「ウメさんパワー」 「おーい、ウメやー?ウメさんやーい。」 昼休みの真っ只中。金澤紘人は、森の広場にて猫のウメを探していた。 「はいっ!はーい、せんせっ!ここです、ここにいま~す!」 背後から突如聞こえてきた女生徒の声。紘人は驚いて振り返る。 「日野・・・!?いや、俺が探してるのはウメさんなんだが・・・って・・・!」 よく見てみれば、香穂子が胸元に抱えているもの。それは紛れもなく猫のウメだった。 「ほら、ウメさん。『はーい』ってね、返事しなきゃダメだよ~?そうじゃないと、先生分かんないみたいだから。ねっ!」 香穂子は笑顔でウメにそう言いながら、ウメの片方の足を取って上げてみせている。 「日野。何だってウメさんを抱えてるんだ?手を引っかかれたら、ヴァイオリン弾けなくなっちまうだろうが。」 紘人がそう言った途端、香穂子はふくれっ面をした。紘人としては香穂子の身を案じたつもりだった為、まさか香穂子の機嫌を損ねるとは思っておらず、少しばかり目を見開いて香穂子を見つめた。 「そんなの、いいんです!ねぇ~?ウメさーん。」 猫のウメにばかり笑顔を見せて、自分には微笑んですらくれない。そんな香穂子を見て、紘人は少しだけ胸に痛みを覚えた。 「・・日野。」 紘人がそう言うと、香穂子はどこか納得いっていないような表情で、紘人から顔を背けた。 「・・・そう、ですよね。先生は、ウメさんの方が大事ですから・・・」 ウメを地に離し、紘人にペコリとお辞儀をしてから、香穂子はすぐに駆け出して行ってしまった。 「日野!」 紘人が慌てて呼び止めると、香穂子はピタッとその場に止まった。紘人はゆっくりと香穂子の方に行く。少し照れ隠ししながら。 「あー、その。何だ・・・お前さんに会いたくても、面と向かって会いに行けないだろ?」 香穂子はようやく紘人の気持ちに気が付いたようで、クルッと紘人の方を振り返った。 「・・日野。その、すまなかった・・・詫びと言ってはなんだが、これから音楽準備室に来ないか?コーヒーご馳走するぜ?」 香穂子がようやく笑顔を見せてくれた。それは良かったのだが・・・・ 「日野。お前さん、抱き着かんでも・・・!」 少しだけ潤んだ瞳で、かつ身長差があるからか、自然と上目遣いになっている香穂子を見て冷静でいられるほど、紘人の心は穏やかではない。 「んー?どうした、日野。こうしてることが、幸せなんじゃなかったのか?」 紘人はそう言うと、パッと香穂子を抱き締める手を離した。それに影響されたのか、香穂子も思わず紘人から離れる。 「えぇっ!?先生、どうしてですか~!?幸せです、幸せですから~!」 香穂子は両手を頭に置いて、必死にブンブンと首を横に振っていた。 「日野。その、何だ・・・今日は、もう昼休みが終わっちまうだろう?だから、明日会わないか?」 香穂子にしょんぼりされると、何が何でも笑顔にさせたくなってしまう。少し恨めしそうな顔で紘人を見つめる香穂子の頭を、紘人は優しく撫でた。 「悪かった、日野。約束するから、明日の昼休み、忘れるんじゃないぞ?」 香穂子が笑顔を見せてくれただけで、どうしてこんなにも心が弾むのだろう。紘人も優しい微笑を浮かべて、再び香穂子の頭を撫でた。 「にゃあんっ。」 一方、猫のウメは香穂子が逃がしてくれた所から一歩も動くことなくその場にいて、それまで紘人と香穂子のやり取りを見守っていた。 END. |
感想やメッセージ等ございましたら、こちらのWeb拍手ボタンからどうぞ!
「見たよ」というだけでポチッと押していただくのも大歓迎でございます!
テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円~!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル