくなり、それに従ってフェイの声も一層艶やかさを増す。
「んあっ……あっ、あっ、あんっ…ああっ…!」
熱い塊りの尖端が勢いよく奥を叩くたび、フェイの腰が浮き上がり、堪えきれずに悩ましげな嬌声が洩れる。
「あんまり大きな声出すと……ジェットたちに聞こえるぜ。」
男の言葉が意地の悪い笑みと共に耳元で囁かれ、フェイの頬がかぁっと朱に染まる。
咄嗟に唇を噛み、洩れ出る声を何とか押し留めようとしたが、当のスパイクはそんな彼女の様子にはお構いなしにますます彼女を責めるリズムを早める。
「くぅ……んんっ……んぁっ…、あ、ああんっ…!」
奥まで突き上げてくる快感に何度も貫かれ、どんなに我慢しようとしても甘い鳴き声を抑えることができない。
スパイクの昂ぶりが荒々しく内壁を抉り、時に動きに変化をつけてフェイの中を縦横無尽に掻き回す。
彼女の中は濃密な愛液によって蕩けきり、スパイクが出入りするたびにその快感を逃すまいと締めつけてきた。
その収縮感に誘われながらも、スパイクはぐっと歯を噛みしめて更に激しく彼女を揺すり上げる。
断続的に与えられる快楽の波が、彼女をぐいぐいと高みへ引き上げていく。
「あっ、あっ、やぁっ…ダメ、そこ……んっ、あ、ひゃぅっ!」
塊りの尖端が中の窪みをとらえて突き上げた瞬間、フェイの背中が反り返り、白い喉がのけぞった。
その拍子に頭に巻いていたタオルがするりと解け、床に落ちる。
「はぁ……あっ、あっ……。」
小さな絶頂に達し、ぴくぴくと体を震わせながらかすれた吐息を零すフェイ。タオルが解けたために濡れた髪が額や頬に張り付き、それが余計に彼女の艶っぽさを強調する。
そんな表情を目にしてか、スパイクは更に彼女を乱れさせたい衝動に駆られ、休む間も置かず動きを再開した。
「んぁっ! あっ、あっ、ダメ、そんな……ああんっ!」
「ここが、一番感じるんだろ?」
「はぅっ、あ、ああっ、ああん!」
立て続けに一番感じる部分を深く抉られ、絶え間なく絶頂の波がフェイを襲った。彼女の思考は既に霞がかったようにぼやけ、快楽に流されるままに甘い悲鳴を上げ続ける。
奥まで凶器を突き上げるごとに、彼女の柔襞が別の生き物のように蠢き、絡みつく。
動きを激しくするにつれ、彼女の中の深奥で自らがぎゅっと引き絞られる感覚が走り、愉悦が男の背筋を駆け上がった。
フェイの片脚を大きく広げて持ち上げ、もう片方の手は彼女の腰を強く引きつけて更に深く彼女の中へ自らを埋め込んでいく。
ずぶっ、と音を立てるほどに深く打ち込み、尖端部分をぐいぐいと彼女の奥へ押しつけ、抉るように擦り上げると、フェイの口から悲鳴に近い嬌声が上がった。
「ひあぁっ! あん、あっ、ダメぇ、そこ…っ、はぁんっ!」
余程その部分が感じるのか、艶やかな髪を振り乱してフェイは涙混じりの喘ぎを発した。
その姿が更にスパイクの情欲を煽り、ますます激しく彼女を責め上げる。
男の怒張が激しく抜き差しされるたび、太股がぶつかる乾いた音と、結合部から洩れるぐちゅ、ぐちゅっと粘った音が重なり、その間隔が次第に短くなっていく。
「あっ、あっ、あっ、んっ、んんーっ! あ、んぁっ、ダメ、あたし、もう…!」
「俺も……そろそろだっ…。」
自分の下で快楽に乱れ喘ぐ女の嬌声に合わせて、男の貫きも最後の激しさを増す。
フェイに与えられる悦楽の波は、やがて一つ一つが蓄積され、大きなうねりとなって彼女を襲った。
「あぁんっ、ああっ、あっ、やぁっ、もう、イく…っ、んぁっ、あ、はぁぁんっ!!」
びくん、と全身を大きく跳ね上がらせ、フェイは激しく絶頂へと達していた。
ほぼ同時にスパイクも声を詰まらせ、自らの欲望のほとばしりをフェイの中へ放つ。
そのまま、荒い息をついてフェイの上に倒れこむ。
しばらくは言葉を発することもできず、二人の乱れた息遣いだけが響いていた。
互いを繋げる熱く甘い快感の余韻に包まれ、二人は火照りの残る体を寄せ合った。
「…せっかく風呂入ったのに、また汗かいちまったな。」
ゆっくりと余韻を味わった後、徐に体を起こしたスパイクが、フェイの手首の拘束を解きながら呟いた。
「…誰のせいだと思ってんのよ…。」
フェイがまだ紅みの残った頬のまま、恨めしげにスパイクを睨んで言った。
「そりゃー、お前だろ。」
「…何ですって?」
事も無げに返ってくる答えに、ムッとしたフェイが早くもいつもの調子を取り戻しかけた時。
「違うのか?」
不意にスパイクがついと顔を寄せ、フェイの瞳を覗き込んで言った。
唇が触れ合うかと思うほどの距離でいきなり見つめられ、彼女の言葉が途切れる。
スパイクの手が顎のラインをなぞり、唇に指先が触れる。
冗談めいた口調でありながらも、目にはなぜか逸らすことのできない光が湛えられて。
もし、もう一度さっきのような「本気の」キスをされれば──自分はきっと、拒めない。
収まりかけた早鐘が再び胸の中で躍り始めようとするが、ここでまた上手を取られる訳にはいかない。フェイは懸命に理性の糸を引っ張ってギリギリのところで引き止めた。
「バカ言ってんじゃないわよ!」
ようやく自由になった両手でスパイクの胸を押しやり、精一杯の力で跳ね除ける。
スパイクが押されてよろめいた隙にフェイはバスローブを羽織り、床に落ちたタオルを拾って立ち上がった。
「あたし、シャワー浴び直してくるわ! 覗いたら殺すわよっ!」
顔を真っ赤にしたままそう言い残し、バスルームへ続く階段をパタパタと下りていく音が去っていく。
スパイクはしばらく呆気に取られて目を瞬いていたが、フェイの姿が見えなくなると、呆れ混じりの苦笑を浮かべた。
「…っとに、めんどくせぇ女だな。」
タオルを拾って腰に巻き直し、ソファに背中を預けて息をつく。
視線をふとテーブルの上に落とし、残されたウォッカの瓶を見る。手に取って照明に透かすように瓶を掲げ、申し訳程度に酒の残っている底を見上げて独りごちた。
「…ま、今日のところはこれでチャラにしといてやるか。」
どこかしら楽しげにも見える面持ちで、スパイクは残りの酒を一息に空けた。
その後、フェイがスパイクの隠し酒に迂闊に手を出せなくなった……かどうかは、定かではない。
<END>
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