結婚し、フェラール王国から離れて1年の月日が経った、ある日の事。  
その日は朝から体調がよくなかった。
「今日は大切な日なのに……どうしましょう」  
テーブルに両肘をつきながら、スピカはつぶやいた。  
最愛の旦那様──レグルスは、義父に呼ばれて朝早くからフェラール王国に出かけている。レグルスに心配をかけないよう、いつも通りに振舞って見送った。  
それでも、家を出る直前のレグルスの表情を思い返してみると、バレているような気がしないでもないが……。  
少し、頭が重い。胸がもやもやして気持ち悪い。食欲もなく、朝から何も食べていなかった。
「今日は、レグルスさんのお誕生日なのに……」  
ただでさえ、プレゼントを用意する事ができなかったのだ。  
何が欲しいかを問えば、「私はお前がそばにいてくれれば、他には何もいらないよ」としか返ってこない。手作りで何かを作ろうにも、ほぼ四六時中一緒にいるのだ。隠し通す事などできない。  
だからせめて、料理ぐらいはいつも以上に手をかけて、豪華なものを用意しようと思っていたのに……食べ物の匂いを嗅ぐだけで、吐き気が込み上げてくる状態だ。  
スピカはテーブルに突っ伏した。  
大好きな人の誕生日を、まともに祝えないなんて。  
悲しくて、情けなくて、涙が出そうだった。
「私……こんなんじゃ、奥さん失格ですね……」  
つぶやいて、目を閉じた瞬間。
「……!?」  
突然吐き気を催して、スピカはバタバタとお手洗いに駆け込んだ。


「……病院に行きましょう」  
このまま放っておいたら、スピカの事に関しては必要以上に心配性なレグルスの事。きっと、大事態になる。  
病院できちんと見てもらい、自分の状態を把握してから、近くの店でレグルスへのプレゼントを買えばいい。病院も店も、そんなに遠くはないのだ。途中で倒れたりする事はないだろう。  
スピカは財布を握り締め、家を出た。
「……あら?」  
数時間後。  
家に帰ってくると、玄関の鍵が開いていた。そーっとドアを開け、中を覗き込んでみると……
「きゃあっ!」  
誰かが抱きついてきた。
「スピカ! 身体の具合は!? 体調が悪いのだろう? 出歩いたりしたらダメじゃないか!」  
予想通りだった。やはりレグルスは、スピカの体調の異変に気付いていたのだ。  
申し訳なく思ったが、ここまで取り乱す彼を見たのは初めてだった。それが少し、嬉しい。
「だ、大丈夫ですよ〜。レグルスさん、苦しいです〜!」  
軽く彼の胸を押し返して訴えると、レグルスは慌てて手を放した。
「おかえりなさい、レグルスさん。ずいぶん早かったんですね?」
「うん? スピカが心配だったからね。用件だけ聞いて、すぐに帰ってきたんだよ。本当は行くのもやめようと思っていたのだけど……君は、自分のせいで私の予定が狂うのを嫌がるだろう?」  
さすが、最愛の旦那様である。スピカの事は全て分かっているようだ。  
スピカはにっこりと微笑んで、はい、と短く返事をした。
「それで……お義父さまのご用事というのは、何だったんですか……?」
「部屋に入れば分かるよ」  
苦笑いを浮かべたレグルスに手を引かれながら部屋に入ったスピカは、その光景を目の当たりにして、思わず悲鳴を上げた。
「す、すごいですね〜……」  
部屋にはいくつものアクセサリーと、何着もの洋服が広げられていた。傍らには、空になった箱がいくつか転がっている。
「誕生日のプレゼントだそうだよ」  
持って帰ってくるのが大変だったんだよ〜、とぼやくレグルスの声が耳に届いているのか、いないのか。  
彼の手を放し、スピカはうつむいていた。
「スピカ? やっぱり具合が悪いのかい? もう、休んだ方が……」
「違うんです……」
「違う?」
「お義父さまは、レグルスさんのためにこんなにプレゼントを用意してくださったのに……私、何も用意できなくて……」  
結局、レグルスへのプレゼントは買えずじまいだったのである。  
理由は色々あった。病院で言われた事が頭をグルグルと回っていた事。お店に行ったのはいいが、これといってレグルスへのプレゼントに相応しい物が見つからなかった事。財布の中身を確認してみたら、あまり入っていなかった事。  
もしレグルスが帰ってきていなかったら、お金を補充して改めて買いに行こうと思っていたのだが……。
「スピカ……。私は、スピカがそばにいてくれれば、それだけでいいんだよ」
「でも……」
「気持ちだけで充分だよ。だから、そんな顔をしないでおくれ」  
レグルスは、優しくスピカの髪を撫でた。
「余計に、具合が悪くなってしまうよ。病院には行ってきたのかい?」  
病院、と言われてから、スピカはやっと思い出した。家に着くまでは、その事で頭がいっぱいだったのに。
「あ、レグルスさん。あのですね……」  
スピカは背伸びをして、彼の耳元に唇を寄せた。
「…………!?」  
レグルスの瞳が、目一杯見開かれていく。  
そのままスピカの顔を見ると、彼女は少し照れたような顔で、ひとつうなずいた。
「は……はは……っ! スピカっ!!」  
レグルスはスピカを、強く強く抱きしめた。
「きゃっ」
「その言葉が、何よりのプレゼントだよ!!」  
心から嬉しそうな彼の声を聞いて、スピカは満面の笑顔でレグルスを抱きしめ返した。


『私のお腹に、レグルスさんとの子供がいるんだそうですよ────』

















































お友達の如月円さんより、「さらわれたもの」の本編後日談SSでございます!!!
イヤ〜ン!!!も〜う、とにかくミヤミド感激してしまいました!!!ミヤミドのキャラで他の方にSS書いていただいたのはこれが始めてでしたので、あの時の感動と言ったら今でも思い出せます。本当に何とも言えない嬉しさがございました〜!!
しかもストーリーが最高すぎです!!!いつも通りラブ甘バカップルのレグスピに、子供が・・・・!!!もうもう、超ほのぼの&ラブラブで、見ていて胸がとっても熱くなってしまいました!!!
しかもスピカちゃん、超レグっさん想いで可愛いし、レグっさんもスピカちゃん心配しすぎな所がたまりません!!!
しかもレグっさんの誕生日って所がまた良いですよね〜。本当に、レグっさんにとってスピカちゃんのオメデタは最高のプレゼントだと思います!!
円さん、心温まる素敵SSを書いて下さいまして、本当にありがとうございました!!

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