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Secret Punishment
「んふ……ぅ……くぅんっ……んん…!」
真っ暗な部屋の中に、くぐもった呻きのような女の声が絶えず漂っていた。
だが、喉の奥に競り上がった塊りを必死で飲み込もうとするような、苦しげな色があるにも関わらず、その声音にはどこか艶っぽい響きが潜んでいた。
そしてもう一つ。
洩れ聞こえる面妖な声とは別に、小さな──何か機械が振動しているような音が、その部屋には響いていた。
耳を澄ませなければ聞こえない程度の小さいものだったが、確かにそれは「何か」が動作していることを示す音だった。
奇妙なことに、なぜかその音に合わせるようにして、押し殺した女の声も洩れ出ていた。
「んぅぅ……ん、ふうっく……んんんっ……!」
視界を遮られた世界の中では、聞こえるものといえば自分が擦り合わせる脚がシーツの上を滑る音と、躯の芯に響いてくるようなあの振動音だけで、それが余計に感覚を鋭くさせる結果になってしまう。
頭上で拘束された両手はしっかりと壁際のパイプに固定され、どうもがいても解ける気配すらなく。
両脚は自由といえば自由だったが、耐えようとして力をこめれば逆にそれが中で暴れる振動をよりはっきり感じてしまう結果になり、今の彼女には何の役にも立たなかった。
間断なく躯を責め苛む刺激に、形のいい眉は苦しげにひそめられ、噛みしめた唇からは血の気が引き、額には汗が浮いていた。
とはいえ、彼女の頬や肌は淡い桜色に染まり、うっすらと上気してすらいることを、もはや否定はできなかっただろう。
(いや……もう、ダメ……お願い、早く……もう……耐えられない……)
一体自分がどれだけこの状態で放置されているのか、彼女にはとっくにわからなくなっていた。
彼女に感じられるのは、時間を追うごとに確実に蓄積されていく疼きと痺れ、それを追うようにして余計感覚が鋭くなっていってしまう、快楽に支配された躯の感覚だけ。
どれだけ解放されることを切望しようとも、両手は冷たいパイプに捕えられ、両脚はただシーツを掻き乱すことしかできない。
しっとりと汗ばんで上気した肌を時折ぴくぴくと震わせながら、今はひたすらこの苦悶の時が早く終わることを願い、ただ耐え忍ぶしかできなかった。
と。
「……は、……に……」
部屋の外から廊下をカツカツと弾く足音がし、同時に男の声が聞こえてきた。
「!」
彼女の表情がはっと変化し、やっとこの部屋の主が戻ってきたのかと安堵する。
だが、足音が近づいてくるにつれ、その数が一人分ではないことに気づき、ホッと力の抜けかけた肩が緊張に強張る。
「……じゃあ、例の件は連絡待ちってことでいいな」
「ああ。……それはそうと、お前、フェイの奴知らんか? 夕飯時になっても姿が見えないんだが」
「……知らねえよ。煙草でも買いに行ってんじゃねえのか」
「マシンはあったみたいなんだがな……風呂でもないようだし」
おそらく部屋のすぐ外で交わされているのだろう会話に、彼女は自分の声を抑えるのに必死だった。
防音設備のよくないドア越しでは、少しでも大きな声を出せばきっと聞こえてしまう。
そして、あの男もそれをわかっていてやっているのだろうことを思うと、余計に恥ずかしさと怒りがこみ上げてくる。
瞬間。
廊下で会話を交わしていた男の、ポケットに突っ込まれていた方の手が、手の先に握られた小型のリモコンのスイッチを押した。
「っ!!」
途端に彼女の内部で暴れる振動の強さが段違いに跳ね上がり、全身を電撃のような痺れが突き抜ける。
「っん、んん───っ!!」
突然襲い掛かった激しい快感に、彼女は思わず悲鳴を上げかけたが、すんでの所で踏みとどまり、ぎゅっと唇を固く結んだまま声にならない叫びを洩らした。
声に出すことを許されない悦楽の波に翻弄され、しなやかな肢体がベッドの上で快楽の責め苦にのたうつ。聞こえてしまったかもしれない、という怖れと羞恥、そして断続的に送り込まれる甘い痺れに苛まれ、彼女の理性は崩れ落ちる寸前まで溶かされていた。
「は、ふ……ぅんんっ……くぅうん…!」
飛びそうになる意識を手放さないよう、必死に押し寄せる快感に抗っていた彼女には、片方の足音が廊下から去っていったこともわからなかったようで、入り口のドアが開き、もう一つ足音が部屋の中へ入ってきた時、彼女の躯がびくりと震えた。
開いたドアがまた静かに閉じ、足音が彼女にゆっくりと近づいてくる。
「……スパイク…スパイクでしょ? …あ、んっ…! …ねえ、もう外して……お願いよ、早く…!」
視界は黒い布に遮られているため、彼女にはそこに立っている男の姿を見ることができなかった。
彼以外いるわけがないとわかっていても、沈黙を守ったままの相手に、じりじりと不安が募っていく。
「お願…い、スパイク…! っ、はぅっ! お願い…んんっ……外し……あっ!」
散々焦らされて限界寸前の状態に置かれた彼女は、涙混じりの声で懇願した。その間も、彼女の中ではうねるように蠢く塊りが暴れ回り、容赦ない刺激を与えている。
だが、それでもそこにいる男は応えようとせず、徐にベッドに腰を下ろすと、一糸纏わぬ女の艶めかしい躯を眺め、口の端を上げて手の先を女の脚へ滑らせた。
「ひぅっ!」
突然熱い感触に触れられ、女の躯が跳ねる。男の手はゆるゆると彼女の太腿からなだらかな腰のラインを撫で回し、下腹部に触れ、彼女の中に埋め込まれた塊りの根元を軽く押した。
「ああんっ!」
既に肌に馴染んだその掌の感触にホッとしたのも束の間、ぐりぐりと蠢くそれを更に奥に押し込まれ、引きつったような悲鳴が喉から洩れる。
「だ、ダメっ……そんなに、奥まで……あぅ!」
「……もうこんなにドロドロになってるのかよ。まだたったの一時間だぜ。堪え性のない女だな」
一押しごとに身を捩る彼女を、意地の悪い笑いを含んだ声が、からかうようにいじる。
その言葉にかっと頬が熱くなるが、既に芯まで蕩かされた躯は言うことを聞かず、反論の言葉も彼の悪戯によってすぐ喘ぎに変わってしまう。
「んっ…あ、ぁんっ…! スパイク、お願…い、ホントに、もう……ひゃぅっ…!」
「まだ、駄目だ。俺の言うことを聞かなかった罰だからな」
「そんな……ああっ! だめ、もう、これ以上……はぁんっ!」
彼女の反応を愉しむかのように、男は掌と唇を彼女の躯の隅々まで這わせ、所々に紅い跡を残しながら巧みに愛撫する。勿論、リモコンのスイッチは入ったままだ。
「ひんっ! あ、やぁ……あぁあ! ダメっ…お願い、もう……おかしくなっちゃうぅ!」
膣内の振動に加え、躯中を丹念に舐り回す男の愛撫が一層彼女の性感を高め、煽り、どうしようもない域まで押し上げていく。
「スパイクお願い、もう許して…ぁん! もうしないから、お願い……許して…!」
力なくかぶりを振り、紅潮した頬に涙を伝わせながら、泣き声混じりに懇願する女の艶めかしい痴態に、男の情欲も否が応でも昂ぶり、そろそろ我慢しきれなくなっていた。
「……仕方ねぇな」
小声で呟くと、ポケットから取り出したリモコンのスイッチを押す。
同時に彼女の中を執拗に蹂躙していた塊りが、小さな鳴動を零して動きを止めた。
「……あ……ふぅ……」
ようやく長時間続いた振動の責め苦から解放され、彼女の唇から熱っぽい吐息が洩れる。
男は彼女の片脚を持ち上げて膝を立たせると、片手で彼女の中に埋没している塊りの根元を引っ張った。
「あんっ…!」
異物が引き抜かれる感触に、彼女の口から艶めかしい声が上がる。
透明な蜜をたっぷりとまとわりつかせたそれが尖端まで顔を出すと、奥からとろとろと粘り気のある液が次から次へと溢れ出し、雫が集まって小川のように筋を成し、秘唇からお尻を伝ってたちまちシーツにいやらしい溜まりを作っていく。
「…すげえ大洪水だな。こんなに濡らして、そんなに良かったのか?」
相変わらず笑いを含んだ男の声。その言葉に、女の顔が耳まで真っ赤に染まる。
「いや、言わないでよ……馬鹿…!」
頬を朱に染めて抗議する女に、男の悪戯心がまたむくむくと顔を出す。
「いいのか? そんなこと言って」
笑みを浮かべながら再度女の下腹部に顔を近づけ、濡れてヒクつくそこへ何の遠慮もなく顔を埋めた。
「ひぁあ!」
いきなりざらついた生温かい感触に秘裂を弄られ、女の肩が跳ねる。拘束された両手がパイプを引っ張り、ぎしぎしと鳴らす。
濡れそぼったそこはいつもより敏感になっているようで、舌を挿れられただけで震えるような痺れが躯中を駆け抜ける。
「ああっ……あっ、んんっ……ぁあっ!」
ぬちゃ・くちゅっ・ぺちょ。
男の舌先が丹念に秘裂を舐り回し、溢れ出た蜜が男の唾液と混ざって淫猥な音を洩らす。
舌はそれ自体が意思を持った生き物のように、濡れた花びらからその上で硬く息づく花芯まで、ねっとりと舐め上げ、形をなぞり、強く吸い付く。
「ひぃんっ…くぅ……あぁあ!」
びくっ・びくんと女の背中が反り返り、掠れた声が喉を擦る。
舌の愛撫に加えて指先も秘孔に潜り込ませ、中襞をやんわりと撫でて刺激を送る。
「ああんっ、あ、んんっ…!」
指先が埋まった秘孔からまた新たな蜜が溢れ、男の口元を濡らしていく。
彼女の反応を見ながら指は奥へ進み、膣内のざらざらした部分に辿り着くと、そこを集中的に擦り上げる。
「んぁっ……あああっ!」
彼女の腰が浮き上がり、躯に力が入って達しそうになったところで、彼はぴたりと指を止め、舌の動きも停止させた。
「……ぁん……んん……どうして……」
昇り詰める寸前で刺激を止められ、彼女はもどかしげに躯を揺らして声を上げた。
「素直じゃなかったお仕置き」
男は愉しげに言い、少しの間を置いて再び秘所への刺激を送り始めた。そしてまた、彼女が達しそうになると愛撫を止めてしまう。それを何度も繰り返す。
「やぁ……んんっ……ダメぇ……!」
その前にも散々バイブで責められて焦らされていた上に、今度は執拗に続く寸止め状態である。彼女の理性はじわじわと脳を蕩かす快楽の波状攻撃で、既に崩れ落ちたも同然だった。
「もう、もうダメ……スパイク、お願い……あたし、我慢できない…!」
嫌々をするように頭を振り、涙混じりに哀願する女が堪らなくいやらしい。
男は股間から顔を上げると口元を拭い、ズボンを手早く脱いで女に覆い被さりながら言った。
「じゃあ、どうして欲しい?」
女の視界を塞いでいた布と、両手を拘束していた戒めを外してやりながら、頬に手を添えて顔を覗き込む。
翠の瞳が濡れた青葉色に艶めき、男を映して揺れている。
「あ……」
色違いの瞳に見つめられ、改めて尋ねられた途端、急に気恥ずかしさが襲ってきて、彼女は言葉に詰まる。
「どうした?」
男は笑みを浮かべつつ、硬く反り返って脈打っている自分の分身で女の秘裂をゆっくりと弄る。
「ぁんっ…!」
女の眉がきゅっと寄せられ、紅く艶やかな唇が何かを求めるように動く。
熟れた野苺のように瑞々しい唇を奪い、奥まで舌を差し入れてねっとりと絡みつかせ、深いキスを交わした後に唇を離してもう一度問う。
「どうして欲しい?」
耳元で囁く低い声色が、甘い甘い誘惑となって女の脳裏に谺する。男のもたらす快楽に溺れきっていた彼女は、その甘美ないざないに抗えるはずもなく、息を飲んで震える声音で返した。
「挿れて欲しい……スパイクの熱いもので、イかせて欲しいの…!」
男に縋りつき、甘えるように求める女の淫らな懇願に、彼もそれ以上の我慢の必要を認めなかった。
「了解」
短く呟くと、男は彼女の両脚を割り開き、先走り液を滴らせる怒張の尖端を秘裂に押し当て、一気に彼女を貫いた。
「はぁっ……んん──っ!!」
待ちかねた刺激を一身に受けて、彼女は大きく躯を仰け反らせた。
ぢゅぶぶ、といやらしい水音を上げて男の剛直が彼女の中に埋まり、根元まであっという間に飲み込まれる。
怒張の尖端が奥まで届いた瞬間に軽く達してしまったようで、彼女はしばらくびくびくと躯を引き攣らせていたが、彼の背中に回した手はそのままで懸命に縋りつく。
「ああっ……奥まで、熱い……躯が……焼けそう……!」
その通り、焼けた鉄棒といった形容がぴったりの楔が彼女の中で圧倒的な存在感を放ち、躯の隅々まで満たしていくような充足感をもたらしていた。
「……お前こそ……柔らかくて、熱いぜ……よく締まってる」
男もまた、埋まった自身に吸い付くように絡みついてくる襞の熱に喉を鳴らした。
何度味わっても飽きることがない、この筆舌に尽くしがたい感触。どれを取っても男の全てを狂わせる、極上の女。それを知っている男が自分の他にいることなど、今の彼には許せなかった。
だから、躯の奥深くまで刻み込む。何度でも。自分の存在を、ただ一つのものにするために。
「あっ、あっ、んんっ……はぁんっ!」
男が激しく突き上げるごとに女の艶やかな躯が跳ね上がり、甘い悲鳴が止め処なく響く。
「気持ちいいか? ほら、もっとこれが欲しいって言ってみろよ…!」
「ああっ…ん、あっ……いい、気持ちいいっ…! もっと…、もっと奥まで突いてぇっ…!」
ぴったりと躯を密着させ、我を忘れて快楽によがる女の嬌態が男の理性を吹き飛ばし、行為の激しさに拍車をかける。
彼女の躯を引きつけながら荒々しく腰を打ち付け、中を掻き回し、奥を大きく抉り抜く。そのたびに女は髪を振り乱して涙ぐんだ高い声で鳴き、喘ぎ、乱れる。
互いの中で絡まり、混ざり合う恍惚感が、繋がった躯の中で一つに溶け合い、どこまでも膨らみ、高まっていく。
「お前は俺だけのもんだ。そうだろ? フェイ」
「ああっ、あっ……スパイク、スパイクぅっ!」
息を弾ませながら囁く男の声に、無我夢中で頷く女の甘い喘ぎが重なり──やがて、辺りは真っ白な静寂に包まれていった。
彼女がなぜこんな「お仕置き」を受ける羽目になったのかは、また別の話。 |
あーあ、やっちゃってるよ(逃)
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